0093:異世界先輩からの手紙②

 で。300歳になったとき。


 すべてが煩わしくなって、無性に一人になりたくなってさ。誰も来ない場所に引きこもる事にした。そう、使い方が良く判らなくて放置していたスキル、迷宮編集を使って。


 迷宮編集は文字通り、迷宮の構造や、出現する魔物をいじくれるスキルだ。多分、神様は、だから地下に迷宮のあるオベニスの側に、俺を落としてくれたんだろうけど。


 実はすっかり忘れてたわけで。というか、俺に迷宮の所有権もくれてた様だ。悪ぃ。神様。他が盛りだくさんでスッカリ忘れてたや。


 オベニスの迷宮は地下水路の奥にあって、隠されていたこともあって誰にも知られておらず、人影はなかった。


 とりあえず、他の迷宮に潜った時に溜まっていた迷宮ポイントを使って、自室を作った。狭い2LDKの間取りに部屋を増やしてみた。余り広いのは、後ろに誰かいる気がしてくるので×。トイレ、バス、水、食料の生成システムに、外への転移陣も用意した。


 で、そこを拠点に本格的な迷宮編集、いや改造だな、改造を始めたわけですよ。


 第一階層は有名ファンタジー映画の遺跡をパクっ……いやリスペクトした。歓迎は派手に。まあ、予算の関係で、動かせるガーゴイルモドキの数は減ってしまった。


 というか、オリジナルの魔物っていうのは作れないみたいだ。この世界に既にいる魔物を変形させる。若干奇形化させるなんていう、アレンジしか出来ないようだ。それでもポイントをスゲー消費する。アレンジしなければかなりの数、種類を揃えられるんだけど……ねぇ。オリジナリティは無いとねぇ。だめだよね。


 なので、第二階層、第三階層、第四階層……全て中途半端なモノになってしまった。で、うっかりしてたんだけど。強さを俺基準で設定したら、誰も迷宮奥に降りて来れなくなってしまったようだ。トホホ。慌ててかなり弱体化したんだけど、時既におすし、遅し。


 俺が通れるようにしたから、結構前に迷宮があるのはバレている。


 何人かの冒険者が挑んだらしいんだけど、最初のガーゴイルに全員殺されて全滅。それを繰り返していたら、いつの間にか、迷宮があるということすら一般には知られていない状態に。そして……さらに……危険な迷宮として、代々ここの領主である俺の子孫に封鎖されてしまったらしい。やるな、さすが俺のひ孫? 夜叉孫? 


 ……ま、いいんですよ。元々一人になりたかったんだし。俺自身は転送陣があるから、いつでも外に出られますしね。

 

 その辺で迷宮いじりにも飽きたし、完全に一人の環境も整った。ということで、もうひとつ……かなり昔から考えていたことを実行しようと思って、始めたのが……エロマンガ描きだ! 


 いやーもうね、なんていうかね、自分で描くよ。大学生になっても同人オタクだったわけだし、小学生の頃には真剣に漫画家になりたかったしね。最終的には次のコミケこそは、次こそはっていう、やるやる詐欺オタクでも有ったわけだけど。


 まあそんなヤツが当然、絵が上手いハズが無い。理論はネットで見たことがある程度の良く居る口だけ野郎だったわけで。


 最初は笑い物になるのは承知の上だ。実用性なんて皆無なのは当然。


 が。同じ事を十年、二十年……五十年くらいやり続ければ、いつかは自分にシックリする絵が描けるようになるんじゃ無いだろうか? と思い立ったわけです。時間だけはあるからね。


 描いて描いて描きまくった。とにかく描いた。イヤー難しいね。マンガって。特にエロマンガ。なんか、自分自身でちゃんと使えるモノにしようと思うと途端にイロイロと粗が見えてくるんだ。


 ちなみに、原稿用紙にペンにインクなんていうのは、迷宮ポイントと引き換えで生成できた。それなりにお高いけどスゲー上質なの。一般的に使われている紙なんてわら半紙以下で、羊皮紙とかも使われてるのに。この世界。


 マンガを描いて80年くらい過ぎた。多分、年齢は400歳ちょい……かな。最近妙に体調が悪い。回復の術を使用しても、スッキリしない。……これが寿命ってヤツなのかな? とうとう? いつお迎えが来ても良いように、慌ててこの手紙をまとめたって感じ。


 最近じゃもの凄く好きだったエロマンガ描きもご無沙汰。なんか、ボーッとしちゃって、ベッドで横になることが多くなったというか。


 どうせ、死ぬのなら、俺の遺産、一番はエロマンガを判ってくれる、理解してくれる人に残したいと思って、入り口のドアを俺専用から日本人男子専用にしてみました。地球人って指定すると、下手に海外の人とかで、その手の表現に厳しい人だったら……問答無用で焼かれちゃうかもだから。


 まず最初に日本人かどうかを判別して、OKだったら、男か女か判別。で、男ならドアが開くという仕掛けになってるわけよ。魔導具って自由なんだぜ。


 まあ、正直、この迷宮のこの部屋に、同郷の人間が訪れるなんて……どんだけの確率なんだよっていうね。うん。判ってる。もしかしたら永遠に無いことなのかもしれない。とはいえ、この部屋は魔術で状態保存されるはずだから、数千年は維持されると思う。どうかな? 誰か来るかな? 来てくれるといいんだけど。


 ということで、俺の描いた珠玉のエロマンガ作品は、この部屋を開けたキミのモノだ! 差し上げるよ! 自由にしていいよ! 有効活用してくれていいよ!




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る