0021:効果上昇

「しかし、イリス、触られたというなら、それは大丈夫なのか? 癒やしの魔術の効きは」


「ポーションを使ってみた。モリヤに触られたにも関わらず、凄まじく効きが良い。多分、これまでの倍以上。ただ、これは呪いが弱まったことによる効果なのか、自分の力のせいなのか、他の理由があるのかよくわからない」


「そうか。だから私を呼んだのだな?」


「ああ、すまん、確認したかったのもそうなのだが、あまりのことに少々動じてしまったようで、緊急用の魔道具を使ってしまった」


 イリス様が目を向けていたのは主寝室の置いてある領主の作業用机。その上にある大きくて無骨な革の表紙の本だった。

 あの本を開いて呪文を唱えるとファランさんに緊急信号が送られるそうだ。ファミレスの店員を呼ぶブザーみたいなものだろうか。


「まあ、ソレも仕方ないか……」


「そうだろう? まずはお前に話したくて。イロイロと面倒をかけていたからな」


「とりあえず、癒してみよう。かけるだけなら、体力が最大に回復していても感触は判る」


「ああ、頼む」


 ファランさんが古代語で詠唱を開始する。そう言われてみればさっきから見せられているのが魔術、なんだよなぁ。

 使っているような感じ? な場面は遠目から見たことはあったが、こんなに間近で見るのは初めてだ。


 詠唱と共に手が光り始めた。淡い光だが、次第に強くなっている……気がする。ドキドキだ。


 薄毛で腰回りに肉が付いててオヤジな俺だけど、まだまだ厨二心は完全に消え去っていなかったようだ。攻撃魔法とかも……あるよな。絶対。


 ぐっと力を入れるように、右手を掲げて、イリスさんの身体に向ける。ファランさんから何かが注ぎ込まれるような、そんな気がした。


「こ、これは……イリス、お前の感覚は相変わらず凄いな。これは異常だ。以前にお前に術をかけたことがある魔術士であれば、誰もが判るレベルでおかしい」


「やはりか」


「まあ、自分の身体に起きた変化を細かく感じられるお前だから判ったことだし、お前に何度も癒やしの呪文を使った私だからこそ、判る事も多々あるのだが……」


 ファランさんの顔が、さらに真剣になる。


「それにしても、何があったのだ。お前の身体に。ちょっとまて、もしや他の術もか?」


 そう言うとファランさんは違う呪文を唱え始めた。


 おおー。今度は光が青白い。ん? 右手を掲げると青い光が薄く、イリス様の身体を膜の様に覆った。なんだろう。防御力アップ系かな、多分。


「やはり! 防護の術の効果も……3~4倍。癒やしの術と同じだ。明らかにお前への術の効きが良くなっている。もしや、お前……魔術の効果を下げる呪いもかかっていたのか?」


「私の呪いのことはお前が一番よく知ってるだろう? 麻痺と戒め、鈍重。それ以外の呪いはそれとは比べものにならないくらい微少な能力低下の呪いだったはずだ」


「ああ……だからこそ信じられん……こんな話は聞いたことがないぞ? 神話や伝承のたぐいでもだ。断末の呪いがいきなり消えるなんて」


「消えてはいない……と思う。まあだが、確かに、このくらいであれば消えたも同然やもしれないな」


「本当に、その「まっさーじ」とやらで、モリヤはお前の肌に直接触れたのだな?」


「ああ」


「申し訳ありません。そんな不味いことだと知らず……さ、触りました。主に服の上からでしたが。若干直接も……」


 ちょっと怖い。


「私の住んでいた世界では上司が疲れている時に肩を揉むとか……マッサージをするのは結構当たり前のことでして、純粋にお疲れのようでしたので」


「酔っていた……ということもある。だが、なんとなく、モリヤになら触られてもいいと思ったのだ。特に服の上からなら、モリヤに会った時に私も触っているからな。一瞬、襟首を掴んで投げ出しただけだが」


 ですよね。必要な、緊急時だから、特別だったとは気がつかなかったけど。


「まあ、だが……正直、モリヤに「まっさーじ」と聞いて、なんだそれは? と、妙に興味が沸いた。昔……若い頃の、冒険者として街や村を放浪していた頃の感覚。聞いたことの無い言葉、意味、そして行為にワクワクした」


 冒険者っていうのはやはり、そういうドキドキな職業なのだな。


 イリス様がうーんと考えこんだ。


「……やはり、なぜ、そう思ったのか? の理由はわからん。戦場での勘に似ている感じかもしれん。いや……やはり、酔っ払っていたからだろうか?」


 そのあと調子にのったのは……あの……うん。そこは詳細を言わなくていいよな?


「うむ。とりあえず、ファラン、腰を落ち着けて話をしよう」


 イリス様がサイドボードの小さな筒を持ち上げて振る。金属の打ち合う高い音、澄んだ鐘の音が響く。


 大きい音ではないのだが、この部屋の向かいの御付き部屋には非常に良く聞こえる。ノックの音。そしてドアを開けてデアさんが入ってきた。


「お呼びでしょうか?」


「私とファランに食事を、この部屋に用意してくれないか。茶も頼む。モリヤ、お前は食事は?」


「先ほどいただきましたので、お茶だけで」


 ファランさんが考えこむように、ソファに座った。何もしゃべらない。イリス様もソファに座る。


「お前も座れ」


 この主寝室にはベッドの他に作業用の机と、ちょっと足の高い対面型のソファとローテーブルのセットが置いてある。

 こうやって何か会議をする用ではなくて、領主が寝る前にくつろぐための仕様だと思うが、三人ならこうして会議につかうのも問題無い。




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