第6話

その夜僕は眠っているシイナの首を絞めた。細い首は脈を打って暖かい。これをいつでも終わらせることが出来ると思うと背徳感と罪悪感で興奮した。目を覚ましたしいなは声を上げなかった。代わりに空振りの呼吸を繰り返すだけで、ただ瞳はこちらを恐怖と困惑で覗いていた。抵抗はしてこない腹の上に乗っているので出来るはずがなかった。

手を緩めそのままの手でシイナの口を覆った。咳き込もうとした口からは、ささやかな呻きの音が漏れるばかりで、僕はそこでシイナの白くて赤い顔に熱い劣情を覚え。絶頂した。そして眠っているのか気絶しているのかわからないままのしいなを放ったらかしで僕は自室に戻り後のことなんて考えないでまた後悔を抱いて眠った。その夜は心とは反対によく眠れた。きっとこんな関係、誰にも言えないだろうから。

8月?日

ある夏の昼下がり僕は交差点の奥の陽炎に消えてしまいそうなタマネの姿を観た。確かにそこにいるようで、なのに近づいたら蜃気楼のように消えてしまう。僕は幻でも構わないからもう一度抱きしめたかった。数々の暴力も、僕のこの行き場のない気持ちも、何もかも聞いてほしかった。なのにそのどれも叶う事は無い。きっとこれは僕の脳が見ている都合のいい幻。罪悪感が形になった僕自身なのだから。

 またフッと消えては現れる。学校、ショッピングモール、駅のホーム。思い出が色濃く残る場所にだけタマネは現れる。ただ家にだけは絶対に現れない。妹たちのためなんだろうがなんとももどかしい。そこには思い出が無いと言われているようで。悲しくなる。そんなわけがないのに。全部僕の自己満足、最初からあんな奴いなかったんじゃないかとすら思う。ジャーマンスープレックスを掛けたのもウソ、一緒した登下校だって。湖で弾ける往来を埋め尽くす人波を彩る花火を見たことだって全部嘘のように思えてしまう。そのくらい儚くて尊くて大事な存在だったから。でももういない。だから嘘にしたくなくて見ている幻なのかもしれない。

どこを歩いていてももう見えなくなった。無意識を目に入れようとしていた癖だけが残って空虚に首を振るばかり。周りから見たらきっと壊れた扇風機みたいな動きをしていてみっともない。右手に握られているのは妹の手、左手には空っぽのエコバッグ。僕の心みたいに空っぽな、でもこいつは羨ましい、これから埋めてもらえるのだから。僕は決して何してもう埋まらない。時間もきっと隙間も埋めてはくれない。

妹はタマネによく似ている。髪の色も目の色も背格好だってそっくりだ。ただ違うのはあいつと違って賢くて誰にでも好かれるような子な事。あいつは野性味が強すぎて、まあ。クラスでは浮いていたから。ただ学校に入ってきたでかい虫を捕まえる役は買って出ていたから男人気はあったけれど。それは絶対恋愛感情だとかではないからさ。

僕が一人ごちていると、ミツバが口を開く。

突然だけど聞いてくれる。私ね、あの、秘密だけど。ダメな事だよ、えっと

「少しづつでいいから。大丈夫だよ、なに?」

嫌な予感がする。聞きたくないような気だって。僕の嫌な予感はいつだってよく当たる。あの日だって…。

「うん、あのね。言っておかなきゃいけないと思って。」

頼む、言わないでほしい。やめてくれ、これ以上何も背負いたくない。本当に、今すぐにでも走り出しそうだ。

「援助交際、しているの。おじさんにお金をもらって体を売る、あの。」

なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで。おこずかいだってあげているし、何もご飯だって、服だって不自由させているつもりなんてない。

「なんで。」

「すきだから」

「なにが」

「性行為かな?私ね中学1年生の時にいじめられていたでしょ。知らないか。その時先輩にレイプされたの。その時からかな。私オカシイの。どうしようもなく、満たされなくて。いくらお金をもらっても満たされない。ただそういうことしている間だけは必要とされてる。私を見て、私で喜んでくれている、どんな形でも人の役に立っているのが嬉しくて。」

「そうか」

言葉が出なかった。ショックなのもある。ただタマネに似ているのもあって彼女も同じ事をしていたんじゃないかという考えがメリメリ脳みそに入り込んでくる。そんなわけ、あっていいはずもないのに。

「お金はどうしてるんだ。」

「お金は今みたいにご飯の材料を買うのに使ったり、シイナとイヨの服を買ってあげたり、かな?」

「自分のためには」

「つかってないよ」

「だってお兄ちゃんがこうやって一緒に買いものしてくれたりするだけで私十分だから。それ以上は贅沢だよ。あ、でもお小遣いは服に使ってるよ。お兄ちゃんがくれたお金だからね。」

「それは僕のため」

「もちろん。私の事なんてどうだっていいから。さ、いこ早くしないと売り切れちゃうよ。きゅうり。」

「待って、ミツバがそんなことになっているの、知らなかった。お兄ちゃんどうしたらいい。」

「うーん。今まで通りでいいよ。今まで通り気づかない振りをしていてよ。私は幸せだからさ。」

「そんなわけない。幸せなんて。そんな。」

「今まで知らなかった癖に言ったらこれか~。めんどくさいなぁもう。あーあ、言わなかったらよかった。別に同情して欲しかった訳でも説教されたかったわけでもないから。じゃ私先、帰るね。さよなら、ついて来なくていいからね。さよなら」

踵を返すミツバを追いかけることもできず、店に入る。まあアイツの情緒がおかしいのはいつもの事だ。それより、ここは地域に根差したスーパーでこの辺では一番安い。籠にミツバの好きなメロンを入れ、胡瓜ももちろん忘れず、ひき肉だとか豚バラだとかを買いレジに向かい会計を済ます。レジのおばさんに声を掛けられる。

「ねぇねぇ今日はあの子、白い子一緒じゃないのね。」

「怒らせちゃって、先帰っちゃいまして」

「そう、ああだからメロンねぇ。あの子も年頃だもんねぇ。難しいよねぇ。おばさんの娘だって最近はもう口も聞いてくれなくてね、寂しいわねぇ。お兄さんも気おつけなさいよ。あんまかまい過ぎると嫌われちゃうから。おばさんみたいにね。」

「ええ、はい」

と煮え切らないそっけない返事で返す。

「そんな態度だと嫌われちゃうわよ。もっと明るく、明るく。なんかあったらおばちゃんはなし聞いたげるから。突然だけどあんたバイトは?」

「してないです。」

「じゃあきまりだ、ここでバイトしなさい。店長さんには行っといてあげるから。まあ店長って言っても私の夫なんだけどね。あはははは。」

「そ、そんな強引な。いいんですか?なんか悪いですよ」

「いいのよ、遠慮なんかしなくて。丁度足りてなかったのよぉ。ほら品出しの子やめちゃったじゃあない。ってしらないよねぇ。そんじゃ明日の7時半に来てね。明日土曜日だったよね。そのくらいならお客さんも少ないから、形だけだけどちょっとした計算のテストと面接があるから筆記用具も持ってくるのよ。」

「はあ」

「わかった?」

「はいはい」

「はいは一回。」

「はい」

「よろしい。それじゃ、また明日ね。」

「はい」

エコバッグにあれこれ詰め込み、その場をそそくさと後にする。まるで逃げるように。関わりたくないのにあれこれ関りを強引に作られてしまった。こんなことになるのなら外になんて出たくなかった、バイトなんてしたくない。ただでさえ家事を妹に任せきりなのに。だけど、何か変えたかったから丁度いい。

置いてあった自転車にのり、家に帰る前によっておきたい場所に向かう。

踏切を超えて駅に着く、あの白い後ろ姿と背広の男の姿が目に入る。

改札を超えて二人で時刻表を見ているようだった。僕はまた何もできずに改札の前でつながれる手と、家族の誰にも見せないような笑顔をまるで花火でも見ているような気持ちで見ていた。それが酷く悲しくて。また自分で首を絞めた。何も変わらないし、変われない。ミツバもアイツの二の舞になってしまう気がして。止めたかったのに体がピクリとも動かなかった。動けなかった。



 僕は無造作に止めていたスーパーから盗んできた自転車に乗り家へと向かう。途中で自転車はスーパーに戻して。見ているだけの自分に嫌気が刺すいつもこうだから、いつまでたってもうで頭の中で響き変わらない。ひたすら二人で歩いてきた道を歩く。帰り道は蝉の声が僕を責め立てているようで頭の中でからから回って五月蠅かった。

ああああ

ジェントルマンという言葉が似合うおじさんと少女が往来を歩いている。平日なのに人が多い。

私、おじさんのこと好きだよ。

耳まで色づく若年男性、この言葉は嘘の愛ばかり与えてきた彼女の心から溢れでた本当の愛だ。

み、ミツバちゃん!!?ほゅ、本当に?

ほんとだよ、おじさん。かわいいし他の人みたいに乱暴しないんだもん。

あありがとう僕も大好きだょ。

喋り方は全然ジェントルマンじゃ無いけどね。またそこが好きよ。 

ギャップって奴?

そうね、そうよ。私にだってあるのよ。私、手相が見れるの。

ギャップだ。スピリチュアルとか知らなそうだもん。

そうでしょ。見てあげる。

元々は男を喜ばせたくて、始めた趣味だった。だが今はその時の自分に感謝をしてもし足りないくらいだった。おじさんの手には細かい傷と、繊細さがわかる綺麗な爪。男にしては綺麗な手だった。結婚線は1本しかなくって何だか嬉しくなってそのまま手にキスをした。

ひょぇう!!!きっキスを!手に!!

あはは、焦りすぎ〜。耳まで真っ赤だし!

し、仕方ないよ。そんな急にキスされたんだから。

おじさん(まだ若い)と少女は夜の闇の光の中に消えその一つとなった。

XXXX

ツ○ッターを見ていて目に留まったのはイヨのアカウントだった。勿論鍵垢。おかしなことが書いていて笑ってしまう。電車の中なのに。イヨは本が好きだからってのもあって変で支離滅裂なのに読ませる文だ。

耳から出てくるのはスイカの根だった。夏だと思った。今年も夏が来たのだ。脳は思考を止め始めている。スイカは思考を始める、なんとかしようと考える間もくれない。スイカに意識が完全に移行された時、僕らは本当の植物人間となった。

切り分けた果実には脳がぎっしり。

果てることを知らぬ肉棒はやがて竜をへて龍となりて私の元を離れ、飛び立つであろう。肉欲を貪り、でたらめに快楽に溺れる海竜。それを見た彼らは言った。あれはネッシーだ、と。私は誇らしかった、自慢したくもあっただがしなかった。私の欠落を埋めてくれる龍はもう私のものではないのだから。

大貧乏からグッピーを腹に入れる。ああ可哀想な我が子たち。我が恥肉となりて恒久の時を過ごそうぞ。青白く細い首筋には一筋の雫が糸を張る。明日はお前たちだからな、金魚カメそして犬。自分の不甲斐なさに涙する。吐きはしない。それは死んだ僕らの英霊たちへの侮辱となる。地獄で彼らもきっと眠る。

浮遊するマ◯コデラックスはまるで屠殺寸前、いずれ肉塊へと返り咲く不死の豚のようだった。それを見た僕は確かにブッダの再来を見た。神は確かに存在した。月曜の夜にだけ顔を出す神。マ◯コデラックス。

最高に拗らせていて、最高に痛いけど面白い。よくも、こんな面白いものを書く才能に嫉妬さえする。思わずいいなぁと声に出してしまい、周りの視線が僕に刺さる。しっと口をつぐむ。俯いたまま視線を躱し、そして眠った。目的の駅につき家路を辿る。今日は自分の自転車だ。盗んだチャリじゃない。そんなバカバカしい気持ちを抱えてたまに思い出し笑いを挟みながら錆びついて重くなったペダルを漕ぎ出した。

パパ帰宅

家に帰ると知らない少女。本人が言うには父親らしい。

よお、おかえり。お前達大きくなったな。ますますタマ、かあちゃんに似てきたんじゃあないか、あ。やっべぇ。

少女になった父親はたらたらと汗と言い訳を並べていた。

え、タマネはおねえちゃんでしょ、何言ってんのパパ。それに格好もどうしたの。ちんまりしちゃって。かわいいねぇ~。名まえはなんていうのかなぁ??

それがな、こういう訳なんだ。聞いてくれるかい。

ある朝男が目を覚ますと肌はぷにぷにスベスベ、まだ成長の余地を残した手足、アンバランスな頭。つまり子供になっていた。しばらくベッドから動く事ができない。それはおねしょをしていたからで、もう泣き出してしまいそうだった。だけれどそれでは本当に子供だ。だから目を擦り適当に下着を脱いでブカブカのシャツ一枚のまま、フロントへと内線を繋いだ。

あの、もしもし。できれば早急にきてほしい。

はい、こちらフロントでございます。どうされました。何か問題でもありましたでしょうか。

良かった女性だ。

あの、君一人で僕の部屋に来てもらえないか?ちょっと電話じゃあ話しづらくてな。

まあどうされました。あいにく私はフロントをワンマンでしておりますので、掃除のおじさんならすぐ行けますけど。

いや、君がいいんだ。君が必要だ。男になんて今は会いたくない。

うふふ、探偵ごっこかしら。少し待ってもらえる?20分ほどでワンマンじゃなくなりますからね。

ああ、それでいい。部屋番は分かるな。一応言っておくが、メモの用意をしてくれ121だ。僕はお風呂に入っているから大きな声を出して呼んでもらえればこちらもその様にする。

はい、かしこまりました。では後ほど。ガチャツーツー。

ひとまずなんとかなったと安堵するがまだこれからだ。隠すなんて事はしない、第一匂いでバレるだろう。子供のフリもしてたまるか。絶対にしない。僕は僕だ。

シャワーを浴び、鏡に映る少女を見て不安になる。

お前は誰だ。

鏡の中の少女が笑いかけてきた様な気がした。そんな訳はない。それにしても小さい、しかも細い。体が変化する薬なんて飲んだつもりもないしこれが僕の悪の側面、ハイドだとしたら可愛い物だ。

シャワーを浴び終わるとフロントの女が来た。昨日見た時は小さく見えたのに、今は大きく見える。これは僕が小さくなったから、ガリバーの小人たちもこんな気持ちだったのだろうか。何かされよう物なら成す術もなくやられてしまう。恐ろしい。

あの、電話をくれたのはあなた?服がぶかぶかだけど大丈夫?

大丈夫だ。

それよりこれを、み見てくれ。

あら、おねしょしたのね。心配しなくても大丈夫よ。綺麗になるわ。

そう言って女はベッドのあれこれをドアの前のワゴンに乗せた。

服、私のコレクションがあるの。サイズもきっとぴったりだわ。いくらか差し上げますから後でフロントで声をかけてちょうだい。

ああ、そうするよ。ありがとう。

チェックアウトのためキャリーを引いて、フロントへ。さっきの女だ。畳んだ服が何着かどれもお人形が着る様な華やかな物だった。

こんなのもらえない。第一こんなの僕に似合わないし、高い物だろ。

いえ、いいんですよ。それにあなたはとってもかわいいわ。服たちも貴方に着て欲しくってウズウズしているわ。着てあげて頂戴。

ちょっと待ってくれ。

一着ひったくりトイレへ駆け込む。一瞬戸惑いつつも今は体の性別に従う。不思議の国のアリスの様な青と白のヒラヒラのついた服。可愛らしすぎる。こんなの耳たぶが熱くなる。すぐに個室から出て。フロントに向かう。

まあ、お似合いですよ。お嬢様。

そ、そうか。ちょっぴり恥ずかしいけどな。まあ上等だ、着ていこう。

ええ、楽しんでください。良い旅を。

女はそのあと僕が見えなくなるまで笑顔で手を振り続けていた。本当にもらってしまって良かったのだろうか。まあ本人と服たちが喜んでくれているのならそれでいい。それに空も今着ている洋服に負けないくらいに晴天だ。まったく晴れやかな気分だ。店先に白い百合が見えて、嬉しくなった。

2

あの、話し途中で遮るのやめてもらえますでしょう

やだね。僕はお前と会話したいわけじゃないんだよ。出来ることなら顔も見たくないし、さっさとやることやって帰りたいのだよ。ごめんよ子供みたいなことを言って。でもまあ今は僕、子供だし仕方がないのだがね。ああ手はだすんじゃないよ、僕は君が嫌いだからね。顔もダメ、性格ももちろんダメそんなやつと寝たい女なんていないよ。わかったら帰りなさい。

はい。先生。

な、なにを、するんだ。

先生が悪いんですよ、こんなに可愛くなっちゃって。言ってなかったですっけ俺子供すっげー好きなんですよ。だから先生がそうなった時から二人きりになるの楽しみにしてたんですよ。だからね、楽しみましょせんせッ。

嫌だ、男ましてやお前なんかが初めてなんて断じて。いや、たすけてくれ!誰か!んぁ。うぅ。

静かにしてくださいよ。楽しみはこれからなんですから。ね!

力ではもちろん敵わない。ただ頭の良さはこちらが上だった。だからすぐに理解し絶望した

誰も来ない事なんて初めから分かりきっていた。

俺初めてが先生で嬉しいですよ。なによりタイプですからね。すっごい良かったですよ。気強い子すごい好きなんですよ。ありがとうございます先生。って聞こえてないですよね。さようなら。大好きな先生。

ん、ああ。

男は、まあ今は幼女だが。元来プレイボーイだった。だが女になった今、かつて寝た女たちはこんな事をされてよく耐えられるものだと思った。今はただそれだけだった。

男は、また作家だった。ジャンルはミステリー。恋愛小説なんて書いた事くらいはあったがWeb小説にも負けるレベルだった。が今はあの経験が使える。書いてみるとスルスルと筆が進む、最近書いたものよりもいいものができそうだ、と思った。完全した。が、これは恋

愛というより官能色が強い。

まあ無理もない男が経験したのは恋愛ではない陵辱なのだから。だが完成したものを世に出すと、いつものより売れたなんとかって賞すらかっさらって映画化までされる事となった。そこで初めて女の子になるのも悪くないなと思った。

男は、一人が怖くなった。心は男性でも体は幼女だったからまたあんな経験したくなかったし、ので担当の女にボディーガード兼ガールフレンドとして一緒にいてもらう事にした。

先生、大変でしたね。

ああ全くだよ。

でもちょい気持ちわかるなーいきなりこんな可愛くなられたらねぇ、私はまあ何もしませんけど。

まったくだ、冗談でもやめてくれよ。普通にトラウマなんだから。

あ、ホテル着きましたよ先生部屋は一緒ですけどいいですよね!今は女同士なんだし。

え。ああまあいいけど!あ、あたしも今は女の子だからね。ね!

どうしたんですか先生きっついですそれ、まあかわいいですけど。私の前だけでしてくださいね。

わかったよ。〇〇君。そんじゃさっさと受付を済まそうか。

受付を済まし長い廊下の端っこの部屋に入る。

なんでスイートルームってこんな遠いんですかね。

セキリュティのためだろ。たぶん。

たぶんって先生脳まで子供になってませんか。前までたぶんって私が言ったら怒るくらいだったのに。

そうなんだよ、あんなに好きだったミステリーも書けなくてね。その事で君を呼んだんだ。これを読んでくれ

“”読者諸君これを読んだ君たちは僕の失墜を確かなものと観ずるだろう。だが僕は諦めが悪いタチなので書き続けるつもりだ。絶対に諦るつもりもない。ああそうだ影武者だの娘だの言われるのが面倒なのでこれを送付しておく、どこかしらにはっつけてあるはずだ、イベントなんかで君たちに会うかもしれないので今の僕の顔写真を。見てほしい。どうだかわいいという物もいるだろう。ファンだって増えてしまうな。1番下の娘と背格好だって変わらないんじゃあないのか。初体験は先日迎えた。無理矢理だがこれも経験だな僕の女たちへの接し方も多少なれど変わってしまったよ。変わらざるを得なかった。尊敬すらしている。ただ元々のファンには申し訳ないのだが僕はもうミステリーは書けない。恋愛小説一本でやっていくつもりだ。誠に申し訳ない。””

なんですか、これ?そんな、先生はミステリー作家でしょ売れっ子なんですよ!映画化だってドラマ化だってしたじゃないですか。なんで。

それは僕が僕が楽しんで書けなくなったからだ!そりゃかけるなら書きたいよ!だがね、僕が1番僕の作品のファンなんだ。だから僕が満足出来ないものは書けないし、書かない。わかってくれたまえよ。1番苦しいのは僕なんだ。

先生、あの言わせて貰いますけどね、ジャンル選びで恋愛って舐めてます?恋愛は広くて難しいんですよ。とりあえず詰め込んで適当に事件起こしとけばいいミステリとは違うんです。恋愛ミステリーだってあるんですよ。TS百合恋愛ミステリーだって。なんでもあるんですよ自分の得意分野活かしましょうよ。

そ、そんなのもあるのか。僕はそういう事に疎いからな君がミステリーだと言っていたからミステリー作家を名乗っていたが、考え直さないといけないかもしれないな。

先生!そうです考え直してくださいね!!

おうともさ!さあ内線でお酒でも持ってきてもらおうじゃあないか。今夜はぱぁーとやろう。なんせ方針がふわりとだが固まったのだからね。ああもう9時かビックベンの鐘もなっている。酒は10時までと決めているんだよ。

大丈夫なんです?今子供ですけどお酒飲んじゃって。絵面やばいですよ。

ここは君と僕以外いないのだから大丈夫だろうよ。何をしていても咎める物もおらんよ。それに防音だしね。酔って騒いでも平気だ。

そうですか。それならいいですけど。

来るまでの間暇だからシャワーでも浴びてくるよ。

あ、それじゃ私も。お背中、流しますよ。

酒はどうするんだ。

適当にテーブルにでも置いてってくれますって。なんなら書き置きでもしときます。

いやいい、面倒だ。早いとこ浴びてしまおう。

シャワールームは二人で入るには十二分の広さで泡がぶくぶくと湧き立つジャグジーもあった。入浴剤はバラの香りがした。体もあらわずに湯船に入る。全くいい気分だ。湯も温かく、泡が体をほぐしてくれて心地がいい。

少し後に〇〇君が入ってきた。

せんせ〜湯加減いかがでしょ〜。気持ち〜ですかぁ。

酒きたのか。おいおい酔ってるのか君。危ないだろ。

先生も一杯いかがですかぁ。 

男は、元来酒に強いタチであった。酒豪の称号すらもほしいままにしていた。瓶5本でも全く酔わない程であった。

しゅ、しゅごぉ〜。ああ、あのえっと頭がぐるぐるするよう。やだよママぁ。これやだよ。

え、嘘ごめんなさい。大丈夫ですか先生。お風呂で早く回ったにしても弱過ぎない?一口しか飲んでないじゃない。とりあえずベットに。いや、この先生クソかわいいな。顔も熱ってて、ママだなんて。やだ〜私まだ27ですよー。

ママ。一緒に寝よ

しょうがないですねぇ。うんうん、しょうがないしょうがない。

ボッ!コンロが点火した!スイッチも入ってセーフティももう機能していない。熱っていたのは女も同じだった。女と男が二人きりになればすることは決まっているだろう。だから彼女もその様にした。

ん、やぁそれいやぁ。やめて

嗜虐心をジャストで狙い撃ちをしてくる。

先生が悪いんですよ。こんなに可愛くなっちゃって。私もう。ダメなんです。私偉そうにしているロリが恥ずかしめを受けて塩らしくやめて、やめてやめてと縋り付いてくるの大好物なんですから。

また、おいたするの、いやぁ。

ごめんなさい。先生。

やめてよぉ。

やめません。

いや,,,。

大丈夫ですよ。力を抜いて。

いや。やめて,,,。

大丈夫ですよ。もうすっかり女の子ですからね。

繋がれた右手は汗ばんでいた。体もその様に、雨粒を吐き出しながら小さな痙攣を繰り返す。白い肌にはぽつりぽつり赤い愛の跡が残る。その度、嬌声をあげる少女にもう男の尊厳はなかった。夜はまだまだ長い、手ほどきはまだまだ終わりそうにもなかった。

翌日は以外にも清々しい日和だった。小鳥の囀りで目が覚め、寒さがつま先から頭までを覆った。いい朝だ。

ね、良かったでしょ先生。

ああ、何事も経験だな

先生子供みたいで可愛かったよ

そうか、ありがと。じゃあ僕は先に朝食でも頂こうか。

あ、私も行きます。

朝食はホールでビュッフェ形式、クロワッサンを食べた。塩が効いていてうまい。それとスクランブルエッグ。僕は塩をかけて食べ、彼女はケチャップだった。

美味しかったですね。

君は食いしん坊なんだな。あんなに食べて。

先生が食べなさ過ぎなだけです。

胃袋も小さくなったのでな。

朝食はほどほどにして、部屋へと戻る。チェックアウトが11時で日本への飛行機が15時。今9時だからゆっくりもしていられない。空港まで1時間ほどだが僕の担当も僕自身もマイペースだから余裕をもって行きたい。

帰るだけだからキャリーケースにあれこれ詰め込んで、部屋を後にする。ロビーのシャンデリアが僕を見送っていてくれている気がした。受付でお金を払い駅へと向かう。幸い駅までは徒歩で行ける。駅まで彼女といわゆる女子トークって奴をしながら向かった。そしたら案外早い物で空港までも、一息をする間ほどだった。

パスポート確認で引かかることを危ぐしていた、だがあっさり通る事ができた。役員はもちろん苦虫を噛み噛みしていたが、その限りで通してくれた。飛行機が来るまでの間、お土産にスノードームを買い、ついでにチョコレートも買った。この体になってからやたら甘いものを食べる様になった。子供舌になったのだ。いずれ小学校にでもまた通う様になるのではないかとヒヤヒヤしている。江戸川コナンは通っているのだからまあ通ってみるのもアリだけれど。それにそんな経験、僕しかできない。いい武器になりそうだ。通おう。邪な気持ちは無くただただ楽しみだ。

せんせ、何か悪い顔ですね。

いやな、小学生になってみようと思ってな。

ふーんいいんじゃないですか。

止めないのか。

止めないですよ〜。だって子供は学校に行くのが義務でしょう。

そうか。それなら仕方がないな。よし!僕は、本当に通うぞ!!担当!!

通っちゃってくださぁい!ウンウン!

騒がしかったようで、二人して警備員も周りの人達もを驚かせ、注目の的となった。飛行機に乗り込むまで人々の視線が針の様に刺さる。やっと来た飛行機に乗りウズウズする。なにしろ久しぶりの日本、久しぶりの家族だ。

飛行機では眠り手を繋いで日本までの時を過ごした。雲海の上で食う機内食はピクニックで食べるお弁当の様で実に美味かった。それからはサングラスのアンドロイドが出てくる映画を一本だけ見た。ちょうどエンドロールで陸に降り立つ。僕は親指を立てながら、飛行機を後にした。適当なエンドロールが頭の中では流れていた。

というわけなんだ。

長いなぁ父さん、それでその隣にいるのが話にちょくちょくでてきた担当さん?

父さんなあのな結婚しようと思ってな。

そう、おめでとう。それじゃ。

興味なさげなミツバはイヨを抱えて部屋へとぶり返していった。

え、ええ早くない?旅が長かったのはわかるけど早くないですかぁ。シイナもそう思うよなぁ!

え。あ、うん、思う思うなんだっけ、確かパパが女の子になっちゃって、女の人と結婚!?それってつまりレズって事。

ああそうだ、父さんレズ?って奴みたいなんだ。日本じゃあまだ結婚出来ないみたいだから、スイスに行くつもりだ。明日。

あした!?急じゃない?私明日みたいテレビがあるんだよ。映像の世紀。マッカーサーの奴、楽しみにしてたのに。

そんな事もあろうかとな、父さんDVDぷれーやーってやつ買ってきたんだ。録画もダビングだってできるぞ。だから行こういざスイスへ!

私からもよろしくお願いします。みんなが来てくれたら嬉しいわ。なにしろ初めての結婚ですもの。

なんか都合よく色々出てきそうで怖いし僕は行くよ。

わ、私も行く本当はリアタイしたかったけどね。お詫びに世界殺人百科買ってね。

お、それならあるぞ。そんなこともあろうかとって奴だ。

二人を買収した親父は後二人だと見切りをつけて発車する。あの二人は手ごわい何せ満たされることを知らない。だからさっきみたいな手も使えない。どうするんだ、父さん。

父さんな結婚するんだ。ちっちゃくなっちゃったけどな。幸せになるんだ。それにな、今とても幸せなんだ。

話して、しっかり話してタマお姉ちゃんのことも、どうして小さくなったのかも全部隠さないで話して。

まだ。

嫌!今話して!

早いと思、

子供扱いしないで!私もう大人だよ!汚い事だってしてるし、あのねエンコーだってしてるんだよ。

大人は自分のこと大人とは言わない!それより本当か!いつから!毎月仕送りしてたのになんで。

パパもお兄ちゃんと同じこというんだね。好きだからだよ。愛される事が。

そうか。

その反応まで同じ、嫌になっちゃう。

じゃあ話すぞ。お前は僕とタマネの子供でイヨとシイナはお兄ちゃんとタマネの子供なんだ。

そう、なんとなくわかってたけれど、いざ聞くとショックだなぁ離婚したって聞いてたから。ママがいるって大人になって気持ちの整理がついたら会いに行きたかったのにいないんだよね。病んじゃうなぁ。死んじゃうかも、もう何も信じられなくもなっちゃう。ね。イヨ。私たち父親が違うんだって。

でもお姉ちゃんと私はずっと家族でしょ。

うん、これからも家族よ。だよね。パパ。

目から大粒の涙を垂らして、泣きながらも笑ってミツバは付きものが落ちた様な顔をしていた。

おめでとうパパ。

おめでとうぱぱ

と2人の声が重なった。

私も結婚式行くよ。スイスだっけ。

聞いていたのか。

もちろん。耳はいいんだよ私、頭はまあまあだけどね。

ありがとうミツバ、イヨ。

お勉強もしような、どうでもいい大切な知識だからな。

うん!するよ私頭良くなる!

ワタシもするよ〜。

それにしても父さん英語上手いよな。担当さん外人さんだろ見る人が見りゃどっちも英語圏の人って勘違いするレベルだぜ。

そうか。ありがとう、照れてしまうな。

ソウ、ナンデスヨ!コノヒト英語トッテモ上手ワタシネhappy

前途多難だ。でもこういうのもアリかな。

これは式の後のなんでもない日常の話

結局担当さんは国に帰り形だけの結婚となったが幸せそうなパパを見てると私も自然と幸せな振りが出来た。

パパ本当可愛くなったよねえーあのさ今から服買いに行かない?私、お金はたんまり持ってますからねぇ。

私も行く〜。

あらイヨもくるのね。シイナ達は、行かないか、じゃ行こうパパ。

ああ、車はパパが出そう。

乗れるの?

どうだろう

乗れなかった!!足が届かず!!残念!!!かわいいね!!

ごめんよ2人とも免許証はあるんだがな。不甲斐ないばかりだよ。まったく。

いいよ、いいよそんな遠くでもないしさ、こっちの方が友達って感じでいいじゃん。

そだねー。

でもさ、パパいくら便利でも買い物にランドセルは無しでしょ。

そうか、つい便利でな。

今日はしかたないからそれで行くけど次からは気をつけてよ。最近不審者だっているんだからね。小学生を狙った殺人鬼だよ。

ああ恐ろしいな。僕も今は小学生だ気をつけるとするよ。

殺人鬼なんて見てもいざことに及んだのをみないと信じられない。噂になってる奴らは普通の人となんら変わりないからな。

パパ、こういうの好きだからなぁ言わなきゃ良かったかな、心配だなぁまあ大丈夫か。今は保護者だけど保護される側だし。

パパ、これにあうんじゃない。

これ腹寒くないか?もう秋というか冬だろう第一小学生でこれはなんていうか破廉恥だろ。

えーストリート系のファッションだよ。流行りだよ。かわいいよ!

やだ。寒い。あいたた、すまない腹が痛いので少しトイレへ行く。

うん、イスにでも座って待ってるね。行こイヨ。

うん。

最近頻繁に腹が痛くなる。小さいから流石に妊娠の線は薄い、なんて楽観的に考えていたがまさか、な。いやいや小学生だぞ?そんなわけがないだろう。明日にでも病院に行こう、きっと大丈夫。大丈夫。うぅ。苦し。死ぬ。

腹のものを全て便器にぶち撒け、腹をさするまだ腹のむかつきはおさまらない。不安だ。だけど娘達を待たせている。早く戻らないと。口を濯ぎ、エアーで手を乾かし服屋に戻る。

すいません。連れはどこ行きました?

あちらの椅子に座って待ってらっしゃいますよ。

ありがとうございます。

ごく当たり前にお辞儀をしてお礼をする。所作もすっかり前とは見違えるほどだ。

少女然としている。咲くような笑顔も板について、眉間のシワも薄くなった。

お嬢さんなんて言われても後ろを振り向く事も少なくなってもう、女の子みたいに振る舞ってしまおうかとすら。ダメだ絶対にそれは。そんな事をすればもう僕は僕でいられなくなる。ダメだからな絶対だぞ。こらえろ僕、がんばれ。もし妊娠だったとしても。

お待たせ。

もう遅いよ!何してたの?

ちょっと考え事をしていてな。父さんお腹に赤ちゃんがいるかもしれないんだ。

えっ。え。かっかか、考えすぎだよー。男でしょ〜軽ーく、いこーよ。

今は女だ。妊娠もするさ。あのな、落ち着いて聞いてくれ父さんな産もうと思ってる。

落ち着くのはパパの方だよ。ね、今からでもいいから近くのクリニック行こ。ね。予約はいらないから。

そうなのか詳しいんだな。

い、いや〜動画で知っただけだよ。さ、行こ。

ああ。

2人は結局服を買いに来たのに一着も買わずに手ぶらで店を出て。駅の方へと歩きだす。何か忘れている事なんて気にも止めずに。

お姉ちゃーん、パパ〜どこ〜私のこと忘れてるよ〜影が薄いからってひどいよぉ。うぅ。

お嬢ちゃん、どうしたんだい?一人でお買い物かい?おじさんが一緒に探してあげようか?肩車もしてあげよう。ほら、おいで。

うん、ありがとうおじちゃん。

おじさんは君みたいな小さな子供の味方だからね。

パパ大丈夫?

ああ、なんとかな、だけど痛みは全然引かない。

電車乗れる?

何とか。何駅なんだ。

大丈夫、一駅だよ。大丈夫だからね。きっぷ買ってくるからここで座って待ってて。

一人になると意識が飛んでいってしまいそうになる。吐き気と頭痛と、あと不安とで。1人じゃなくて良かった。と、あれ、そういえばイヨがいない。だけどそんな事を考える余裕もあまりない。

パパ〜きっぷ買えたよ!どうしたの?

イヨがいないんだ。

大丈夫でしょ、あの子力強いし家くらい1人でも帰れるよ。後で謝ればいいって。

そうか。それならいいが。

それより今はパパを何とかしなきゃだしね。

そうだ、な、あり、がとう、、っ

ついに意識が飛んで消えた。呼吸の真似事、出来損ないな呼吸とドロドロとした胃液を吐きだすばかりで意識はこれっぽっちも戻らず目は半開き、口も。目からは涙がこぼれ次に起きるのは病院のベッドの上だった。

消え入りそうになりながらも娘の必死さは覚えている。

パパ?パパ、しっかり!大丈夫?救急車呼ばなきゃ、どうしよう。すいません誰か救急車呼んでもらえますか!私ケータイを持っていなくって。ありがとうございます。お願いします。

検査の結果なんだけどさ、やっぱりいるって

赤ちゃん。負担になるかもってお医者さんが。パパ、骨盤が小さいらしくって。堕した方がいいって言ってたよ。パパ。命も危険だってまだ子供の体だからまだ産めないって。言ってた。

そうか、帝王切開でもだめか?

それは傷が

覚悟はできてるさ

覚悟、していたつもりだった。だが本当の地獄はこれからが始まりだった。入院生活はやる事がない、彼女は暇つぶしの天才だからそれは苦ではなかったという。

宇宙

すっごーい浮いてる!浮いてるよー!

ここはどこ?

宇宙ですよシイナ様。

え!宇宙私今宇宙にいるの。息できてるよ宇宙なのに。

それはワタクシたちがいるからですね。ほら聞こえるでしょ宇宙スズムシの声が。

リーンリリリーン

宇宙ってスズムシいるんだ。うん、ほんとだ綺麗な声。

横目に地球を映す。背後からは月光を浴びてしばらく呆然と地球を見ていた。

地球って本当に青いんだね。私、初めて見たよ。

爆発させることも出来ますがされますか?とスズムシが言う。

そんなの答えはもちろんYESだよね。

じゃあスリーツーワンのワンでスイッチ押してください。いきますよー。

3.2、ポチ。あっああああああああああああああああああああああああああああ!!??!

ドーン、2060年地球滅亡。

さようならみんな。これじゃ私は宇宙人(?)だね

ちょっと〜早いですよーまだ人類滅んで無かったじゃないですかあ、ここでの1秒は5億年なんですよ!勿体無い。怒られるのは私なんですからね。

それよりさ、あれ、なに?

あれは隕石ですね危ないですよ。

避けてください

えっ

うわ、っぶなッ!!

スズムシー!大丈夫?私は大丈夫だけど。

心配ご無用です。ほらこの通り沢山いるので。いくら死のうと一匹でも残ったら平気です。

そっか。良かった。あのさ私甘いもん食べたくなっちゃった。なにかない?

スズムシは蟻のように星のかけらを集めてふわふわ浮かぶ隕鉄のお皿の上に乗せた。カロ、と子気味いい音を立てて重力をまとった器に次々に星々がそそがれる。それはまるでビックバンのようにも、流星群、はたまた夏祭り最後の花火のようにも見えた。

綺麗、これ私が食べちゃっていいの?なんか悪いなぁ一粒一粒が惑星とか銀河なのかな?銀河食べるのなんて私初めてだよ!!

大丈夫ですよ。シイナお嬢様。そのどれもが短い死を待つだけの星々です。お嬢様に食べてもらえて光栄でしょう。

思ったのだけど、私ってさ、今大きくなってる?星食べるってよく考えなくてもおかしなことでしょ。

ずっと気にしていたことをやっと聞けてシイナはスッキリしただろう。答えが何であれ悩みは一つ減った。

それはもう育ち盛りだからですな。今なら太陽でだって焚き火が出来ますぞ。ワタクシはいわゆる飛んで火に入る夏の虫になりたくないのでゴメンですけどね。行くんならお一人でどうぞ。宇宙の移動は水中と大体一緒ですからね。

じゃ行ってこようかな?お皿も持ってっていい?

いーや、お皿は置いてった方が賢明かと、宇宙戦と間違われますと面倒ですからね。なんせ最近の宇宙船は隕鉄でできてますから。スペーススピードメーターで速度超過の切符貰いたくないでしょう。宇宙監獄への片道切符ですよ。ワタクシたちもさっきお皿取ってきた時ヒヤヒヤしましたもんね。ねー!みんなー!

そうだねー(スズムシ一同)

それじゃ行ってくるね〜!帰りってどうすればいい?帰りのことは何も心配いりませんよ。その時になればわかりますから。

シャカシャカ、リンリンと歌うスズムシに別れを告げる。

そう、ありがとうスズムシ。少しの間だったけど楽しかった。また宇宙の果てで会おうね。それじゃ。

お嬢様のエレクトロニックなバタ足はそれはしなやかで、すぐに第一宇宙速度を超え、加速し続け、後ろを向いてフッと笑みをこぼされると今、自分が恋をしていたことに気づいた時にはもうワープされており何万光年先だろうと思いを巡らすことしかできない。虫である、魂すら散り散りになってしまった自分がもどかしくなった。

あれ、太陽思ったより小さいな。いや私がでかいのか。

地獄の業火たりえる火の玉も、イカロスの翼を剥ぎ取る獄炎も彼女の前では電気ストーブと相違無かった。それほどにここでは彼女は強い。

でもあったかい。毛布が欲しくなるねこりゃこんなことしているとスケールの大きいかぐや姫にでもなった気分だよね。全く。

何かパチパチと聞こえる。ポップコーンや銀杏を弾けさせたような拍子の良い音と香ばしい香り、すぐにそれが目の前の太陽からなっていると、信じることになる。

流れ星が我先にと太陽に吸い込まれていく。

あれは星の終わりよ。

気味の悪い喋るナメクジがこちらを嗜めるように覗き込んでくる。その伸びる目玉をニョキニョキ動かして。小さな瞳には確かな知性が輝いている。

うわっなに?!

あら、ごめんなさい。こんな姿で失礼するわね。綺麗でしょうアレ。私もお気に入りなの。どの星も何かしら生き物がいるかもしれないのに何も知らない太陽に食べられちゃう。なくなった星のことなんて誰も、しらないし気にしない。だから好きなの。私だけ一人占めだから。でも今は二人占めねかわいいにゃんこさん。

そうだね。私も好き、線香花火みたいだよね。なんか。儚い。夏の終わり感じちゃうなぁでも宇宙に夏はないし、星の人たちにとっては大惨事で世紀の終わりだけど。

ふと自分が意図して滅ぼした青い星のことを思い出し。涙が溢れそうになる。

私、生きた星まだ生きられる星をおもちゃみたいに壊しちゃった。暮らす人のことなんて全く考えず遊びで。

でも死にかけの星だったんでしょう。

あと5億年で滅ぶって言ってた。

あなたはいいことをしたのよ。5億年のうち4億年は地獄だわ、終わらない冬よきっと。その頃にはまともに水だってないもの。大丈夫。滅んでも死んでもまた生まれ変わる。今の私みたいにね。

でも、でも。

いいのよ思い詰めなくて。いまは私と楽しいことだけを考えましょう。ほら息をゆっくり吸って、吐いて〜。吸って、吐いて。

ーー落ち着いた?

うん、もう大丈夫落ち着いたありがとう。カタツムリさん。

どういたしまして。

あなたもなの?

何のことかしら?

いっぱいいるの?

ああ、あなたあの残機バカに会ったのね、あんなの特例よ、イカれてる。普通意識が散り散りになって宇宙の藻屑になるもの。だから私は今の私しかいないし、終わりがある。あのバカは永遠が好きみたいだけどね。

知り合いなんだね。スズムシさんと。

宇宙のどこにだっているからね。あいつ、たまに暇つぶしに話しているわ。それにあいつは宇宙一の有名虫よ。知らない人なんて居ないわ。そう言えばあなたの名前聞いていなかったわね。私たちきっといいお友達になれるわ。きっと。私から名乗るわね。なんだか恥ずかしい。んうん(とかわいい咳払いをして言った。第一カタツムリに咳払いができるかはわからないが)私はマリア。

私はシイナ。えっと。改めて、よろしくね。マリア。

ええよろしく。

シイナはこの上品なカタツムリとならいい友達になれそうだと心から思った。もっとこの子のことを知りたいとも。この宇宙巡礼の久遠の供になってくれればどんなに幸せかと。

あの、さマリアってさカタツムリになる前って何をしていたの?

うーんあまり前世の事は覚えていないのだけれど。ああ、あの鐘の音だけは覚えているわ。

巫女さん?シスターかな?鐘って言ったらそうだよね。

そうだと、いいわねぇ。

そうマリアは生前は娼婦だった。ただそんな事を子供に言える訳もなく仕方なく嘘をついた。ただ、金のない浮浪者にとって彼女は聖母のようであった。マリアは日銭を体を売って稼ぐその日暮らしで、帰る家も家族も無かった。霧の町ではそんな事珍しくもなく、同じような女性たちの間では男の取り合いが頻発した。そんな時、同業の間である一つの恐ろしい噂を聞くことになる。あのホワイトチャペルの殺人鬼の噂を。

マリアは不謹慎にも喜んだ。同業者が減れば自分のところに客が来る、と。そんな都合のいい話は無かった。増えるばかりか減るばかりであった。男たちはジャックの噂を怖がり女を買わなくなったのだ。ますますマリアの暮らしは厳しくなった。もう直ぐ長い冬が来るのに蓄えもない、マッチ売りの少女にでもなったようなつもりだった。マッチすらないのに。

そんな時マリアは珍しく、上品な身なりの男に買われ、恋をする。それは男も同じでお互い一目惚れだった。そのまま二人は家族となり、二人の子供を孕った。双子は無事産まれ、名前を先に生まれた方をソニー、後からのをビーンと名付けた。やがて三人目も産まれて3ヶ月経った夜頃、居間からぴちゃぴちゃと嫌な音が聞こえた。行ってみると二人の息子たちが赤子をさらに赤く染め上げていた。マリアは息子たちを直ぐそばにあった肉切り包丁で斬り殺すとその日のうちに首を吊り自殺した。遺書もなく、突然の自殺だった。夫は死体で楽しんだ後、次の妻と保険料を取りに行った。これが生前、死の少し前のマリアだ。こんな事言えるわけもないしあまり考えたくもない。今目の前にささやかな幸せがあるのだから。

次、どこ行こうか。

あ!スズムシさん、来てたの!?

はい、太陽の放射線が平気な地域ですからね。この辺り。

ふん!ひ弱ね!スズムシは!

君だってスペースマイマイカブリにガブリされたらひとたまりもないじゃあないですか?違います?

それはそうだけどこの辺りには居ないわ。カタツムリ居なくて餓死でもしているんじゃないかしら。その方が私はいいんだけど。

餓死なんかするもんか!!あいつは原子エネルギー炉で動いてるんだぞ!不死身だ。

じゃあ何で私たちを食べるのよ!

習性だ!美味しいからだよ。

二人ともやめて、スズムシさんも。取り乱しすぎ。マリアも気持ちはわかるけど落ち着いて。ほら二人とも深呼吸をして。はい吸って〜吐いて〜吐いて〜また吸って。どう落ち着いた。

落ち着いたわ。

落ち着いたよ。すまないね。

じゃあ行こう。次は私ブラックホールが見たい。それこそ1番ポピュラーな星の終わりでしょう。

ワタクシは遠慮させていただきますね。ブラックホールも我々には毒なのですなんせ我々、軽いのでね。そこの軟体動物と違ってネチョネチョしていないので。

ネチョネチョって失礼しちゃうわね。私これでも女性なのよ。いやらしいじゃない。

女だからネチョネチョに慣れてるだろ!

なによ!やめて頂戴、あなたちょっと最低よ。

ほんと今のはないよね。

ねー(ナメクジと猫)

そうかい、二人で行けばいいさ。僕は絶対行かないけどね。

やっぱりおかしいよスズムシさん。別人みたいになる時があるよ。

ほんと、すみませんね。ワタクシ歳でしてたまにこんな感じでおかしくなるのです。

半分不死身も大変なんですね。

大変ですよそりゃねこんなたくさんでも意識は個ですから平和ですけど退屈なものでね。気が狂いそうになります。実際今狂っていますけど、まだ大丈夫でしょう。それではお二人ともまたどこかで。

カタツムリのマリアは変な顔をしている。納得いかないような、なんとも言えない顔。まあそれがわかるのは同じ境遇の者だけだった。二人いってらっしゃい。良い旅を。

ずいぶん来たね。マリア。ん?大丈夫?寝てた?

いえ、大丈夫よ、そうねこんな遠くまで来たのは初めてよ。太陽系のずっと外にいるのよね。

もうとっくにね。途中何回かワープしたから太陽系にはまあ、二度と帰れないね。まぁまず帰ってもそこは私たちの知らない場所だろうけど。

そうね、なんだか寂しいわね。

そうだね。

あ、アレじゃないかしら?ブラックホール

私たちいい友達になれたと思うわ。あなたはどうだっかしら。また会いましょう。次は人間同士で会いたいわね。

光すら飲み込まれてるよ。

太陽の比じゃないね〜。あれ、マリア?どこ行っちゃったの?今さっきまで確かに肩にいたのに?

そのままマリアは黒い穴から帰っくることは無かった。シイナは泣いて泣いてその涙が惑星、いやブラックホールすら飲み込んでしまいそうなほど泣いた。初めての友達だったから、幻でも悲しいものは悲しかった。

そうして、途方のない時間が経ったころ。変なものを見た。

あれは何?

この世界の歪みだよ。

スズムシ!!来てたんだ

どこにだっているさ、なんせ僕数だけは多いからね

一匹いたら100匹いると思えっやつだね

ゴキブリなんかと一緒にしないでよ

あれ?前の子と口調が違う

まえのは僕の曽祖父だよ

執事みたいでかっこよかったのになぁ。

主人格(リーダー)が変わると変わるんだ。こればっかりは仕方ないよ。僕らの寿命は2.3年だからね。

ま、いいけどね。それより鳴いて見せなさいよ。流石にそっちは変わりようがないでしょう。

リーンリリリリ〜ン

うんばっちり変わってる、でもよくなってる。

そりゃね、3代分ですから。

耳馴染みの良い音、変わってしまったけど良くなった歌声を聞いてシイナはいい気分のまま、眠ってしまった。

突然、電源が落とされたみたいに目が覚める。

ナーンダ、すっかり朝じゃない。やっぱり全部夢だったのね。長い夢だった。起きたのは雨がよく降った後の朝だった。外の紫陽花の上で乗ったスズムシが鳴いている気がして何だか懐かしい気持ちになってお寺の鐘の音もいつもより頭に響いて離れなかった。

2人の通学路

それじゃ行こうかイヨ

いってきまーす

いってきま〜す

朝起きて顔を洗って、はいかわいい。なんてつまらない五七五(字余り)を呟き、歯もばっちり磨いて家を出る。イヨと2人で7時半、朝の寒さと太陽の暖かさで板挟みにされる。

昨日まではひとりぼっちの通学路

今日からはふたりぼっちの通学路

嬉しいな〜パパと一緒で嬉しいな

イヨ、学校ではパパではなくチヒロさんと呼びなさい。同級生なんだからな。

それはパパ、じゃなかった、ちーちゃんもだよ、その探偵さんみたいな喋り方禁止ね。

え、禁止。そうか。ちょっと待ってくれスイッチを入れる。(ぎゅィィィん!ロリスイッチ!オン!ブボボボボン!ヘキサゴンッ!デンデンデン!)

全然ヨユーだし〜わたし普通に喋れるよ〜。ほらできてる?できてるでしょ。

うーん。アウト寄りのアウト

がーん、ちーちゃんショック

は?

そっちのが変だよ、ちーちゃん。歳考えようよなんか古いんだよ。

まだ37だが。

きついよおじさんの小学生ロールプレイ見せられる私の身にもなってよ。こんな小学生今いないよ。

なんだと!!いるかもしれないだろう!地球は広いんだ。地平線を見てみろ!こんなにも青白くてしなってる。しなしなだぞ。釣りだってできちゃうかもな!てか綺麗な地平線だな。この地平線写真とったら父さんフォトグラファーザーにだってなれちゃうかもな!!ブハハハハハ!!

地球広くてもさパパのイメージするお子様は日本にしかいないんだよ。見つかるわけないでしょ?頭までガキになったの?

がーん、ちーちゃんまたまたショック

二度と私の前でしないでそれ。

こっちが恥ずかしいし、鳥肌立つから。ほら見てよ。こんなに!ああ!飛び立ちたいできることならこんなTSロリおじさん置き去りにして南極にでも飛び立ちたい。

シベリア!!北海道!!西サッポロ!!ありがとう!

は?

ごめんな、父さんが悪かった。このとおりだ。

頭を丸めて土下座をする黄金比の土下座。あらゆる困難を土下座で乗り越え、連載を勝ち取ってきた魂からの土下座。魂の形すら変化させ肉体にそれを強要させる。心から厭、魂からの謝罪。人はその魂の輝きに一瞬顕現する神を認め、無意識のうちに肉体より先に心が赦している。許さざるを得ないからこそ土下座たりえるのだ。

は?

ねぇそれずるいんだけど!

そうか、父さんのな会社な倒産したんだ。

ねえ、もしかして面白いと思ってる?さっきからつまんないよ。服着てる小島よしおくらいつまんない。何でロールプレイですらきついのにつまんないさっむい親父ギャグ聞かされなきゃいけないの朝から、さっむい!もうやだ帰る!

そうか。悪かった。でっかいどう。

バカ。

ハーバード出てるぞ。

嘘つき。

うん嘘。西サッポロ大学。突然だけど父さんな灯台に住もうと思うんだ。

ほんと!?灯台!?ラプンツェル!?

嘘でーす。騙されてやんの。ププププ

何だよもぉ、またかよぉ。てかそんな大学ねぇだろ!嘘つきちーちゃんって言いふらしてやる〜。全クラスに広めてやるからな。本当だぞ。

会社父さんしたのは本当だぞ。

まじウザイ!どうでもいい。

よくないからな普通。にしても全然学校つかないな。

だって逆じゃん学校。

え、そうなの。

そうだよ。いつ気づくんだろなーって。でもぜんっぜん気づかないからさ〜。

え〜何も〜言ってよ〜!遅刻じゃん マヂ初日から遅刻なんてぁりえなィんだけどぉ

だから古いんだよ、もはや化石なんだよ。シーラカンスなんだよお前のロリは、わかったなら学校向かうよバカタレ

あ、キレた。怒るなって〜シワ増えるぞ、ほらほらなぞってやろう。顔の皮だって垂れちゃうかもな。

なぞんなし!ついでに撫でんな。くっさい!

え、父さん臭い?臭い?

臭いドブの匂いする。ドブが形を得て歩いてるレベル。ドブの妖精、人間じゃない!人権剥奪レベル。今すぐ人権返納して!!

そこまで言わなくてもよくないか?流石に父さん傷つく〜!しくしく、うぇーんいよちゃんがいじめるよ〜!

ああもうむかつく!むかつく!

え、ごめんってな許してくれ普通にするからさ無理のない範囲で子供らしくするから、な、な?見てろよ僕の子供らしさを。

な、なに!100、300、700、2000幼児力む、無茶だ。10000、12000、23000ま、まだ上がるのかこの私ですら8000が限界だと言うのに。

どう?私かわいい?

うっ、空間が歪むほどの幼女パワー!養女にしたい!養いたい。なでなでしたい!!なに、まだ止まらない。まだまだ上がっていく99999だ、か、カンストだと!?未知数だ。何という可能性の獣!少し気を解放しただけでこれではこちらが持たない。おーい抑えてくれ!これ以上はお前自身も危険だ。成人男性に戻れなくなる!

いいんだ、もう、終わってもいい。

儚げだ。美しい。って、あ。学校着いた!間に合った〜。行くよちーちゃん。ほらほらオーラ抑えて抑えて。

うへー疲れたー。

あんなにはしゃぐからだよ。朝から元気だねちーちゃんは。

うん!私元気いっぱいだよバク宙だってできそう。

おいバカ。

チヒロ(パパ)は死んだ。享年は37+8歳だった。参列者は隣から別嬪さん別嬪さん一つ飛ばさず、ん?何?カニ!!!カニだ!美人に挟まれるカニ!う、羨ましい〜!!天井にはウニ!あああれは死んだ魚の煮付けをたべるJK、それを叱るハゲ坊主なんか言ってる「非常識だとは思わないかね?葬式で死んだ魚を食べるなんて、食べるならこのシュークリームにしなさい。一つからし入りだよ。」だれ?!お前らは誰なんだよ。お坊さんじゃない綺麗なハゲ!?怖いよカニのいる列全部ハゲだよ!あ!ウニ!ハゲの頭の上に優しいウニが、な、泣いてる。ああ優しいから刺さったの可哀想で泣いてる。ああハゲどもも泣いてる。これが巡礼?ちがうか。あれは、夜叉!マズイ!魂の精算が始まっている!チヒロを起こさなければ。

おいチヒロ朝だぞ!ほら起きろ。

目をぱちくりさせチヒロは棺から飛び起きる。異様な光景泣き喚くカラフルなハゲ頭。

夜叉はこっちをにらんでいる。

あなたはだあれ。

それは君がよく知っているはずだ。

走れ!あの大扉から外に出ればまだ蘇生できるはずだ!それじゃあもうバカなことするなよ相棒。

ありがとう、もうひとつの僕。さようなら。

起きて。起きてよ。ちひろ、あ、おきた大丈夫?

痛いのは痛いが大丈夫だ。血は出ていないし生きているからな。

にしても変な夢を見た。意味がわからないのに覚えている。変な感じだ。白昼夢って言うのだったかな、多分そう。走馬灯は走らなかったな。カニは走ってたけど。

今日はみなさんに新しいお友達が出来ます。入って〜どうぞ。

ええっと鈴白チヒロです。これからよろしくおねがいします。はい。

かわいい〜(一同)

浴びせられる視線の熱量で思わず顔が熱くなる。恥ずかしい。相手は子供なのに。

みなさん拍手。パチパチパチパチ。気づいとる人もいると思いますが、いよちゃんの親戚の子です。仲良くしてあげてね。

はい(一同)

1時間目は別の先生の授業なので。それじゃ先生はこれで。さようなら。

いよちゃんの従兄弟なの?ちひろちゃん。私はサラ、よろしくね。

おい、新入りまずはこの俺にあいさつするのが礼儀って1999年から決まってんだよ今なら許してやるあいさつしな。

そんなやつどうでもいいよ。よろしくね。私?私はなつみよろしくね。夜は嫌い。

俺にあいさつしろ!!

厭だね。時間の無駄だ、僕、いや私はお前のことが初めて見た時から嫌いだ。口も臭けりゃ服も臭い。そんなやつとは仲良くするつもりもない。

な、何だよそれ。女でも俺は殴る。澄ましやがって喰らえ!

ヒッいや、やめて。

ちひろちゃんがさっきまでのが嘘みたいに震えて泣いてる。これって先生呼んだ方がいいのかな。

いかないで、助けてサラちゃん。

何やってんの太一!ちひろちゃんが泣いちゃったでしょ。こんなに怖がって、何したの。

パンチする振りだよ。当ててない。

でも怖いでしょ危ないでしょそんなことすらわからないの?

わかるよそれくらい。ごめんなちひろ俺素直じゃないからさ、良かったら仲良くしてもらえるか?

す、少しは、きっ君も良いところ、グスあるじゃないか。まあ僕も大人だ仲良くしてやる。

2人は熱い握手の後抱擁を交わした。キスはしなかった。太一の心に一輪の花が咲き、サラには密かに嫉妬の根が落ちた。

僕の二度目の学校生活は始まったばかりだ。

ある日の放課後学校に残り作業をすることになった。

小学生になっても変わらず仕事を振ってくる私の妻は恐ろしい、鬼嫁だ。幼女に仕事をさせるなど労基以前の問題だ。と前にいったら息子たちに勝手に小学生ロールプレイしているのは父さんだろうと言われてしまった。まあ、それはそうだ。なら仕方がない。か

何してるの?チヒロちゃん

誰だっけか、えーとサラ、じゃないなつみちゃんか。うん、なつみちゃん。あのねおはなしを書いているの。

えーどんな?おはなし?

恋愛のお話だよ。ただちょっと特殊でね。女の子同士の恋愛何だよ。

えー気になる!恋愛私大好きだよ!私今好きな男の子がいるんだよ。あの秘密だけどね。コショコショショ。

耳打ちはこの体になってから初めてだった、突然のそれにフッと足の力が抜ける。よろける程度で済んだ。脳が次の言葉を出力する。

何、太一とまさのりと雄二が好き?そうなんだ。太一はあんま、おすすめできないな。あの性格だし、ガキすぎる。

そうかなぁ、でも告白だけはしておきたいんだ

やめとけ。何なら私が告白されてやる。キスまでなら許してやる。ほら。

ちひろちゃんッ。ありがとうねでも私女の子より男の子と恋、したいんだぁ。だから、協力してくれる?

なつみちゃん。協力するよ応援だってする。

じゃあ太一くんに告白してくれる?ちひろちゃん。ちひろちゃんなら絶対成功するから。ね、行ってみよ。

なんで僕?!嫌だ僕あいつ嫌いなんだ。

私のことは?私のことは好きなんでしょ?ささっきから顔、赤いよ。

好き、大好き。一目惚れだ。

そう、ならできるでしょ。行ってきてくれないと私ちひろちゃんいじめなきゃいけなくなっちゃうなぁ。嫌いにもなるよ。見かけるたびに石だって投げる。嫌でしょ、なら突っ立ってないで行って。

う、うん

僕最低だ、あいつ嫌いなのに、なんでこんなこと。

教室に行くと太一がまだ残っていた。いやに汗ばんでいてむんむんとした湿気が教室を覆って離さない。僕が動けないでいると太一が口を開いた。

なんだよ、ぼーっと突っ立って。

緊張で何も言えない。告白するのなんて初めてじゃないはずなのに。それも嘘の告白に、こんなに緊張するなんて。はぁはぁとお互い肩で息をする。自然だった。そうすることが自然だと思った。僕は太一にキスをした。告白よりも先にキスをした。こいつの知らないようなキス、だけどここまで。

この先、まだ太一知らないでしょ。

と悪戯な表情で挑発する。飛んでくる太一の拳、チキチキと音を立てるカッターナイフ、誰もいない教室、鍵のかかった教室。お前が悪いんだからな。と何度も聞いた言葉。デジャブ。余裕がなくなり恐怖が波となり僕を押し流して、私にする。

ムカつくんだよ。お前。小さいくせに生意気で自分の方が上って顔で見下してきやがる。そうゆうやつをめちゃくちゃにするの、俺、大好きなんだよ。お前のことは大嫌いだけどな。

太一はチヒロの腕を掴み。机でテコの原理を使ってへし折った。腕からは解放された白く細い骨をつたい血液が流れる。チヒロは声を上げたが誰も助けに来ない。なつみちゃんだって来なかった。明日は土日で休みだった。

それから太一がどこかに連絡を飛ばした後地獄は始まった。教室で気絶するまで殴られて、気がついたのは知らないボロアパート。知らない男三人と太一、私はもう助からないのかなと思うと涙が垂れ落ち、たたみを濡らした。畳み掛けるように、男の拳が腹の真ん中あたりにもろに入り胃の中身を全て吐き出して、出した物を食わされる。水もたくさん飲まされ腹を押さえられ吐く、水だけしか出なくなった頃飽きてきたのか虫たっぷりの缶缶、その中身を全て口に入れられ、飲み込むまで頬をつねられ飲み込んだらまた腹を押さえられ吐くことも許されずまた呑み込む、繰り返しそうした後首を絞められ、意識が飛んだ。その間何があったのかはきっとここには書けない。直接的な表現になってしまうが女の子が誘拐されてされることなんて大抵一つだけだろう。

僕が次に目を覚ましたのは病院の硬いベッドだった。あれから3日は確かに経っていた。腕には確かな痛み。もちろんそれ以外も、足首と肩が脱臼していた。口の中もいくらか切れていて変な味がした。首には痛ましい跡が残っていた。

薬の影響か、また眠った。

むすめの声で目が覚めた。

大丈夫だった?パパ?ごめんね、イヨが先に帰っちゃったから。怪我したんだよね。

宥めるのには苦労した。そのあとからなつみちゃんがはいってきた。目を晴らしてないている。ごめんなさい、私、脅されていて。怖くて。

大丈夫だよ。

大方、あいつらに僕がされたようなことをされたあといいように使われたんだろう撒き餌として。監禁事件では、度々起こりうる事だ。みんな無事でよかった。

奴らはどうなった?

捕まえ、たって。さっき警察の人が、みんな捕まえたって。

そうか。3人とも捕まったんだな。

3人?二人って言っていたよ。

まずいが、今の僕は大人ですらない。犯人逮捕の為に何もできないのは悔しかったが何かできるような事もなくて、痛みと悔しさで唇を噛み締めた。

血、出てるよ。

またなつみちゃんにキスをされる。やっぱり僕、この子のこと好きだ。どんな境遇かわ知らないが幸せになってほしい。

私は物心ついた時からおばあちゃんと2人暮らしで家族がよくわからなかった。道徳の時間だって1人窓の外を見ていた。飛行機雲でも見ていたほうが救われた気がしていたから。家族のいない私はクラスでも浮いていた。そんな時太一に誘われて、嬉しかった。友達ができたのも、友達の家に行ったのも初めてだった。太一の家は築30年ほどの安いアパートだった。室外機の上では猫が寝ており、塀の穴からは光が漏れていた。中に入ると男が2人いた。そこで私は守られていたことに気がついた。そこでは太一の立場は乞食の子供と変わらなかった。二人の絶対王政で私は生贄のような、奴隷のような扱いだった

。太一もそれは同じだった。男の子だったから私より酷くは無かったけれど。そこは地獄だった。

チヒロちゃんが目を覚ましてくれて良かった、覚ましてくれなかったら私も人殺しだ。そうしてチヒロちゃんの隣で安心して眠った。

こんなことになって都合が良すぎる話なんだけどね。もう一度私と友達になってくれる?

僕は一度たりとも友達を辞めたつもりはないのだがね。

チヒロちゃん

なつみちゃん

私たちはサラちゃんの心配そうな足音が聞こえてくるまでキスをしていた。

病室内の空気が二人の吐き出した息と混ざり合い、なんだかまだ青い蜜柑のような香りがした。今まだ7時だった。その日が退院の日だったからそのまま3人で帰ることになった。

何も知らないサラちゃんの無垢な青い瞳に映る私たち二人はきっと汚れきってしまっている。下を向いたままの二人と嬉しそうに短い金色の髪を揺らすサラちゃん、その姿がひどく尊いもののように見えた。

もー私忘れてるよ〜とイヨが息を切らして走り寄って来る。4人揃ったそこは無敵の城砦であらゆる邪気すら寄せ付けないようだった。あのさ、秘密基地作らない、と4人の中の誰かが言った。海に行こうとも誰かが言った。秋風は頬を撫でて私たちは帰路についた。寒いねって笑いながら。

くらやみ

ここは?

僕は暗闇の間と呼んでいるよ

何虫?ミイデラゴミムシ?マイマイカブリだっているよ。うわっいっぱいでてきた。

スズムシ!!スズムシ!スズムシだよ!ゴキブリでもない!誇りと野望を抱えたこの羽が見えないのかい美しいだろう今にも誇りの重さで崩れ落ちそうだよ。ちょっと待て君マイマイカブリがいると言ったかい?マズイ敵襲だ。総員配置につけ、敬礼はいらない。あのゴミムシを退治しろ。

大軍は自分よりも5倍は大きい、虫に向かっていく。敵の背中にへばりついた彼らはそのまま音を鳴らすための羽根で力強く飛び、マイマイカブリを近くにあった底があるかも分からないような暗くて寂しい穴に放り込んだ。圧倒的な勝利だった。ピリピリとした空気が流れ、少し遅れてマイマイカブリの絶叫が聞こえる。そこからはパーティだった。どんちゃん騒ぎのお祭り騒ぎ、私はここにいてはいけない気がした、嬉しそうな幸せ真っ只中のスズムシの音色が私を居た堪れなくした。帰ろうと、踵を返していつのまにかそこにあった扉に手をかける。とスズムシの子供が耳元で囁いて来た。もう帰っちゃうの、とうん、なんだか疲れちゃったと答える。帰るなら扉はそれじゃないよとスズムシの子供が言う。あっちだよと指をさしているつもりなのだろうけどスズムシの手は小さすぎてよく分からなかった。辛抱ならなくなった心優しいスズムシボーイはついて来て、と羽をパタパタしながら案内をしてくれるようだ。

お姉ちゃんは名前、なんていうの?

ミツバ。スズムシ君は?

僕はカンパネラ。いい名前でしょ。

うん、綺麗な名前だね。

暗闇の中を一人と一匹は歩く。ジャリジャリと足元が砂になっていることと登り掛けの青白い月明かりに気がつく、と暗闇の間を抜けたのだなと理解してここがどこか知りたくなった。

ここはね、無の砂漠だよ。何もない、ああでも月はあるね。でも月は目印にもならない、それどころか見てたらいつのまにか迷子になっている厄介者だよ。

そんなこと言うなんて酷いじゃないかぁと月が低いビリビリと頭に響く声で、言った。それに応えるように砂粒たちもそうだそうだと言っている。

じゃあどこに行ったらいいのさ!とスズムシ

知らないよぉ!僕の事神様か何かだと勘違いしていないかい?行ってもらわなきゃわかんないよぉ。

あの私たち、お家に帰りたいんです。

僕は家出して来た家出スズムシだから。君だけだ。僕はもうどこにも帰るつもりもない。

お家ってどこだい?わかんないかぁ。形を教えてくれたら探してあげるよぉ。なんせ僕は46万キロ先にいるからねぇ。

えっと、黒い屋根に、白い壁、庭先には朝顔とポインセチアがあって、

うん、わかったよぉ

お礼をして月の知らせをまつ、その場にじっとしていられずそのまま砂を踏み締める、踏むたびにギャーだの痛いだの言っている気がしてあまりいい気分はしなかった。

おーい、二人ともぉ

月が笑顔でこちらを見て来る。顔もないのにすぐにそうだとわかった。だけどそれが苦笑いのような慰めの笑顔な事も分かってしまった。

うん、なかったよぉ。この星のどこにもそんな場所はやっぱり無かったよぉ。でも、このまま北に向かうといいよぉ。街があるからねぇ。

言われた通り二人は北へと向かった。ジャリジャリしながら歩く、もう砂も喋らなくなった。道もやがてコンクリートになった。

案外近くにあったんだね、街、ほらあそこ。何で今まで気づかなかったんだろう

きっと蜃気楼のせいだよ。あと暗闇の。

そうかなぁ

そうだよいこ。

街に着くとそこは今までとは違い光と喧騒に満ちていた、だけどここにも人工的な光ばかりで、太陽は無かった。

ひー男の人しかいないね。僕らは小さいから気をつけないと。

ミツバはその男たちの顔をみんな知っていた。あの人も、あの人もあの人も自分にお金をくれて対価を払った人たち。力ではどうにもできない事を少女は知っていた。すぐにその場から逃げ出したくなった。人混みを抜けると、道に飲み込まれそうな穴が空いていた。ゴミムシを捨てたのと同じ穴。その穴に男たちを落とせばスッキリするだろうなと思ったがそんな事も出来ず、その街を後にした。

相変わらず君は街を出るのが早いねぇまあ今回ばかりは仕方ないよね。あんなむさ苦しいところ僕だって嫌さ。どうしたの?ミツバ

なによ、虫のくせにわかったようなことを言って。どうせあなただってさっきの街の奴らと一緒なんでしょ!どうせ体が目当てなんでしょ。もう!嫌い!近寄らないで。ヤダヤダヤダヤダ気持ち悪い気持ち悪い。

どうやって、僕と君でそんなことするのさ、第一僕は2センチもあるかないか何だぜ、無理だろ。そりゃ君はかわいいさ、でもそれはそれは、うーん何だろういいこと言おうとしたのにな、何も浮かばないや。とりあえず、これからもずっと友達でいようね。

なんか昔の知り合いに似てて笑っちゃう。ありがとうねカンパネラ。私あなたのこと好きだよ。こんな私と一緒にいてくれるんだから。

と、一番いいところで目が覚めた。「何だよカンパネラって未練たらたらじゃねぇかよぉバカ」

二人は愛していた。お互い子供同士だったけど確かに愛だった。ただ金子君には愛が何かわからなかった。金子君の家は裕福だっただけど家族はほとんどおらず歳の近い家事手伝いを雇っていて、と言っても4歳差だったが。ほとんど家事はしなかった。兄弟もおらずペットも飼わなかった。そして友達もいなかった。試しに作った彼女、それがミツバだった。

彼女も愛を知らなかった、だから身体を売っていた、金子はそれを止めることはなかった。愛は知らないがそれが愛ではないことはわかっていたから焦りもしなかった。何も思わなかった。ただ彼女のいじめについては思うところがあった。だからいじめをやめさせた。簡単だった。いじめの域を超えていてくれたから、その根は学校の外まで広がっていたからそれを刈り取るだけでよかった。だけど、ミツバはいじめが無くなっても夜の男たちを喜ばせ続けた。金子はうすうす愛が何か気づき始めていた。男たちに嫉妬すらするようになった。だけどどうすることもできず金子はおかしくなっていく彼女を見ていることしかできなかった。指を加えたままの日々が続き彼女の口から別れが告げられる。その時金子の心には穴が空いた。金子はそこにあったものが愛だと言うことにやっと気づいた。遅すぎた、穴を埋めたくて彼は女を買った。何度も何度も。だけど彼の穴は広がるばかりで、また今度は心が何かわからなくなった。

ある日ミツバは自殺未遂をする。その事は僕しか知らない秘密、完全におかしくなっていた。幻覚とかも、見えていた。何もないところを指差して怯えていたから、何もいないと言うと矛先は僕に向いて、また私を騙すんでしょと暴れた。傷は今でも残っている。いつでもあの日々を思い出せる痕、愛おしい傷。失って初めて気づくというのは本当だった。僕自身もどこかおかしくなり始めている、もとよりおかしなところはあったがそれはそれで正常だったから。

ミツバが一緒に死んでくれる、と言ってくれた。嬉しかった。死のうと思った。やっとか、ともその時には僕らは付き合っていなかった。友達同士で親友だった。きっと片思いでは無かったと思う。心中ってきっと愛だから。

結局、私だけ死ねずに今日も生きている。彼がいなくなって、でもあまり変わらなくって。寂しいって今のこの気持ちも霧になって消えてしまうと思うと悲しくて寂しい。死にたい私はそこで死んで、無様に足掻く私だけが残って。彼はきっと死にたい私が好きだったから、幸せな死だった。そう自分を慰めて今日も生きている。

獣化

え、えー!お兄ちゃん獣になっちゃったのー!

私たちは満月の時なるから慣れてるけど大丈夫!?

しっぽの違和感すごいなこれ。

そりゃね尾てい骨が何倍にも長なくなってるんだからね。

なんか体が縮んでいる気もする、大丈夫なのか?これ。

大丈夫だよ、筋肉とか骨とかがギュッと凝縮されて小さくなってるだけだから。

ますます不安になるな、それ。

まあ大丈夫大丈夫。でも満月以外でもなるなんて珍しいね。

そうなのか、朝起きたらなってたからビビったぞ。だけどなった虫じゃなくてよかった。

虫なら私殺してたかもね。変身したのが猫で命拾いしたね。

そうだな。ってその首輪はなんだ?後ロープも。

ん?私の、つけてあげようかなって。

息を呑む間もなく首輪をつけられ、抱き抱えられ、僕は今外にいる。てくてくと、歩いているとペットにでもなったような気分で、首輪が苦しい。声を出そうとするも引っ張られるのでだせない。さらに歩くとレジのおばさんと鉢合わせた。幸い僕は猫だった。

あらこんにちは。かわいい猫ちゃんね、おさんぽかしら。

そうなんですよ、触ってみます?

あらいいのじゃあ、遠慮なく。ホーラホラホラホラホラ、ここがいいのかい?そうだぬえ、気持ちぃぃねぇ。ウチュチュチュチュチュ、すぅはぁすぅふぃー!!!はぁ、ありがとうね。はい!いい栄養補給になりました。

はぁ。

ぼんと音を立てて猫は男になる。ミツバはヤッベと口に出しおばさんは恍惚した顔をさらに赤らめると目を半目開いたまま立ち尽くす。連なる山々には赤々と紅葉が燃えていた。肌寒さを守るものは何もなくて冬の訪れを感ずる。

ご飯でも行きます?

咄嗟の言葉はからから回るししおどしのようで場の空気を変えた。

あら、おちんぽ。

と、おばさんが言った。

太ももを上げて僕の股の竜を隠すとHey!!と小気味いい声が聞こえた、確かにそう聞こえた。

実に面白い。

と、後ろから黒いパンツにチャップリンみたいな帽子。男はジェントルマンだった。そして変態だった。変態が2人。

2人は肩を組み、寒空の下あの燃える紅葉と発火元の沈みかけの太陽に向かって走り出し、そして消えた。意味のわからないままの2人は気まずそうに少しの会釈をして一言も交わさずに別れた。

こ、ここは?

教えてあげようか?この世界の裏側だよ。パラレルワールド、いや異世界の方があっているかな。私はここをマイワールドと呼んでいる。なんせ私1人しかいないからね。さっきはいきなり現れて悪かったね。君がマイワールドに見えたもんだからつい、ね。僕はこの世界に自由に入ることはできるのだが、出ることができなくてね。いやはや君がいて助かったよ。露出狂同士仲良くやろうではないか。

あの、帰りたいんですけど。

じゃあ、合言葉を決めようか。何、ちょっとした遊び心だよ。私の方はとっくに決めているよ。楽しみにしていたからね。

ハローワールド。こんにちは世界。

じゃあ僕は、アンダーワールド。地獄だ。

ああ!!あああ!実にいい!君らしいいい言葉だ!それにしよう相棒よ!さらば素晴らしい世界!こんにちはクソッタレな世界。

アンダー!ワールド!

そうして僕は非日常の一部になった。だけど日々は変わらずただドアが開くのを待つばかりだった。

前に言われた通り、僕はスーパーに来てバイトを始めた。おばさんには感謝してるあの時僕には居場所が無かったから。ここのバイトは品出しとレジ、だけどロボットみたいに働いているとなんだかパズルがはまらないようなしっくり来ない感じがする。でもたまに、おじさんが手伝ってくれる。まあ、マイワールドでだけど。そのせいで幽霊騒ぎになってバイトの中で噂になった。

おじさんに一度聞いたことがある。よくそんな力を持っていて悪いことに使おうと考えなかったね、と。おじさんにはそんな考えは全くなかったわけじゃないらしく、それ以上にマイワールドが怖くてただ出口を探していたと言った。出口は不意に現れては消えてしまうそうでどこに出るかもわからないらしい。

まあ、おじさんは人がいいから自由に使えても悪用しなかっただろうけど。

誘拐された少女は飄々としていた。その余裕は強さからくる慢心で、僕はそれをへし折ってやるつもりだ。強さと言ってもそれは心の強さの方だ、肉体的には年相応だろう。手足を縛られてるのに呑気なもんだ。

おじさん?それは何?

何ってご飯だよ?

皿に盛り付けられたのはおそらくおじさんものである排泄物とそれに群がるように盛り付けられたこのゴミ屋敷に住んでいたゴキブリたちで生きている物もいた。

それ、全部食べろ。

声色が変わる。恐怖が空気を塗り替え、私は命令に従って少しずつ、ゆっくりと口を皿に向け犬みたいに飲み込む。何度も嘔吐しそうになりながら、だけどおじさんの目がそれをやめさせてくれない。涙もぽつりぽつり落ちる。

何?泣いてるの??おじさん泣く子嫌いなんだよね。それにさぁ食べるの遅いしさぁ。ほら口開けて。食べさせてあげるから。

反射的に口を閉じる。口が殴られて開く、前歯はいくらか折れていた。ここぞとばかりに流し込まれ、血とよくわからない味がした。

これで家族だね!名前はなんていうのかなぁ?ばっちいお口ではい!せーの。

震える唇で息をするたびに臭気がした。

イ…ヨ……です。ごめんなさい、ごめんなさい食べますから殴らないでください。

うん!!殴る!

僕ね、謝る子も嫌いなんだよ!なんか悪いのはお前だ、って言われてるみたいじゃん。まあ悪いのは僕なんだけどね!ははははは!

「アンダーワールド」

声が聞こえた。よく知った声だった。お兄ちゃん。声を出そうにも出ない。それどころかゲロばかりが溢れて出た。

この世界には汚いものが多すぎる、そうだろう相棒。

そうだ、少年よ。その通りだ。

行くぞ変態共。

おうともさ!!”ハロー!ワールド!”

こ、ここは?

僕も初めて来た時は同じ反応をしたよ。

懐かしいね、全く。

僕をこんな不安定で安全な空間に連れてきてくれて助かったよ。これで幼女を傷つける心配なく力を使える。傷つけるのは意図的じゃなくっちゃつまらないだろそれじゃ。「グッドラック」

おじさんは突然現れた空間の歪みに消えた。

僕は飛んできた果物ナイフとフォークが、頬を掠める程度で済んだ。

これからだぜ。僕の本質は。

ごうごう、音が聞こえる。竜巻だ、それだけじゃない。海からは波が押し寄せ、山々からはドロドロとマグマが吹いている。

何をした! 

何って都合をつけただけだが??まあこれはちょっと盛りすぎたかな。

奴の手には剣が握られていた。僕は獣になっていた。それも百獣の王ライオンに。力の目覚め、にしては唐突すぎる。こいつの力のせいだろう。

ライオンとは大きく出たな!!主人公!!!では私も変態しようじゃないか。さあ見たまえ!ああ触れてはいけないよ、汚れちゃいけないからね、ほら神々しいだろう。そうだとも、「神」だからね。神とライオンなんて何ともそれらしいじゃないか。さあ、神話を始めようか。

人を捨てた変態と獣と成った人間以外その部屋にはいない。

剣は簡単に爪に砕かれ、神は雷の乗った拳を振り上げ、放つ。ライオンは毛皮を焦がしながら奴の脇腹を抉る。神は血に塗れ、地に落ちる。あっさりと死んだ。

何故神は神たり得るのか、それは不滅だからだ。潔白で汚れているからだ。さあ、第二ラウンドを始めようか。

1人でやってろ。「アンダーワールド」

汚らしい欲望渦巻く部屋へと戻るとイヨが泣いていた。

お兄ちゃん。怖かった。怖かったよぉ。

大丈夫だイヨ。もう怖いことなんて無いんだ。お兄ちゃんが付いてるからな。

そうだね、素晴らしい兄弟愛だ。神は好きだぞそういうの。

何?!

神!!

イヨは、足を針で撃ち抜かれ泣き出す。貫通はしていないようで傷も小さい。しばらく荒い息を繰り返して気を失った。

イヨ!?何をした神!!

まあそれは都合をつけただけだよ。

そんなことよりも第二ラウンド、始めようか。

やってやるよ、クソ野郎。

私は神ィィィ!!

雷の嵐で家は倒壊し、それに巻き込まれたものは半焼けの肉塊になった。だがまだピクピクと蠢いていた。

イ…ヨ?

私を見ろ!!主人公!!

もう何もみなくていいんだ。少年。

ぼろぼろのドアを開け現れたのは飛ばされたおじさんだった。

短い間だったが、さよならだ。少年。

「Hello…WORLD」

おじさん、おっさん!!おれ、おっさんのこと何も知らないし、もっと知りたかった。いかないでくれ。

たかしだ。名前

それだけ言って2人の変態は光となって消えて二度と現れることはなかった。そうして街での誘拐殺人の件数は翌年から半分になった。

イヨ!!!

言葉はそれだけで、瓦礫をかき分ける。右腕は千切れかかっている、胸に杭のように木が刺さっている。僕はそれを引き抜き、血が流れ濡れるのも気に留めず病院へと走った。獣の脚力は光よりも早く、一瞬だった。

病院ではすぐに手術が行われて、成功した。嘘だと、奇跡だと思った。僕はポッカリ覗く穴をみていたから。その穴に心臓がなかったから。確かにあの時死んでいたから。

退院も早くて1ヶ月で退院すると、元気に学校に通い別人のように成績も良くなった。

僕らはイヨが助かったことに喜び違和感になんて気にも留めなかった。ただいてくれるだけで嬉しかったから。

赤ちゃん

クラゲみたいにぷかぷかとしたゲップの音、甘くてお湯に入れたら溶けてしまいそうな匂い。赤ちゃんはやっぱりかわいい、些細なストレスとかなんてどうでもよくなってしまうような人に媚を売るあざとい見た目、自分では何にも出来ないくせに亭主関白の男みたいに鳴き声で人を使う。憎たらしい顔に涎や鼻水で汚らしい顔。ほっぺの肉を垂らしてニタニタ笑う。腹が立つ、蹴飛ばしてしまいたくなる。1番可愛がられるのは私じゃないといけないのに。

小さな湯船に浸かる赤ちゃんは死んだことに気づかないまま、死ぬ魚とかエビみたいだった。赤ちゃんはかぷかぷと泡を吐いたら動かなくなった。何も言わない方が可愛いじゃない。私は接吻をして抱きしめた。でも彼女はだらりと腕を空に落とすばかりで抱きしめ返してくれなかった。泣きたくなった。赤ちゃんみたいに、無邪気に。このモヤモヤをかき分けるみたいに。

甘い匂いがする。味はあまり甘くはなかった。ぽちゃぽちゃと床に垂れていて、赤ちゃんは浴室を彩る赤い水たまりになった。白いタイルに赤い絵の具はいかにもな現代美術のようで嘲笑的だった。液体になってもニタニタ笑って、笑って、笑って、まだ笑っている。いい加減そのニヤケ面をやめて。赤ちゃんがもう死んでそれどころか胃の中に住んでいることすら理解しない愚かな少女は愚かに風呂場で騒ぎ踊る。その騒ぎを聞いてパパとお兄ちゃんが風呂に来ると、残った正気を摘まれて胃の中の住人をぶち撒ける。赤くてぐちゃぐちゃとしたそれに混じるまだまだ成長するはずだった噛み砕かれなかった指たちを見たパパは何も言わない、呼吸が速くなり、顔は青ざめ今にもとどめている涙と吐瀉物のダムが決壊しそうだった。電気はチカチカと今にも消えそうで、そんな消えそうな電気にハエがぶつかり死んだ。水たまりに映る私が1番かわいい。

ちひろちゃんはその後からおかしくなり始め離婚してまた結婚した。今度は男の人と。自分が保護者ではなくもう被保護者であることが理解したのだ。それから家族も増えた。連れ後のA君。この青年は誰が見ても好青年というような理想的な男だった。ただ嘘をつくことが得意で人を騙すことに長けていた。それを悪意に任せて使わないが故に好青年なのであった。

ああ君、JKの膝裏でゆで卵を作りたいと考えたことはあるかね。

え?もう一度いいですか?意味わからなくて。

僕は至って正常だよ、その異常者を見るような眼をやめてくれたまえ。目を6つまで増やしてまで見つめないでくれ。

大丈夫ですか?

元気だよ。

頭の方ですよ

聡明だろう。もう一度言うよワトスン君。君はJKの膝裏、あのサンクチュアリでゆで卵を作りたいと考えたことはあるかい。

あるわけないでしょう?病院行きますか?精神科。

僕はね、何も性欲が無いわけじゃ無いんだよ、今みたいな出力が異常なだけでしっかりと人並みにはある。かの快楽殺人者よりは当然ないけれどね。僕もどこかで間違っていたら彼らのようになっていたと思うよ。いつだってね。

そうですね、お義父さん。だからって私の妹にやらせたのは今でも許してませんよ。しかも生卵。茹で上がるわけないじゃ無いですか。人肌は暖かいと言ってもフライパンには及びませんからね。

あああの時は悪かった。背中で焼かれた目玉焼きが食べたかったのだよ。すまないね。

いいから病院行きますよ。大丈夫です今日は検診ですよ。私もお義父さんが心配なんですよ。

そうか、それなら行くとしよう。

自分をシャーロックホームズだと詐称する精神異常者に推理力はこれっぽっちもなく、検診が罠であることに気が付かず、無事精神病棟の一員となった。名探偵ならばこんなヘマ阿片を片手に大麻を吸っていてもしなかっただろう。

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