0098:不足

「セタシュアから聞いたと思うが、お前の魔力総量を引き上げる。でなければその指輪は使いこなせないだろうから」


「はい……」


 うわーなんていうか、ファランさんがマジモードでちょい鬼教官的な感じに。


 茂木先輩は、手紙以外にも、途切れ途切れの日記、さらにすさまじい量のメモを残していたそうだ。魔力総量の特訓を受けながらも、地下から運び出してくれていた日記を解読していく。……というのは、先輩の日本語、文字が異様に汚いのだ。手紙はかなりガンバって、丁寧に書いたと思われる。


 まあ、日記なんて、普通、他の誰かに見せるわけじゃ無いし……とはいえ、これ、自分で見ても読めないんじゃね? という癖字ぶり。


 取りあえず、翻訳しなくても指輪の機能は判っている。どれも確実にレアスキルだ。アニメや漫画、ラノベ知識から考えるとどれも基礎にして最重要。凄まじい効果を発揮してくれるだろう。だが、純粋に……その機能を起動するためには魔力……んーRPG的に言えば、毎回MPを消費する。きっと、10MPとかそれくらいかな。良く判らないけど。


 で。俺の魔力総量=マックスMPは5とか6しかないということだ。残念! もしかしたら1とかかもしれない。本当に残念な子。くそー。いい歳のオヤジになって、こんな、縄跳び二重跳び検定10級すら合格しないような屈辱を味わうとは。そうか。やはりというか、俺の基礎能力は凄まじく低いのだな。


 ぶっちゃけ、この地にやってきたときよりは、体力的にはそこそこ、そこそこ。ああ、そこそこ。にはなっていると思う。モリヤ隊のヤツらに基礎訓練に参加させられているし、たまにイリス様と掛かり稽古の様なモノをさせられることもある。そのせいか、痩せただけでは無くて、多少は筋肉も付いてきている。


 でも。確かに、最初に魔術を使えない=魔術関係のスキルはないと判断されたからか、そっち関係の訓練は一切行っていなかった。実は訓練しているうちに使えるようになる者も多いそうなのだ。これはもう、失念していたというか、必要無いから放置していた、他にやることが多すぎて手を出せなかった……のどの理由も正解といったところだろう。


「魔力総量については理解しているな?」


「自分の瞬間的に使える魔力の最大値ですよね?」


「ああ、そうだな。それでいい。魔力は常にゆっくりと回復しているのだから、瞬間的にという言い方も正しい」


 魔力の回復はゆっくりだ。最初のうちは一晩寝ることで最大まで回復するのだが、自分の魔力総量が多くなると、数日寝ないと完全回復は難しい。


「とにかくモリヤは魔力総量を増やす必要がある」


「しかも早急に……ですね……」


「ああ。別に魔力総量を増やすのそれほど難しいことではないのだ。この指輪を装備しているだけでどうにかなるハズだ」


 ファランさんが取り出したのは青い石が埋め込まれた武骨な指輪。ゴツイ。まあ、ちょい太めで作りが荒い。それに比べれば、俺のもらった指輪はシンプルだが、妙に高級感がある。細身にも関わらず、魔術的な紋様が彫り込まれ、さらに魔石? のような石が細かく組み込まれている。たまに青く光るし。これがレアアイテムの醍醐味ってヤツなんだろうか?


 というか、え? あれ? 装備しているだけ?


「この指輪は装備した瞬間に魔力を少量消費する。そして、さらに、数分後にまた少量。という感じで、時間経過と共に魔力を消費するという魔道具だ。この少量というのがミソでな。大抵、魔力回復量の方が大きいのだ。この魔力が消費され、自然回復して、消費され……という繰り返しが魔力総量の最大値をアップすることになる」


「装備してるだけというのは楽ちんですね」


「ああ。だが、お前はそれだけではない。急ぐのだろう?」


「……」


「ちなみに、この指輪での成長は一年で、ほんの少し最大値が増えるといった所だ。ただ、これを幼少の頃から装備していれば、才能があろうが無かろうが、大人になる頃には日常生活で便利な程度には魔術を使えるくらいの魔力総量にはなる」


「でも……そうですね。10年も待てませんよね」


「ああ、なのでスマンが……ツライ目にあってもらおうか」


 うわ……目がマジだなぁ……やだなぁ。さすがというか、ファランさんも元ギルドマスターにして高ランク冒険者である。迫力がスゴイ。まあ、素人じゃない。絶対。


 屋敷奥の空き部屋。見事に何も無い部屋で、床にシーツが敷かれている。そこに汚れても良い服で来いと呼び出され、座らされた。アレだ、ノルド女子の館のマッサージ部屋だね。うん、ということはイロイロと出たりするんだね、きっと。くそー。


「今からお前に、精神に作用する術をかける」


「心の安定を乱す混乱の術、感覚を狂わせる不均衡の術。この二つの術を同時にかけられると、何故かほぼ全員が、使えるはずのない、精神系の防御の術を発動させる。術や呪文を知らない、魔力が足りない、発動させる事が出来ない者でも、そうしようと、努力する。結果、魔力容量の最大値も上昇する」


それは生き物の瀕死の際の生存本能ゆえの、ギリギリの反応なんじゃ……。サイ○人の死亡直前からの回復ポッドで超成長と同じ理屈ですよ。まあ、うん、その理屈と同じ様なレベルで成長したいのだから仕方ないのか。


「では、いくぞ?」


「拒否権は無いですよね……」


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