第10話

今日は雨だった蒸し暑く夏の足音もすぐそこまで来ているようなどんよりとした曇り空で、つい、昨日娘が攫われた。もうすぐプール開きですごく楽しみにしていたのを思い出す。

すぐに警察を呼んだが民事不介入がどうとかでまともに取り合ってももらえない。私はとてもやりきれない気持ちになった。娘のことは当然愛していたし、それも今は亡き妻との子だ、昨年の誕生日には動物園と水族館を梯子して過ごし、帰りに予約していた蠟燭が9本刺さったケーキを買って家で一緒に食べた。


仕方がないので学生時代友人だった、今は探偵をしているという山田に頼ることとなった。山田はいい奴で中学時代から頭がよくて、理科の時間、そばにあったコンセントにシャー芯を入れたり、ワンピースの赤犬の口調を真似しながら話したりするとても面白い奴だ。最近まで疎遠になっていたのだが同窓会であったことによってよく合うようになる。久しぶりに会っても学生時代とほとんど変わらない様子で安心した。


最近の法律改正によって人さらい合法化と老人の安楽死制度が可決された。本当に当時は耳も目も疑った。意味が分からなかったが今やっと当事者になって理解した。これは増えすぎた人民を減らすための政策なんだなと、今も小児性愛者によって辱めを受けている最中だと思うと怒りと興奮がふつふつと湧いてきた。あまりの腹立たしさに山田の事務所のコンクリート打ち放しの壁を殴る。痛みはあまりなかった。山田に止められ、私は我に返る。山田は「絶対に見つけるそれにまだ半日もたっていないんだぜ、希望もある。」私は苦笑をしながら答えた。

「それに、まだそう遠くには行っていないはずだ、近場の駅のカメラを調べてもらったけどそれらしい奴はいなかった。まあ、犯人がまだ男か女かすらわかっていないんだけどね。」

それについては心当たりがあったが一度疑心暗鬼になった私の頭の中はぐちゃぐちゃだった。とりあえず、心当たりのある奴らをリスト化していく。容疑者は4人

まず一人目は一番怪しいお隣のいかにも無職といった風防の男だ。

二人目は、娘の通う学校の担任の教師だあいつは娘のことを明らかに女みていた。それも家庭訪問の時娘とハグをしやがった。しかも他の生徒はちゃん付で呼ぶのに娘だけ「さん」付で呼ぶんだ。

あまりに興奮して話したので落ち着くようルイボスティーを入れてくれた。


三人目は私の職場の後輩だ。彼女はなぜか私に好意を向けてきており娘の写真を見せると少し嫌な顔をして笑う。この女も怪しい。


四人目は、私だ、その発言に山田ははっとした様子でこちらを見る。山田は中学時代の私を知っている。ほとんど学校に来ることはなく、来たと思ったら別人のような様子で問題を起こす。そんな私を知っているのだ。

 一番山田から見て怪しかったのは最初から私だろう。

まず私の取り調べが始まった。するとすぐに全身麻酔を打った時のような酩酊状態になり机に突っ伏して気を失った。


目が覚めるとそこは、一面の赤でそれらしい骨があり、私は満腹感と喪失感と共にすぐに自分の罪をかみしめた。


あああ、みんなずっとそこにいたんだなと。

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