0073:奇貨三枚目、四枚目

◆ロザリア 31歳◆

 数少ないランク8の女性冒険者。通り名は「破壊斧」。使用武器は巨大な両手斧。豪放磊落。単純にして粗雑だが、戦闘能力はかなりのもので、一撃の威力は同ランクでは飛び抜けている。実は数年前からランク8になってもおかしく無い実績や信頼は得ていたのだが、「女」ということで長期間、難癖を付けられて許可されなかった。イリス様の活躍によるものなのか分からないが、一年前にやっとランク8昇格が認められた。


 上の短い身辺覚え書の後に続いたのは、戦歴……だ。


 よくここまで参加したと言いたくなるくらい戦闘、会戦、領同士の小競り合いにまで参加している。まあ、それだけ腕を買われて雇われていた……のだろうが、女ということで男よりも数割安い報酬で、良いように使われていた部分もあるらしい。


 さらに、本人自身が戦闘を好む……とある。まあ、戦闘中毒症候群患者で、世界各地の戦争、闘争、紛争、大氾濫もスケジュールが合えば、各地に駆けつけているっぽい。


 とにかく戦闘の経験豊富で、部隊長、隊長、大隊長としての指揮も可能。突撃部隊を率いらせたら、その圧倒的な迫力の前に、敵将が腰を抜かした……などという逸話が残されているようだ。


 ああ、知ってる。このタイプはもの凄く良く知っている。なんていうか、うちのイリス様にもう少し、狂気を投入してガサツにすれば……こうなるのかもしれない。


「あんたがイリス……様か。うん、良い顔だ。話は簡単だ。三つ首竜を屠ったってのは嘘じゃ無いみたいだね。あたしはあんたとやりあいてぇ。で。あんたが勝てばあたしはあんたのもんだ。どうだい?」

 

 ロザリアの種族はエブラ族。身長は2メートル半を優に超えているし、横幅も広い。この世界で見た人の中で一番大きいんじゃないだろうか? 基本的な身体の型はヒーム族の女性と変わらない……カナ? 顔が若干四角く、腕や足に鱗というか、甲殻が生えている。竜人とか魚人とか、そんな感じかな?


「それだけ……か?」


 イリス様を前にして臆する所が無い。ある程度の実力者は威圧を発動していない状態でも、イリス様の異常さに気がつき、様子を伺うみたいだが……(ミスハル談)。まあ、ロザリアは気付いた上でこの態度ということなのだろう。


「ん? ああ、まあ、そうか。そうだな。判るわな。あたしはここまでとことん武に拘って生きて来た。元々向いてたんだろうね。10歳で逃亡兵に襲われてそれを何十人か殺したところから、この手に血を絡ませながら生き抜いてきた。そこに男も女も無かった。無かったはずなんだ。だが。だがね。女のあたしじゃ、それ以上が無かった。女というだけで報酬を減らされるだけじゃない。男であれば普通に考えられる幾つかの道がさっぱり無かった。こりゃぁどういうこったい。あたしの目が悪くて見えないだけかね? それとも頭が悪くて知らないだけかい? 男であれば騎士となり、将となり、さらに生き様すら名誉や地位に変えられる。でも。でもだ。女には何一つ道が無い。そう気付いちまったのさ」

 

 あ。やっぱり溜まってた……。


「判った。では、まずは私の下で働かせてやろう」


「おお、言ったね? 見せてもらおうか! 荒れ狂う鬼の力を」


 あ。さらに言っちゃいけないことを言った。


 一時間後。オベニス領の騎士団に指揮能力のある強力で「従順」な女斧使いが加わった。二週間ほど訓練には参加出来ないだろうけど。




◆ミリアネオス・クードレッド 24歳◆


 ヒーム族。ランク7の冒険者。斥候偵察役に特化されている。盗賊出身で、更生に協力してくれていた冒険者とパーティを組んでいたが、三つ首竜の大氾濫で仲間が全員死亡。本人も重傷を負うが、ギリギリで踏みとどまった。


 ミリアは仲間の仇を討ち取ってくれたイリス様の元で働きたいと、身体が癒え、身体能力が戻ったということで駆けつけたようだ。そもそも、パーティメンバーが自分以外死亡している。


「もう一回……仲間を作って、仲良くなって、喧嘩して、レベル上げて……ってするのはちょっと辛くて」


 彼女の述べた理由は……もの凄く理に適っていた。というか、ゲームだとさっぱり気付かなかったけど……リアルでの冒険者のパーティでは、こういう理由で冒険者という仕事を諦める場合も多いのだろうなと思った。


 パーティメンバーは仲間。友人、恋人、家族。人との関係性はイロイロあるが、この世界では恋人や夫婦の肉体関係がない関係上、仲間という意識は至上関係性かもしれない。一生を共にする大切な仲間が、魔物によって一瞬で消失する。その喪失感は……老衰や事故でしか死に別れのない俺のような現代日本人には理解出来ないと思う。

 まあ、間違いなく、彼女は確定的なPTSDを背負っている。大決定ってヤツだ。多分。そんな状況で……大丈夫なんだろうか?


「戦う……ことがツライのではないのですか?」


「ええ、再び……別の三つ首竜でも出てくれば、動けなくなってしまうかもしれません。ですが……いつまでも悲しんで泣いてばかりいても、誰も褒めてくれませんから」


 ええ話や……。ちなみに、ミリアは濃い茶色の髪。みんなと同じで長い髪を後ろで結んでいる。というか、この世界の女性はほとんどみんな、それこそモリヤ隊の女子も全員、この娘の様なひっつめ髪だ。髪の毛が落ちてこなくて鬱陶しくなくて良いとのこと。おしゃれ……的なアレはないんだね。うん。ショートカットでも良いと思うんだけどな。


 顔付きはちょっと薄倖な……アイドル系のお目々ぱっちりでは無いが、クラスで5番目くらいに人気のあるタイプだ。まあ、当然の様にパーティの1人と結婚していたので、彼女も未亡人だ。


 戦闘能力はまあ、他にアレな人が結構いるのでいいんだけど、彼女の持つ特殊能力の一つがかなりレアだった。


 スキル、多分「変装」。身体の大きさは変化できないが、顔と声はトンデモナイ幅で変化させられる。これまであまり使用する場面が無かったため、自分でも良く判っていない様だが、イリス様に仕えてくれるというのなら……とんでもなく重宝するのは確定的だ。


 冒険者時代に、彼女のスキルをたまたま知った某盗賊団から何度も勧誘を受けていたようだ。


 実際に目の前で見せてもらったが……なんていうか、本当にCG書き換えを目の前でやられているような感覚。パッと見では完全に見破れない。それはもう、マッサージはするかどうかとか、人手不足がどうとか関係なく、とにかくモリヤ隊に加入してもらいたいとイリス様に懇願した。本気で。


 さて、このスキルというか、魔術も同じ扱いなんだけど。


 スキルも魔術も、使えるようになると、まず、なんとなくそれが出来ることが判る。火の魔術が使えそうな気がする→使ってみる→自分は火の魔術という能力があると公言する……という流れだ。スキルも、ダブルスラッシュという剣のスキルが使えそうな気がする→使えた! 俺は剣のスキルを所持していると公言する。同じだ。

 まあ、ここで、面倒なのは、使用方法や結果がなんとなく曖昧なスキルだ。それこそ、ミリアの「変装」は、なんとなく顔や声を変えることが出来そうだ→やったらできた!→でもこのスキル、何て名前だろう? 良く判らないな……なんか判らないしあまり使わないでおこう→価値が良く判らずにあまり使わない……という感じだったらしい。


 つまり、スキルや魔術はある程度有名なモノ以外はその人の中で埋もれたままなモノも多いのだ。


 その辺が判れば……まあでも、良いのか悪いのかは判らないか。純粋に、能力値やスキルなどがハッキリ判る感じだったら、確実にそれで様々な差別が発生するだろうし。曖昧の方が良い……ということにしておこう。

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