0069:直行帰還

 超絶カッコイイ捨て台詞&後ろ姿を残して謁見の間を後にしたイリス様。うん。ステキでありますよ! やったのはタダの奇襲からの制圧だけどな! 威圧あって良かった! じゃなきゃ王以外全部殺すとこだったし。


 控えの館に戻ると同時に、我々は速攻ドロンすることにした。まあ、半分予定通りだ。


 王やその両腕には、ここまでやり込められてなお、まだ、こちらを害そうとしてくる気概は無い……と思うのだが、我々が彼らにしたことが王族身内以外に知れれば、彼らの意を汲んで大人しくしているヤツは少ないと思われたからだ。


 まあ、簡単に言えば。


「王もお二人もお歳を召されたようだ! 私であれば女如き、一瞬で潰してみせる!」


「冒険者等と身の程知らずの平民風情が。思い上がるな!」


 と、あっさり肉塊となった彼の様な事を言って、独断専行突撃してくる輩が襲いかかってくる可能性はある。念のためだ。


 今回の件の真相を吐露できるくらいの間柄で、そこまで頭の悪い奴はまあいないと思うけどね。さすがに庶民の英雄、イリス様を、超絶理不尽な手腕で陥れる謀略だ。全てを知る人間の数は極力少なくするに限る。


 そのために、第一王子には手を出さなかったのだ。まあ、威圧&第二王子の肉塊化に意識を失わんばかりだったしな。


 基本、こちらの捨て台詞通りの発表をせざるを得ないだろうし、本当の所は一切公表できないだろうから、大丈夫だろう……ということで、さっさと敵本拠地から退散することにしたのだ。


 城門、及び王都の門は何ごとも無く通り抜けた。まあ、言えないよね。そいつらを通すなとは。とはいえ、安心できるほどこの国のシステムや中枢を信用してはいないので、まずは物理的な距離をおくのが大事だろう。


 道中は非常に平穏だった。王領は元々盗賊、魔物も定期的に騎士団によって狩られている。王領マイラ地方を抜けて、オベニス領に入ると治安の良さはさらにパワーアップしている。


 ぶっちゃけ、治安に関しては王領なんかよりも、オベニス領の方が遥かに上だ。領主様直々に魔物討伐を行っているし、女性が安心して街を歩けるようにしたいということで、街中を定期的に各街守備隊が巡察を行っている。さらに、街の各所に交番制度を導入した。


 正義の味方でもある守備隊の交番勤務は街の人に人気で、かなりもてるらしい。男女共に。結婚相手として即売れ状態だそうだ。


 ほとんど寄り道せずにオベニスに帰還した。ファランさんが出迎えてくれる。いつものイリス様の執務室。


 ふう。帰ってきた感がスゴイ。なんだかんだいって、対人戦初体験、初陣ってヤツである。自分の命令、作戦で次々人が殺されて行くのはやっぱプレッシャーだった訳で。緊張していたんだろう……な。俺。うん。やっぱり。


「うまくいったのだな? 術が戻ってきたので、安心していたのだが」


 黒ジジイの肩から先を斬り落としたおかげで、本来ファランさんのモノであった術が戻ってきたらしい。よく見ると、ファランさんの足下に猫のような……そうでないような黒い小動物が佇んでいる。


「その子が……そうですか?」


「ああ。使い魔のエーディリアだ」


 うーん。可愛いけど……あの陰湿そうな黒ジジイが? 娘に呪いを掛けてまで奪ったほど、もの凄くは見えないというか。


「この子はエーテル界へ攻撃が可能なのだ」


「エーテル界?」


「人の世界とは違う、もうひとつの世界。精霊界とか霊界とも言われている。精神系の魔物や、魔術士は追い詰められた際に最終手段としてエーテル界へ逃げ込むことが可能なのだ。追いかけてトドメを刺す、ダメージを与えるにはあちらの世界に乗り込む必要がある」


 あまり強そうじゃ無いんだけど……。


「エーテル界ではあらゆる存在が戦闘能力を失う。が。この子はエーテル界に特化した能力があってな。ある意味エーテル界無敵無双、現在のイリスレベルといったところか」


 おお、それはスゴイ……けど、そうは見えん。


「くっ……イリスもモリヤも……この子のスゴさを理解しておらぬな? エーテル界での活動限界を超えている存在というモノが……」


「ああ、判った判った。なんか、前にも説明された気がする」


 さすがイリス様。俺が突っかかるところなど当然の様に引っかかってる。


「とりあえず……これでしばらくは大丈夫なハズです。潜在的な怨みは買ったと思いますが、彼らには何も出来ないでしょう。何よりもまずは失った第四騎士団を含めた騎士の補充が急務ですから」


「ああ、そうだろうな……王領で一個騎士団丸々失った……というのは大ダメージだ。だからといって即謀叛を起こそうとする者はいないだろうが、これをキッカケに王位の簒奪を画策するくらいはあるやもしれん」


「引き続き、我らと入れ換えでモリヤ隊から2人。王都に入れました」


「わかった。ああ、そういえば、冬の間に蒔いた噂の種が芽吹いたようだぞ?」


「おお! それはよかった」


 冬の間に蒔いた種。それはオベニス領では能力があれば男女関係なく正当な評価を得る、そして人材を大いに募集しているという噂だ。


 情報収集力、さらに戦力も不足しているが、内政に関しては本当にもう、とにかく酷い。前領主と共に、役人が全員いなくなったレベルだったのだから仕方ないんだけど。


 これで。ひと息つけると……いいなぁ。



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