0074:奇貨五枚目
「あれ? これで終わりですか?」
「いや……もう1人……いるのだが。街はあまり好まないと行って、しばらく出てくると言ったまま……戻ってこないな。実は優秀すぎるというか……天才というか、面倒くさいというか、私も過去に術を教わったことがある……偉大な師でもあるのだ」
◆オーベシェ・ミード 88歳?◆
月夜の森の出身のノルド族。「召喚妃」。ノルドとしても優秀だったが、さらに通常の魔術にも興味を持ち、様々な術を習得。特に召喚術に秀でている。若い頃は傭兵として最前線で戦うコトで様々な攻撃魔術の研究を行っていたため、「残酷な月の魔女」とも言われている。召喚術の腕は当代一とも言われ、各国の教育機関で客員教授として教鞭も執っている。王族直接の勧誘などもあったにも関わらず定住はしていない。放浪癖があるのか、一所に定住するのが嫌いで数年に一度、居住所を変更する生活をしている。
今回、自分の召喚獣である水彩竜「最果てのオーベック」の強力な導きにより、この地でイリス様に仕えようと、はせ参じたという。
今では丸くなった……と思われているが、実は本質は若い頃と全く変わっておらず、その最大の目的は……自分の攻撃呪文を、十全に敵にぶちかますこと。ある意味狂気のマッドサイエンティスト。
※ノルド隊現地調査特記:彼女は有名人です。近隣諸国中、最も優れた魔術士、研究者なのは間違いありません。片付けという事が一切出来ないようです。誰かが側にいると仕事が出来ない、集中できないタイプで小間使いなども雇えない様子。住んでる場所が汚部屋になるため、それを放棄して引っ越しをしているだけという噂も。その際、教員などが募集されていれば、条件に関わらず飛びついたため、いきなり北へ行ったり、南へ行ったりと移動が激しく、連絡が付きにくいとも思われているようです。
※さらに特記事項:最大のタブーでもあるのですが……彼女がその名を最初に記録されたのは、魔導国家リーインセンチネルの魔導院の魔術講師なのですが……179年前となっています。つまり、彼女はそれ以前から……この秘密を暴こうとした者は尽く姿を消したとのことなので、ご注意下さい。
「まあ、ファランさんのお師匠様ってことなら、雇わない理由が無いですよね。本人次第ですけど、直接戦力でもいいし、知識で補佐してもらっても良いし、研究職、教育職……もう、うちの領はその辺サッパリ足りてないわけですから」
「常に当てになってくれればいいのだがなぁ……」
「天才っていうのはそういうものですよ」
「しばらく戻らないだろう。戻ったらイリス様に報告し、モリヤにも声をかける」
「はい」
と、話していたら、次の日にはファランさんから連絡があった。オーベシェさんは昏き森のノルドとは違って、真っ白い髪、緑の瞳だった。顔付きが同じでも、雰囲気は全く違う。
「ほうほうほうほう……これは……なんというか。御領主様はまあ、うん、判りやすいな。非常に。前に王や将でよく見たことがあるよ、こういう覇気の持ち主は。それよりも……」
いきなり脇にいた俺の顔を覗き込んできた。近い近い。怖い怖い。いきなりの凝視は怖い。彼女もノルド族である以上、例えヒーム族であれば高齢、いや、ノルドとしてもだとしても、お婆ちゃんの年齢だとしても外見は異様に若い。皺とかは一切見えない。人形に覗き込まれるのはちょい怖い。
「君は……うーん。なんだ? なぜ、ここにいる? ああ、いや、この部屋という意味では無い。なぜ、この世界にいる? いても良いのか?」
「やはり、おかしいでしょうか?」
「ああ、非常におかしい。君だけなぜか……この世界の枠から外れている。こんな現象が……あっていいのか。いや、目の前にあるのだから、良いとか悪いとかではないのだな」
「さすが先生……先生だから教えますが。彼は界渡りです」
「なんと! ほ、本当かね!」
「ええ、確定できるくらいには実証されています」
「いいねいいね、ファランくんが言うので無ければそうそう簡単に信じられないところだ」
やばい、完全に実験動物を見る目だ。ここ数日で怖い眼をしてる女性に接近されることが多々あったが……この眼が一番ヤバイ。
「ああ、界渡り……すばらしい。生きていて良かった。素直にそう思えるな。素晴らしい。というか、彼はこの領の?」
「彼はショウイチ・モリヤ。私の家宰にしてこの領の総務長です。オーベシェ殿」
「ああ、ああ、いいよいいよ、閣下。オーベと呼び捨てで構わない」
「ではオーベさん」
「ああ。スゴイな。うん、スゴイ、我が領主、イリス閣下。私をこの領に仕えさせて欲しい。何ということだ。貴方という煌めきだけでなく、界渡りの……モリヤくんか。君の存在。なんと面白い。さらにこの地には何か……うーん。判らないが何かありそうな予感もするのだ。これは面白くなりそうだ」
こうして、相談役にして魔術士部隊長、さらに将来の領立学園の校長が決定した。汚部屋問題は……。
「とりあえず、オーベさんの住居はオベニス内に3つ用意しました」
「ん? 何故だ?」
「ひとところが居心地が悪くなったら、次の住居へ移動ください。オーベ様が違う住居に住んでいる間に、元の住居は清掃しておきます。研究が一段落するたびに引っ越していた、ということは一段落すれば部屋を掃除しても良いって事ですよね?」
「ああ! おお! そういうことか! す、すばらしい……というか、そうか……町や国単位で引っ越ししなくてもいいということか? さすがに私もここでは、部屋を掃除するベキかと思っていたのだが」
「いえいえ、オーベさんに掃除をさせるくらいなら、こちらで人を用意した方が有益な状況が生み出せると思われます。さらに部屋が汚れたくらいで他の領や他国へ行かれてしまっては、損失ですからね」
「さすがだな、界渡りは発想が違うのか」
いやいや……なぜこんな簡単な方法を試さない? 対処方法がいくつか思い付くってだけで、発想とかそういう問題じゃ無いと思うよ。天才はね、片付けできないタイプの人多いっていうしね。逆に散らかっていることで思いつくこともあるのかもしれないし。
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