0089:地下迷宮第五層

 五階層目、階段を降りた先は小さな部屋だった。扉が二つ。一つは今まで見慣れたもの。迷宮らしい、木製で金属の枠というか、補強が成されているヤツだ。鍵が掛かっている様子もない。


 問題はもう一つの扉。把手も、何も見当たらないその扉は、イリス様たちからすれば、壁の一部に見えたようだ。


 まあ、それはそうか。俺も、その扉に張られたプレートに気付かなければ、スルーしていただろうし。


 プレートには


「秘密の扉 日本人専用 手をかざしたまえ」


と、「日本語」で書いてあった。


 えー。何となくそんな予感、ご同輩登場の予感がしていたため、そこまで驚かなかったが。えー。どんな展開? これ。

 

 日本語。というか、念のため確認したら、イリス様もファランさんも読めないし、こんな文字は見たことも無いらしい。


 当然、リアリスも。だが、ノルド族に伝わる古文書にこんな感じの文字が使われていた様な? 気がする様な? という情報はゲットした。


 とりあえず、そこにいた全員にプレート部分周辺に手をかざしてもらったが、何も起こらなかった。文面からすると、日本人専用、日本人であることを判別する仕掛けなのだろうか? 日本語が分かる人限定でではくて?


 通常の仕掛け扉、罠としてミリアに、ファランさんには魔術的にも探ってもらったが、何も見つからないそうだ。扉と認識もされないらしい。トホホ。


 うーん。これは……どうしたモノか。この文面が確かなら。俺自身がここに来て、手をかざす必要がある。俺が? いやいやいや……うーん。


 ここまで……第五階層まで降りてくる……のは、ロザリアとかミリアと比べものにならないくらいお荷物なのは確定的だ。現時点でも戦闘能力ほぼ無しの一瞬でやられちゃう雑魚なのだから。


 が。しかし。このプレートを残したのは、確実に、この迷宮をデザインしたヤツだ。おかしいとは思ったが、やはりというか。非常に納得がいく。多分……理想はゲームの中の特徴的な迷宮だったんだと思うんだけど、イマイチ精度は低めというか、もう少し拘ればいいのにっていう足りない感じ。


 まあでも、移植度はイマイチでも、それをやろうと思った……と気が付くくらいにちゃんと創られていた。多分、ムチャな仕掛けが多かったんじゃ無いかと思う。


 そんなスゴイ力を持った日本人が過去にいたのだ。このオベニスに暮らす人々が知らないくらい昔に。


 この扉の向こう側に何があるのか。正直知りたい。同郷の者として非常に興味がある。でもな~そこまで行くのはちょっとな~厳しいよなぁ。


(その気持ちは良く判った。とりあえず、今は先へ進むことにする。いいか?)


 イリス様から伝わってきたので、当然、了承する。元々今回は迷宮探索が目的なのだ。俺個人というか、同郷だからといってあまり、私情は優先できない。


 ってまあでも、この私情……結構この世界の秘密に迫るような、大きな情報が含まれている様な気がしないでも無い。迷宮に日本人、いや、過去の界渡りが関与していた……なんてファランさんも初めて聞いたようだし。


 まあ、とりあえず、世紀の大発見は置いておいて、奥への扉に向かう。その奥は……? 


 なんというか、普通の迷宮だった。文字通り、迷う。というか、あまりに当たり前というか、普通というか、迷路がパーティを拒む、本物の迷宮……という気がした。


 出現する敵は前階層のボスのお供で登場した獣鬼ガドラ。コイツの上位種である、戦獣鬼エオガドラ魔獣鬼リクガドラが3~4体でパーティを組んで登場した。あ。ちなみにサイクロップスは黒き巨大一つ目獣鬼マダンガダギオガドラだそうだ。というか、ラノベ脳でしかファンタジー世界を理解していない俺の様なオタクには判りにくい。非常に。


 棍棒を振り回すエオガドラの鈍いが重い一撃を交わし、その持ち腕の筋の辺りを切り裂く。あまりにも自然に振るわれる剣のせいで、もの凄く弱い敵の様に思えてしまうが、ロザリアの苦戦っぷりを見ていると、そうではない事が良く判る。


 イリス様がおかしいのだ。自分の担当していたエオとリク、2体のガドラを倒し、もう1体のリクの首を刎ねる。


 魔術による攻撃が無くなれば、牽制していたミリアの矢が、ロザリアの受け持っているエオを襲う。その隙を狙って、ロザリアが一撃を叩き込んだ。為す術無く棍棒毎寸断されるエオガドラ。


 危なげなく撃滅した様に見えた……が。


「確実に変わったな……雰囲気が違い過ぎる」


 ? どういうことだろう?


「ああ、そうだな……第四階層までと明らかに違うな……」

 

 見るとロザリアとミリアも頷いている。何が違うんだろうか? 


「違う迷宮に潜っている気が」


「これは……何かあるな……」


 そんなにか。素人的には……まあ、確かに、作りは違う気がするけど、第二階層とあまり変わらない気がする。


 なんでも、思考というか、動きというか、敵の連携の仕方が、他の迷宮や、地上と同じ、馴染みのある感じになったというのだ。


「これは……一度戻って、再度モリヤを連れてここへ降りてきて調査を行うことにした方が良さそうだ」


「なぜ? モリヤ殿を?」


「先ほどの小部屋の文字。あの辺はヤツの専門分野だ」


「ほほー」


 いやいや、それじゃ俺が考古学者とか文字の研究者とかそんな感じに思われちゃうじゃないですか。……ってまあ、説明するのが面倒か。仕方ないか。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る