0011:無双

「グボウゥェハァァァア!」


 再度、男たちの口から奇声が上がった。


 先ほどから攻撃を仕掛けるために近寄ろうとしているのだが、棒の攻撃範囲内に踏み込むことができないのだ。あっけなくなぎ倒されていく。


「弓だ! 射れ!」


 村長に言われて、ほぼ全員が背負っていた小さめの弓を構えた。凄まじい勢いで矢が放たれ始める。


 とんでもないスピードの連射……の様に見えたが、イリス様は……棒を左手のみで回し始め、右手で剣を抜きこちらも振り回し始めた。いや……正確には振り回しているのではなく、襲いかかる何十本もの矢を尽く斬り落としているのだ。


「スゴイ」


 あんな近距離で跳んでくる矢を見切っているだけではなく、常に棒は回している。左手のみで回す棒でまた、3人の男がはじき飛ばされ、崩れ落ちる。

 そのくり返して、あっという間に広場に立っているのは村長だけになってしまった。弓を放つ者は家や物置の影に数名残っているようだったが、放つ数はそれほど多くない。


「くっ……情けない」


 村長が自分の巨大な両手斧を振り回し始めた。そのスピードはイリス様の回す六角棒に近い。ただし回転は向かって逆だ。長さは……若干だが両手斧の方が長いのだろうか? 相打ち覚悟で勝負ということか?


ギンッ!


 斧の刃が六角棒に食い込んで、お互いに止まった。村長の技量も相当なものだ。


 斧は棒に食い込んでいる。六角棒は木製だったようだ……。打撃音とかからそうかな? と思っていたけれど。木製の棒で大の大人を吹き飛ばしていたのか……。


 村長が力を込めるのがわかる。丁度棒の中心に斧の刃が突き刺さっている。空気が張り詰める。矢もいつの間にか収まっている。


 が。斧が食い込んだまま、六角棒は止まらなかった。村長が斧に引きずられ始める。イリス様が、右手の剣を投げ捨て手離し、六角棒を両手で回し始めた。押さえている斧、それを掴む村長もろとも、それまでのゆったりしたスピードでは無く、慣性も利用して速度が増加していく。


 目の前で……信じられないものを見せられているような……さらに重力の法則に逆らうような光景が広がっていた。


ガガガガガガ!


 村長は、自分の握っていた斧ごと、六角棒によって振り回され、スピードが載ってきたところで投げ捨てられ、民家に突っ込みその壁に叩きつけられた。


 当然、壁は大きく崩れて、瓦礫が村長に崩れ落ちる。アレで生きているっぽい頑丈さもスゴイとは思うのだが……。


 唖然とした村人たち。戦った狩人たちも唖然としている。何か見てはいけないものを見てしまったかのようだった。


「心配無用だっただろう?」


 ファランさんが俺の方を向いて、そう、言った。


 圧倒的。まさにその言葉が相応しい。


 広場中央、イリス様を下がらせて、周囲を見回す。うめき声を上げる狩人たち、その家族である村人たちが注目する。


「ここまで! 事前の取り決め通り相違ないな?」


 ファランさんの声が響いた。視線は村長に向けている。倒れたまま、顔を巡らし、こちらを見る。弱々しく頷くとそのまま、動かなくなった。


 続く様に狩人たちが頷く。


 その後は。


 残る3つの村もほぼ同じ様な展開で全面降伏、全面服従ということになった。まあ、親分の杯を受けて、子分、舎弟になったということなのだろう。


 さて、このあからさまな脱税の真相なのだが。隠していた魔石の約八割は元領主とその傘下の役人に直接渡っていたようだ。


 さすが元領主……碌なコトをしない……と思ったのだが、この脱税システムは元領主どころか、この地に村が出来た初期から続けられてたという。


 ……王国成立時、この地を治めていたのは辺境伯だったらしいのだが、その隠し財産を貯蓄するためのものだったとか、そんなようなことを伝え聞いたことのある村長がいたのだ。


 上前をはねる者がいきなり居なくなった。各村の村長達は……ここぞとばかり「そのまま」にした。そりゃ自ら、多く払おうとする者はいないよな。納める金額はこれまで通り。で、儲けはごっそり。当然、それらは村へ還元され……塀を作り、備蓄を整える為に使われていた。


 ふう……。


 まあ……もう、なんでもいいというか。逆に、元領主と共に、不正を行っていた役人は根こそぎ逃亡し、尽く大氾濫で死んでしまったというのが明白となったしな。


 だって、これだけ美味しい不正資金ルートなのだから、誰か関係者が生きていれば上前をはねようとするハズ。そんな気配は微塵もなかったそうで。


 今回の件によって、魔石は、今まで以上に、この領地の特産物という扱いになり、税の主たる農産物の自給自足、生産の成り立たない痩せた北の山地からの大きな税収手段となるだろう。


 なにせ、これまでダークゾーンで誰もその真相は知らなかったのだ。村を発展させて拠点化し、魔石収集のさらなるシステム化が重要になってくるだろう。


 全ての村から隠し資金らしいいくつかのお宝も回収した。巧妙に隠されていた物のみなので、大した量では無かったが。


 まあ、ぶっちゃけ村人は良いように搾取されていただけだ。


 歴史ある、凄まじく腐敗した組織ぐるみ、領地ぐるみの企みに、その辺は深く突っ込まないことになった。だって、責任を取らせようにもここ数代、直近のヤツラは全員死んでるし。それ以前の責任者も既に記録にさえないらしい。


 村の取り分のは基本、大氾濫の際に村の防衛のため冒険者や傭兵を雇うために使われることが多かったという。そのため、残っていたのは大した金額ではなかった。


 今後は正規の税率で魔石を納めることになるが……これまでよりも、村の収入は上がる。さらに食糧の援助、行商人の定期的な派遣、群れなどの特殊な魔物出現などの場合、領から優先的な戦力の派遣を行うなんていう約定も交わされた。


 なのでまあ、暮らしやすくなるハズだ。




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