0088:地下迷宮第四層その④

 まだ呆然としている2人。ショックというか、認められないというか。イロイロだろう。イリス様は特訓のせいで多人数戦に強い……というかなり強引な方向で話をぶっちぎろうとしている。


 ぶっちゃけ、今回のはリアリスに、イリス様視点のアドバイスと相手の位置把握を伝えただけだ。相手の攻撃がどの辺に来るとか、どのタイミングで仕掛けてくるなんていうのを客観的に見られたら、それは当然、ドンぴしゃなタイミングでカウンターを合わせられるし、先読みして相手が攻めてくるのを待つことも可能だ。


 逆に彼女たちが待ちの姿勢だったら、リアリスは何も出来ずにやられていたと思う。さすがに。


「なので、キミら2人にはここで待っていてもらおうと思う」


 改めてイリス様が言うと、2人は無言で下を向くしか無かった。


「その訓練は……受けることができるのか?」


 ロザリアが悔しそうに呟いた。


「ああ、当然だ。我が領の兵士なのだろう? イロイロな意味で覚悟はしてもらうが」


 うーん。イロイロな意味。それって自分が揉むって事ですよねぇ……。良いのかなぁ。未だ、変な罪悪感は晴れず。能力値アップは単純に、彼女たちが生き延びる可能性が高くなると思えば納得出来るんだけど。うん。


「判った」


 現状。イリス様、ファランさん、ミスハル、モリヤ隊メンバー10名。それ以外には、実戦的に役に立ちそうなレベルで「繋がれる」者を増やしていない(初期の屋敷の使用人たちの肩を揉んだだけで、ほぼ全員が回復の魔術を使えるようになったので、ビビった……というのもある)。


 当たり前だが、信用できなければどうにもならないし、身内を人質にされて……なんていうことが無いとも限らない。なので、俺の能力についてはそのメンバーにしか話さない=新規でのマッサージを行っていないということになる。


 が。まあ、こういうコトになる以上、今後はもう少しイロイロと考えなければならないだろう。まあ、ぶっちゃけネタバレしたところでどうにもできないだろうが、無駄に警戒されるのは避けたい。


 もしも敵に捕まった場合の事を考えて、上記のメンバー全員(俺を含めて)が、口止め用の誓約の術をかけられている。自分が捕らえられただけで仲間に危機が迫る可能性があるのなら……と、最終的に自分から術を受け容れることになった。


 奴隷誓約があり、自白を強要する術や、心の平安を取り去る術など、情報入手のために使える術がいくつも存在する以上、「できぬことなし」の黒ジジイなんて、そういう手にどこまで精通しているか判らないからね。


 術で強制的とはいえ、守秘がしっかりしているのであれば、できる限りマッサージしても良いと思うんだけどね。俺は。戦力強化に繋がるわけだし。

 迂闊に強化してしまって後で後悔しても遅い……なんて事態になりかねないということで、慎重にやっているだけだ。

 

 もう少しリアルに、現実的メリット、デメリット、利益、損失で考えなきゃならないんだろうな〜。

 

 3人が次の部屋、階層ボスの部屋に入った。ボスが一つ目鬼。一つ目の巨人、緑の肌が鮮やかなサイクロップスってヤツだ。で、俺の情報通り、そこにおかしいくらい大量の獣鬼が配下として出現した。


 イリス様と、リアリスは黒い獣鬼から取りかかった。さすがに雑魚壁が分厚すぎて、一足飛びにはいかなかったのだ。とにかく丁寧に、少しずつ片づけて行き。二時間以上それを繰り返し、最終的はなんとか、ボスに辿り着いた。


 それまでボスは何をしていたか? 彼はただただ、立っていた。こちらがボスに近づくまで、動かない仕様だったのだ。そういえば、そんな感じだった気がする。


 辿り着いてしまえばこっちのものだ。雑魚共々、ボスもアッサリなます斬りだった。


 結果として、ロザリアとミリアを連れて行かないで良かったと思う。


 最終的にイリス様が完全に敵を引きつけて護衛、正面から盾に回り、リアリスがそれを回復、主な攻撃はその影からファランさんが攻撃呪文を打ち込み続けるという形になったからだ。

 多分、2人が護衛対象として加わっていたら、イリス様でも取りこぼしはあったかもしれない。それくらい、数が多かったのだ。減ったと思ったら追加で数百。さらにドン。


 ボス自体は……巨体のわりには速かったし、怪力は怪力だったと思う。が、イリス様のスピードに翻弄され、それを生かす機会が無かった。相性的に、雑魚の方が面倒だったくらいだ。


 サイクロップスの、階層ボス部屋の奥に、下の階層への階段が見つかった。俺の知ってる階層ボス階はもっとボス連戦になった気がしたが、まあ、イロイロと変更されてるんだろう。


 漫画原作の実写化の際にイロイロと変更が入るのと一緒で。



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