0096:失神

 目が覚めると、自分の部屋、自分のベッドだった。アレ? 迷宮の第五階層の……日本人の先輩転移者の手紙が……。おいおいおい。どうした? なんだこれ? なんで、自分の部屋にいる?


 慌ててベッドから起きると、ふらっ……と膝から力が抜ける。おうふ……なんだこれ? 貧血だろうか? なんとなく血の気が引いている様な気もする。ちゃんと立てずにベッドに腰掛けた。


 音に気付いたのか、部屋のドアが開いて、セタシュアが入ってきた。


「あ、ご、御主人様、まだ寝てないとダメ、ダメです」


 最近セタシュアは馴れてきたのか、ちゃんと話が出来るようになっている。何か聞かれると別に大した質問でもないのに、俯いて黙ってしまっていた頃を知っていると凄まじい進化だ。


「ねえ、俺はどうしたんだ? 知ってる?」


「御主人様は、イリス様が背負って戻られました。ファラン様がま、魔力切れで気絶してるだけだと思うので、一晩ゆっくり寝かせるように、と」


 魔力切れ? なんだそれ。そんなこと手紙には何も書いて無かったのに。どういうことだ?


 というか、指輪の力、鑑定を使ったら魔力切れになった? まあ、普通に考えて指輪の能力の使用時に魔力消費するってことなんだろう。


 なんでだ? 消費魔力が大きいって注意が無かった……っていうことは……あ。ってそうか! 茂木先輩は魔術チートのエキスパートなわけで、当然、魔力総量がチートも合わせてとんでもない量だったんだな!


 ちゅーか、俺が使用途中で魔力を使い果たしてしまうくらいなのに、先輩はその辺全く意識しないで使えるレベルだった、ということか。


 ガーン。トホホ。


 なんだろう俺。同じ転移者、界渡り、何だろうか? 実戦的な、少しでも直接的な能力はからっきしか。せっかくもらった極レアなお宝がもったいなさすぎる。正に猫に小判。


 クラクラする頭でベッドに腰掛けたまま頭を抱える。実戦能力は足りないとは思っていたけど……力もダメ、魔力もダメじゃ……。魔法の指輪の能力を引き出すだけの魔力すら……ないと。


「ファランさんは何か詳しいことは言ってなかった?」


「え、えーと、あの、多分、魔力総量がとんでもなく少ないということだから、鍛えてやると。忙しかったので後回しになってしまっていたが、と」


 す、すごく……あの、嫌な予感がする……けど、だ、怠い……ダメだ。何もする気が起きない。寝よう。もう、寝てしまおう。


「魔力切れは意識を失うだけ、ではなくて、身体の調子も悪くなる、そう、です。なので、とにかく休むしかないそう、です。数日はツラくなるんじゃないかとおっしゃってました」


 うわ……数日……か。というか、魔力切れを起こすと死ぬっていうのは、こういうことか。敵前で気絶。そりゃそうだ、そうなるだろうな。


 熟練の魔術士は魔力総量の管理がシビアに出来るそうで、あと何回この呪文は唱えられる、こっちの呪文なら何回、両方使うと、何回と何回……みたいに、自分の魔力をハッキリ把握出来るんだそうだ。というか、それが出来ないと熟練とは言えないと。基礎中の基礎みたいなことを言ってたなぁ。それをやらされるのか……厳しそうだなぁ。


 と、考えていたら、いつの間にか寝てしまったようだ。目覚めるとすっかり日が昇っていた。鎧戸の隙間から日が差し込んでいる。


 妙に腹が減った。まあ、うん、そりゃそうか。魔力切れを起こして寝たきりだったわけだし。ああ、うん。何よりも意識がハッキリしている。良かった。なんか靄がかかった感じだったもんな。


 ベッドサイドのテーブルに、着替えが置いてあった。おうおう。セタシュアが置いてくれたのだろう。なんとなく汗っぽかったので着替えようか……と思ったのだが、どうせなら身体を拭いてからにしたい。


 ……と考えた時点で気がついた。ん? これは……パンツの中が……む、夢精? あひゃー。確かに、最近(とはいっても数日? くらい?)自分でしてなかったし、溜まってたとしてもおかしくは無いけど。生理現象とはいえ、かなり恥ずかしい。この年齢で……むう。


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