0077:準備

 さて。現時点でのうちの領での最高戦力。えーと。ひとパーティは基本、五人だそうだ。つまり、迷宮向きな最強の五人を揃えたい。


1:イリス様:戦士:パーティのリーダー。というか、ボス。というか、言いだしっぺだし、入れなかったら、ふてくされるので、絶対である。領主なんだから前線に出るなという主に俺の意見をこれまた完全に無視。トホホ。まあ、うちの最高戦力でもあるなので致し方ない。他の人が行ったら怪我するようなところでも、イリス様なら大丈夫だしな。威圧を使うことで、敵を足止めしたり、引付けたりもできるので盾役としても優秀。盾持ってないけど。まあ、あれだ、避け盾ってヤツだ。当たらなければどうということはない。マジで避けるからスゴイ。


2:ファランさん:魔術士:術方面でも最強戦力の一人。攻撃系の術だけでなく癒やしの術も使えるのは(本人曰く本職には全く敵わない)相当珍しく、ことごとく優秀。なんていうか、迷宮と聞いた瞬間に落着きの無くなった人、その2。「冒険者として未発見未踏破の迷宮と聞いて心躍らない者などいない」だそうで。はい。とりあえず、オーベさんがいるので魔術士戦力的なお留守番はどうにかなるので良かったが。本当は行っちゃダメな人、その2。


3:ロザリア:戦士:迷宮、しかも新発見の……とくると、冒険者はどうにも止まらないらしい。土下座に次ぐ土下座でイリス様が折れた。まあ、ぶっちゃけそれだけの強さはある。これで戦略的な思考もできるんだから、苦労したんだなと尊敬するが。彼女は戦場だけでなく、訪れた各地の迷宮へも挑戦していたらしい。潜った迷宮の数だけでいえば、ウチの領で一番だったようだ。踏み込んで、ヤバイと、早々に退却したパターンも多かったみたいだけど。


4:ミリア:斥候:敵を感じ、警戒するだけならイリス様でも十分なのだが、扉や宝箱の鍵開け、罠の解除などの経験があり、さらに迷宮経験者で上位は彼女だった。そして彼女も迷宮に浮かれ、さらに憧れのイリス様とパーティということで浮かれている。斥候は常に冷静にいってもらわなきゃなんだけどなー。


 と。4人目まではあっさり決まった。というか、元高位冒険者の方々の迷宮に対する執着は異常といってもいいだろう。なんだそれってくらい。土下座とか簡単にする。さらに、明日は遠足! の小学校二年生くらい迷宮の話で盛りあがる。本気で大好物、止まらないらしい。


 問題は……5人目のメンバーだった。イリス様が行く=ミスハルが立候補している。当然だ。親衛隊ですからと行く気満々だった……が。さすがにこの編成でファランさんが心配になったようだ。


「癒やしの術を使える者を……戦闘時に私が使える時間があればいいのだが」


 と。無理でしょう。当然だ。


 冷静に考えなくても、ここにミスハルが加わっても能力が被りまくりなのだ。ロザリアとミリアの上位互換というか力は申し分なくても、迷宮での経験が無い分だけ、分が悪い。何よりもミスハルは癒やしの魔術が使用出来ない。こればっかりは個人差があるらしく仕方ないようだ。ファランさんが使えても、攻撃術と同時には使えないのだから。


 実際、個人的にミスハルには水路の調査をお願いしたいところだし。まあ、最終決断はイリス様判断に任せることになった。こういう時、絶対王権ってステキ。特にミスハルが文句を言わないし。


 まあ、最終的には。


 実利の面でモリヤ隊で一番、癒やしの術に秀でている、リアリスがパーティに加わることになった。モリヤ隊の中で一番というと、片手間の様だが、実は回復の専門職、僧侶とか司祭なんて呼ばれている人たちよりも能力が高いらしい。


 えーと。戦士が2名と斥候が1名。魔術士と癒やしの術が使えるサブの斥候。なかなかバランスの良い組み合わせになったんじゃないだろうか? 


 迷宮探索へ向かうための買い物もなんていうか……うん。わくわくで行われた。


 ぶっちゃけ、オベニスの街に迷宮探索専門店は存在しない。というか、まあ、通常の武器防具屋、道具屋などの商品に、迷宮探索に必要なモノが並ぶ……というだけらしいのだが、ここに迷宮があることは未だ極秘扱いなので仕方が無い。

 ということで、一般的に売られているモノを中心に、店が昔間違って仕入れてしまったなんていうのを買い集めての旅立ちとなった。


 便利な便利な無限倉庫とか、アイテムボックス……なんて四次元ポケット的な存在は見たことも聞いたこともないそうなので、自分たちが背負えるモノだけの厳選された状態になる。


 まずは食糧。肉はドロップアイテムで手に入ること前提。魔物肉で焼き肉らしい。で、それが主食だそうだ。それに堅めのビスケットっぽいもの。水の供給はファランさんができるため、水用の革袋があれば問題無いらしい。食べ物はこれで終了。

 え? 調味料とか野菜、フルーツとかは? と聞いたら、塩は当然持ってて、野菜やフルーツは基本現地調達できた場合のみ食べるということだ。

 ひとパーティの迷宮滞在は長くても5日間。それ以上にかかるようであれば、もうひとつパーティを作って合同でとか、荷物持ちをある程度連れて行くとかが必要になるらしい。


 まあ、現状どれくらいの規模の迷宮なのかも判っていないのだから、確かに、最低限の突入で良いのか。最初は特に。

 ちなみに、最大級の迷宮は最初の階層を走破するのに3日。次の階層は5日……とドンドン広くなっていくらしい。現在探索されているのは8階層目までだそうだ。

 最小の迷宮は最初の階層が1時間、次もそれくらいで、最終が10階層。広間にゴブリン亜種がいてボスのようでボスじゃない感がスゴイらしい。


 この辺の迷宮豆知識、及び、迷宮小咄は、イリス様やロザリアなどの冒険者たちの嗜みというか、日常会話の様だ。ちゅーか、冒険者はみんな、未知の迷宮の話をするとウキウキでのってくる……というのが正解かもしれない。



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