0036:予想

 死霊の出現は領主=イリス様より上(国)に報告書は提出されなかった。

 

 この近辺で最大のサイズ、暴力を伴うグローバシンという熊と狐と狼? を混ぜたような大型魔物の亜種が暴れたということにしたそうだ。

 何よりも、討伐報告が尋常じゃなさ過ぎて信憑性に欠ける物しか用意できないから仕方ないだろうと、ファランさんからの提案にイリス様も頷いたのだ。


 当然、人の口を完全に封じることは出来ない。が。あまりの被害の少なさに「実はあれは死霊じゃなかったんじゃないか?」説も自然に出てきているそうだ。


 犠牲となった運の無かった冒険者十数名、正体確定のための斥候、マドリス団長を含む領軍兵18名には非常に気の毒なことではあるが。

 そのため、三つ首竜の死霊の出現という単体でも大氾濫に匹敵する脅威だったにも関わらず、地域的、国家的にあまり大ごとになっていない。


 まあ、それはそれとして。うーん。なんかおかしい。この世界の新参者の俺には判らないコトが沢山ある。


 それこそ、ここまで非接触型のコミュニケーションが常識だとか。その根本的な部分は置いておいて。

 支配者の構造とか、王国の成り行きなんていう、昔話で良くある、世界史、日本史で良くある陰謀、策略の話……にイロイロと引っかかる気がする。


「とりあえず、私の考えというか、最悪に面倒くさい状況を予想してみました。何かおかしいところがあればご指摘ください」


 領主の部屋。いつも通り、イリス様、ファランさんが揃っている。


・所属不明の死霊術士が犠牲となり、死霊術で三つ首竜を復活させた。これは確定。

・死霊術士に命令を出し命を賭して術を行使させるには、「他国」権力者の命令が必要(この国の死霊術研究者はイリス様によって壊滅しているため)。

・が、この領は国境に接しているわけではないので、いきなり他国による侵攻目的で仕掛けられるとは思いにくい。


 となると。


■結論1:他国権力者にその力を借りてオベニス領を狙う者が存在する。というか、多分、自国内権力者。(この国の死霊術研究家の生き残り……がいたとしてもそれを匿っているのだから、自国内権力者の存在は確定的)。もしも。このオベニス領を欲している権力者がいるとして。

・かなり昔から。方法は判らないが、三つ首竜を伴う大氾濫を引き起こし、元領主を失脚させてその後釜に着こうと画策していた。

・まんまとオベニスから逃亡した元領主は自業自得で予定通り死亡。

・その後、大氾濫を鎮圧することでこの領を手に入れようと考えていたのに、イリス様の決死の活躍によって三つ首竜は討伐。その勇者レベルの活躍によって大氾濫終了。希有な出来事なため様々な波紋を巻き起こしたが、為した結果への恩賞としては妥当ということになり、平民に爵位が与えられ、領主として任命される。

・まあとはいっても、領地経営など一切やったことが無い冒険者。猪武者。学のない平民。放っておけばボロが出て安易に失脚させられるはず。優秀な文官はオベニス領に赴任出来ないよう完全に押さえてあるし。

・しばらく経過したにも関わらず、オベニス領から不安の声は上がってこない。おかしい。街が1つ無くなり、難民流民が押し寄せているのに破綻していない。

・逆に流通が動き出している。街道沿いの魔物の討伐も行われ、商人の行き来も以前の様に行われるようになりはじめている。何よりも領主の評判が異常に良く、他領からの流民が止まらないようだ。


■結論2:死霊がいつの間にか出現する魔物ではない以上、首謀者がいるのは明確。

・再度、魔物を暴れさせて領内を壊滅状態にしてやろう。

・三つ首竜を死霊にして街を襲わせれば、周辺の領にも影響は出るかもしれないが、その辺はある程度仕方が無い。


■結論3:首謀者は、この領が大氾濫または三つ首竜によって灰燼と化した後でこの地に乗り込み、迅速にそれを治められる戦力を率いることができる権力者。が……死霊があっさり討ち取られたため、そう出来ずに現在は作戦が頓挫。


「となります。いかがでしょう」


「……考えたくなかったが、まあ、その通りかもしれん」


「そうだな……イヤな話だが……モリヤの言う通りだろう」


 イリス様もファランさんも頷く。 


「大氾濫を導くとは言われていないが、魔物を集める魔道具が存在する……というのは聞いたことがある。まあ、だからといって三つ首竜まで呼び寄せられるとは思わなかったが」


「では、その権力者=首謀者は?」


「メルニア王子だな」


「メルニア・レスリア・ガセルトバルク2世。継承権第3位のかの第二王子しかおるまい」


 二人の意見が一致。


 うわーもの凄い大きいところが釣れちゃった……。最高でも侯爵とかの、大貴族とかが出てくるんだと思ってたのに。


「王子様……ですか」


「このオベニスの西側は王都に至るまで、ほとんどが王領なのだ。つまり、オベニス領が荒れ果てた際に最も早く駆けつけ、平定する役目を担うのは国王の騎士団となる」


「北や東にも領はあるんですよね?」


「北はマーカス辺境伯領、東はサビエニ辺境伯領。二つの辺境伯領は蛮族の支配権や敵国と面しており、国内情勢に気をかける余裕はない。さらに両方とも代々続く公爵家だからな。王族の身内だ」


 血の繋がり。強いのは血統による関係なんだよなぁ……そうだよなぁ。こういう社会で大事なのは。


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