0085:地下迷宮第四層その①

 迷宮探索者の朝は早い。交代制だからね。寝てないとも言うね。


 というか、常にほのかな灯りが付いている状態なので、熟睡はできないんじゃないだろうか? アレか、会社とかで仮眠用に使ってたアイマスクの出番? なんとなくだけど、四~五時間程度かな。まあ、敵に囲まれた場所での睡眠なんて、そうそうちゃんと取れないですよね。はい。


 まあでも、それは普通はだ。うちのパーティは予想通り、イリス様はキチンと熟睡中だった。


 こちらから何か伝えようとすればすぐに目覚めると思うのだが、折角寝れているのだから止めておこう。ちなみに、ファランさんも見張りを使い魔に任せて熟睡? 中。他のメンバーが起きて身体を動かしたりし始めているのが判るのは、今はリアリスと繋がっているからだ。


 彼女はパーティの中で唯一の迷宮未経験者なので、初めての出来事が多く、かなり緊張しているっぽい。昨日の戦闘開始時もだし、迷宮内での野営も。まあ、そりゃそうだ。


 リアリスは……おばちゃん集団であるモリヤ隊の中ではかなり慎み深く、自分を表に出さない大人しめの淑やかな人だ。回復の術はそういう他人を思える人が得意とすることが多いらしい。まあ、うん。自分が自分が! のミスハルに回復の術の才能が一切無いのはよく判る。


 とはいえ、こういう、大人しい一見虫も殺さない様なタイプこそ、深く溜込んで一気に爆発するタイプの、一番怖い系だと思う。目が怖い……時があるのだが、もう、ね。ええ。ぶち切れて包丁振り回す……いや、包丁でまず、刺す。刺してから考えるタイプというか。


 ちなみに、出会った当初、最初のうちの愚痴合戦状態の時もみんながどぎつく愚痴るのをにこやかに肯定して頷いていた。ちょっと奥が深すぎて怖い。ちなみに、心を開いてきた際の出身森に対する愚痴の深さ、しつこさなんかがトップクラスだったのも、その怖さを裏付けている。


 そんな彼女は俺が朝目覚めて様子を探ったときには既に起きて、食事を済ませていた。休息できるとき、食事が出来るときに勝手に食べる。ダンジョンで調理してみんなで一斉に食事する……なんていうのは、そのダンジョンが調査されて、階層ボスの再出現時間が判明しても、あまり聞いたことが無いという。


 ……まあ、そりゃそうか。遊びじゃないんだしな。匂いや音が出る行動は控えたい、なるべく無駄なことはしない方が良いってことだろう。


 装備を準備する音に気付いたのか、イリス様やファランさんも目覚める。用意もクソもまあ無いというか、革袋の水を手にちょっと取って目と口の周りを拭く。うがいをしてちょっと口に含む。携帯食を囓って、後は昨日寝る前にしておいた武器の手入れの確認をして終了、だ。


 階層ボス黒き巨大鎧戦士マダンガダジーガのいた部屋の奥にあった階段を降りる。


 第四層は、まずは廊下だった。第二層の通路よりも広い廊下。その先には階層ボス部屋っぽい、ちょっと重厚な両開きの扉が見えている。うーん。いきなり階層ボス?


 というか……あ。これ、ボス階層ってヤツか? 


 ってことは、前の階層、第三階層の移動床! アレか、某有名RPGその1の後半の高難度ダンジョン……か? なんか知ってる、見たことあるレベルだったのを、ハッキリと思い出した!

 

 で。この形多分……だよなぁ。元になってるのは。この階層は……ボスばかり登場するってことでいいんだろうか? これも某有名RPGその2の中盤の新大陸へ向かう最後のダンジョンだったハズだ。


 ここまで似てるというかリスペクトしてるということは……と考えると、第一、第二階層もそう言われてみれば似たようなダンジョンや仕掛け、遺跡を、他の有名RPGで見たような気がする。んーとこの迷宮を作った人? 神? は地球の日本のゲーム文化に影響を受けたってことなんだろうか? ここまで来るといくらなんでも偶然じゃないよなぁ……。


 というか、日本人、地球人が……俺の様な界渡り、転移者? 召喚された者? としてこちらの世界に来るのはあってもおかしく無い。というか、勇者でもなんでもない俺の様な人材がこうしてここにいるのだ。もっとこう相応しいようなヤツが来てても不思議じゃないだろう。


 だが。迷宮を設計したり、さらに作ったりする……ことは有り得るのだろうか? この手の知識の専門家であるファランさんも、さらに後で確認したのだが、オーベさんも知らないし判らないという。そもそも迷宮に関しては良く判っていないことが数多く存在するのだ。


 というか、迷宮は遺跡と一緒で「そこにある」モノ、「発見される」モノであって、誰かが作るモノではないのだという。というか、どこどこの迷宮を誰かが作ったという記録は見たことも聞いたことももないという。界渡りの記録の中にも多分無いんじゃないかということだ。


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