0079:地下迷宮第一層その②
羽があるだけあって2体が飛び上がった。パーティは後ろにジワジワと下がっていく。広間の先の方に間違って踏み込んでしまって、別の巨像が動き出したら厄介だからだ。それも俺のゲーム知識からイリス様に伝えた。
迷宮の魔物は全て、やつらの感知範囲に入ると襲いかかってくる。なので、むやみに奥へ駆け出したりすると、次々に敵に気づかれ襲われる事になるそうだ。だが、場所で……というのはあまり聞いたことが無いと言いつつも、同じ様なモノなのですんなり受け入れてくれた。
空中からカラスマンが襲いかかった。いつの間にか槍のような武器を手にしている。何だ? 自分の身体の一部を鋭角化して伸ばした? 感じだろうか? その瞬間は見逃してしまったが、イリス様の感覚が捉えていた様だ。空中から素早く襲いかかる。……これはウザい。
モリヤ隊のリアリスは回復役としてパーティに加わったが、下地がノルド族の狩人のため当然、弓での攻撃に長けている。次々と矢を打ち込んでいく。ほとんどが甲殻の様な腕周り、堅い部分に当たって弾かれてしまったが、敵のヘイト(敵対心)は彼女に向かう。当然、途中でイリス様の威圧が発動されて、敵の攻撃が前衛に向けられた。
実はいつからか、パーティ後方で詠唱が続いていた。まあ、遠距離から攻めてくる敵にファランさんが攻撃しないハズが無い。注意を逸らされているカラスマンに向かって術が発動する!
「崩壊の雷瞬」
ファランさんの声と同時に、カラスマンの頭から足へ紫の光が突き抜ける。一瞬の事に何が起きたか判りにくかったが、焦げて動かなくなったカラスマンが重い音と共に地に堕ちた。焦げたという事は生物だったのか? 硬質に感じたのは甲殻類なんだろうか?
横たわった遺骸はしばらくして消え失せる。残されたのは魔石。そして……何か素材の様なモノ。黒い棒状の……いや、インゴット系か。
「これは知らないな……」
ファランさんが知らないっていうのは……どういうことなんだろうか?
「そもそも、イリス、あのモンスター……見たことあるか?」
「いや、初見だ」
「あたしもだ」
「あ、あたしもです」
イリス様、ファランさんを始め、ロザリア、ミリアの2人は様々な迷宮に潜り、かなり深い階層まで降りている実績がある。にも関わらず。
「ひょっとすると……この迷宮は「真の新しき迷宮」……なのか?」
ファランさんが呟くように言う。
迷宮に配置されている敵は、地上で徘徊している敵と基本一緒だそうだ。ただ、一部、その迷宮にしか存在しない敵が出現することもあるという。迷宮独特の、そこで初めて発見された魔物ってヤツだ。そんな中、過去、新種の魔物ばかりが存在する迷宮について記述されている。それを真の新しき迷宮というらしい。世界のどこかに同じ様な魔物がいる……かもしれないが、既に滅んでいる可能性もある。とにかく、その迷宮にしか登場しない魔物には存外な価値がある。
少なくともさっきのカラスマンは、地上ではまだ見つかっていない新種らしい。そんな魔物が最初から登場するというだけで、この迷宮の価値は非常に高くなるというわけだ。まあ、この迷宮でしか手に入らない素材があれば……ねぇ。先ほどの黒いインゴット。イリス様から伝わってくる感覚からいって、アレは多分、世に出ていない新素材なのだろう。
広間を進むとさらにカラスマンが二体。倒して進むとさらに二体……とキリが無いように思えたが、二十体くらい討伐した頃、さすがに奥の壁が見えてきた。さらに大きいカラスマン……の巨像が正面に二体。大体……五メートルはあるだろうか? これまでのヤツラより一回り以上大きい。丁度その手前は両側の像が配置されていないので、広間のようになっている。
案の定、広間部分に足を踏み込んだ瞬間に、正面の二体が動き始めた。ロザリアがイリス様に、自分はこっちをと、目で合図を送ってきた。前衛二人で、二体ずつ引付けるようだ。
大きいが、容姿はカラスマンと全く同じ中ボスは、これまでの様に飛んで襲いかかってこなかった。羽を使って若干浮いた感じで、スーッと高速移動を開始する。アレだ、○ム的なホバーな動きってヤツだ。凄まじい速さで2体が入れ替わり始め、接近戦を仕掛けてくる。ロザリアは受けるだけで精一杯の様だ。
まあ、うん。だが。イリス様には大したことがない。余裕で様子見となっている。しかも、ここまで空中戦のため、ほとんど攻撃を控えていたのだが、こいつらは地上で仕掛けてきている。迎え撃つのは当然のことだ。
ビッグカラスマンAの槍のような長物が振上げられる。当然の様に、すれ違い際に凄まじい風圧と共に、振り下ろされた。
イリス様は敢えてその槍に合わせて、剣で迎え撃った。
チッ……
なんともいえない、金属と石が擦れ合わされた様な音が響き、その音と共に長物が半分になった。かなりの重さなのか、地響きと共に、三分の二程度が地に落ちる。
その音と同時、イリス様がビッグカラスマンAの懐に踏み込んでいた。丁度、長物を持っていた側。それでガードするべき場所に近づき、両手の剣を振るう。いつの間にかファランさんの付与魔術で魔力を帯びていた剣刃が、赤い光跡を残して凄まじいスピードで振るわれる。
それはもう、剣舞のように美しい……ああ、アレだ、サイリウムを使用したオタ芸をさらに昇華させたモノとでもいうのか。違いは足下だ。オタ芸は足を動かさないで上半身を振る。イリス様は自然に移動しながら敵を斬る。野球とテニスの違いというか。
黒い肢体は倒れる事も出来ず、あっという間に細かく切り分けられ……石畳に崩れ落ちた。ロザリアが目を見張る。と、その隙を付いて、もう一体のビッグカラスマンBが彼女に仕掛けた。
「余所見はいかんな」
イリス様の剣が、突っ込んできた物理的な衝撃をそのまま切り裂いた。一体始末した直後に即、ロザリアが対面していたBに向かっていたのだ。
ビッグカラスマンBはカウンター気味に、上下に斬り分けられた。滑るように上部分がズレて、石畳みに落ちる。さっきの長物よりも痛い重厚な音が響いた。
「すまん、領主閣下」
「イリスでいい」
「いやいや、ではイリス様……あんた……それにしても噂通りか。凄まじいな……」
ミリアも無言で頷いている。
「今のデカいのは、一匹で体感的に階層ボス、しかもかなり下の方の階層のボスに匹敵する……と思う。大抵は一人が一匹を引付けている間に、もう一匹を残りの全員でなるべく早く倒す。それが出来るかどうかで勝負が決まる……そんなケースだ」
「ああ、そうだな」
「そうだなって……まあ、いい。貴方に仕えて、味方で良かった。頼りにしている」
ロザリアが頭を下げた。
「あたしとの勝負じゃ、その力の十分の一も見せていなかったということか」
「そういうわけでもないのだがな」
ミリアはまだ、信じられないモノを見た……という顔をしている。彼女もさっきの敵の強さからの逆算で、イリス様のスゴサを再実感したようだ。
ビッグカラスマンのドロップアイテムは、大きめの魔石、さっきから出現している黒いインゴット(の様なモノ)、そして大量の黒羽だった。羽毛布団を作れとでも言うのか? 再出現までどれくらいの時間が掛かるのか判らないが、かなり大量だ。とはいえ、布団にすればそんな数は作れないだろう。
まあ、まだ迷宮の最初の階層、しかも一本道で迷うこともない位置なので、モリヤ隊のみんなにアイテムの回収班を編成させて何度も倒させればいいのか。
迷宮攻略パーティは広間の奥の通路を進み、下への階段を発見した。当然の様に、次の階層へ向かうことになる。
追記:カラスマンという名付けはあり得ないということで、猛反対を受け、最終的に
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