0094:異世界先輩からの手紙③

 ああ、あと。エロマンガには到底及ばないのだけど、贈り物がある。


 マンガ部屋の机の大きい引き出しの中、裏側、天板の端の部分に、指輪が隠してある。これも……使える者を日本人男子専用に書き換えてあるので使って欲しい。


 あ、最初に謝っておく。ここに来たパーティの中に日本人女子がいた場合。すまん。ここは俺のワガママの集大成だ。なので、好きにさせてもらう。同行している日本人男子が優遇されてしまうようだが、そこは……俺の想像外の世界だ。というか、女子がいる時点でなんかもう、腹立ってきた。


 …………。


 で。この指輪な。


 強制転移したときに神様にもらったモノだ。鑑定と収納って能力が使えるようになる。使い方は使おう! と思うだけ! 簡単! さらに、地上からこの俺の部屋の転移陣に瞬間移動も行える。

 

 鑑定は見ようと思うと、自分の脳の中にその人のステータスが表示される。当然自分の手を見れば、自分のも見えるようになる。


 隠蔽系の術で姿を隠しているヤツも、そいつを認識、感じられれば表示できる。感知系のスキルを得れば、スゲー便利だと思うよ?


 残念な事にアイテムの情報は見えない。人や魔物のステータスだけだ。


 この世界にはこれと似通った呪文は存在しないみたいなので、非常に希少価値は高いはずだ。この能力のおかげで、俺は、自分の成長について迷うことが無かった。もの凄く助かった。


 後どれくらいでレベルが上がるか判る、教えてもらえるともの凄く気が楽だからね。あと、戦闘警戒でも助かった。戦闘前に相手の情報をゲットしてるって反則だよね。


 さらに人を雇ったり、仲間にしたりする際に、隠れた能力や潜在能力がわかるっていうのは非常に有用だ。将来有望な子供とか見つけたら、声を掛けたり支援してあげれば安泰だぞ。


 まあ、でも……ジジイの戯言として聞いて欲しいんだけど、鑑定は戦闘とかここぞと言うときに使う方が良いと思う。パラメータとかステータスばかりで他人を見るようになってしまうから。実際、ステータスが低くて、スキルは無くても、努力でもの凄く強い人、成功している人はたくさんいた。


 俺が一人になりたくなったのは、この能力を使い過ぎた結果だ。ちょっと後悔している。


 もうひとつの収納の能力も、かなりのモノが入るので超便利。入れようと思うと吸い込まれるし、出そうと思うと、現状入ってるアイテムがリスト化されてなんとなく頭に表示される。


 似た能力で大袋の術やカバンがあるけど、内容量はたかがしれてる。見かけよりは入るってくらいだ。


 収納は、どれだけ入れれば限界なのか……と思って、いろんなモノを999種類突っ込んでからも続けたらあっさり1002種類とかになった。大きさも家や小屋なら普通に入った。屋敷はむりだったかな。


 収納内は時間経過がストップする。か、判らないくらい微妙に時間が進むか。詳細不明。


 まあ、でも気にするほどでも無いと思う。100年前に入れた生もの、魔物の肉とか卵とか野菜なんかが今も食べれる。熱々の鍋料理を購入して、大量にストックして、迷宮で出して豊かな食事を満喫! も可能。というかやった。が、迷宮は匂いが酷いので美味しい食事を用意してもちと厳しいんだけどね。


 さて。


 この迷宮、一番ポイントを使ったのは、匂いを抑えること。風魔法で天井と床に循環ルートを作って、籠もらないようにしている。ここまではそれほど臭くなったでしょ? 本当はもっと臭わないようにするつもりだったんだけど……これ以上は無理だったわ。


 話がずれた……えーと。指輪の話。鑑定、収納……ああ、あと、この場所への転移だ。玄関横の隣の靴棚の扉の一つの掃除のロッカーみたいな中に転移陣があるのはすぐ判ると思う。


 この転移陣は迷宮の外、地上に繋がっている。まあ、時代が変わっても大丈夫なように、障害物のない地上が自動で指定されるはずなので「石の中にいる!」なんてことにはならないハズだ。転移と願えば跳んでいく。


 その転移陣と相対するのが、指輪最後の機能、「この部屋に跳んでくる転移術」だ。基軸になる転移陣への移動ができるだけで、理屈とかは良く判ってない。転移陣は迷宮では結構お馴染みなんだけど、持ち運べるモノはこのセットだけじゃないかな? 


 冒険者していたときはもの凄く便利だったけど、存在を隠すのがもの凄く大変だった。妻たちにも明かして無かったからね。俺が異世界から来たって。


 戦闘能力が高くて寿命が長いことから、英雄とか勇者とか言われたりもしてたかな。(英雄とか勇者、優秀な魔術士とかって寿命長いらしい)。


 そうか、大事なコトを書き忘れてた。神様とはこの世界にやってきた最初の数時間しか一緒にいなかったし、あれ以来一度も会えていない。というか、消えてしまった。

 なので、直接聞いたわけじゃ無いんだけど、この世界から元の世界、日本へ帰る手段は無いんじゃないかと思う。俺は向こうでは死んじゃったから詳しく聞いたわけじゃないんだけど。

 俺みたいな人間は結構いるのか聞いたら「かなり珍しい、数百年に一人」「でもこの世界の魔術士が召喚術を使って勇者として召喚することもある」「極まれに、偶然転移してしまう人もいる」「日本は時空的に歪みが発生しやすく、召喚されやすい」「転移はもの凄く危険なので大抵は失敗してしまう」「ただ、この地に無事着いた人はもの凄く運が良いし、その分、能力が高くなる。君のように」なんて断片的な感じで言って(そう言ってる様に感じた)た気がする。


 俺は……高い能力とスキル、長寿命なんていう人間としてはかなり優遇してもらったと思う。でも。最後はこうしてここに一人だ。エロマンガ描きは楽しかったし、迷宮いじりも楽しかった。その前のオベニスの街づくり、振興は当然、家族との生活も楽しかった。


 でも……でもなぁ。うん。相手に自然に触る、抱きしめ合うということがもの凄く恋しくてねぇ。まあ、センチメンタル? なジジイなんてなんの需要もないと思うけどさ。別に日本で恋人がいたわけでも、常にぎゅうってしてたわけでも、ちゅっちゅっしてたわけでもないのに。


 変に長時間生きてしまったからなのかなぁ。会いたいよ。家族に。本当の家族に。触れないからかなんなのか判らないけど、愛していたつもりだけど、こっちの世界の人たちを心の底から「本当の家族」と思うことが出来なかった。特に彼らが死んでしまってから……もう数百年経過してしまったからかもしれないけど。


 ああ、なんか愚痴になっちゃったのかな。本当はもっといろいろあったけど……うーん。大事なコトは全部書けたかな? ごめん。役立たずで。こんなに長い時間生きて来たのに。この手紙を読んでいる同郷の男子が……俺よりも幸せになってくれることを願う。本当に願う。



 

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