0045:検証開始

 さらに。忘れちゃいけないけれど、時間も限られている。この領は既に戦争状態に突入しているのだ。


 斥候とは? という基礎教育(そんなの俺だってよく知らないのに)と同時にスキル……マッサージの効果の確認も始めることにした。


 ここに居る10人に施せば、いい加減イロイロわかるだろうというファランさんの命令だ。決して愚痴攻撃をどうにかして逸らすための苦し紛れではない。


 さらにもしもこれが本当に俺のスキルなら。使えば使うほど強化されるらしい。スキルレベルを上げるみたいな感じか。ならやらない理由がない。


 最初の1人は。


 10人の中でも一番使える術の数が多かったミアリアさんだ。彼女は前述の【しょうしつ】を使用することができる。というか【きりさき】以外の全ての術を使えるのだ。正直、村の他の狩人として比べると、非常に弱く、使える回数も少ないらしいのだが。


 その上、弱めだが癒やしの魔術も使えるらしい。ミスハルほどではないが、身体能力も高いという。それでも狩人見習い以下っていうんだから……うーん。


 実家にいるのが気まずいため、ここにいるはみ出し者たちと協力して狩りをし、自分の食い扶持は用意していたらしい。まあ、家の位置? でグループがあり、些少の違いはあれど、ここにいる10名全員がそんな感じらしい。


 以前、マッサージをする際にはイリス様とファランさんの2人態勢、常に監視の居る状況で行う……と決めた。主に俺の理性の為に。


 が、今回はマッサージの効能の確認のために1人づつ、しかもイリス様もファランさんも忙しくて立ち会うことは出来ないという嘘付き状態での試行となった。


 ふう……鬼のような理性で、煩悩欲望、主に股間の熱さを冷ましながら行わなければならない。厳しいなぁ。


 まあ、ぶっちゃけ、あれら愚痴悪魔に手を出す勇気は無い。


 手を出して蔑ろにしたら、俺も愚痴られるのかと思っただけで、欲望ゲージがぐーんと下がるので大丈夫だと思うけどね。うん。


 ミアリアさんは金髪をポニーテールでまとめている。


 ノルドだけでなくこちらの世界では、髪型を複雑なカットとかにしないからか、長髪をまとめて紐で縛るのが普通みたいだ。


 顔立ちはちょいつり目でキリッとした感じ……女優だとアレだ、ジュリ○ロバーツの若い頃? 確証は無い。まあ「プリティ○ーマン」しか知らないし。アレよりも綺麗なんじゃないだろうか? 種族違うしな。


 正直、イリス様も大概美人だと思うがノルド族と比較すれば「可愛い」枠だ。ファランさんは「若手女教師」。ミアリアさんは「綺麗」。というか、ノルド族は全員「綺麗」枠と思って良いだろう。


 唯一、ミスハル(彼女だけ初対面時から相変わらずなんか、棘があるので呼び捨てである)が、年齢的に若いからか若干「可愛い」が混じる。


 スタイルは、まあ、これまたノルド族全員共通なのだが、細い。おっぱい星人には申し訳ないが胸は無い。というか、巨乳エルフなんて元祖から首絞められそうなジャンルということか。


 スラッとした手足。細いウエスト、腰。なんだろう。正直色気は……無い。うん、アレだ、パリコレとかでランウェイ歩いているモデルさん。露出の激しい服で歩いてても興奮しない系というか。


 とはいえ、これだけの美人と2人きり、一緒の部屋にいればドキドキはする。前世では半径10m以内に近づいたら逮捕されるレベルなのだから。


 ノルド族の女性の室内着は上が細目の貫頭衣、下にイリス様たちと同じズボンになる。どちらもそこそこ厚手の生地で、揉みにくい。まあ、今回は肩、腕、足先限定で行く積もりだからな。何とかなるか。


 さすがに今回は問題ないだろ。性感帯からは外れてるもんな。うん。


 マッサージは斥候、諜報の講習後、夜の食事をしてから。まずは10分程度とした。

 肩と腕、足のみ。腰を揉みほぐし始めると時間がかかるし、イロイロとアレな感じになってしまう可能性があるからだ。主に俺が。


 彼女たちには身体が楽になり、調子の良くなる軽い魔術……と伝えてある。


「まずは握手からしましょうか」


 俺は腕相撲のように右手を差し出す。首を捻るミアリアさん。


「えーと、これは?」


「とりあえず、右手で握ってみてもらえますか?」


「え?」


 うん、触れあう文化の無いこの地ではおかしいのは判ってる。おずおずと、不安そうに差し出される右手。細くて長い指だ。


 ある程度出されたところで、こちらから軽く、包み込むように握る。


「あ」


「あれ? あれ?」


 思い切り疑問系だ。多分、思考が追いついていない。


「よかった。ミアリアさんにも嫌悪感は無いみたいですね」


「! え、ええ! なんですの? これ、モリヤ様」


「なんでしょうねー俺もわからないのですよ。とりあえず、「俺」は平気みたいですよ」


 種族関係なく、異性相手なら、相手は嫌悪感、違和感を感じないというのは、俺のスキルの特性の様だ。


 実はこれ以前に「男性」にも癒しの術をかける時の補佐などで、さりげなく触って実験している。俺は違和感を感じなかったのだが、相手は普通に嫌悪感を感じたようだ。


 女性限定……か。どういう? 意図だ? 俺の転移にラノベによくある神様の意思が介在しているのだとしたら。なんで? という。


 ファランさんは最初から「お前のスキルはお前と異なる性別にしか使えないのではないか」と仮説を立てていた。生殖行為が可能かどうかが発動条件なんじゃないか? らしい。何そのスケベスキル。そんなの本当にスキルなんだろうか。 


 まあ種族が違っても問題なく発揮されているのが実証されたのは良かったけれども。


「俺の固有スキルだそうです。癒しの術が効きにくくなるということもありません。なので安心して下さい」


 これも検証済みだ。逆にイリス様なんて、各種術の効きがおかしいくらい良くなっている。


 そう言われると、やはりミアリアさんはホッとしたようだ。この世界の人に取って、命綱である癒やしの術の効果が減少するというのは本能的に、恐怖なのだろう。





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