0084:地下迷宮第三層その③

「この迷宮は……おかしい」


 そうですねーおかしいですね。今の巨大リビングアーマー。イリス様だから倒せたが、普通ならかなり難しい。コマンド選択式の戦闘じゃ無いんだから……無理なんじゃないか? マジデ。


 そもそも、なんで俺が「知っている」迷宮のマップデザインが、この世界の、しかも人が探索したことの無い様な場所に存在しているのか。

 まあ、うん。イロイロと予想はできるんですけどね……パーティはボス討伐後、奥の階段を発見したが、そろそろ夜になるということを伝えると、今日はこの階層ボスの部屋で休むことになった。


 この迷宮がどんな仕様かまだ判らないが、迷宮に存在する魔物は全て、しばらくすると再配置される。ザコで10分~1時間くらい。階層ボスで数時間~数日。これは、強いボスになればなるほど、再配置までに時間がかかるそうだ。まあ、強い魔物ほど生み出すのに魔力が必要になり、それを再蓄積するのに時間がかかる……ということらしい。


 そのため、階層ボスの部屋は討伐直後は安全な休憩スペースとして使用されることが多いという。とはいえ、この迷宮でのデータはキチンと取れていないのだから普通ならやらないだろうけど……再出現しても、イリス様がいれば楽勝そうなので、大丈夫だろう。と、いうことらしい。


 さっきの階層ボス、巨大リビングアーマーは黒き巨大鎧戦士マダンガダジーガ。リビングアーマーは黒き鎧戦士マダンジーガらしい。純粋に俺が判りにくいんだけどなぁ。あ。そういえば、二階層目の蜘蛛は黒き糸吐きマダンゴバエル。階層ボスの方は黒き巨大糸吐きマダンガダゴバエルとなった。うーん。巨大蜘蛛は、涎絡め糸吐き蜘蛛とかの方が判りやすくて良いと思うんだけどなー。火の魔術が通用しにくいなんて、知らないとヤバイ情報なわけだし。


 迷宮内での食事は、干し肉と水、そして堅いパンの様な、スゴイ不味い堅いカロリー○イト(当然、栄養補助食品ほど、ちゃんとしたエネルギーや栄養を供給してくれるわけではない)の様なビスケットというか……。そんな感じのモノが中心になる。稀に、火で焼く程度で美味しくいただける素材を落とす敵もいるらしいが、そうそう出会えるものではない。


 というか、装備をいくつも入れておける魔法の袋とか、時間経過が止まるストレージなんていうスキルがあるわけじゃないので、戦利品は全て、背負い袋に入れて持ち歩いている。五人で分担しているとは言え、装備品やその手入れ用具も必要である以上、そう大した量は持ち運べない。


 寝るのも装備を付けたまま、そのまま横になるのみだ。毛布や寝袋、ましてやマットなんてそもそも、持ち込んでいない。


 鎧を着ていないファランさんの様な術士は厚めのローブやマントを羽織っているのでそれに包まって寝る。革鎧であっても寝返りは打ちにくい。身体……痛くなるよな。どう考えても。


 冒険者と、騎士や傭兵の最大の違いは装備だそうだ。冒険者は迷宮や森、洞窟など未開の地を歩むため、今回のように着たままでも寝れる革鎧を好む。さらに身動きするたびに音のする金属製の鎧は身に着けない。

 生粋の冒険者であるイリス様、ファランさん、ミリア、冒険者よりも慎重なノルド族のリアリスはフルレザー装備で固めている。


 傭兵として戦場に出ることもあったロザリアは篭手が金属製である。普段は靴、というかブーツもグリーブとかいう金属製のブーツだったが、さすがにカチャカチャうるさいので、変えて来たようだ。


  ちなみに、冒険者たちの夜は早い。なぜなら、通常は見張りを立てて交代で眠るからだ。見張りは武器の手入れを行ったり、ちょっとした訓練(素振りなど)をして時間を潰す。警戒するのを怠れば、次は我が身ということで、手を抜いたりはしないという。それこそ、本気で眠い場合は事前に申告して、比較的大丈夫な人が~とかになるようだ。


 食事をしたらそのまま横になる。眠れなくても横になって目を瞑る。明日動けなくなることが、どれだけ罪かということを全員が理解しているのだろう。少しのミスで命を落とす職業だしな。


 まあ、今回はファランさんがいるので、その使い魔の不定形生物であるところのエーデリアさんが見張っていてくれるらしい。なので全員が横になった。エーデリアさんは……ネコのような、違うような、なんていうか、たまに人面犬系に見えたりもするのがちょっと怖い。ということで、さん付けだ。


 ちなみに、「繋がって」いても、気温と匂いは一切伝わって来ないので判らない。が。誰も文句を感じていない様なので、許容範囲内なのだろう。

 壁や天井が光っている、灯りのある迷宮は、大抵、一定の温度に保たれ、空気も淀んでいない場合が多いと言っていたし。火山の階層とか氷河の階層とかもあるそうだ。もしも、あまりにもヤバそうなら今回はそこで引き返す予定になっている。


 等と、心配したり、気遣ったりしても、所詮俺は地上の屋敷で、暖かい食事を取り、ぬくぬくとベッドで寝れるわけで。なんとなく悪いな~と思いながらも、念のため、「繋がり」は保ったまま眠りについた。


 我ながら傍観者は気楽なもんだな。


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