0061:謁見
若干手前の控えの間で待たされたモノの、今は廊下を歩いている。イリス様でも少しは緊張している様だ。まあ、そうか。いくら我が主が英雄たる豪傑であっても厳しいか。しかも彼女は元々、この手の舌先三寸で切り抜けなければならないような戦いは苦手なのだ。
入場時に武器は預けてあるため、丸腰なのも不安の一因らしい。……素手でもトンデモナイ武力だと思うんですが。なので大丈夫ですよ、と送る。伝わっているハズ。
貴族門内部は非常に整頓されていた。絢爛豪華……というわけではないが、建物から見える風景、何から何までは完全に統一されている。隔離されているにも関わらず、日の光が差し込んでおり、石畳が美しい。地方、それこそ領都オベニスとは文化レベルが違って見える。
音も聞こえる。だが、静かだ。
正面が謁見の間? だろうか? 正面に観音開きのドアを担当する召使いが二人。
「イリス・アーウィック・オベニス伯爵様」
それほど大きな声では無い。国内の貴族が一同に会して……ではなく、あくまで小規模な呼び出しということなのだろう。すげぇ。名前を呼んだヤツはどこにいるんだろう? 見当たらない。
名前が呼ばれると共に両開きのドアがユックリと開けられた。アレだ、このまま中に入って正座していると、時代劇であれば、将軍様の御成~ってヤツだ。
それにしてもやっぱ、イリス様の功績がスゴすぎるにしても、いきなり伯爵はオカシイ。後で、すぐに剥奪して無かったことにする気満々。下手すれば重犯罪者ってことで公文書にも残さないつもりとか、だろうか。現時点でこの面会なんかも公式に記録されていないなんてのもありそうだ。陰謀なんてそんなもんだよなぁ。
正面に数名。この場合、視線は下向き、落としたまま前に進むのが礼儀だそうだ。数歩歩き、イリス様が跪く。
ミスハルはドアから先へは進めない。閉まるドアの前、脇に立つ。謁見が終わるまではこの姿勢のまま待つことになるそうだ。
「オベニス伯。貴様に問いたいことがある」
謁見の間にはファランさんの言った通り、数人の男がいるようだ。中央で王座に腰掛けているのが、当然、この国の王、ハリオス・レスリア・クレンバート3世……だったかな。名前はうろ覚えだ。
しかし初っぱなから詰問か。基本、謁見の際には挨拶、ご機嫌伺いのやりとりがあって、顔を上げさせてから、本題に入るらしい。それをしない……ということは普通ではない。最初から罪人決定の扱いなのだろう。
んー舐められてるなー。その辺のマナーというかルールというか儀礼を知らない、または平民上がりなのだから関係ないと思っているのが見え見えだ。
その上、こちらが、この状況が予想出来ている……とは、全く思ってないんだろうな。
さらに言えば、イリス様の感覚から、この謁見の間の両脇、後ろの隠し部屋? 3箇所から十名くらいづつの兵が待機しているのが伝わってくる。まあ、そりゃ仕方ないかー。
というか、イリス様の名声はこの王城にも当然、届いている。が。実際に彼女が戦う姿を直接見た者はあまりいないらしい。元々、イリス様はメールミアの西の国、モールマリア王国出身、しかも孤児だったらしく、当然この国には係累どころか知り合いすら存在しない。幾つかのクエストでファランさんと知り合い、パーティを組んで仕事をするようになった。ファランさんが実家の事情でオベニスの冒険者ギルド長にならざるを得ないということで、この国、そしてオベニスに辿着いたらしい。
つまり、この国での冒険者としての名声は全て、オベニス周辺での活動で成したモノになる。なんの為のランクなのかってことで本末転倒なのだが、それ以外の地方では話には聞いていても……信じない、信じようとしないヤツが多い……ということになるようだ。
特にランク9がちらついても女性という大前提の時点で蔑ろにされてしまう。権力者や実力者だけでなく、一般的にこの手の事で了見の狭い者も多く、未だにイリス様の授爵も何かの手違い、間違いだろうと口にする者も多いのだそうだ。
まあ、女冒険者如き。少々武力はあるだろうが、頭も回らない平民な上に、騎士三十名に囲まれれば為す術も無い。簡単に押さえ付けられると思われている……ということだ。うん、舐められてる~。
というような思いをイリス様に伝える。
(まあでも、騎士の数はどうしたってそんなものだろうし、実際、お前がいなければこの策で囚われていたのは確実だろう。奴らはオベニスを人質にするのだろう?)
……という様な心持ちが返されて来た……それもそうか。そうかもしれん。
(さすがに騎士団の精鋭三十名は……お前のマッサージ前であれば切り抜けられなかったと思うぞ。素手だしな)
まあ、そうか。とりあえず役に立てて良かった。
「オベニス伯、貴公が魔道具を使って三つ首竜を誘導し、意図的に大氾濫を引き起こした嫌疑がかかっている。真偽の程や如何に。顔を上げ返答を許す」
イリス様が顔を上げた。正面には玉座に王。判りやすく金と赤のローブ。王冠、王錫。靴も金糸の縫い込み? すげーギンギラだ。その両脇に2人。黒いジジイと白いジジイ。これは単純に羽織ったローブの色だ。今、犯罪者呼ばわりしたのは白いジジイ。白いローブというか、マントを羽織った白い鎧の騎士だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます