0072:奇貨二枚目その2
「シエンティア、君は何を求む?」
「私は……自分の商店が欲しいのです。自分で考え、自分で責任を取り、自分でお金を回す。他では女である以上、店主にはなれません。ですが、ここなら。恩も売れそうでしたし。と、思ったのですが。でも、敵がそこまで強大であれば……」
まあ、ですよねー。
「逃げますか」
すごい目で睨まれた。
「では、もし、敵がどんなに強大でも、どうにも出来ない抜け道があるとしたら?」
シエンティアの顔が輝いた。
「ど、どのような……でしょう?」
と、その前に、既にもう、飽き飽き状態のイリス様をこっちに向いてもらわなければ。笑。ああ、もう、完全に飽きてる。本気で鼻くそほじり出しそうだ……。
「イリス様、彼女、どう思われますか?」
「良いと思う。嘘はついてない」
「はい」
「それに、モリヤが私に良く判らない話をしたという事は、判りやすくして話してくれることができる人材ということなのだろう?」
さすが。イリス様の直感力は凄まじい。まあ、人の資質を読み取って、裏切らないという予感はほぼ当たってきたらしいからな。俺を含めて。
イリス様と俺、そしてシエンティアと向かったのは、地下水路。しかも「巨大」の方だ。既にここは各種工事を終えて、桟橋まで降りてこられるように整備してある。広めの階段、通路。魔道具による灯りをふんだんに配置した効果もあって、地下特有のジメジメさ、鬱陶しさもさほど感じられない。
ちなみにその作業を行ったのは、オベニス騎士団から選抜された……いや、騎士じゃ無いな……工兵集団だから、黒鍬隊だ。戦闘工兵いや、建設工兵だっけかな? 最低限の戦闘力は維持したまま、工兵としての能力を特化するように構成されている。各種人員の募集も騎士募集よりは人が集まりやすい上に、騎士は未だに男の職業としてのイメージが強すぎる。
あ。さらに蛇足だけど、どうせなら男女同権を推進しようと女性も採用したいと思って……と兵卒は無理でも黒鍬ならと思ったんだけど、力仕事に対する男子優先的な考え方はどうしても根強かった。なので、とりあえず輜重部隊、特に調理隊を中心に配属している。もう、どうせなら、輜重部隊は女性のみで構成してもいいくらいだ。というか、女性のみの部隊を編成した方が楽な気がしてきた。
新市街の開発に合わせて、そちら関係の親方衆とは懇意になったこともあり、騎士団よりも先に稼働し始めている。
「オベニスにこのような場所が……」
「水路のことは聞いたことがあったでしょう?」
「は、はい、市街では水道、下水道を完備していると。しかし……これほどの規模だったとは……」
「実はこの桟橋の先。幾つかの都市と繋がっています。川の流れに合わせて下れば、王都。そしてセルミア。さらに先もあるようですが、まだ調査できていません。そして上流……ですが。マーカス辺境伯領のクビア。さらに……アルメニア征服国のどこかへ繋がっているとのことです」
「! アルメニア!」
シエンティアのビックリ顔がスゴイコトになっている。
「あ、いえ、あの、この水路を……遡る……の、ですか?」
水路の流れはそれほど強く無いがそこそこある。流されることは自然というか、わかりやすいだろうが、遡るという現実を想像するのは難しいのかもしれない。
「ええ、この輸送筏で行き来できるようです。既に何度か実験済みです」
輸送筏は元々、この船着き場にあったモノを改修補強している。素材の正体は魔力で強化された木材……だったようだが、数百年、下手すれば数千年腐らない木材ってなんなんだよ? っていう気がしないでも無いが、実際、水に浮くし、問題無く使えるとのことなので、ありなんだろう。
目玉は。古の魔道具による推進機能が付いている。上流への移動は、それで行う。まあ、向こうの世界で川を遡上するのに、風を使うとか、曳船とか存在したようだが、こちらの世界では……魔術が存在する。それを魔道具で補完したのだと思う。
もうね、魔術万能説。確かに、規模の大きい攻撃魔術とかは選ばれた者でなければ厳しいのかもしれないが、生活に密着した生活魔術や、火を熾す、水を生み出す、土を硬くする、風を起こすなんていう、その場にあるモノを増幅するタイプの魔術はかなり簡易に使用可能だし、魔道具は魔石を使用すれば起動時に微量の魔力を消費するだけで、稼働できてしまう。
魔石は税として徴収した分が潤沢にある。
ということで、推進用の魔道具を適時使用すれば、何の問題も無く、水路を逆走できてしまう。
実際太古の昔、そういう使われ方をしてきたようだ。上下共に、激しい坂になっているような場所はないという。つまり……この水路は天然の地下水脈を広げて、水路にしたものではなく、いちから人の手によって作られたということだ。
「まあ、遺跡ですからね。この水がどこから来ているのかも、かなり先に源流があるとは思うんですが、そこはまだ調査出来てません。で、その途中にここと同じ様な外に繋がる施設が幾つかあるみたいで」
「つまり……北や南と交易も可能ということですね」
「そうだね。将来的に可能だろう、早急に対応しないとまずいことになる案件だね」
「確かに……イロイロと……できそうですね」
シエンティアが子供ではありえない嫌な笑みを浮かべて言った。
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