0026:実体験
「判った。ではやってみろ」
「え?」
「お前如きに襲われてもなんともない。はね除けるのは簡単なことだ」
ぇー……。
まあ、そうですよね、ファランさんも高ランク冒険者ですもんね。
通常時であれば、そうだと思うんですけど……それ言い始めると、イリス様は……ってそうか、これまでギリギリで襲いかかってなかったか。
もしかして、調子に乗っちゃってたら、ぺしゃんとやられちゃってたってこと、かな? まあ、うん、多分。
「わかりました」
「大丈夫だ、調子に乗って襲ってきても、死なない程度にしておいてやる」
ありがたーい。それは本当に。
まあ、うん、もういいや(遠い目)。
俺はマッサージすればいいんだし。
イリス様みたいに感じられちゃうと、我慢……するの大変かもだけど。ファランさんであれば別にそこまでじゃないかもしれないし。個人差あるよね。あるよね?
ちょびっとドキドキというか、怖かったが、まあ、うん、イリス様が特殊なだけかもしれない。と思い直す。
そもそも、ほとんど、普通のマッサージしかしてないし。してないぞ!
イリス様が横たわったままのベッド、反対側にうつ伏せで寝転んだファランさんに近づく。領主用のベッドはいわゆるキングサイズ。かなりでかい。二人が横たわってもほぼ干渉しない。
って、何してるんだろう、俺。雇い主の寝室で。
ファランさんの服装は……分厚いメイド服の、エプロンをしていない感じ、かな。
まあ、堅そうな黒いワンピースを着ている。
黒のゴワゴワした固めの木綿系の生地。剣道着や柔道着ほどではないものの、それに近いくらい分厚い。スカート丈は、ほぼほぼくるぶしまで隠れる超ロングなタイプだ。
というか、わかりやすくメイド服としたが、派手要素は一切排除だ。レースとか一切無し。あんな感じの長袖でハイネック。首元キッチリ。ワンピースでロングスカート、色は黒。ってだけ。
まあ、それがこの世界の女性の着用する基本的な衣装となっている。肌露出はほぼない。そのまま、喪服になるレベルだ。
正直……うーん。スカートのままうつ伏せになられても。ロング丈なので足首ちょい上までスカートの上に……このスカートの下になんだっけ、アンダースカート……ペチコートだったかな? も着用している。
まあ、ここまでそばで見てやっと判明したんだけど。で、このペチコートも分厚い生地で作られている。むふー。ズボンとはいえ寝間着を着ていたイリス様とは大違いだ。さらにストッキングも履いているのだから……なんていうか。うん。握力が。
揉みほぐすというか、上から優しく叩く、振動を与えるって感じでいいのかな?
「どうした?」
「あの、さすがにロングスカートの人をマッサージしたことが無くてですね」
「そうなのか?」
「イリス様と同じ様には難しいかもしれません」
「ならば着替えよう。イリス、部屋着を貸せ」
イリス様は寝転んだまま、適当な感じで頷き、隣の控えの間の入り口を指さした。ここは主寝室だ。当然イリスさんの衣装には事欠かない。控えの間には使用人が控えると共に、ウォークインクローゼット的な機能も兼ねている。
まあ、確かに……イリス様とファランさんは背格好も腰回りも同じくらいと言えば同じくらいなのか。
威圧感? みたいオーラ? で、イリス様の方がかなり大きく見えていたが、比較してみれば……実際にはファランさんがちょい小さいって程度か。
まあ、大した差では無い。小さい分には問題無いし。俺よりは大きいしな。
ファランさんは部屋から出ていった。
ちなみに、この世界にも四季がある。多分、地球と同じ様に自転している惑星なのだと思う。聞いたところによると現在は初夏といったところだろうか。
この地方は緯度が高めなのか、夏でも比較的涼しめなのだという。厚めの生地でキッチリとした服装が多いのは気温が低いのも関係してるのかな?
暑い地方だとどうしているんだろうか? 薄手の……貫頭衣的な姿とか?
カレンダーは判りやすいことに1年は400日。春の1~99日、安息日、夏の1~99日、安息日、秋の1~99日、安息日、冬の1~99日、終年の祝日となっている。今日は夏の3日だ。
ガキン。重めの鉄の音と共に再度この部屋に鍵が掛かる。
「これでいいか?」
イリス様と同じ衣装、薄手のシャツとズボン。多分、下はノーブラでファランさんが立っていた。
ってイリス様よりも一回り小さいだけ……と思っていたが。えーと。いや、ひょっとしなくても……大きい。
彼女はインテリシャープ系にそぐわない爆乳さんだった……のか。
というか、胸が目立たない様に押さえ付けていたんだろうか? そんな下着とかあるんだっけ? コルセットって腰回りを締め付けるモノだった気がするけど。こっちの世界では胸を押さえ付けるために使ってる? というか、さらしを巻いて男装するなんてマンガもあったな。確か。
「そんなに見るな。乳が邪魔なのは良く判っている」
え? しかもなんかコンプレックス? なんですか? というか、今の言い方は良く判らないな。性的な価値観が細かく違うみたいだからな〜。
なんだろう、恥ずかしい、エロい、興奮するなんていう対象もあちらの世界とはズレている気がする。性行為で相手に触らないっていう基本のせいで。
俺がことごとくこうして戸惑うのは、この世界の人も普通に人間だし、男女あるし、中世系のデザインだけど洋服を着ているしで、現代地球の過去の時代と類似点が多いせいだ。
俺が、チート系最強主人公でないだけで、異世界召喚物の小説やラノベにそのまま当てはまる……外見に関しては。
それこそ、イリス様が猫耳娘で、ファランさんがエルフだったりすれば、俺の印象も、もう少し違ったことになっていたハズだ。
知的生命体でも、種族が違えばモラルや成育環境、生殖に関するルールも大きく違うのは視覚的に理解出来ると思うし。
でも同じ人間……一見同じ様に見えるだけに、騙されている、すれ違っている感じが強くて頭が混乱してくるのだ。
出来の悪いヴァーチャル空間に立っているような。
「判りました……ではこちら側にうつ伏せにお願いします」
目の前、イリス様が未だ寝転んだままの逆。ベッドの端にファランさんが横たわる。
シャツを着ているにも関わらず、乳房が潰れて、横にはみ出しているのが判る。というか、豊胸してるわけじゃないだろうから、ここまで大きいのは……どういう構造なのだろうか。垂れないのかな?
腰が異常に細いんだな。胸と腰の差がとんでもなく大きい。
まあ、うん。だめだ。この際、胸は無視だ。ついうっかり触ってしまって、ぶっ飛ばされたらシャレにならない。
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