0009:領経済の把握
まずは……と思いついたのは、この国の税のシステムの確認と、この領地の税収の把握だ。
国への納税は生産物の3割。領主の取り分は3割。つまり一般的な市民の取り分は4割。つまり六公四民ってヤツだ。
その税率はまあいい。税率50%近辺っていうのは第一次産業を中心にした世界では決しておかしく無い数値だからだ。それよりも……元になる生産量の把握が重要になってくる。
前領主の残した書類を漁ったのだが、その辺の詳細データが存在しなかった。
この領地の各村から徴収した? 麦の量は発見できたが、それが果たして六割なのかどうかの、元の数値がサッパリわからない。そもそも、各村や街の人口などの詳細データが存在しないのだ。
「こりゃ……もしかして……各村や街に丸投げか?」
オベニス領には領主の住む中心都市、オベニスの街。それよりも小さいコルドンの街、メニエルの街。それ以外にホレン、ニーマ、コルダン、シグノンという4つの村が存在するらしい。
コルドンとメニエルはオベニスの街と同じ様に冒険者ギルドもあり、街道にも近く立地的に商業地としてもそこそこ成り立っているのだが、それ以外の村は畑で麦を中心に農耕を営んでいる。
が。このオベニス領は王国の北東。元々「痩せた土地」と呼ばれており、農耕地も狭く、半分以上を山地が占めている。猫の額のような小さい農地から上がる生産量は当然、小さい。
これは……根本的にどうやって領の経済を成立させてたんだ?
「魔石……だな。この領地では農耕よりも狩猟が中心だ。特に北の山地は魔素が濃く魔物の強さに比べて、獲れる魔石が大きい。それを売った代金に税をかけている」
疑問点は知恵袋であるファランさんに投げる。正直その辺の知識はイリス様に聞いてもさっぱりわからない。適材適所だ。
この地で生きて来た以上、具体例はイロイロと知ってるんだけどなぁ。ニーマ村の狩人に双子が生まれて、その子が同時に話すようになってカワイイとか。
「……その代金って、売った者の申告通り……ですか」
「ああ、そうだ」
「あの~村ごとに有力者……というか、力の強い人っています?」
「村を仕切る村長がそうだ」
「ひょっとして……村長って元々は強力な狩人とか冒険者……だったりします?」
「ああ、大抵がそうだな。他の地方のように土着の有力者……というよりは、魔物を狩るリーダーが村を率いている事が多い」
「ここと3つの街はともかく……4つの村は危険かもしれませんね」
「何をだ?」
「反乱って起こらないんですか?」
「これまで起きたことは……ないが」
「ではキチンとした税を取り立てた場合は?」
「各村がキチンと税を支払っていないと?」
「この辺、冬って雪が深いですか?」
「いや、そこそこ寒くはなるが雪が積もることは無いな。冬の間、家から出れないなんていうのは、ここよりも遙か北の地での話だ」
うん。どう考えても……。
「えーと。おかしいところがあったら言ってください。こちらの調査一覧からホレン村の村人の数は158人。そのうち約半数が男。まあ、少なめに考えてその1/5が狩人だとします。約15人。15人の狩人が一月の約半分狩りに出たとして。最低でも1人1個。最小の魔石を手に入れるのは不可能ではないですよね?」
「ああ、各村の周辺は蝙蝠や兎、梟、烏などに近い小さめの魔物が多いことで有名だ。狩りに出て1人1匹狩れないなどということはないだろう。大物狙いであれば数人、数日で1匹ということもあるが……いや、そんな大物であれば、ギルドに報告があるはずだな」
「つまり。季節99日の約半分は休んだとして、1日15個の魔石×40日分。600個。これがひとつの季節で村に所属する狩人が手に入れる魔石の数です。1年は4季節ですから、その4倍。2400個となります。最小魔石の商人への卸値はどんなに安くても1個10G。この街での売値は30Gですから、狩人たちもそれより安く売ることはないでしょう。2400個が10Gで売れたとして、その売り上げは2万4千G。そのうちの半分……正確には6割が税収にならないといけない……んですよね?」
「あ、ああ……」
なぜ、そこで、キョトンとした顔をするのでしょう……。
「まあ、ここでも少なく見積もって5割として1万2000Gの税が収められなければいけない計算になります。で、この税収の出納に寄れば。昨年のホレン村からの税収は1000Gとなっています」
「……」
「この国で税を横領し、私腹を肥やした者への罰は?」
「首謀者とその一族、関わった者が奴隷として売られることになるな」
「どうしますか? イリス様」
部屋の奥で剣を振っていたイリス様がこちらに近寄ってくる。
「嘘をついているということか?」
「そうです。ここにあるデータが正しいとすれば4つの村はあからさまに脱税し、その利益を着服しています。生活環境が厳しく、その利益が村の生活に必要だというのであれば、その分を特別経費として計上させることも不可能ではありません。ですが、さすがに10分の1しか収めていないのは……」
「言い訳できるレベルを超えているな……しかし……モリヤ、お前、この資料はさっき初めて見たのだよな?」
この国の文字というか、この世界の諸外国の文字(少なくともファランさんの所持していたモノだけだが)も「なぜか」読める。そして書ける。数字、数式も解る。から、計算もできる。
スゴイなー。異世界マルチリンガルってヤツだなー。ハロワ時代に欲しかった。履歴書のレベルが上がる。
「ええ、昨日までは一般常識を頭に入れるので精一杯でしたから」
「そうか……」
だからなぜ、知恵袋であるファランさんの顔がビックリしているかが疑問ですよ……。
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