0100:漏光

「モリヤ!」


 ってアレ? 怒られるようなことしたっけ? あれ? ファランさんが勢いよく部屋に入ってきた。こっちはまだ、ベッドの中だ。目覚めた報告と体調のチェック程度なんじゃ……。


「あ、気を失ってすいませんで……」


「お前、何をした?」


「え?」


 近い近い、ファランさんの顔が迫る。こっちは身体を起こしたとはいえ、ベッドなんだから、逃げようがない。


 何をしたって、何も出来ずに寝ていたからここにいるわけなんだけど。


「訓練途中で投げ出してしまって……」


「それは問題無い。というかアレは意識を失って終了するのが普通だからな。お前はとんでもなく頑張った方だ。ああ、というか、凄いな。普通なら初回は数秒しか保たないものなんだが、20分近く頑張ったというのは聞いたことがない」


 そうなのか。っていうか、途中まで「繋がる」スキルでファランさん視点で眺めたりして、なんかズルしてたようなもんだしな。戻った瞬間にそれまでの分、いきなりで痛い目みたけど。というか、ファランさんに何か悪い影響はなかったみたいだ。良かった。


「問題は違う。問題は彼女だ。セタシュアだ」


「え? 彼女がどうしました? 呼びますか?」


「覚えがないのか?」


「ええ、何か問題でも?」


「……判らない……か。まあ、そうか。そうだな」


 どういうことだろうか? セタシュア……にはお世話になってるからなぁ。イロイロと。身の回りの世話をしてもらっている以上、どうしても情は湧く。


「セタシュアは普通の……娘だった。それは確かだ。お前が連れて帰ってきた後何度か仕事しているのを見ているし、メイドの仕事を覚えようと懸命に教わっていたのを覚えているから間違え様がない」


「はい」


「それがなぜ、今の様なことになっている?」


「はい?」


「彼女の異常な魔力だ。アレは尋常では無いぞ?」


「魔力?」


「……はぁ……まあ、そうだな。お前はその辺の知識は一切無いのだったな……」


 ファランさんの説明に寄れば。現在、セタシュアは身からとんでもない量の魔力が放出し続けているのだという。


「私の様な魔術を学んだ者であれば、誰でも気付く。というか、一目見ればすぐ判る。なぜ、こんな状態でここにいるのかを不思議に思うだろう。それこそ……オーベ師に見られれば、即一~百まで根掘り葉掘り聞かれることは間違いない。それくらいおかしいことなのだよ」


 魔術士はそもそも、呪文を覚え、その術の真理を模索することによって、魔術を使えるようになる。そんな理屈を理解出来る年齢になるまで、魔術が使えるかどうか? は判定できない。つまり、幼少時に才能を発揮するなんてことは、よほど賢くない限り、難しいのだ。


 が。幼少時から、魔力総量が多く、魔術の才能を持って生まれた者が存在する。その場合、制御できない魔力が全身から滲み出してしまうことがあるのだという。この滲み出ている魔力はちょっとしたコツを掴めば、体内に向けることが出来る。それが魔力総量の増加や、魔力を扱いやすい身体にするなど、魔術士の基礎を作る、初期訓練に向いているのだという。


 で、この魔力が滲み出ている状態というのは、魔術に優れた者であれば、ハッキリ目に見えるのだそうだ。なので、そういう子供がいる=魔術の基礎を知らない=魔力の操作を教える、または保護して弟子にするなんていう流れがあるのだそうだ。ファランさんも以前、何人かの子供を街で見つけて弟子に取り、育てたという。本人が浮浪児など生活に不安があるなら、余裕のある魔術士の養子となる場合も多いそうだ。


 魔術士になれると判った場合、大抵の親は喜びこそすれ、嫌がったりすることはないらしい。修行に出すのは不安かもしれないが、この人の命の軽い世界で、将来の安定が手に入るのだ。


「以前、見かけたときセタシュアに魔術の才能、素養は一切感じなかった。というか、もしもそんな才があると判っていたら、モリヤの言うような売り方はされまい。つまり、この屋敷にやってきた時は一切その気配もなかったのは確実。にも関わらず……となるとお前が何かしたに違いない」


 んな、決められましても。


「いや……うーん。以前取り決めたように、イリス様、ファランさんに相談無くマッサージはしないようにしてます。最近は迷宮の件もあって、時間もありませんでしたし。それに、彼女に偶然でも触れたこともありませんよ?」


「ふむう。彼女に何かしてやったことは?」


「それほど無い……と思います。こちらの生活の面倒は見てもらってますが。朝、起こしてくれるところから始まって、食事の用意ができたなどの報告、イリス様、ファランさんとの連絡、洗濯、湯の用意、着替えの用意……自分が頼りっきりです」


「それは……まあ、普通だな。専属小間使いといえば、そういうモノだ。では……なぜ……」


「どう……なってるのですか?」


「ああ、魔力は……通常であれば多くても滲み出る程度なのだ。だが、彼女は今、それが溢れ出ている状態だ。尋常では無い」


「ってなんか、光輝いて見える……とか?」


「ああ、魔力に敏感な者ほど凄まじく光輝いて見えるだろうな」


 だから、さっき、彼女が部屋に入ってきたとき、ちょっと明るいなと思ったのか……ってことは俺も、ちゃんと魔力に目覚めてるってことかな? 輝いているのはそこまでじゃなくても、何か光ってる感じはした気がするし。


「お前も見えたのか。ほほ~ということは、昨日の特訓はかなり効果があった、無駄ではでは無かったという事だな。素晴らしい。たった一回で魔力を感じて見ることが出来るようになるとは」


 無駄……な場合もあったんですね……。というか、アレだけヤバイ特訓をしておいて、成果がイマイチなんてこともあったということですか……。トホホ。


「とりあえず……本人に聞いてみる……か」


「ええ。自分に覚えが無くても、もしかして何かやらかしている可能性はありますし」


「ああ、そうだな……」


 すごく納得された。




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