0051:水路?

 ノルド隊等に情報収集を頼んでいる間、とにかく領都周辺の開拓拡大に時間は費やされていった。


 正直あまり自信は無かったのだが、結果オーライでイイ感じの街が完成しつつある。それもこれも、イリス様が俺の案に何一つ文句を言わず、さらに予算も完全にお任せだったせいだ。


 普通なら無理なこともお金を出せばどうにでもなる。


 ぶっちゃけ、そこまで1人の人間に任せちゃって良いのか? という気もしないでもない。

 が、そんな巨大利権を目の当たりにしても、事実俺は日本人らしい生真面目さを最大限に発揮させて何一つ着服していないのだから、上手いこと働かされてるってことなのだろう。


 計算尽くであれば、イリス様はとんでもない大物なんだが。そういう訳でも……ないよなぁ。天然だろう。


 まあ、俺は元々自分が生きていければ、何ごともほどほどで良い派なのだ。偉くなりたいわけでも、お金持ちになりたいわけでもない。娯楽は漫画とゲームとアニメ。車も買ったことが無い。服は基本ユニクロだった。彼女と別れなければ、失職しなければ、薄毛にならなければ……別の幸せというか欲求が生まれていたかもしれない。結婚もあったろうし。


 まあ、ちっぽけな人間なのは自分でも判ってる。ならば何故仕事をするのか。敢えて言えば、昔から誰かに頼られていると思うと「がんばらないと」と思ってしまうのだ。ありがとう、と感謝されると、どんなにブラックな仕事でもやって良かったと思ってしまう。


 安い給料で上手いこと使われて、その結果、簡単にリストラされてもなお、イロイロな職種を経験し、イロイロな人と出会えたことは良かったと思っている。うん。社畜。ですよね。


 俺が新市街にかまっている間、イリス様は領軍の練兵、ファランさんは新しい術の開発に専念していた。


 適材適所というか、まー2人とも領地経営にさっぱり関心が無いのだ。さらにお金にも執着がない。上に立つ者として……どうなんだろうかと思わないでもないが、俺も街を広げ、運営しているが、別に支配したいとかさっぱり思わなかった。面倒くさい。


 王族を含む、この国の貴族たちにしてみれば何を言っているのか? といったところだろうが。中には使命感に溢れた素晴らしい高貴な貴族も存在するとは思っていたのだが、俺の耳に入ってくるのは、全て原始的搾取強要権力者でしかなかった。


 領主として定着してきた今でも、イリス様に積極的な野心はこれっぽっちも感じられない。

 だが、巻き込まれてしまったこと、巻き込んでしまった者への責任は全て背負うタイプなのは確かだろう。


 どう考えてもこの国の王族と事を構えなければならない現状、最終的に腹をくくる必要がある。できれば無傷で全てごっそり上手いことやりたいところだが、そうそう簡単にはいかないハズだ。


 そして……保留にしていた地下水路の件は少々色が変わってきていた。


 傷が癒えた冒険者に話しが聞けた。


 イリス様の言った通り、やはり、調査パーティの魔術士は風の魔術しか使用していなかったようだ。では爆炎、轟音、震動などはどうして発生したのか?

 とりあえず、ギルドの調査は中断してもらっている。もしかすると……良い方にも悪い方にも、何かあるのかもしれないからだ。


 魔物が発生する地下ということで俺自身が行けないのが非常にアレなのだが、とりあえず、オベニスに帰還したミアリアに初期調査をさせることになった。


 意識を接続した状態でミアリアに地下へ向かってもらう。彼女の視界が自分の視界にリンクされる。


 これ、視界ジャックと言うよりは、自分の視界が一画面。もう一枚、ミアリアの視界が二画面目として同時に表示される感じなのだ。なので、両方をどうにかして理解しようとすると、意志が萎える。欠ける。


 ちょっとずつ慣れてきたが、処理能力を司る脳の部分へ直接疲労が溜まる気がする。あまり遣いすぎは良くないというか、便利に使うのは厳しいなと。


 で。


 地下水路……は……これは多分、遺跡なのだろう。というか、明らかに人の手が入った通路だった。

 現代の下水道のイメージ……に比べるとかなり綺麗だと思う。浄化の術ってスゴイ効果があるんだなぁ。臭いもそれほどでもないようだ。

 

 しばらくすると、壁の崩れた所が見つかった。人が入れるだけ崩してある感じだ。


 崩れた壁の奥は、新たに発見された通路。


 すでに生きていないが、灯りの魔道具らしきモノが確認出来る。階段で下へ降りられるようだ。さらに奥へ進んで行くと、広大な空間が広がっていた。


 そこにあったのは……何か……と言われれば巨大な水路……だ。地下のさらに地下。下水道管のイメージだったのが吹き飛んだ。単純に川に蓋をした感じ……なのだろうか? いや、川にしては流れが緩やかな気がする。


 実際、船着き場……のような場所も発見し、さらに……帆の形が横長の筏のような船が、陸揚げされて保管されているのも発見した。


 これは……本気で水路、別の地域との交易や交流に使われていたのではないだろうか? 下流は多分、王都の方面……だと思う。方角的に。上流は……北……マーカス辺境伯領か。その上には山脈があり……えーと。アルメニア征服国だっけかな? どこまで繋がっているのか? いや、これはもう、調査をさせるしかないだろう。


 さらに。それとは別に、その船着き場奥から地下へ向かう通路も発見された。


 ちょっと降りてもらったが、非常に深い階段に加えて、さらに下には魔物が発生しそうということで、とりあえず、そこまでにして、しばらく放置と判断した。後回しだ。


 貴重な戦力であるノルド族女子が一人でも欠けるようなことがあってはならない状況なのだから。


 ちなみに、冒険者ギルドのマスターであるファランさんはこのことを一切知らなかった。というか、この国に伝わっていた資料などには、オベニスにこの様な巨大な地下水路、地下施設、地下迷宮? が存在するなどという情報は一切無かったそうだ。


 ということは、この辺りが国が隠蔽している、彼らに取って価値のある部分……ということなのだろうか? そういう古文書でも発見された……とかそういうことだろうか?


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