0062:査問

 ファランさんに聞いていた、前情報に照らし合わせると……。


 白いジジイ騎士が、王国騎士団を統べる騎士総長。オベリック・モルド・アーウィック。「聖騎士」オベリックだ。短い茶髪。巨漢……だ。多分、イリス様より頭数個分高い。2メートル超えだ。胸板も鎧越しにも関わらず、分厚い。メールミア王国の個人最高武力だそうだ。現実問題として、マッサージ前のイリス様ならギリギリ勝てるかどうか……だったらしい。過去王都で行われた武術大会で、その圧倒的武勇を披露していたそうで、いまや殿堂入り立ち位置? っぽい。


 で、黒いジジイが王国筆頭魔術士にして第六騎士団=魔術騎士団を影で操る、オーバット・ニラク・ネス。「できぬことなし」様だそうだ。文字通り、多彩な魔術を扱うことができるらしい。特に攻撃魔術は知られているほぼ全ての術を使いこなせるという。長めの黒髪。若い頃は確実に美形であったであろう面影。ハゲとは無縁の美しいジジイっていうのは……なんか腹立たしい。同性的に。日本人の持つ老エルフのイメージ……だろうか? 


 この2人が王国の筆頭戦力。武と魔の両巨頭ということになるようだ。


 その2人を両脇に従えた王。さらに白ジジイの脇に2人。聖騎士に似たような白い鎧。そこに金で複雑な紋様が描かれている。紋章、王家の紋章も胸元に見て取れる。2人ともまだ若い。年上が茶髪。年下が金髪だ。まあ、順当に考えれば……茶髪が第一王子のミレス。金髪が件の第二王子、メルニアだろう。ここに第一王女のクリアーディがいれば、この国の重鎮と言えるような代表人物が勢揃いということだ。


 これまたファランさんの予想通り、クリアーディ王女はこの場にいなかった。


「彼女は実務……王国全体の経済発展を尽く担っており、一地方、領地の問題など、考えることも面倒くさいと思っているハズだ」


 ファランさんはクリアーディ王女の家庭教師をしていた時期があるのだという。


「さらに多分、彼女は今回の件、唯一無関係だと思う。外されているとも言うな。もし知っていたら反対して、もめただろう。……私とイリスは以前、彼女を助けたことがあるからな。それを非常に恩を感じてくれているし、実際、イリスの領主就任時には公的に祝福の書簡と共に莫大な贈り物をいただいた。これは後ろ盾……というほどではなくても、我が領には非常に有益に働いた。まあ、だからといって今回の件で有益な味方とは言い切れないのだが。実際、彼女が無関係であろう最大の理由は……生きている者の中で、何よりも、ミレス王子が嫌いらしい。生理的にダメだそうだ」


 そのため、今回の件にもしも関わっている、何か知っていたとしたら、何かしら連絡があってもおかしく無いという。うーん。なんていうか、陰謀とか深謀とか謀に関してはイリス様もファランさんもほぼ役に立たない。なので、王女が信頼できるかどうかの真相はわからないが、この場にいない時点で関わりが薄いのは確かだろう。


 ちなみに王都に入る直前に上がってきた情報、モリヤ隊の調べでは、彼女は現在何者かに故意に王都から引き離されている可能性もあるという。もしかしたら反対意見を述べた彼女=邪魔者を封じこめたのかもしれない。


「オベニス伯!」


 強い声。今度は白ではなく、黒だ。「できぬことなし」が大きな声を出した。低い声色。恫喝だね。うーん。脅しだよなーこんなん。イリス様が普通の女の子なら泣いちゃうよ?


(私は普通の女の子だ)


 ……いえいえいえ。無手にも関わらず、この国の精鋭三十名、さらに両翼の二名をなんとも思っていない人は……しかも女の子とは……。


(女の子!)


 ……はい。


「さあ、一体なんのことでありましょうや」


 イリス様が答えた。正確には答えさせた。


「其れがしには一切覚えがございません。そもそも、魔獣、三つ首竜を操る魔道具でありますか? そんなモノが? まあ、もしもあったとして。それで大氾濫を私の意志で発生させることができる? と? そんなことをしてなんの益がありましょうや?」


「貴様は爵位を得ているではないか! 領主の地位もだ! おかしいと思ったのだ。三つ首竜をたった一人で打ち倒すなど! しかも女如きが。自らが操る手下であれば、討伐できるのもおかしいことでは無い」


 キンキンと耳障りな高音。少年合唱団声とでもいうのだろうか? メルニア第二王子のバカっぽい大声が謁見の間に異様に響いた。猪武者でこの様な場に召喚されれば緊張で何もしゃべれなくなるだろうと思っていた相手が、賢しく流暢に答え始めたのが気に障ったのだろう。


「カラクリは既に明らかになった。おかしいと思ったのだ! 女のしかも冒険者など、どれだけランクが上がっても所詮、下賎。卑しく醜く、知恵も回らぬ! まさに浅知恵としか言いようが無いな! 女は子供を産んで家に居ればいいのだ」


 やつは22歳だったと思うんだけど……うーん。それにしても酷い。


 罠にはめるとか、陰謀とかいうのであれば、もうちょっとちゃんとお芝居をして欲しいモノだ。こんなお粗末な展開で進行する気……なんだろうな。


 というか、オベニス領の領主、しかもつい直前まで冒険者、平民でしかなかった存在など、何も言わずに捉えて、牢にぶち込んで、布告だけ行う……なんてこともできた……と思えば、まあ、芝居を見せてくれるだけでも、気を使ったということか。英雄だしな。


 もしかすると詰めている騎士の中にもイリス様シンパが居るのかもしれない。アピール大変ね。人気者を相手にしないといけなくて。


 まあ、しかし。品性というか、人間性が乏しい、下劣な言動を止めない時点でこの場にいるヤツは全員、同罪だな。生きてても意味がない。


「オベニス伯、どうかっ!」


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