0090:迷宮臭
判断後の行動は非常に早かった。
リーダーが領主様というのは命令系統がハッキリしていて、逆らうという要素が無いのだ。あまりにも間違っていれば、反論もするだろうが、第五階層から先の気持ち悪い感触の違いに関する手がかりがあると言えば、納得するしかあるまい。
イリス様たちパーティは行きの約半分の時間で地上へと帰還を果たした。ちなみに、階層ボスはまだ再出現していなかった。つまり、それだけ強い敵なのだろう。
「身体を綺麗にしたら、階層ボスの再出現前に潜ることにする」
イリス様がなんというブラックな提案を……確かに帰りの時間を考えれば、今ならまだ階層ボスが再出現する前に、あの部屋へ辿り着ける可能性は高い。
「さ、さすがにそれは……イリス様は平気でも、ファランさんたちは……」
「大丈夫だ、迷宮に潜る以上、1~2週間程度の探索は覚悟していたからな」
「メンバーはモリヤと私と、ファラン、リアリス。あとは……」
ミスハルが目を見開いてイリス様も見ている。
「ミスハルは引き続き、地上で私の代行任務を頼む。モリヤとファランがいないとなると、次はお前なのだから」
もの凄い嫌な顔をするが……確かに、領主直近の部隊を率いることが出来るのはミスハルだけだ。今回はいつもそういう役目を負うハズの俺がいないのだから。
「ミアリア、疲れているだろうが頼めるか?」
モリヤ隊の中でも筆頭のミアリアが少し前に、報告のためオベニスに戻ってきていた。
「問題ありません」
ということで、俺、イリス様、ファランさん、ミアリア、リアリスの5人はちょっとした補給を済ませると、再度迷宮に潜ることになった。
ロザリアとミリアがごねるか……と思ったのだが、自分たちの力不足ぶりを実感したからかもしれない。何も言わずに下がって休んでしまった。ちょっと心配ではあるが……こういうときどういう対応をすればいいか良く判らないので放っておく。
迷宮に足を踏み入れて最初に思ったのは匂いだ。まあ、うん、耐えられないほどでは無いが、魔物臭い。獣臭い。
「ここは天井が高いからな。それほどでもない」
厳しい。というか、この世界、リアルファンタジーは匂いに厳しい。下水設備が整っているオベニスだからこそあまり気にならなかったが、実は王都は常に、ほのかな糞尿の匂いが漂っていた。王城ではイリス様が血の臭いを撒き散らかしていたため、あまり気にすることも無かったが。
当然だが、魔物の匂いもかなりキツイ。
が。気になったのは匂いだけだった。急いだせいもあって、階層ボスの再出現前に第五階層まで突破することができた。俺がマッピングしておいたせいもあって超短時間での移動が完了する。
「やはり、地図作成は重要なのか」
イリス様もファランさんもなんとなくそうじゃないかなーと思っていたようだ。が、今の冒険者は自分たちでマップを作ったりはしない。パーティ人数が五名と限定されているため、戦力にならない余分な人員は連れて行けない場合が多いのだ。なので、戦闘もできる上にこまめな作業も可能な物好きな斥候がいない限り、マッピングは無視されるという。
というか、そもそも、大抵の迷宮にはマップを売る冒険者がいるし、ギルドにもある程度のマップは揃っている。新規の迷宮というのが超レアで、問題なのだ。
迷宮の新規発見など、ファランさんの記憶の中にも一度も無かったようだ。そのため、最初に何をすれば良いのか? が判っていない。ギルド本部の古い記録を漁れば……ということだが、それをしてしまうと、確実に迷宮が発見されたことが他所に露呈してしまう。
あっという間に着いた第五階層最初の部屋。普通よりちょっと狭い広間。繋がった状態で覗き見たプレートが目の前に見える。
「モリヤ、ちょっと来て見ろ」
イリス様に呼ばれて、もうひとつの扉の方へ近づく。イリス様がいきなり扉を開けた。ムッとした臭気……いや、獣臭が鼻を刺激する。
「なんですか、これ」
「よく思い出してみれば。これが通常の迷宮の匂いだ。というか、ここまでが異常に臭くないと思った方がいいだろう」
「いきなり、この匂いだ。そりゃ当然、怪しいと思うだろう?」
確かに。迷宮の感触や敵の行動や配置なんていう部分だけで無く、もっと根本的な、匂いが違っていたのか。これはいくら「繋がって」いても俺には判らない。
そして目の前のプレートには。
「秘密の扉 日本人専用 手をかざしたまえ」
と確かに書いてある。というか、この文字……手書きじゃ無くてゴシック体とか、印刷の写植とかフォントに近い。これは……どうやって作ったんだ? 刻印?
文言通り、プレートの前に手をかざす。イリス様たちだと何も起こらなかった。が。
チャキン! デデデデー
なっ! なんで、超名作RPGのアイテムをゲットしたときの音が! どこから鳴った? って、そんなのここにいる誰も判らない! 判るはず無い!
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