0034:スキル

 イリス様の強さは近隣諸国にも知れ渡っている。


 ランク9の冒険者というのは一つの国に1~2人いれば良い方だそうだ。さらに言えば、その中でも三つ首竜を1人で撃破したその力は、ランク9以上……異常とも言われているという。


 これまで、伝説を含めて、三つ首竜の討伐はランク9×2人、ランク8×3人の5人パーティでの記録があるのみ。少なくともソロで挑むようなモノでは無いんだろう。


 多分、オンラインゲームなんかでいう、パーティが幾つか集まって倒す大ボスってことですかね。


 そんな三つ首竜だが……死霊になった時点で単純な力だけなら、元よりも強いのだ。


 領民や兵、冒険者も、大氾濫の際にイリス様が苦戦してギリギリで討伐したことを知っている。

 それだけに、ここ最前線のお通夜っぷりも納得といったところだったのだが。


 こちらの被害は、死霊とイリス様たちの戦闘の余波によって、数名が死亡しただけだった。


 陣頭指揮に立っていたマドリス団長がそれに含まれていたのは、今後の領軍経営的にはもの凄く痛かったが。


「で、モリヤ。ここに着いてきた成果はあったのだな?」


 小一時間で何ごとも無かったかのように帰還したイリス様は全て判っているかの様に話しかけてきた。


「ええ、ここに来た目的がこれだったのかはよくわからないのですが……」


 自分がイリス様を通して感じたこと、そして判ったことを解説した。


 そう。なぜか、イリス様が出陣したあの瞬間から、「今、イリス様が体験していること」が自分の意識の中に流れ込んできたのだ。


「遠見の術を使えば……まあ、遠くは見える。そして、使い魔の術で同じ様に現場の確認もできる。が。イリスが感じていた感情、心情まで伝わってきたか」


 術のエキスパートとも言えるファランさんがそう言うってことは該当する魔術は無いのだろう。

 実を言えば、それ以来、ずっと何かが繋がっているような感じで、イリス様の視界、思考が、頭のどこかに存在しているのだ。


「ってことはイリスもモリヤの視界が?」


「いや……見えないな。だが、なんとなく繋がっているという気がした……というか、何か言われれば伝わったはずだ。」


「え? そうなんですか? 共有してるのかな? と思ってたんですが」


「主導権はモリヤにあるということか」


「主導権……」


 ON、OFFとかってことだろうか。心の中で切れろと命じてみる。


「あ。切れました」


「切れたな」


「そんなにハッキリと判るということはやはり、スキルなのだろうか?」


「繋がりますね」


「繋がったな」


 口に出さなくてもこちらから意志の疎通も出来る。どれくらいの距離届くのかは検証しないとだろう。


 というか、これもマッサージに次ぐ、自分の能力、スキルなんだろうか? そもそもスキルってなんだ?


「あの、スキルってなんなんでしょうか?」


「お前のいた世界にはスキルが無いのか?」


 頷く。


「なんとなく言葉としては判りますが」


「スキルとは……技術の集大成だな。通常はいつも使っている剣技などを凝縮させたモノのことを言う。どんな状況でも常に同じ現象を起こすことが可能だな」


「自分の……もですか?」


「ユニークスキル、オリジナルスキルの中にはとんでもないモノも多い。が、大元は自分の能力が願望などで研ぎ澄まされたと思って良いだろう」


「えーと、それは魔術とどんな違いが?」


「武術のスキル、魔術の呪文……通常はどちらも鍵言けんげんを唱えると発動する部分は一緒だ」


 ファランさんの解説によれば。


 強力なスキルは魔術の様な効果を現すことも多いし、詠唱の短い呪文はスキルの様に接近戦で使用することも可能だそうだ。今回の俺の様な戦闘補助的なものから、生産系のものまで直接戦闘以外で使用するタイプのスキルも多数存在する。


 そして、通常のスキルや呪文とは別に、レアなスキルをユニークスキル。個人専用のオリジナルスキルが存在する。界渡りはそういった上位スキルを多数所持していたようだ。現在でも、強弱はあれど、高ランクの冒険者や名のある武将や有能な政治家なども固有スキル持ちが多いという。


 ただ、どんなスキル、固有スキルがあるのか等は、強力なモノであるほどその詳細は極秘中の極秘とされることが多く、界渡りの存在と同じくらい知られていないという。


 そもそも、自分自身を含めて、使用している所を見てその効果が判るモノでなければ、誰がどんな能力(スキル、呪文)を持っているかなんてわからない。


 以前聞いてはいたが、もう一度ファランさんに細かく聞いてみた。ファンタジーでゲームの世界っぽいのだから、ステータスとか、それを覗くスキルや呪文は……と。


 が、やはり、そんな便利なモノは無いようだ。鑑定のスキルとかあればなぁ……。


 なので、生まれたときから固有スキルを持っている人間も(最初は偶然でもいいから)、何度も使ううちに経験則で「これは自分のスキル」と理解するものらしい。


 逆に……それこそ、どんなにスゴイスキルを持っていてもそれに気付けなければ、一生気付かないままということも多いそうだ。


 戦闘系のスキルの場合は、子供の頃に訓練や稽古、ケンカや弱い魔物と戦う際に気付けることが多いし、ただ単に効果が大きいので、すぐに判るという。

 が、それこそ生産系のスキルを持っている場合、ある程度その職に就いて働いてみなければ判らない。


 ファランさんの知り合いはかなり年齢を経てから自分に木工のスキルがあることに気付いて、今さら本職にも出来ず(衛兵だったそうだ)、自分の子供や孫に木彫りの人形やオモチャを大量にプレゼントしてうざがられていたらしい。


「そう考えるとスキル……なんでしょうね。これは。自分の意志でON、OFFできますし」


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