異世界から来た元勇者の日常

ken

0話

(いつも同じ夢を見る‥‥。 ボロボロになった城の中‥‥、家族や仲間達からは冷たい目を向けられ、一人の青年が罵倒されている。 全てをきらびやかな青年と憎たらしい笑顔を向ける少年に全てを奪われて降ってくる瓦礫の下敷きになり、床に空いた穴に落ちる‥‥。 そんな夢をみて、朝目が覚める。)


「はぁ‥‥はぁ‥‥はぁ‥‥夢か‥‥。」


 日本、東京にある古本の街の一角。 2階建ての建物で一階は喫茶【古書珈琲堂】。 2階は自宅となっている。

 自宅の一室で寝汗をかいて飛び起きる主人公の【鏑木 陸】、彼は元々この世界の住人ではない。 異世界で勇者をしていた。

 朝六時、何時ものように朝にシャワーを浴びて着替える。

 下の喫茶は朝8時には開店しなくてはならないため少し急いで朝御飯を二(・)人(・)分(・)用意しなくてはならない。

 朝は前日の夜にタイマーセットしたご飯と味噌汁、納豆に焼き魚とシンプルな物だ。


「うん。 出来たな。 後は2階のアイツを起こさないと。」


 陸は味噌汁の火を止めてもう1つの部屋で寝ている居候をたたき起こす。


「こらシロ。 そろそろ起きろって‥‥まぁたかよぉ。」


 彼の目の前には銀色の長い髪ときれいな顔して腹を出して寝ている猫耳と尻尾のついた居候シロが寝ている。 しかもだらしなく‥‥。 見た目は可愛いのだが‥‥。


「うにゃ~、あと5分~。」

「はよ起きろぉ。 今日の魚はシャケだぞぉ。」

「うぅ~ん、あと5時間~。 寝かせてにゃ~。」

「増えとるし‥‥。 そうかぁ。 なら‥‥シロの分の魚を食べちゃおぉ~かなぁ~♪」


 そんな意地悪なことを言うと寝てたシロは目をカッ!と開くと飛び起きた。


(食い意地はってるけどかわいいやつだよ。)

「そんなひどいことができるとは・・・・・、食べ物の恨みは恐ろしいぞぉ!!」

「嘘だよ。 ほれはよ着替えて食べようぜ。」


やっとこさ猫聖霊ケットシーのシロを起こして食卓に向かわせた。 焼き魚も皮までパリパリに焼けていて、身にもしっかり火が通ってる。

二人で食卓に着いて手を合わせて「「いただきます」」と唱えてご飯を食べ始める。


元々陸は‥‥リックとして異世界で勇者をしていた‥‥。 しかし生まれは王国の片田舎。 両親は共に農民でリックも積極的に手伝っていた。 そんなリックには弟のガルスがいる。 両親はガルスを可愛がり、リックを見ていなかった。 それどころか村人全員リックを見ずにガルスだけを可愛がった。 例え気づいたとしても「あぁ、いたのか。 無能君」とか「くっさいやつねぇ。 早く死んでくれない?」とか「お前のご飯は全部ガルスにあげたからないぞ」とか云われなき暴言や暴力を受けていた。

そんなある日、王国の使いが13才になったリックを連れに来たのだ。 彼は勇者として魔神王を倒すことを使命として旅立つ定めにあるらしい。

家族は二つ返事でリックを送り出した。 村人も口々に「これで良いのだ。 あんな役立たずは要らない。」と言いながらも拍手で送り出した。

それからはろくな訓練をせず聖剣と鎧だけ託され、四人のパーティーと共に旅立たされた。

剣聖のアルベルト、聖騎士のガープ、聖女のリサリナ、賢者のフィーナと共に魔物や四天王と戦い、勇者は絆が深くなっているとそう感じていた。 しかしそれは勇者リックだけだった。

宿に泊まれば勇者は馬小屋で寝て残りの四人は剣聖と聖女、聖騎士と賢者のペアで部屋を取り、食事は全て勇者が用意していた。

まるで奴隷のような扱いを受け、気にくわないことがあれば魔法攻撃や暴力を受けていた勇者。 それでも旅は進みようやく魔神王の住む城に着き、魔神王との壮絶な戦いが始まったのだ。


「これで最後だ!魔神王!」


そうリックは叫び、魔神王の胸に剣を刺して魔神王は絶命した。

その瞬間、城は砕け‥‥瓦礫が降ってくる。


「いけない! みんな退避‥‥だ‥‥?」


叫びながら振り返るとそこには誰もいない。 おまけに魔神王に刺した聖剣もなくなっていた。

彼らがいた手紙にはこう記されていた。


『勇者リック

あなたは王国の判断により廃棄される事が決定しました。

貴方の功績は全て第一王子のアーノルドが受け継ぎます。

安心して、そこで死んでください。

                   聖女リサリナ』


 その手紙の後にはあらゆるリック宛の罵詈雑言、家族にも見てもらえず、仲間達からも道具として扱われ切り捨てられ、国民からも認めてもらえなかった。 リックは瓦礫の中ようやく泣けたのだ。

  叫び声に近い泣き声で瓦礫に巻き込まれ死んだ‥‥かに思えたのだ。 目が覚めるとそこは真っ白な天井で一人の女性がリックの顔を覗きこんだ。


「大丈夫ですか? わかりますか?」


 あの崩落の後リックは助かっていたのだ。

 だがどうやら知らない場所に飛ばされていた。 リックは床の空いた穴に落ちてそのまま日本に転移したのだ。

  彼は喫茶【古書珈琲堂】の前に落ちてそのまま気を失ってしまった所を偶然【鏑木 俊吾】に助けられそのまま病院に運ばれた。 退院後、リックは俊吾の元に居候させてもらったが当初は誰も信用せず敵意むき出しな態度を取っていたがしばらく俊吾が暖かく接する内に敵意を無くしていき、店を手伝ったり勉強を教わったり一緒にご飯を食べたのだ。

 しばらくして、リックは鏑木家の養子になり【鏑木 陸】となり一緒に暮らしていた。 その時異界の女神様から褒美のお金と手紙を受け取った。 どうやら女神様は全てを見ていて今回、助けてくださったのだと知った。 勇者として頑張り、農夫としても必死に働いたリックへのご褒美として今まで盗られていたお金をこの世界の価値に変えて渡してくださり、これから先は【鏑木 陸】として頑張りなさい。 と手紙には書かれていた。

 ‥‥陸が20になったとき【鏑木 俊吾】は病気でこの世を去り、陸は3日3晩泣いた。 じいちゃんには家族はおらずただ一人で喫茶店をやっていた。 陸はその店を受け継ぎ、自分の味で来てくれた人を癒す、その意気込みで店を再開した。  

 それから店の経営が順調になってしばらくして猫聖霊(ケットシー)のシロがこの店に迷い込んできた。 リックはかつての自分に合わせてしまい、彼女を店のウェイターとして雇いここに住まわせている。


さて‥‥7時半になり、1階に降りてきて開店準備を始める。

コーヒー豆を倉庫から出して、サイフォンの下に火をつけて水を暖める。

 ハンドミルでコーヒー豆をひき、朝8時になりいよいよ開店。 すると会社に向かうお客さんが扉を開けて入ってくる。 


「いらっしゃいませ。 カウンターへどうぞ」

「コーヒー1つ」

「かしこまりました。」


 店の中には単行本や雑誌、新聞が本棚に置いてあり、店の中ではジャズが流れている。

 昔ながらのレコードとレコードプレーヤーから落ち着いたジャズの音楽が流れ、お客さんを落ち着かせている。

 朝は暇をもて余した学生や会社員達が身内で会議をするためによく来る。


「お待たせいたしました。 ごゆっくり。」


シロも出来た品を客席に運びお客様に会釈する。

最初は不馴れだったがいつしか慣れて、お客さんを待たせることはなくなった。

ポッドが沸いて、ドリッパーにろ紙を摘めてひいたコーヒー豆を入れてその上からお湯をかける。

この香りがたまらない。


最近では女性のお客さんも増えている。 目当てはコーヒーではなく‥‥。


「いらっしゃいませ。 こちらの席にどうぞですにゃー。」

「特製ハーブティーと‥‥後スペシャルサンドをひとつ」

「かしこまりました。」


 気分を落ち着かせてくれるハーブをブレンドして作るハーブティー。 それと厚切りトーストにレタスやトマト、ハムなどを挟んだスペシャルサンドが美味しい。 そう、女性のお客さんの注文は特製ハーブティーが多い。 これからデートや大事な会議などで緊張しないために飲む。

 昼になると、常連さんや近所のお客さんも増えてくる。

 今リックの目の前にいる和装のご老人は先代だったじいちゃんの馴染みの客でいつも来てくれる。

 コーヒーを一杯頼みのんびりと飲んでいく、古書店の店主だ。 他にもどこぞの大会社の社長を来てくれる。 昼はいつも先代の馴染みの客で一杯になる。


「うん。 まだまだ先代には及ばないが上手いな」

「えぇ。 先代とは違う彼の味ですね。」

「ありがとうございます。 ただ‥‥先代だったじいちゃんと比べられると‥‥まだまだですよ」

「いやいや、君らしくて良いじゃないか。」

「そうだとも、誇って良いぞ。」


 異世界にいたときは感じなかった幸せ、人に認められ褒められる‥‥。 今ここにいるときにしか感じない小さな‥‥でも大きい幸せ。 シロも昔いた場所では虐げられていたらしいが今ではここで幸せに暮らしている。

 それからは閉店間際までお客さんもたくさん来てくれて、午後6時になり、ようやく一息入れられる。


「じゃあ買い物いってくるにゃー。」

「気を付けてなぁ。」

「にゃー(バタン)」


 シロが夕飯の買い物に行き、店の中で洗い物をしていると、店の扉が開いてチリンチリンとベルがなる。


「すいません、もう閉店なんですが‥‥。」

「貴方は‥‥勇者リック!」

「リサリナ‥‥、なんで?」


 そこには、かつての仲間でリックを棄てた聖女リサリナがいた。


「‥‥とりあえず、ここに」

「あなた‥‥、死んだのではなかったの?」


「(久しぶりにあっての会話がこれか・・・・)ざんねんながら生きてましたよ」


 陸はポッドに水を入れて火をつける。 コーヒーはあちらでは飲んだことはないはずだ。 ならばといくつかのハーブを入れてティーポッドに入れ、湯が沸くのを待つ。


「‥‥王国は平和ですか?」


 陸が会話を始めるとリサリナはビクッと驚き言葉を紡ぎだした。


「‥‥いいえ、王国はいま‥‥未曾有の大災害に瀕しています。」

「‥‥大災害?」


 聞くと、王国とその周辺は飢饉や疫病の蔓延、更に大地震等の天変地異に見舞われているとのこと。

 陸の後になった勇者アーノルドは王に即位しまずやったのは愚かなことか貴族たちを助け平民や貧民を見捨てたとのことだ。

 陸の両親と弟は子爵になり、難を逃れたがかつて住んでた村は焼かれ、全員皆殺しにされたようだ。

 だが、それが引き金となり今暴動が起きている始末。

 そして今まであった神や精霊たちの加護を無くなり、スキルや魔法が使えなくなり衰退の一途をたどっているらしい。


「そうですか‥‥。」

「これは天啓かもしれませんね」

「はい?」

「勇者リック‥‥。 もう一度私たちのもとに戻ってきてください。」

「‥‥はい?」

「もう一度戻ってきて? 王国のみんなが勇者であるあなたを待ってるわ」


 聖女リサリナはあろうことかかつて見殺しにしたリックにもう一度勇者として戻ってきてほしい。 そうお願いしてきたのだ。

 しかし、陸の答えは決まっている。


「嫌だよ。 あそこには帰らない。」

「そんな?! どうして? こんなみすぼらしいお店より王国でみんなから讃えられるのよ!」

「みすぼらしいは余計だ‥‥。 それにもう王国にはうんざりしてたんだ。」

「でも両親や弟が‥‥。」

「彼らからしたら俺はいないものだよ。 俺もあいつらを家族と思ってないから」


 陸からすればあっちにいた両親よりこの街で会ったじいちゃんや常連さん達が本当の家族だ。 みんな暖かく、優しい。


「‥‥なら、私をもらって? そしたら戻るでしょう?」

「‥‥アルベルトはどうした?」

「彼なら他の女のところよ。 まぁ今ごろ酷い目にあってるでしょうけど?」


 そんな話をしているとポッドが沸いた。 そこからお湯をティーポッドに注ぎ少し蒸らしてハーブティーをだす。


「はぁ、‥‥とりあえずこれのんで落ち着け。」

「‥‥ふん。」


 陸がハーブティーを出すとリサリナはそれを手で払いのけ、カップは床に落ちて割れた。


「こんな物より、答えは? もちろんオッケーよね?」

「‥‥帰れ。」

「へ?」

「何も飲まないんなら帰れ。」

「ちょっ!」

「それとな‥‥、結婚したい娘もいるからお前は要らない。」


 陸はその一言を告げると店の奥からホウキとちり取りを取り出して割れたカップを集める。

 すると店の扉を開けてシロが帰ってきた。


「ただいまぁ!」

「おぉ~」


 その姿を見てリサリナは驚いていた。 まさか結婚したい娘とはこの娘なのか? ありえない、そう考えながらもリサリナは陸は問う。


「まさか‥‥あんた‥‥この娘と?」

「だったらなんだ?」

「あんた‥‥、猫娘と結婚すんの?!」

「・・・・あぁ、そう考えてるよ」

「んにゃ?!」


 最初の頃はまだそんな感情はなかったが、いつしかシロに惚れていた自分がいた、いつも明るくてだらしないが人に好かれるこの娘と結ばれたい‥‥そう思えてきたのだ。

 俺は少し顔を赤らめながらシロのもとに近づいていった。 


「え‥‥えっと‥‥陸? 今なんて?」

「‥‥順番ずれたが、俺と結婚してください。」

「んにゃ?! よ‥‥喜んで‥‥。」


 今ではないのだろうが、プロポーズをしてしまう陸。

 そのようすを見てリサリナは怒り狂いながら「最低!!」と罵ると扉から出てしまった。 なにしに来たのかわからない。 偶然ここに着いたのだろう。

 それからは顔が赤くなるシロを2階にあげて、後片付けをして喫茶店を閉める。

本日の夕飯は買ってきた魚をムニエルにして牛肉は半分ずつにしてカツレツ、他にもサラダやご飯などを用意して食べ始める。


「‥‥あの、陸。」

「うん?」

「ほんとに私と? その結婚って‥‥。」

「うん。 順序は飛ばしてるけど改めて‥‥。」

「うん。」

「シロさん。 俺と結婚を前提に付き合ってください。」


俺がそう聞くとシロは少しうつむいて顔を赤らめながらこう言ってくれた。


「‥‥はい、喜んで。」


 こうして陸はめでたくシロと付き合うことが決まり、二人は風呂に入った後にシロから「明日は休みだからデートしよう。」と誘われたので二人でどこかに行くことになった。

 その日はシロと一緒に寝て、シロと二人で色々な所に遊びに行って子供もいる幸せな家庭の夢を見た。


~~雲の上~~


『幸せになりなさい、勇者リック。 

 貴方は今まで様々な不平不満を一身に受けてもへこたれず周りから認められるために必死に生きてきました。でもそれが出来ずにいたのは、それは多くの神々や精霊たちが遊び感覚で貴方のすべてを変えてしまい、すべての不平不満不幸をあなたに与えてしまった。

  そして神々の監督を出来なかった私のミス、だからあなたに罪滅ぼしとしてこれまであなたに与えられなかった幸せを与えます。 その幸せがずっと続きますように、祈っています』


 ‥‥‥‥そうそう、創造の神たる私がいなくなった後、他の神々はあわてふためき結果、王国は崩壊。

 ついでに魔神王を倒したのがアーノルドでは無いと全世界に告げて、すべての加護を没収した結果、王国を始めすべての国々は崩壊していった、王族とリックの家族はすべての責任を取らされる形で、磔の上石つぶてやレンガなど投げられてぼろぼろ、その後処刑された。 勇者パーティーの剣聖はハーレムを形成したはいいけどそれが聖女にバレて虚勢を受け、更に借金を背負わされて奴隷落ち。 永遠に戻ることもハーレムもできないまま落石事故で地獄に落ちてしまいました。

 それと、聖騎士と賢者は力をすべて失い魔物に喰い尽くされた。 最後はどちらが囮になるかもめてたらしいけど‥‥。結局仲良く魔物に食われて地獄行き。

 また聖女は癒しの力が無くなり、嘔吐から逃走。 深い森の奥で陸とシロちゃんを呪い殺そうとしたけど、大地震が発生、家ごと崖に落ちて辛うじて生きてたけどそのままクレバスが閉じて潰されて地獄行き。 

 結局のところあの世界の住人すべて、現世で苦痛を味わうか、地獄で苦痛を味わうか、その違いだけ。

 他の神々や精霊たちは裁きの神のもとすべての力も権限も没収されて何もない名家に落とされそこで永遠の苦痛を味わっているそうよ。 ある神は永遠に串刺し、ある神は永劫の火あぶり、ある神は舌を始めすべてを引っこ抜かれている、これがつらいのは回復させてからまた同じことを永遠に行うとの事だった。

 ちなみに私や裁きの神などは今、こっちの世界で二人を見守っているのであった。

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