0027:無心

 とりあえず、もう、うん。


 足、しかもふくらはぎと足裏中心でお茶を濁すというか、誤魔化すというか、それでいいだろう。


 正直、エロいことになって我慢出来なくなって、痛い思いをするのは俺なんだし。うん。


ビクッ!


 服越しとは言え、触った瞬間に反応された。これが嫌悪感ってヤツ……だろうか? イヤイヤなのを我慢してる感じ? なんだろうか?


 まあ、イリス様もファランさんも特に美人だし、プロポーションもスゴイし、俺なんかはもう、今後そんな機会はないのかもしれないけど、別に風俗に行ければ……と、いや、ひょっとして!


 風俗も……ない? 


 え? 


 だって触り合うのは無しなんだし。その手のエロ文化ってどうなってるんだろう? うっわー盲点だったわ。ちょいまち。周りが女性ばかりでそういう情報を入手できてなかっただけじゃなくて、そういうのが無い?


 他人に触られるのがイヤなら自分で……するだけか。そういうグッズや写真、AVみたいなモノはあるのかな? 無いか。そもそも、あっても自慰行為シーンが最上みたいだし。うーん。


 そうか……俺は……この、女性はいるけど、それに触ることが出来ない状態で今後生きて行くしかないのか。

 ……この世界に来てしまって以来の超絶ショックを受けていた。脹ら脛のマッサージを続けながら。


 下から上へ。血液の流れが良くなるようにゆっくりと、しかもあまり力を入れずに擦り上げる。


 正直、整体的な揉みほぐしじゃなくて、ただ単に血流を良くする感じの……軽度のマッサージだ。


 というか、ファランさんは同じ冒険者とはいえ、イリス様に比べて筋肉の比率が低い。

 というか、魔術士だからかもしれないけど、あまり筋肉は付いていないようだ。


 そりゃそうか。ゲームで魔術士といえばゴブリンの一撃でHPがゼロになるジョブの代表だ。筋肉なんて必要ないんだろう。


 まあつまり、それは筋肉が少なく、柔らかいということになる。揉みやすいように思えるかもしれないが、実はこちらの方がマッサージする場合、気を使う。


 筋肉という盾が無いに等しいわけで、下手に力を入れてしまうと、痣になってしまったり筋を痛めたりするのだ。


 とはいえ、さっぱり筋肉が無いか……と言われればそこまででもない。さすが高ランク冒険者にしてギルドマスター。後衛職でも必要最低限、動けるだけの力はあるのだと思う。


 なんてムダなことを考えながら、無心でゆっくりと揉みほぐしていく。ショックな案件が頭でグルグルしていたまま指先に意識を集中させているので、視線もフワフワしている。見ているようで見ていないって感じだろうか。


 あれ? そういえば……ファランさんはイリス様みたいに声を上げたりしない……な。


 ああ、そうか、うん。


 性感帯じゃ無い場所を揉んだだけで感じてしまう、イリス様が特殊なのか! やっぱり。


 それにしても……。


 俺のモテない人生に当てはめると、今後こんな機会はないかもなのだな。女に触れない世界ってなんだよ。


 ちくしょーどんなに稼いでも風俗ないんじゃ! 禿げちゃったし。


 ぶっちゃけ、彼女がいたのは禿げる前の話だ。禿げてから女関係で上手くいったことないんだぞ! くそー。どうせなら、薄毛、ハゲってだけでモテモテになるとか、俺みたいに薄味の印象無い顔がイケメンの世界だったら良かったのに!


「ん……」


 あ、やばい。ちょっと力入れすぎた。


 痛かっただろうか? ファランさんに呟かれてしまった。思い出したかのように、丁寧に、優しく、脹ら脛から足の裏を段階的に揉んでいく。

 中でも足の裏はファランさんのように筋肉が少ない女性でも、かなり力を入れて問題ない。さらにツボも多い。

 それなりに揉んだ結果、そうそう悪いことになるツボは無いので順番に親指で押して行く。


 正直、某格闘系漫画で有名な「経絡秘孔」。押すとはじけ飛んで死んでしまう様なツボは存在しない。


 押したときに、過剰反応が出ると内臓が弱ってる……なんていう場所はあるけど。というか、実際にダメージを負うツボがあったら、俺は婆ちゃんを痛めつけていたことになるし。


 なんて感じでショックをどうにか誤魔化そうと思ってみるモノの、この新世界の方が孤独なのかと思うと、沸き上がる寂寥たる思いが文字通り「重く」なっていく。


 異世界で就職出来ただけ……生活が出来る様になっただけ……良いと思わなければ、か。しかも上司は美人だし。


「あ」


 ん? おうふ。ちょっとしつこかっただろうか? 揉み過ぎちゃって痛んだりしてないよな? そこまで力入れなかったし。


 ファランさんはうつ伏せのままだ。……あれ? イリス様と違って汗ばんではいない……が、股間に影が。あれ? 


 影じゃ無くて……染みなのか? え? つい、二度見してしまった。こ、これはどう切り抜ければいいのだろうか。


 触ってないですよ? 危険なエリアは全く。本当に足だけなのに。どういうこと?


 脹ら脛を軽くもみもみしながら考える。まあ、多分、ファランさんも感じている。というか、これはイリス様よりも敏感なんじゃないだろうか? 染みが大きい気がする。


 イリス様は……うん、俺も調子に乗って準性感帯と呼べる様な場所を刺激したのは確かだ。最終的にかすってたし。


 でも今は、一切……そんな素振りも見せてない。


 いやいやいや、だってこれは駅前に良くある足マッサージのお店で、濡れ濡れになっちゃってるってことでしょう? 


 ふわ~っと気持ちいいってことはあっても、性的に……っていうのはなぁ。マッサージ系のAVだって、ちゃんと性感帯を刺激した上で「もっとしてください」的な流れに持っていくというのに。


 いうのに!


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