ep.29 とは言え、これだから新婚最中ともなれば。


ひかりあらば寄ってくるむしを見ると、潰したくなる。

 それが当たり前なのか。それとも、自分が「可笑しい」からなのか』


大事だからこそ、傷つけて仕舞う。

愛おしいからこそ、全て喰らいたくなる。

この狂おしい情の趣くまま、骨の髄までしゃぶり……何一つ『他』にかっ攫われとられないように。



「ッ!?」


うつわを定め、この腹の中へ。

花の薫りに混じって、鉄の味がする。

押し倒し覆い被さり、小さな悲鳴を零した相手に一瞬我に返るも、不快極まりない脳内に反し、発情を始めたSubの体はあまりに素直だった。


———本当は。

本来なら、こんな湿気った気持ちで『行為』に及びたくないけれど。


『じ、時期尚早……』


愛するあの子がこの期に及んでも、ようなので、致し方ありません。


「おーい、レオくっ……ひゃ♡」

「…………」


"あんなの"は戯言だ。

何も知らない奴らの吐いた、戯言。


然し、あの王子様はともかく、何も知らない世間まで見えて、望んでいるのだと思うと、腸が煮え繰り返るどころの情ではなかった。

……だから一部始終、黙る他ない。

でなければ、その憤懣を今にも彼女オフィーリアにぶつけ、自暴自棄になり兼ねないから。


嘗てないほどむしゃくしゃしている自分を抑える。

それでも、出来るだけ優しい手つきで幼い嫁の方胸を揉み、服の上からその頂を愛で きゅっ♡ と下着ごとはさみ上げれば。


「んん、あっ、ッッ、」


手中に収めた娘の腰がしなり、耳元で零れた迦陵頻伽の甘い声に自ずと咽喉が鳴って、瞬く間に晴れていく気分。

我ながら、随分なことを強いているのにも関わらず。あどけなく受け入れてくれる嫁の媚態に、「このちまいのを前にすると、俺も単純だな」と、レオくんは思った。


……頭の回路が穏やかになっていく分だけ、己が下腹部にぶら下げたぱおんをイライラさせながら。


「んっ」

「や、やだ。やぁ……♡」


軽く腰を相手の尾骨あたりに擦り付け。目先に残る、綺麗な歯型から滲む赤をちろっと舐めて。

———ちゅううう♡

労わるように吸い上げ、薄い腹を数回無意識に撫でる。


……正直、このまま『狼』の交尾よろしくブチ込み、破り、孕ませてやりたいところだが。

いくら今の"名分"と関係性を以てしても、そんな同意なしワカラセに出た暁には、子供を連れて亡命されかねないので、思いとどまる。


いつかは自分たちの結晶ができるそこから、名残惜しく手を離し。その代わり腕を回して、ヒョイっと抱き上げた(というか、猫の伸びポーズから持ち上げた)。

その勢いのまま後ろへ、胡坐に乗せ、ちまい体を背後バックから抱きすくめる。


こうして今宵の追剝魔は、はだけたオフィーリアの白肩に、ぐりぐり♡

おでこを擦り付け始めた。


「…っ」


…………??


———"マーキング"ナウ、である。

これだから、怒れる男相手であろうと限界集落状態の女相手であろうと、■■■■の癒し効果は絶大だった。


(圧倒的理解。やはり、男のか……)


だから、今日も今もと冤罪をかけられる我が身公女ポジに嘆きながら、もはや生理前の女子より情緒不安定としか思えない男の子の挙動に、自己完結するな、情報を共有しろ。


(そして、何より。例えでも我、オメェのお嫁様ぞ?)


弱DV・強セクハラのレッテルで結婚早々、離婚突き付けられないことを、有難く思え。

この期に及んでも、その固いのを擦り付けるな。

もし私が"普通の公爵令嬢"だったらとうに不敬罪で訴えているか、ちょん切っている!


だが中身が中身、合算年齢が歳なので。オフィーリアは、できる限り優しい声で「何事かどうしたの~」と問いかけようとした。


「婚約式」

「?」

「君との婚約式、来世まで忘れられないような、盛大で豪奢なものにしたいのに…」


着飾った君を誰にも見せたくない。

独り占めしたい。

そして、熱いよ……


「とにかく、明日にでも教会行って、一筆したためようね」

「…………」


オフィーリアは、できる限り優しい声で「何事かどうしたの~」と問いかけようとした。

……だが。


(場合によっては……)


と問いかける前に、向こうが自白した。

その内容に本人からすれば未経験ゾーンなれど、前世伊達にイロイロ齧ってない女は、

———だから。


「もう、なんだ、"そんな事"。顔色が余りにおも…いえ、悪いから心配したのに」


マジ襲われ損した気分。

冤罪からのセクハラ、前戯なしにブチ込まれるかもしれない恐怖で逆立っていたオフィーリアの気分が、一気に萎れる。


(九死に一生を得るとはまさにこのこと、完全に脱力した……)


あれだけの暴挙に出ておいて、今更後悔でもし始めたのか。自分の一声一声に震える旦那の■■■■に靠れかかり。

嫁は、硬ぇな……と思いながら。


「急に来られて驚きましたし。いくら何でも、普通に怖かったです」

「…………」


だから、母なる海より深く反省してください、おっ……だけに。と告げた。

そんなお嫁"様"モードの嫁閣下に背もたれも、流石に少しばつの悪そうな雰囲気を醸す。


「ん、だから、そうじゃない。とりあえず話し合いを」


も。

返事の代わりと言っては何だが……閣下のふわもちほっぺに背もたれくんは、ごめんねの顔をして ちゅっ♡ と、吸い付く。


(こ、この野郎……!!)


とどのつまり、例えオフィーリアから見えずとも、アレである。


これは、どこぞの誰かにも見られる傾向だが。

俗にいう、恋人や家族相手に自分にとって都合・分が悪くなった途端、とりま キッス♡ して誤魔化したり、やり過ごしたり、流そうとする———アレだ。


一見殊勝な態度を見せる。

が、まるで反省していない、アレである……。


「マ。でも、確かに。婚約式ですか、流石お貴族様界隈の事情は何かにつれ式を開く、奇々怪々。今回の婚約は咄嗟の決定でしたから、そう言えばしてませんね、私たち」

「……嫌な話聞いた。それも一日中ずっと」

「ああ、なるほど」


だから、それで……。


「こんなにいて、行為に及ぼうと?」

「…………」

「まぁ、生娘はじめてでなくなれば、とりま『王室』は真っ先にからねぇ」


でも、だからって。


「怖いモノは、怖かった。ですから今後、無理にとは言いませんが、この手の場合おはなしは無言になられるのが一番困る。流石の私でも、言ってくれないと察せないことは、多々あります」

「…………んっ」


ので、お分かり(੭ ᐕ))??


(美少女に産まれたからには無論、こだわる)ほっぺから、今度は首筋に吸い付かれ、つつつ…とマジの舌先三寸でご機嫌取り。

話しは一応聞いているだろうけど、まるで動物の毛繕いみたく、背後でモゾモゾし出したレオくんに、オフィーリアは軽い息を零した。


(ハァ……こちとら真面目なお話しているというのに、この野郎ときたら……)


背後から濡れた舌、犬歯で耳を甘くまれた。

どうやら、今宵も。


「はぁ…んっ♡ オフィーリア…おふぃーりあ……♡♡」


入れたい。

入れさせて。


「きみのなかに」


入りたい……と。

ただでさえ独り盛り上がっていたぱおん相手に、その"説教真面目さ"が今ばかり仇となったようだ。


「…………」

「ぐっ、」


ここまで堂々と"持ち込まれて"は、怒りすら湧かない、刹那。

確かに予兆こそはあったものの、一気に濡れ始めた背もたれから飛び起き、ズザザザザとベッドの隅っこまで距離を取る、嫁。


……どうやら言葉ついでに"圧"をかけて仕舞い、雄が雄最中であろうとメスになる、『発情』が誘発されたご様子。


つい数秒前まで「婚約うんぬん」言えるくらい、会話できていた相手が、問答無用のケダモノに逆戻りしておる。

自分が捌けた衝動にまで熱い吐息を漏らし、力のない四つん這いに。


(こ、これは平成初期あたりの袋綴じ! 雌豹のポーズだ……!!)


思わず おっ となったのも、一瞬のこと。


切なげに名を呼び、縋るようにこちらに向かって手を伸ばす旦那名分。それも、とんでもない偏差値を誇る現地美青年に、オフィーリアの身も心もガタガタ震えた。

……世界の端ならぬ、無駄に広々とした寝台ベッドの隅で。


「おふぃーりあ、おふぃーりあ、いかないで。そばにいて、傍に…っ」

「お、お父さん、お父さん。恐らく魔王より怖い、雌豹ニンゲン様が来るよぉ。ああああ……」


オフィーリアは今日も元気に、震えております。

恋煩いでも失恋でもカナちゃんでもない震えで、ぷるぷるしております。


「おふぃー、りあ、おふぃーりあ……♡♡ どうしてにげるの、どうしてっ」

「ひやっ」


対峙相手むこうもぷるぷるしているけど、絶対私の方がぷるぷるしている、自発型地震でしかない。


はっ…ハッ…と細かい息を吐き、自我喪失とした赤らんだ美貌。

とろんと歪んだ青い瞳は、濡れて……今にも泣き出しそうだ。


(つまり例の、可哀想で可愛いヤツが降臨なさった。然し、その下にぶら下げてるモツが全然可愛くない……)


もんだから、誰かタスケテ。


時間も時間だし、部屋も部屋。どうせ誰も助けてくれやしないけど、毎度のコトながらSOSを発さずにはいられない。

それほどのドスケベ具合、いくら数年に渡り自分が育ててきた相手とは言え、実に目の毒だった。

……それこそ、目がああああ、と覆いたくなる。まるで直に塩酸を流し込まれるごとくの痛みと、毒だ。


数分前まであんなに雄々しかった怒髪天のくせに、■■■■で和解し、少しは落ち着いて話し合えるかしら……(੭ ᐕ))??


(と期待した油断した最中。数日前のワカラセもあって、私が甘かった)


狙いを定めたDomしか見えていない、舌なめずりしながら迫りくるSubに、何故か五・一五事件と二・二六事件を思い出すも。

そんな、この場において何の役にも立たない記憶を脳外へ追いやり、"その手の機能"が全領に知れ渡るほど死んでいるオフィーリアは、ベッドの四隅にある棒に———ゴンッ!


後頭部を打ち付け、じっとりとした汗が全身から噴き出るのを、感じた。

雪国の男と思えない火照ったうかされた目で見られ、熱湯の如く手に片足首を掴まれるや、ぴゃっと跳ねあがるも。



(に、逃げ場がもうない……!!)


だ、とう……?? と両手で口を覆い。せめて相手の色気フェロモンを摂取しないように……努める。

これは見るから今夜、今宵もオールかしらと芽生えた諦めの情に、嫁は器用に絶望した。


「レオくん? いや、レオ———『待ちなさいStay』!」

「あっ♡ ッ♡♡」


というか、昼間あんなに動いたのに(誰かを待っていたせいで)晩御飯を抜いたから、空腹なのだ。


「だ、だというのに……っ」

「……♡♡」


だからオフィーリアは、とうとう自分の足をとって見せつける誘惑するかのよう れっ♡ と赤い舌をチラつかせ、ぺろぺろし出したイヌ科に、慄きつつ。


(これはとりあえず出させてあげないと、今後について話し合えないし、夜食にもありつけねぇな)


と、どこか冷静に思う。


この前の一件ワカラセで、逆にワカラセられた(かもしれない)うちのスライムは、まだ傷心中だし。他の子は"この手の話"に向かないヤツばかり。


(だからこうなれば、致し方なし。今夜も徹夜オールを強いられる、我が身かな……)


この様子だと、私が見守る中一人遊びさせるか。私が手伝って、鎮めて愛でであげるか。

それが今宵の問題にして、課題だ。


「さ、さわって、はやく触ってぇ…♡ 俺を"こんなの"にしたくせにっ」


惜しくも前途有望な若者イケメンを"こんなの"にしちまった、責任問題……である。

なので、


「イジメて、愛でで、すぐこうなる『責任取って』よぉ……♡♡」

「それを言われて仕舞うと、ナニも言い返せなくなる……」


のだが、ふえ……(´•ω•`)


先ほどまでセクシャルハラスメントしてきた相手に、こうして、今度はセクシャルハラスメントしないといけない件について。

コレで御相子おあいこ


(いや、寧ろ未遂な向こうに対し、こちらの方が……)


破産し兼ねない。


「…っ♡ あまい、おふぃーりあの甘い味がする♡♡ おいし、もっと舐め……っ♡♡」


……高額慰謝料を手にするまで程遠い。どころか、今すぐに払えと催促してくる取り立ててくる、ドスケベSubイケメソ■■イラ野郎。

このぱおんに、これ以上レベルを上げられると、"私"の手にすら余る。とりあえず今直ぐ出せる『玩具』にナニがあったかしら……(੭ ᐕ))?? と思いながら。


(お腹すいた……)


正直、ご馳走はご馳走でも。甘々デザートより、がっつりとしたステーキをしょくしたい深夜。

若しくは如何にもなジャンク、"体に悪そうなヤツ"を胃に収めたい。

同じテロはテロでも、こんなのって……。


今にも泣きだしたい思いで、オフィーリア閣下は———

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