0082:地下迷宮第三層その①
第三階層、最初に見えたのは広間だった。
降りた瞬間に自動で床が動き始めた。ガーッと? 音がしてるのかな。若干揺れている。何を言ってるか良く判らないとは思うが、まあ、見たままズバリがそうなのだから仕方ない。階段を降りて、最初の部屋にパーティ全員が入ったら、その床が勝手に動き出したのだ。
その部屋以外の周囲は……よく見えない。なんだこの? 靄が掛かったような……って魔術か。イロイロと仕掛けられてるのか。
……そういえば、こういう仕掛け……ゲームであったなぁ。強制移動させられて、強制戦闘の繰り返しで……!
注意! と伝えようとした瞬間に、移動する床の上に人型の黒い影が2体登場した。魔物にしては妙に人種の様な体型。全身プレートアーマーをキチンと着こなし、さらにフルフェイスの兜を被っているため、顔付きや性別はイマイチ良く判らない。重そうだが、そんな素振りは一切感じられない。獲物は両手持ちの大剣と槍だ。こちらもそこそこ重そうだ。
「ファラン、これは幻術か?」
「いや……この床の周囲の風景は幻術が使われてる……が。床が動くこと自体と、ヤツラは術じゃ無いな」
力技だなぁ。動く床って何で動いてるんだろう? モーターとか、そもそも電気が無いよな。多分。魔力か。さすが不思議パワー。
「あまり、動き回ると、この床に弾き出される可能性がある。足場は固定して戦うぞ。ちょっと耐えろ」
ロザリアが頷く。まあ、元々彼女はイリス様よりもフットワークが重いタイプだ。というか、アレだけ大きい両手斧装備なんだから、そりゃそうだ。
イリス様が両手剣持ちの方へ向かう。一気に間合いを詰めた。二刀流で構え。一瞬で攻撃態勢に入っている。
横薙ぎに鎧野郎の両手剣が振るわれる……風がガバッと唸りを上げた。が。イリス様のフットワークに全く追いついていない。根本的な身体能力が違うとこういうことになるのか。というか、それが判っているから最近はロングソード二刀流なんだろうな。大剣とか両手剣、大きめの両手武器を使っているのを見たことがない。
敵の両手剣の軌道の下。すり抜けるように近づいたイリス様の剣が、右足の根元。鎧の股関節部分に攻撃を加える。
ス……
魔力を帯びた刃によって敵の太ももは鎧もろとも、音も無く斬り抜かれた。ズレて……倒れる。ガシャンという激しい音が鳴る。右足を太ももから切られたせいでバランスを崩したまま、上体を起こそうとするがままならない。
いや……中身が無い。鎧? というか、アレか、リビングアーマーとかそっちか? 聞いていたリビングアーマーの情報にしては、とんでもなく動きが速いけど。
「ファラン、リビングアーマーだ。素早い……これも新型だな」
グシャ
新型か。足下に転がっていた魔物の右足鎧を、イリス様が思いきり踏んづけて、潰す。まあ、斬ったところで再度くっつく可能性があるからだそうだ……どういう構造なのか良く判らない。
「多分、魔石を奪うまで動きを止めないタイプだな……とりあえず、全身バラバラにしてみるのが速いか」
「判った」
次の瞬間、イリス様の剣が両手剣を支えにして片足で立とうとしていた魔物を寸断した。さすがに、バラバラになれば動けないようだ。
が。他の魔物の様に、死んで消滅→アイテム出現という状態にならない。つまり、こいつはバラバラになってもまだ、死んでいないということだ。
ロザリアが押さえている槍の方へ向かう。苦戦してるようだ。まあ、スピードを生かした攻撃が得意な槍装備と、両手斧は相性が悪い。イリス様はワザとそっちに向かわせたんだけどね。多分。
「手を貸すか?」
「……いや……必要、無い」
リアリスが角度を変えて矢を放つ。鎧の肩口に弾かれる。が。その瞬間、敵の動きが変化した。怯んだわけじゃない……が、ズレる。
そこにすかさず、両手斧が撃ち込まれた。速い。振りかぶりが見えなかった。吹き飛ぶリビングアーマー。
鎧全体が大きく歪んでいる。関節部分が歪んでしまえばミシミシと痙攣するように身動きが出来ないようだ。
「やはり、スキルか」
「そのようで。斧を素早く振るスキル……かな」
振りかぶりモーションのキャンセル技がスキルか。地味だけど強くないか? これ。
「連発は出来ない。なんてスキルなんでしょう? 聞いたことがない」
「両手斧のスキルで……確かに。私も持っていないし、聞いたことがないな」
イリス様ですら、か。最近は対人戦が多かったせいで両手に片手剣を持つ二刀流スタイルが多いが、元々武藝百般、扱えぬ武器無しの英雄が知らないスキルとは。
ま、話を聞いていると、それも致し方ない。この世界では、まず自分のスキルの把握は難しい。自分は「これこれこういうスキルを持っている」と判ったら、まずはそれを隠すのが普通だからだ。
剣術のスキルでダブルアタックという切り返し二段攻撃みたいな技がある。これは剣術系の道場などで稽古を積んでいくとほぼ覚えられる初級の技なんだそうだが。
道場で先輩にその技を見せてもらい、撃たれて喰らって、さらに鍛錬するのでは、ただただ魔物を倒している人よりもはるかにそのスキルを覚える、習得するまでの時間が短いという。
これはもう、道場という多くの者が通う場が幾つも存在し、ある程度普遍的になりつつあるスキルだからこそ、こういう情報が流布し、多くの者が理解出来てる。が。それ以外は……命がけでその秘密を守っている一族なんていうのも多い様だ。
万事が全てそんな調子なのでジャンル毎に分類し、一覧的な感じで表組みにして、判りやすくすることは難しいのだ。
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