0092:異世界先輩からの手紙①

 この手紙を君が読んでいるということは、私は既に生きてはいないだろう……ってごめ。ごめん。書いてみたかった。というか、死んでるに決まってるジャンね。もう死にそうだからと、読める字を書けるうちにと思って、この手紙を書いているのだから。


 えーと、どこから書こう。自己紹介からか。


 俺の名前は茂木蒼太モギソウタ。出身は○○県、××市。父親はサラリーマンで母親はうるさくて、妹はオタクでデブな兄を汚いものを見る目で見てくる、日本の普通の家庭で育った。1999年生まれ、2020年、大学2年、だから20歳の時にこの地、ブラヴァニア世界……いや、大陸名なのかもしれないけど、まあ、こっちの世界にいつの間にか……転移させられた? していた? 


 これがなぁ。酷いんですよ。聞いちゃう? っていうか、書いちゃうけどね。コミケの帰り、ね? 両手に戦利品下げて、駅から自宅へ歩いてたんですよ。夜の……8時くらいだったかな? 確か。


 お腹空いたな~今日はカレーにでもしようかなーというか、俺も今年の冬こそ同人誌作ろう! なんて典型的なオタク大学生思考で歩いてたらね。いきなり、多分、ヘリコプターがね、落ちてきたんですよ。ドカーンと。米軍ヘリ。スゲーでかいやつ。なんていうかね、いきなりよ?


 ヘッドホン付けて音楽聴きながら歩いてた俺が悪いんだけどさ、アレ? なんかスゴイ震動がする? 音も聞こえてくる? なんだ? と思って耳から取ったら、超爆音! ですよ!


 何これ! 米軍のヘリ? だよな? って思った瞬間にドカーン! 痛いとか痛くないとか関係ないのもう。多分、周り一面火の海というか、爆風と爆音と、炎でトンデモナイコトになってたハズ。


 というのも見てないんだよね。そうなる、なりそう! って瞬間に、俺は、既にこっちの世界にいたから。


 でね、こっちの世界に来ちゃったんですけど~目の前には何か白い光がいて。これ、特別みたいで。普通は現れないとかイロイロ言ってたけど、まあ、どうでもよくて。


 話をまとめると「ごめんね」ってことで。なんか、その白い光は神様みたいなもので(本当は違うと言ってたけど)、ヘリコプターの事故の因果がどうので、俺は複雑なミスで死ぬことになってしまって、それは不味いって話になって、こっちの世界へ飛ばした……。


 と、いうことで。強制転移されて今に至ると。まーもーそりゃー怒りましたよ。なんで! とか、戻してとか、まあ、イロイロ暴言も吐いて。


 で。光の神様はそんな俺に結構優しくしてくれて。元々この世界に来た時にチートな能力が付加されてたんだけど、それ以外にも面倒をみてくれて。うん。


 もう家族に会えないのは悲しいけど、事故で死んでしまった以上は仕方ないし、誰にでも可能性としてあることな訳だし。


 死後の世界が異世界っていうのも楽しいかなって、転移で跳ばされたとこの近所にあったグランバニア帝国のオベニスって街で生活することになったわけですよ。


 そんな俺なんだけど。チートがさ、結構凄くて。もらったのは全属性魔術のスキルと、経験値増加、ステータス増加、さらに迷宮編集ってヤツなんだけど。うん、スゲー能力のオンパレード。


 最初はそりゃ~がんばったさ。見知らぬ土地で独り立ちしないといけないわけでさ。


 白い光の神様からもらった支度金(なんか魔物に襲われて死んだ商人っぽい人の遺骸に案内されて、その持ち物を拾った)で冒険者ギルドに所属して、クエストをクリアしまくった。主に討伐系は初期の魔物なら大抵、火や風の魔術で一発だったので楽だったかな。


 てな感じで頑張ってたんだけど。あのさ、もう知ってる? 知ってるよな。ここに辿り着けるくらいには鍛えたんだろうし。この世界、恋人が出来ても、触ったりしちゃいけないって。


 俺さ、結構ガンバって、冒険者ギルドでクエストをこなしてたら、お金がそこそこ稼げるようになって。あっという間にランク9ってさ、帝国でも過去に2人しかいないようなランクになったのよ。


 暴嵐竜っていうデカいドラゴンを倒して、爵位ももらって。で、希望してここオベニスの領主になった。スゲー出世でしょ? これ。領主だよ? 領主。伯爵だし。元は貴族でも平民でも無くて異世界人なのに。


 で。当然だけど、家来のヤツらから、嫁を~子供を~って五月蠅くてさ。基本的に、帝国では婚姻の法律がちゃんとしてないんだよね。だから、夫でも嫁でも何人いても問題無いっていう。というか、お金に余裕のある人はなるべく多くの配偶者を持つのが当たり前というか。


 なので、それなりに好意を持ってた、一緒に頑張ってたパーティメンバーの一人とか、使用人とか、奴隷とか、かなりガンバって嫁にしてみたんだけど。


 まあ、なんとなく判ってた。触れないのな。本当に。で、そういうことをする場合も、もの凄く淡泊で作業する感じで。愛の営みではなくて。さっぱり。俺だけ嫌悪感を感じないのもちょっと罪悪感バリバリでさ。


 元々バリバリのオタクで、非接触生活を送って来たから気付くのに時間掛かったかな。


 25歳くらいまでは、別にね。それで良かったんだよね。


 オベニスの発展のためにいろいろやらないといけなかったし、子供も出来て大変だったし、何よりも、迫害されている人たちが沢山いてさ。蛮族と呼ばれる種族の人とか、獣人とか、奴隷とか。とにかく不公平が多い世界で。帝国は人族の選民主義でさ。スゲー男尊女卑だし。お偉いさんに見つからないように、イロイロと保護するのに大変だったり。


 でもさ、30歳くらいになると、なんとなく、なんとなーく寂しいと思う様になってさ。


 一度、本妻(妻の中でも一番古くから、冒険者時代の元パーティメンバー)に許可をもらってぎゅうっと抱きしめてみたんだ。同時に向こうにもしてもらった。


 ……俺はね、好きな相手だし、もの凄く気持ち良かったし、なんだか暖かく、凄く素敵な思いが溢れて来たんだだ。なんか懐かしかったというか。


 だけど……妻はそうじゃなかったみたいなんだ。無理してるのが判るというか。もう、顔だけじゃなくて、身体全体で拒否してるというか。これはもの凄くショックだった。


 まあ、もう二度と抱きしめたりするのは止めようと思ったな。実際、あの時以来、一度も抱き合ったりしていない。それにその時以来、EDになってしまったのか、女性に対して肉体も反応しなくなってしまった。一人でなら余裕なのに。


 で。さらに何十年かすると、周りにいた人、妻や仲間、家来何かが次々と死んでいった。なんか、界渡りをしたヤツは各種基礎パラメータが高くなってるので、寿命も延びるんだって。


 死に別れはあったものの、子供も孫もいたからね。引退して、悠々自適の御隠居生活ですよ。


 でもこれもさ、数十年ならよかった。楽しかった。たださらに50年経過するとね、もう、何をしても盛り上がらないというか。枯れてしまったというか。


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