0004:イリス

 美貌がこちらを品定めするかのように見つめてくる。正直、こんな美人さんとこんな近距離(焚き火を挟んでいるとはいえ)で向かい合うなんていう経験はほぼ無い。


 焚き火の炎に赤く照らされて、美人がムダに映える。#美人過ぎる冒険者、とかでアップしたい。


「私の名前はイリス。お前の名は?」


杜谷昌一モリヤ ショウイチです。ショウイチが名で、モリヤが家名……ですかね」


「家名……お前は貴族なのか?」


「いえ、自分のいた世界では姓=家名を持つのが当たり前のことでした」


「そうか……お前のことは正直、私ではよくわからない。召喚術でないのなら……異世界から来た者のことは昔……何となく話に聞いたことがある気がする。なのでその辺に詳しい友人に委ねようと思うが良いか? ん? どうした?」


「あ、は、はい、いえ、イリスさんがお美しいのでつい見とれてしまいました」


 お世辞では無い。彼女はそれくらいのレベルで絵になる。焚き火のコントラストと相まってまるで一枚の絵画だ。この手のおべっかトークは営業時代に散々鍛えられたが、ここまで自然に口に出来たことは無かったような気がする。


「な、ばっ!」


 イリスさんの顔が真っ赤に染まる(多分。焚き火の光の反射かもしれない)。


 え? ええ? これだけの美人さんなら、この程度のことは日々言われ慣れてるんじゃないのか? 言われるだろ。外見は外国人だし。

 だって俺がモデル事務所のスカウトマンであればすれ違いざま確実に声をかける。百年に1人の逸材とかそういう単語が相応しいレベルだと思うんだが。本当、美しすぎる冒険者ってヤツだ。


 全体の体型、スタイルだって……暗がりで良くは見えていないがスッキリしている。


 顔が可愛い太めの……ってことも無い。


「と、とりあえず、明日だ。明日、オベニスのギルドに連れて行く。この辺りには簡易結界が張ってある。魔物に襲われることもない。寝ろ」


「は、はい」


 なんていうか……心がザワザワしていて寝れそうにも無かったし、毛布で包んでいるとはいえ下半身は丸出しだし、焚き火の横とはいえ下は土だしで、いろいろと不安だったが、素直に横になった。


 といいつつ。どこか疲れていたのか……数分後には深い眠りに落ちてしまった。


 次の日。


 日が出るちょい前から活動を開始した。起こされた。


 なぜか、妙に目覚めは良かった。緊張していたのかもしれない。すっかり乾いていたパンツに短パンを身につけ(匂いは気にしないことにした)、足手まといにならないようにイリスさんの後を追いかける。


 薄らと道があった。林道、いや、獣道だ。静かな森を黙々と歩いた。


 お昼を過ぎた辺り……だと思う。それまでの森しか見えなかったのが、少し先まで見えるようになり……人の手の入った建造物が遠目に見える様になってきた。


 朝、夜明けからここまで歩き通しだ。さすがに助かったと……思った。何よりもサンダルで森を歩くのは非常に厳しかったのだ。


 朝飯は歩きながら、干し肉と固いパンを薄いワインの様なお酒で流し込んだ。正直美味しくは無かった。

 が。塩に水分、そして炭水化物。人間が活動するために最低限必要な栄養素かな……と思い、ありがたくいただいた。


 目的地である、オベニス……の街は……なんていうか、スイスとかドイツとかの古の城砦都市をコンパクトにした感じ……というか、壁の圧迫感が窮屈さを強めているのか。

 とにかく、何かから身を守るために集まってぎゅうっとしている印象を受けた。

 細かい所は俺の知っているヨーロッパの古城や城砦都市とも若干違う。やはりここは……異世界なのだろうか?


 門の左右には槍を持った門番の兵士が常に入退出をチェックしている様だ。怪しいヤツは中にいれないぞっていう雰囲気がプンプンと伝わってくる。こう言うのって確か手形とか証明書とか必要なんじゃなかったっけ? 


「イリス様、お疲れ様であります」


 近い方の兵士が頭を下げながら話しかけてきた。


「いつもありがとうございます」


 反対側の兵士も頭を下げる。ん?


「いや、問題無い」


「その……男は?」


「森をふらついていたのを保護した。魔物に襲われたショックだと思うが、記憶違いになってるらしくてな。ギルド長の判断を仰ごうと思って連れてきた」


「そうですか、了解しました。それにしても……どこの者だ? 見かけたことはないな」


 俺はあまりに軽装だということで、マントを被らされている。とはいえあまり近くに寄られると、もらして乾かしただけなので匂う可能性が……。


「なのでこいつはギルドへ連れて行く、いいか?」


「あ、当然です。イリス様にお任せします。お気を付けて」


「ああ」


 記憶違いっていうのは、記憶喪失のこの世界での呼び方らしい。魔物に襲われて、しゃべれなくなったり、一時的に記憶を失ったり、自分が誰かわからなくなってしまうことは比較的よくあることらしい。


 少なくとも異世界から召喚されたなんていうケースよりは理解されやすいということだった。


 イリスさんの薄らとした記憶によれば、召喚魔術ではない、召喚。異世界から召喚された者には特殊なスキルが発現することが多く、勇者として活躍した……なんていう話を聞いたことがあるそうだ。


 だが。俺自身はそんな勇者的なスキルが……宿っているとは思えなかった。力が強くなったわけではない。体力が増加したわけでも、素早くなったわけでも無い。普通だ。


 現実問題、半日近く歩いたせいで足がガクガクしている。


 小説や漫画、アニメで得た知識の様に、目を凝らすと人やモノのパラメータが見えるとか、自分のステータスがわかるとか、そういうこともなかった(やっいてみた)。


 さらに。「メニュー」とか、「インベントリ」とか呟いたりはした。……当然何も起こらず、恥ずかしかった。


 正直、なんでここにいるのか、本当にわからない。魔物に襲われる可能性がある世界。多分、様々な意味で日本現代社会よりもシビアな世界であることは間違いない。

 暴力が吹き荒れる世紀末世界……まではいかないだろうが、地球だって中世といえば、最終的には力が全てだったハズだ。

 そんな世界で、武道や運動に長けているわけではない自分が生き抜いていくことができるのだろうか? ……厳しいよなぁ。


 正直「憂鬱」感でイッパイだった。あーこういうとき若いと魔術とか聞いて「スッゲーファンタジーの世界だー」なんて感じでテンション上げ上げで突っ走っちゃったりするんだろうなぁ。


 せめてというか、とりあえず良かったのは、イリスさんという超絶美人に助けていただいて、今もお世話していただいているという幸運だろうか。


 冒険者と言うことであれば……さっきすれ違いざまにイリスさんに頭を下げて行ったヒゲモジャで熊のようで背中にとんでもない大きさの斧を背負ってた男性に助けられる可能性もあったのだ。


 ちなみにやはりイリスさんの身長は俺よりもかなり高かった。185センチちょいとかその辺だろう。


 鎧のせいで未だにプロポーションの詳細はわからないが、手足が長く、何かと見下ろされる。薄毛的に上からの視線にはちと……うん。涙。


 それにしても……イリスさんはかなりの実力者のようだ。門番の言葉使いも丁寧だったし、ヒゲモジャさんも敬意を払ってる感じだったし。







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