0035:強化
「それよりも……だ」
ファランさんがイリス様を見る。
「問題はそれよりも。だ。イリス」
「ああ、そうだな」
何だ?
「モリヤ、お前のスキル……マッサージは異常だ。そういうことだな? イリス」
「ああ」
イリス様が小さく頷く。異常? 呪いが弱まったとかそういうことじゃなかったんだろうか?
「死霊は……特に三つ首竜の死霊はあんな簡単に排除できるものではないのだ……」
ファランさんが不意に周囲を気にする。
「念のために結界を張る。イリス、いちから説明してやれ」
本陣として用意された天幕。その周囲に今現在、人はいない。数名の守備兵を残して、生き延びたことを祝して宴会準備の真っ最中だ。現場の片付けは明日だ、今日はとにかく飲むぞ、というイリス様からの指示が伝わっている。
「前の氾濫時、……三つ首竜との戦闘はギリギリだった。自分以外に立っていられるヤツがいなかったから1人で戦っただけで、他に戦える者がいれば助力は確実に欲しかった」
そう……だったのか。なんか、苦労はしたけど、さっきの様に圧倒的な感じで倒したのかと思っていた。
「実際、ヤツの心臓に剣を突き立てた時には、右腕は落とされ、左足首から先も、ちぎれかけていた。正直、最後の1歩が届いてなければ死んでいたのは私の方だった」
……。そんなだったのか。ってでも、今現在全くそんな傷や怪我の後が残っていないんだけど。
「以前、クリスタ大迷宮の深層部で手に入れた魔法薬、エリクサーを使用した。飲んだらあっという間に手と足が修復された」
……そんなスゴイのか。エリクサーって。当然ゲームではお馴染みだけど……。HPとMPを最大限まで回復する薬なんだと思ってた。んで使わないで貯めとくヤツ。
「まあ、つまりだ。三つ首竜は強い。私はギリギリ生き抜いただけであって勝ったわけではないのだ……ギリギリ命を繋いだにすぎない」
「エリクサーを使用して傷が癒えたとはいえ、半年か。動けなかったのは」
術を発動させたファランさんも椅子に座った。
「ああ。というか、キチンと動けるようになったのはここ最近だな。モリヤと初めて会った時も鈍った身体、勘を取り戻すために、森で訓練した帰りだったしな」
あの強さでリハビリ中でしたか。
「そんな三つ首竜だ。当然の様に死霊となれば、確実に元の数倍は強い。私では純粋に力で押し切られるレベルでな」
頷く。そう言ってましたね。でも……。
「だが、私もイリスも……なぜか負ける気はしなかった。なので2人で向かったわけだが……ここまでとは」
ファランさんも戸惑っているようだ。
「モリヤのマッサージを受けてから、私の呪いは確実に弱まっている。つまり、お前のスキルは解呪系のモノだと思っていたのだが……」
そうではないと?
「イリスに至っては正直、全ての能力が数倍に高められていると言われても納得できるくらい圧倒的だ」
イリス様も頷く。
「数倍どころではないかもしれない。自分でも力の加減がよくわからん。さらにスゴイのは死霊の攻撃が一切自分に届かなかったことだな」
「あれはファランさんの術のおかげ……じゃなかったんですか?」
「三つ首竜クラスの死霊の攻撃を完全に防ぐ防御系の術、しかも結界系の術なんて伝説の歴代聖女でも出来なかったはずだ。そもそも、私の術ではダメージを劣化させるくらいが精一杯だ」
ああ、そういえば、言ってたな。ファランさんは攻撃中心の術を使用する魔術士だっけか。
「もしかしたら……マッサージの効果では無いかもしれん。モリヤと繋がっていたから……のような気もする」
「私の術の効果も数割増しになっている気がする。イリスに比べれば判りにくいのだが」
気がするって。まあでも、そうだったのか。
確かに強い強いと言っていた敵相手に挑んだにも関わらず、ノーダメージっていうのはなんなんだろうと思っていたのだ。
「オベニスに戻り次第、念入りにマッサージしてもらっておいた方がいいな」
「そうだな。モリヤ、頼む」
「は、はあ」
いや……ええ、そこから先へ進めない手前、非常に生殺しでつらいんですが。これだけの美女が悶えているのを目の前にして、そこから先へ進めないなんていうか、究極の我慢大会。異世界転移系の小説は数多くあれど……大抵がハーレムとか、チーレムとか、ざまあとか、なんていうか、スッキリする要素が大半だったのになぁ。おかしいなぁ。
というか、これが、俺への試練なのかなぁ。白い……精神と時の部屋みたいなとこで、神様とか女神様に会った覚えも無いしな。
まあ、でも、そんなコトを言える現場、職場ではない。判ってる。うん。揉めるのは……御褒美だ。セクハラと言われる恐怖感を感じずに、思う存分……いや、急所は外してるからそこまででもないか。
うん、最終的には自分ですればいいんだしな。事前事後に。純粋にネタには困らないからなぁ……。号泣。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます