0024:非接触

「……では私にもやってもらおう」


 おっと! へ? 


 そっちかー。そっちの展開かー。


 うーん。いや、いいですけど……。いいんですけど。


 正直。性的にならずにこの状況を維持して何度もっていうのは。なんていうか。そういう意味では無いと判っていても、派手に感じられちゃうとな~。


 AV男優の人とかは、そういう興奮状態とかを完全にコントロール出来て、しかも意志の力で性衝動を抑えられるとか聞いたことあるけどさ。……それはもう、プロの技、匠の技なわけで。まあ、無理。俺には無理。


「先ほどもいいましたが、あの、ちょっと俺自身もその。辛抱たまらないといいますか」


「……気持ちが良いと言うことか?」


「……というか、興奮してしまう、ああ、発情してしまうといいますか」


「問題ない。後で処理したまえ」


 うーん。なんか、違和感というか、違いを感じるというか。

 ドライ……ってわけじゃなく。えーと。こちらが考えていることと、ファランさんたちが考えていることに根本的な違いがあるよな。これ。


 何か大きく勘違いされていて、さらにその原因が判らない状態っていうのは非常に気持ちが悪い。


 特にこの手の性的なことは禁忌となるケースが多いハズだ。

 それこそ、異性の身体に触れるというのが「気持ち悪い」レベルじゃなくて、途轍もなくヤバいことだったら、イリス様に首を斬られていてもおかしく無かった。ここは踏み込まなければいけないんじゃないだろうか?


 一見……自分が知識として知っている中世ヨーロッパ的な、ファンタジー的な弱肉強食系の世界だが、人と人とのふれ合い、性の営み、さらにいえば人間という種を繁栄させていく方法に食い違いが生じているのだ。これは魔術が存在するという違和感よりも地味に大きいよな。多分。


 幸いファランさんはイリス様よりも理解が早く、論理的な会話が可能だ。キチンと説明されることにチャレンジしてみたい。


「ファランさん、少々言いにくい、細かい話をさせていただいてよろしいでしょうか?」


 既に回り込み、ベッドのイリス様と反対側に横たわろうとしていた。それをやめて腰掛ける。


「ああ、なんだ」


「自分は今回イリス様に行ったマッサージに端を発した、この世界の対人コミュニケーションについて戸惑いを感じています。というか、足下がグラグラして非常に気持ちが悪いです」


「対人、コミュニ……とは?」


「ええと……自分以外の他人との距離感、交流のことなんですが、基本人間の場合は、言葉によって対人関係を構築していくことを指します。なんですが、ここで私が言っているのは、肉体的な交流に対する違和感です」


「お前の世界では他人の足を揉むのが珍しいことではないということか?」


「はい。それもなんですが……もっと根本的な部分。人間の生殖、性行為に付いてです」


「子作りか」


「まず最初にお聞きしたいのですが、子作りの営み……というのはどのように行うのが普通ですか?」


「普通も何も、子作りは子作りだろう。男が放った精を女の中に収める」


 そこは一緒なのか。


「あの、羞恥心……恥ずかしいと思うのはどういう部分で感じますか?」


「恥じらい……か。基本的に肌は見せない。見ず知らずの異性に裸を見られるのは恥ずかしいことだな」


「では……やはり、今私がしたようなことは」


「恥ずかしいことに分類されるとは思うが……服は着ているしな。そもそも触られることで嫌悪感を感じない相手というのがいないのだから……。正直、判らない。未知の体験なワケだ。さらにイリス自らが命じたのだから問題ないだろう」


「いえ、あの、いま、言いにくいことですが、はだけた服を直したりするのに、私は直接肌にも触れています」


「ああ、見ていた」


「それは……」


「イリスも既にある程度は触られているからな。にも拘らずということだろうか?」


 ……なんだろう、この噛み合わない感じ。スゴイ違和感というか。


「えーと、あの肌を見られるのは恥ずかしいことなのですよね? 股間を触られることはそこまでではない?」


「肌を見られるのは恥ずかしいことだ。だが……股間だろうがなんだろうが、触られることが無いので恥ずかしいかどうか判らないな」


 そこかー! それか! なんかおかしかったのは。


 この二人、いや、この世界の人は癒やし属性の術の効きが悪くなる上に、嫌悪感を感じるという理由で、接触系のコミュニケーションをほとんど行わない(らしい)。


 情熱的なハグとかギュッとしてとか、愛撫的なモノは一切したこともない、いや……考えたこともないのだろう。


 なので、恥ずかしいという感覚もそこに結びついていないのだ。肌の露出は恥ずかしいが、誰かに触られるのを恥ずかしいとは思えないのだろう。

 というか、知らないのか。さらにいえば、俺が襲いかかるということの意味がわかっていない。俺の知っている地球の常識、男と女の行為の根本を理解出来ていない。

 

 俺は昨日からイリス様が単純なマッサージに、無駄に気持ちよがっているという不思議現象を目の当たりにしているのだが、向こうはそれが性的な何かと関連付くとは思ってないということか。


 そもそも……子作り、いや性行為が男女ともに「気持ちの良い」快楽を感じる行為ではないのだから。そういう土台、知識、考え方が欠けているということなのだ。


 ……触り合う行為が気持ち悪いのだから……。普通に考えて、男のモノを女の中に入れる、それは他人に一番密接に接触するということになる。


 当然最高に嫌悪感を感じるんだろうな……。単純に凄まじく気持ち良くないのだ……この世界の人は。SEX、生殖、子作りに関する性行為が。


 なので、男女が営むというコト自体で興奮状態、自慰行為の様な効果が表れている……今の状態もイマイチピンと来ていない。

 何度か経験するうちに同じことだと理解して恥ずかしくなったりするのだろうか。


 現にイリス様は昨日後半は、恥ずかしがっていた。けど……本質を理解してのことではなかったということか。ああ、恥ずかしい=興奮するとかそういう部分も欠けているのか。









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