0076:迷宮

 そもそも。最初から説明すれば。地下水路の奥にあったさらに地下への通路……は。調査の結果、案の定、地下迷宮への階段だった。うーん。俺からするといやいや、なんで今さら見つかったのかって話なんですけど。


 正直、なぜこの国、王が、もしかしたら黒ジジイかもしれないけど、オベニスの支配に拘ったのか。その答えは地下水路と魔導筏なのかな~と思っていたのだが、実はこちらという可能性もあるわけで。


 この世界での迷宮は……脅威ではあるものの、付き合い方次第で様々な恩恵を生み出すらしい。地上での狩りと違って、もの凄い密度で魔物が発生生息しているため、連戦を強いられる。そのため、冒険者の力の底上げにも適しているって認識だそう。


 さらに迷宮で発生した魔物は迷宮から出ることがなく、死んだ場合、魔石や素材を残して消滅する。これは効率良く魔石を入手できる手段として知られている。オベニス領では地上での狩りでかなりの魔石を入手できている(解体は面倒で必要だ)が、他の領では適度な強さの魔物などほぼ存在しないため、迷宮産の魔石頼りになっている。つまり迷宮の発見でオベニスは魔石産地としてさらに価値が上がることになる。


 当然、入手できる魔物の素材も大きい。外で狩ればいいじゃないかと思うだろうが、迷宮にいる魔物しか落とさない素材というものが存在するのだ。


 例えば。通常の森などでゴブリン(に似た魔物で、違う名前があるのだが……面倒だから今は仮に)を倒すとする。解体して入手可能なアイテムは、ゴブリンの牙、魔石だ。当然、ゴブリンの骨やゴブリンの皮なども入手できるが、素材として価値が無いため死骸は燃やして終了となる。


 それが、迷宮産のゴブリンは倒す→解体せずに放置して置くだけで、牙と魔石はほぼ確定。さらにゴブリンの鍵、ゴブリンの脂を落とすことがあるという。

 ゴブリンの鍵は盗賊の鍵という鍵解除アイテムの素材として必要となるし、ゴブリンの脂は革製品の手入れ用として重宝されている。この二つは迷宮外でゴブリンを討伐しても手に入らない。他の魔物も同じような迷宮産アイテムが多数存在するのだ。迷宮自体の価値が高いのも言わずもがなって感じか。


 強い魔物のレア迷宮素材は王都の競売などでアホほど高額で取引されているという。迷宮で高レベル魔物と戦闘できるのは、限られた冒険者パーティであり、大量に市場に流れようが無いためだ。


 冒険者にとって剥ぎ取り、解体しなくて問題無いというのも非常に大きい。手間的なモノもそうなのだが、それこそ、イリス様が本気で大暴れした場合、入手できる素材は尽くボロボロになってしまう。


 さらに、迷宮探索を重ねた冒険者は外で戦ってた者よりも早く強くなる場合が多いという。まあ、多分、取得経験値にボーナスが付いているとかそんな感じだろう。


 全ては、迷宮という土地の魔力が異常に高いからなのだ。鶏が先か卵が先かっていう話になってしまうのだが、魔力が高い土地が迷宮になるのか、迷宮が出来たから魔力が高くなったのか? は良く判っていないという。まあ、結果として迷宮の中は魔力が高く、そこで産まれた魔物は通常よりも手強くなる。その分、迷宮素材と取得経験値ボーナスと思えば、不思議ではないだろう。ちなみに、若干だが、迷宮では冒険者側の使う魔術の効果もアップするらしい。


 大抵の国に数カ所。このメールミア王国には他に二カ所、迷宮が確認されている。両方とも数十年から数百年間に発見された迷宮で、それを中心にして街が建設されたと言っていいようだ。入り口には冒険者ギルドの出張所が配置され、入出場を管理される。

 つまり……もしも、本当にオベニスの地下にあるのが迷宮確定であるのなら。様々な付加価値が想定される。うん、ディズ○ーランド誘致……いや、見つけちゃった! みたいなもんなんだろうな。出来てしまえば、経済効果は年に数億とか。


 ということで、うちの主力部隊はとにかく迷宮探索を行うことに決定した。まあ、確かに浮かれるというか、ワクワクしちゃう気持ちはわかる。が。それよりも通商的な……その、現実的にお金に結びつきやすい上に、黒ジジイが何をしてきてもどうにかできそうな水路を……と言ったのだが、華麗にスルーされているのは言うまでも無い。

 



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