0012:畏敬

 4つの村を巡り、オベニスの街の領主館に戻ってきたのは1週間後だった。


 全ての村で、ほとんど同じ展開を見学した。僅かな税以外の魔石は、領主の隠蔽資産を生み出すために搾取されていたのだ。

 そいつが突然、居なくなれば、当然、払わなくて良いことになる。まあ、隠すよな。当然。


 なので、最終的に、ことごとく力比べになったわけだけど。


 そのたびに凄まじいまでの力を見せつけられた俺は、イリス様を素直に尊敬し始めていた。圧倒的な暴力というのはそれだけで崇拝に値するのだと改めて感心する。


 そもそも助けられているし、命の恩人だと思っていた。


 人前でイリス様、御主人様、領主様、領主閣下と呼ぶのも何ら違和感は無い。そして彼女の正義感……あくまで弱者を助けるための立ち位置は好感が持てた。


 というか、この歪んだ世界で、なぜこんなに意識の高い……平等にして弱者を慈しむモラルの持ち主が完成したのか。


 バランスが良いんだよな。差別しない。無駄に殺さない。女性を庇護するじゃなくて、弱者を庇護する(結果として、現在社会的弱者である女性を助けることが多いが)。

 適度に論理的。というか、論理的な結論を受け容れられる。感情的な波が小さい。やばくなったら自分がいなくなってしまえばどうにかなるんじゃないか……という無責任な冒険者的思考も消えてないみたいだけど。


 まあ、その上とんでもない美貌に……スタイル。さらに普通に考えたらあり得ない強さ……完璧究極に近いわけで。女神か。


 とはいえちょっとしたやっかみは入っていたのかもしれない。


 それまで、脳筋な彼女を心の底から敬っていたか……と言われれば違うような気もする。年下だし、計算苦手だし。ファランさんは美貌の割に明らかに自分よりも年上っぽかったので心の中でも敬語だったのだが。


 どんなに強くても……と思う事で年下の女上司に対する嫉妬の様な醜い負の感情の溜飲を下げていたのかもしれない。さすが俺。情けない。器の小ささなら中々だ。薄毛だしな。お似合いだ。


 ただ、この遠征でアレだ、勇者とか英雄とかいう存在は……こういうモノなのだなと、非常に納得していた。だって、そんなとんでもない人……見たことなかったし。特に現代社会に圧倒的な個は……存在していたとしても隠蔽したりされたりするわけで。


 ということで、崇拝とまではいかなくても、なんとなく崇めるというか、ははーというか、それこそ……下世話だがエロ系のネタにしてはいけないというか、そういう崇高な存在になりつつあった。


 ああ、そういえば男子の営み……そっちの方はもっぱら、自家発電で処理している。こっちの世界に来てから、既に1カ月弱経過するのだが、風俗的な場所へ繰り出す勇気はなかったのだ。さすがヘタレ。


 というか、一緒に仕事をしているのがイリス様とファランさんという凄まじいまでの美女2人のため、もしも……それが彼女たちに知れて軽蔑されたりしたらどうしようと思うと、勇気が湧かなかった。


 そもそも夜の外出が怖い。オベニスの街はイリス様の統治、治安管理によって圧倒的に安全だと言われているが、それでも貴族区以外ではスリや物盗り、強盗、さらに殺人も日本にいた頃とは比較にならないほど発生しているそうだ。


 せめて同性で相談できる相手がいれば……とも思うのだが。


 領主館にはメイドや料理人など住み込みを含めて予定よりも遙かに多い、10数名の使用人が働き始めていたが、全員が女性なのだ。


 これは、イリス様が止めたという大氾濫に関係している。男手はことごとく兵として参加しており、(最小限で済んだとはいえ)少なくない被害を出していた。

 領主や役人、役所など、公共の雇用が発生した場合、元兵士の残した者達……それこそ未亡人たちを優先させるのは当然のことのようだ。


 特にこの街で死んだ兵というのは、領主がさっさと逃げ出したため、命令では無く、自分たちの意志でイリス様に従い散ったのだ。貴き志の持ち主ばかりである。


 さらにイリス様が未亡人を積極的に重用しているという事実は、今後の領主軍の兵たちの士気に大きく影響を与えるらしい。


 まあ、そんな理由で、身近に下ネタを話せるような親しい同性がいない以上に、女性ばかりの職場にあっては、色っぽい方向の情報などもさっぱりだった。


 向こうの世界にいたときは、過去に(薄く無かった頃)彼女もいたし、風俗に行ったこともある。


 薄くなる前はまあ、そこそこ普通のルックスだったのだ。恋愛経験もそれなりにあるし、魔法使いでもない。


 エロ動画もそれなりに嗜んでいたし、性欲はそれなりにある方だと思っていたが、こちらに来てから、ほぼ毎日ヌいている。中学生か。


 し、仕方ないだろう。スゴイレベルの美女が側にいるのだ。屋敷でウロウロしているときは、彼女たちも部屋着、ミニスカとかがあるわけじゃないから露出度は低いが、若干薄着の事も多い。胸元がはだけていることも当然、ある。


 さらにここ最近増えた使用人は全員女。さすがに全員、ちゃんと露出の少ない使用人服を着ているが。


 そりゃ……触らなくてもギンギンになりがち……になるわけだ。


 まあ最終的にどれくらいの手取り……年収になるのかはわからないが、暫定でお小遣いももらっているので、小銭は貯まっている。いつかは、隙あらば……と思っているのだが。



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