0083:地下迷宮第三層その②

「それよりも、このリビングアーマー……おかしく無いか? ファラン」


「ああ、おかしいな。命令は誰が出しているのだ? リビングアーマーは大抵がリッチなどの賢い敵の護衛として登場するのが普通だ。自立して襲いかかってくるなど……聞いたことが無い。この迷宮は本当に……」


 と話しているうちに鎧の裏に埋まっている魔石を抉り取る。リビングアーマーはそこまでやって、やっと消失した。ドロップアイテムは鎧の欠片。これも、通常なら出ないアイテムらしい。


「そもそも、リビングアーマーは召喚術で呼び出した使い魔の様な存在だからな。大抵が。召喚主を倒すと消える。まあ、オマケみたいなモノだ。なので、普通はアイテムは剥ぎ取れない」


 いつの間にか動く床が止まっている。ただの広間に……戻ってきたようだ。さっきまで移動していたのが嘘のような静寂。

 

 ちょっと待て……これ……入ってきた扉を開けて、外に出れるかな? どうですかね?


「ちょっと戻ってみるぞ」


 イリス様が後ろのドアを開けた。すると、降りてきた階段は無く、廊下が続いている。さらに奥にはちょっと重厚な扉。やっぱり……階層ボスの部屋か。


「なんだこれ?」

「ここから入ってきたのではなかったか?」


 うーん、何だろう、この既視感。多分、この先にいる階層ボスはでかいリビングアーマー。獲物は巨大な鉈の様な両手剣だ。胸元に四つの色違いな魔石が埋め込まれていて、各色が役割分担している。


「巨大なリビングアーマーだな」


「ああ、モリヤの言うとおりであれば、厄介だぞ?」


 扉を開けた先。目の前のリビングアーマーは約十メートルくらいはある。ガ○ダム……よりは小さいか。あの胸元、しかもたまに位置が入れ替わる小さな魔石にかなりのダメージを与えなければならない。とにかく、回復を司る緑の魔石を砕かなければ、負けなくても勝てない……ハズだ。


 確か、どんなダメージを受けても、1000回復だっけか。


 戦闘開始。前衛二人が引き付けている所へ、矢が魔石を狙う。外れた……が、肩口を削った。


「確かに……回復してるな」


 ファランさんが矢で傷付いた鎧が復元するのを見て、舌打ちする。こいつの厄介な所は、魔石にダメージを与えても、回復する所だ。当たり難い、高出力の攻撃をほぼ同時に命中させる必要がある。


「うん、判った」


 イリス様がそう言って、単身突入した。正直怖くはない。巨大リビングアーマーの動きは鈍いのだ。先読みも何も関係ないくらい、スピード差が大きすぎる。


「こうするとどうなる?」


 巨大な鉈の振り下ろしに合わせて、イリス様が横に踏み込む。死角から切り上げる剣。鎧の材質自体は通常のリビングアーマーと同じくらいの強度。素材は変わらない様だ。魔力を付与されたイリス様の剣で右手があっさりと斬り落とされた。


 その右手(まあ、篭手?)が地に落ちる前に、イリス様が蹴り飛ばした。パーティの方へ転がる右篭手。直後に光る緑の魔石。何度か回復の術が行使された様だ。目の前で右手が復元されて行く。


「あの魔石にはどれほどの魔力が蓄えられているのか……どこかから供給されているようにも見えぬ。幾ら鎧で作りが単純、中身が無いからといって……」


 ファランさんの言う通り。アレは回復の術で言えば、欠損部位の回復ってヤツだ。イリス様が白ジジイや黒ジジイの腕を斬り落とした後に、焼き鳥のように聖剣で刺して、魔力を流し消滅させたのは、修復接合させて治癒させない為だった。簡単に治っちゃったら、簡単に歯向かって来そうだったし。


 で。失った部位を完全修復させる、腕や足などの欠損部位を回復させるには(部位の大きさにもよるが)百名単位の回復術士が数週間から数カ月かけて必要になる=そもそも、回復術士がそんな人数揃わないので無理。ということになるらしい。古の技だ。


 これはなぁ……なんていうか魔術やスキルよりもムチャな何かが関わっている気がする。


「うむ。ではこうだな」


 イリス様が、蹴り飛ばしたヤツの右篭手を、持ち上げた。えーと。巨大なんですよ。蹴った時もちょっと思いましたが、なんでそんなに簡単に持ち上げられるんでしょうか? 重いですよね。


 そして、丁度正面に来るように立ち位置を変えた。右篭手を振りかぶる。鉈を振りかぶり、突っ込んでくる巨大リビングアーマー。


ガゴン!


 カウンター気味に、右篭手が、ヤツの胸の部分に食い込む。四つの魔石にダメージが通っている。えーと、つまり……人力ロケットパンチ? 


 体勢の崩れたリビングアーマーは片膝を付く。胸元はあっさりとへしゃげて、魔石は全てにヒビが入っている様だ。


「緑だったか?」


 イリス様の剣線が、面倒くさそうに、魔石に集中する。丁度、届く位置に魔石が来ている。大きな腕で突きが何発も繰り出された。


 リビングアーマーが体勢を立て直す前、緑の魔石が回復の術を連発させる前に、全ての魔石が粉々に砕け散った。つまり、もう、普通のリビングアーマーと同じということだ。なんて力技だ。


 回復の術が無くなった巨大リビングアーマーはあっさりと、魔石と鎧の欠片×5に成り代わった。



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