0022:再戦

「モリヤのまっさーじとやらで、私はこういうことになった。……としか考えられない。昨日初めてやったことと言えばアレしか無い。これはどういうことだと思う?」


 考えこんでいたファランさんが顔を上げる。腕を組み右手は顎の辺りを支えている。アレだ、考える人のポーズ的な。スゴイ勢いで思考を回転させているんだろうと思う。


「もしや……この呪いを癒し、そして術の効果を上昇するのがお前の界渡りとしての能力……なのか?」


 え? そ、そんな? 俺の? 


「でなければ説明が付かない。まさかイリスに昨日の夜、神の祝福が舞い降りて、いきなりこんなことになった……よりは信じられる」


「私も……そう思う。術の効果上昇……いやさらに、自分の基本能力も上昇している気がするな。呪いの効果が減少したから……だけではない気がする。動いてみないと分からんが」


 イリス様も神妙に頷いた。


「あ、あの、イリス様がそういう体質……だということは?」


「無いな。これだけ長いこと一緒にいると、どうしても何度も触れることになる。昔……酔って倒れたのをベッドに運んだこともあったし、酷い怪我を負った時などにも仕方なく触れたこともある」


「モリヤ、ファランの腕を握ってみろ」


 え? いきなり? イリス様の突然のセリフに頭に? が浮かぶ。


 どういうこと? 


 俺の目の前に、ファランさんの腕が突き出された。ええ、ままよということで、とりあえず、目の前の細い腕、右腕手首のちょい上を力が入らない様に握る。


 一瞬ファランさんがビクっとした気がする、まあ、うん。薄毛でキモ系に握られるのはイヤですよねーですよねー。


「……何も……感じない」


 ファランさんの口から小さい声が漏れる。ええ、そりゃそうでしょう。うん。何か感じるわけがないですよね。俺みたいなヤツに腕を握られても。


「やはり、特殊なスキルか」


「そうだな……これは……」


 ?? 慌てて手を離した。掌に汗を掻いては……無かった。うん。良かった。


「あの、どういうことなんでしょうか?」


「え? ああ、そうか、モリヤは判らないのだな。私がこうしてイリスのことを触る。イリスが私を触る」


 チラッとした感じで、お互いに服の上から手で触り合った。


「それだけで、なんとなくだが、気分が悪いのだ」


「え?」


「癒しの呪文で女神の加護が得られないだけではない。自分以外の他人に触られると……非常に軽くだが嫌悪感を感じるのだ。それがこの世界の常識だ」


 なんという……非接触世界。そうなの? マジデ?


「誰でも? ですか?」


「ああ。子供から大人まで。全てだ」


 ただ、そういうことであれば先ほどの癒やしの術の法則が受け入れられている現実も納得できた。長い時間の末に築かれた生活習慣なのだろうか。


「だが……モリヤに触られたときにはそれがない。そもそも、一瞬ならともかく、それなりに長い時間触られていたら、数日、癒やしの術が効きづらくなるのが当たり前だ。が。それもなさそうだ……」


 ま、まあ、うん、触られるのがイヤだと言われるよりはマシだ。と思うし、そんなに即効性のあるものなのか……。そりゃ非接触になるのも分かる気がする。


「さらに……いや、やってみた方が早いだろう」


 え? な、何を?


「モリヤ、昨日と同じ事をしてみてくれ」


「え? は?」


 やば。声が出てしまった。


「ファランの見ている前で昨日のまっさーじをやってくれ」


「イ、イリス様、あの、昨日と同じ様なことを……ですか? あの、宗教的に恥ずかしいとかそういうのは……」


「恥ずかしいは恥ずかしいのだが……私は元々戦士だからな。一般の淑女のような羞恥心は持ち合わせていない。さらにいえば原因解明のためであればファランに見られるのは仕方あるまい。というか、見てもらえねば理解されぬと思う」


 確かにそうかもしれないが……いや、あの、うーん。ファランさんが怒り出してシュパッとやられたりしないですか? どうですか。


 正直、怖いんですが……。


 何か考えこむファランさん。そしても、元々寡黙なイリス様。2人が素早く食事を取り、デアさんが片付けていった。


「デア、しばらくファランが極秘の魔術の実験を行う。しばらくこの部屋の周りに誰も近づけないでくれるか。お前も使用人部屋で休んでいて良い。終わったら魔道具で呼ぶ」


「畏まりました、イリス様」


 イリス様の命令で人払いもされた。


 領主館の入り口付近、俺の部屋の反対側の使用人部屋で待機することになるのだろう。あそこまで離れれば、この部屋でどれだけ大きい声を出そうと一切聞こえないハズだ。


 それほどのこと? なのだろうな。


ガチン


 イリス様が分厚い鉄片で出来た筋交いのような鍵を下ろした。


「よし、頼む」


 というか、いや……えーと。うーん、やっぱり、ファランさんがいるところで邪な揉みは無しだよなぁ……とりあえず、通常のマッサージをしておけばいいか。


 さすがにイリス様も見ている人のいる前で昨日のようなことにはならないだろ。うん。


「畏まりました。では……えーと。このベッドの端にうつ伏せで寝ていただけますか」


 イリス様は俺が着替えさせたままの部屋着兼寝間着のままだ。


「んく」


 昨晩と同じ様に薄手のズボン越しにふくらはぎから揉んでゆく。


 膝裏から足先の方へ、ゆっくりと力を入れながら引き絞るように圧をかける。

 引き締まった足首、そして足裏へ。足の裏はご存じの通りツボが集中している。ある程度の法則性が判っていれば、かなり強く押しても気持ち良い。


 昨日の最初の方と同じ……感じで、性感帯には一切届かせていない。


 講習会では受講者同士でもみ合うのだが、大抵が自分と同じくらいの年齢のオヤジ同士なのでなぜか悲しかったのを思い出して……いたら。


 え?


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