0028:肩こり

 うん、まあ、と、とりあえず、脹ら脛、足裏だけで終わるのはアレなので、背中、いや、肩に手を伸ばす。これだけ大きな胸。さらにデスクワークってことは、必然的に肩が凝っているハズだ。


 両肩に手を当てて、ゆっくりと力を入れていく。うむ。確実に堅く強ばっている。


 そういえば、元彼女の肩、良く揉んだなー。


「あぐ……」


 声のような溜息のような、何かがファランさんの口から漏れる。


 うーん。まあねぇ。この凝りっぷりを考えると、かなりしんどかったハズだ。頭痛とか酷かったんじゃ無いのかな? 


「ファランさん、頻繁に頭……特に後頭部が痛くなりませんか? 仕事をしていると」


「あ、ああ、良く痛くなる。重いというか、押しつけられるというか」


 うん、まあ、そりゃしかたない。デスクワークに加えて、この巨乳だ。しかもあまり大きさが目立たない様に押さえ付けているハズだ。締め付けられる=強制的に背筋が伸びる=筋肉が頬張る。


 肩や首の後ろを優しく揉みながら、背骨の両脇に沿って、指で押していく。うん、仕事を頑張っている人の背中だ。


「あ、ああ……あぁぁああ」


 溜息……多分、大きな溜息が漏れる。あくまで溜息だ。感じちゃって声が出ているワケじゃ無いハズ。


 うん。断じて喘ぎ声じゃない。違う、違う。


 背中から腰へ刺激を加える。腰骨の左右、臀部は触らないように、気をつける。


 というか……あーもう、なんかなーこの人たち、自分がイヤらしいポイント、性感帯を触られている、イヤラシイなんていう感覚も無いんだよな。もう、めんどくさくなってきたな。本来、俺、Sだしな。虐めたくなってきたな。


 おもむろに、腰骨の両脇から、両臀部へ手の甲で押し伸ばすように刺激を加える。ビクッ! と身体が跳ね上がる。うん、そうでしょう。こういう動きをすれば、どうしても、そこら辺、感じやすいしね。


 まあ、今回はあくまでマッサージだ。性感帯的な……核心部分は触らないようにしよう。


 臀部を両側から振るわせるようにもみ上げて、尾てい骨の上、左右を揉みほぐす。腰骨周辺、脇腹手前、背中中心からまた肩へ。


 まあでも、お尻を揉むんであれば、太もももやらないとだよな。うん。


 太ももを持ち上げて、反った状態でもう一度尾てい骨からお尻に振動を加えていく。尾てい骨そのままだとアレなので、その上の辺りから腰までを再度擦り上げる。太ももの角度が変わっているので、さっきとは違う場所がほぐせるようになる。


「はあはあ……」


 我慢しているっぽい吐息が次第に激しくなってきている。うん、まあねぇ……これだけ派手に濡らしてるってことは、気持ち良すぎるってことだもんねぇ。


 そもそも、濡れるっていうのは女性器の内部が分泌液によって潤うってことを指す。それもかなり感じなければ外に判るほど濡れてこない。

 経験の浅い者同士でしようとすると、緊張もあって濡れにくくなるし。処女なのに溢れてくる……なんていうのは、まあ、エロマンガくらいだろう。


 AVはほぼ全て、ローション使用だとAD経験者の知り合いに聞いた。女の子が至上の業界なので痛く、辛くするのは基本NGだと。


 なので初心者は、まずローションを用意することをお薦めしたい。誰だ、初心者って。


 で。つまり女性を受け入れ可能状態にするというのは、かなり性的に感じさせなければ厳しいのは確かなのだ。それこそ、十数回、やって上手いこと徐々に性感帯を刺激して、馴らして、時間をかけて弄って初めてといったところだろうか? 個人差はあるが。


 ごめん、俺もそこまで女体について詳しいわけじゃ無いからね。経験人数的に。


 が。


 イリス様もファランさんも……そんなことをぶっ飛ばす勢いで、濡らしている。それこそ、もう、言い訳ができないくらいに。


 何よりもファランさんなんて、すっげー注意していたのだ。性感帯「以外」しか触ってはいないのは確実。


 慣れていないから……だろうか? なんでそこまで? という気もする。濡れてる事実を知るにつれて俺自身が興奮して来ちゃうから、イマイチ冷静な判断が出来ていない気がするけど。


 正直、ファランさんは思い切り感じている。自分的にはあっという間だったけど、20分くらいは経過しているかもしれない。


 背骨を中心にほぐしているのだが、うつ伏せでピクピク反応している。見た目的にハッキリわかる感じで股間に染み出ているのだ。


 ちなみにこの段階でも尾骨周辺くらいで、一般的に性感帯と呼ばれるような場所は一切触っていない。


(とはいえ……人によっては背中は性感帯だしなぁ。バックから責めてて、背骨に沿って指でツーッとやるとビクビク逝ってたしな)


 背中が弱かった元彼女を思い出す。まあ、目の前に横たわっているのは彼女じゃないわけで……イリス様の時と違って2人きりでないことも大きかったかもしれない。妙に冷静になっている自分がいた。


「ファランさん、こんな感じでよろしいでしょうか?」


 ビクビクと身体中が敏感になっている様子のファランさんは、うつ伏せのまま身動きができない。

 どこかが麻痺しちゃってる感じ……だろうか? というか、イリス様とは比べものにならないくらいストイックにマッサージしたのに。


 とりあえず、反応が無いので身体にタオルをかけて、ベッド端から離れる。見ればやっとイリス様が起き上がっていた。


 イリス様が身なりを整え、戻ってきた。びちょびちょだったからね。


 ソファに座り、俺も向かい側に腰掛けるように目で合図される。残っていた残してお茶を口にする。


 この世界の、というかこのオベニス周辺で飲まれているのは紅茶のような味のするハーブティーだ。

 身体に良いと言われている薬草を摘んできてそれを乾燥させて、お湯で煮出した物らしい。乾燥時に煎るとかはしてない様だ。

 その際、どの種類の薬草をどれくらい(計量スプーン何杯ずつか)にするかで味が変化する。一般的に配合されて売られている既製品もあるのだが、有能な使用人は主人の好みに合わせて薬草の乾燥から行ってオリジナルのお茶を調合するという。


 このイリス様の館のお茶はファランさんが作ったレシピに従って、女中見習いのアマラが配合している。摘んできた薬草の状態によって微妙に分量を変化させるのが難しいのだという。


 ファランオリジナルブレンドは飲みやすいのはもちろんだが、飲んだ後に爽やかにスーッと後をひかないのが特徴だ。

 料理屋などで出されるお茶に比べて苦くないのもありがたかった。


 しばらくして。ボーッとしたままだが、ファランさんも起き上がり、テーブルについてお茶を口にした。まだ動悸が激しいというか、何かが残っている感じで、首を捻ったり、視線が落ち着かない。



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