0080:地下迷宮第二層その①

 次の階層、二階層目はかなり窮屈な石畳み、石壁、石の天井で出来た、古典的な迷宮だった。上が広間だっただけに、もの凄く圧迫感を感じる。


 世界的名作3DRPG、ウィザー○リィの迷宮を横に1.5倍広げた感じか。


 通路の分岐も多く、さらに、各所に扉も配置されているようだ。


 特に扉は厄介だ。開けた瞬間にそこが魔物の溜まり場なら混戦乱闘、連続戦闘になるし、罠が仕掛けられている場合、様々なやり方が存在する。扉に注意していると、足下に落とし穴とか、扉自体の一部をスイッチにして、罠を発動とか。


 とりあえず、マッピングしながら進むのが一番な気がする……のだが。如何せん、それが出来そうな人材がパーティに存在しない。脳筋、脳筋、勘で勝負、魔術ドーンしたい=術脳筋、モリヤ隊。


 実際に進んでみて分かったが、ミリアは優秀な迷宮斥候だが、その行動のほとんどが勘頼りだった。なにそれ怖いっていうか。もしかしたら、その勘にはこれまでの経験則からくる論理的な分析が含まれているのかもしれないが、理由や根拠を説明してくれないので、迷宮素人な俺の様な人間にはもの凄く怖い。いきなりなんだもん。行動が。なんか、その動きも雑だし。


 リアリス……回復の術の得意なノルド族の女性は……モリヤ隊のメンバーは……みなさんは……言い方は悪いが、良くも悪くも「あまり喋らないおばちゃん」だ。大阪のおばちゃんじゃなくて本当に良かった。外見は外国モデルなのに。「繋がった」状態で細かく指定して命令しないと、もの凄く大雑把なお使いしかしてくれない。能力は上がっているので戦闘能力は高い。隊の中で特訓、訓練もしてるしね。でも元々冒険者ではないので、今みたいな迷宮に適した行動……みたいなことは難しい。経験値が足りないのかな。

 狩猟民族……って文字通り、「腹減った、んじゃ狩るか」みたいな、行き当たりバッタリというか。計画性が無いんだよな。


 仕方ないので、ある程度外部、俯瞰から眺めている自分がマッピングすることになった。実際最初は無理? と思ったのだが、やってみたら、それほど難しい事では無かった。コツは、足りない部分に文句を付けるのでは無く、全て現場の人間に任せる……だ。

 完璧なマップが完成できればラッキーだが、これはゲームでは無いのだ。判らない部分を潰し、穴埋めする必要は無い。イリス様たちの安全が第一。隙間だらけで気持ち悪くても、状況を判断出来て、ルートが確定出来れば問題無い。


 扉の向こう。気配を感じる。ロザリアが扉を蹴り飛ばす! 扉で潰れたのが一匹。部屋の中には残り三匹。人型だ。


 ボロボロの剣を振り回し始めた。なんか、汚い。顔はネズミだろうか? 直立二足歩行ネズミ。知恵があるのか、防具というか、服の様なモノを身に付けている。


 振り回しはしばらくすると、疲れたのか終了した。同時に二本の剣が突き出され、矢が突き刺さる。


 矢の刺さったネズミが断末魔の悲鳴を上げた。


 ドロップアイテムは魔石と何か、弦の様なモノ。髭だろうか?


「大量に! ヤバイ数が」


 ミリアが叫んだ。壁の上下に、小さい穴が空いていて、そこから奴らが湧き出して来ていた。


「炎の壁」


 ファランさんの魔法が敵の勢い、包囲を断つ。壁とはいっても完全な一枚では無く、隙間が開けてある。


 ネズミが顔を出したのと引き換えに、剣や矢がプレゼントされていく。力量差は圧倒的だが、いかんせん数が多いようだ。


「大火球」


 壁の後に開始した詠唱が発動する。炎の壁の向こうに激しい熱量が撒き散らかされた。部屋の半分が火の海に襲われた様だ。壁と共に炎が消える。と、共に、ネズミの燃えかすも消えた。引き換えに魔石と……これは……爪? だろうか。さらに、骨も落ちている様だ。


 ああ、確かに、戦闘中毒の気があるイリス様たちだけでなく、ファランさんも迷宮で浮き浮きしていた理由はなんとなくわかった。

 自分の力を思いっきりぶつけて攻撃しても、ドロップするアイテムは替わらない。魔石を砕いてしまったり、皮や肉が破損してしまったりしないのだ。これは……自分の実力の確認作業も含まれているのだろう。


 この世界は不親切なので、レベルアップした、とか、スキルが使えるようになった……なんていう丁寧なインフォメーションは一切表示されない。俺の「繋がる」スキルもそうだけど、なんとなく強くなった……ハズとか、普通にしていたらそんな曖昧な確認方法しか存在しないのだ。


 それこそ、確認方法があるスキルや術はいい。そのうち自分でも判るだろうし。だが、その確認方法が見あたらない能力も多々存在するのだ。そもそも気付いてない場合も多い。自分がどんな職業に向いているのか? なんてサッパリ判らないのだ。

 

 そして、攻撃系の術やスキルの場合、通常の狩りではある程度手加減することが重要となる。剥ぎ取りなど大事な部位を傷付けては商品価値が駄々下がりだからだ。特に判りやすいのは皮だろう。イリス様がやっていたように、一刀両断で上下や左右に斬り分けてしまったら、そこから剥ぎ取れる皮のサイズは半分になってしまう。斬り刻んだら……そりゃね。買取不可なんてもんじゃない。「あいつはずさんな仕事をする」という噂まで付いてきてしまう。


 そのため、大抵の魔物狩りは矢で目や口を狙う。特に目は突き抜ければ脳まで達するので一撃死することが多い。近接攻撃が出来るなら、首筋の大動脈を切り裂くのも有りだ。まあ、とにかく「綺麗に」殺すことが重要となるのだ。


 それはもう、当然のことなのでストレスとは言いにくいだろうけど、自分の全開フルスロットルでは全然無い。なんとなくでも徐々に溜まっていくのは仕方ないのだろう。


 それを発散できるのが、ここ、迷宮。そりゃ……うん、冒険者の多くが危険を顧みずに迷宮最高! となるのは理解出来た気がした。



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