ep.21 戦慄の「新入生」、若しくは別次元に根ざす天災


『出歩けば砂金こんじきが降り、座敷に居るだけで大富を呼ぶ。

 栄光は復讐劇の先にあり、"怖い話"は噂から始まるからな』


本人不在であろうと、関係ない。好きなだけ見て、聞いて、拡散するといい。

例え、その魂に「常識」が欠けていたところで、幸い、誰も「正解」を知らないワケだし?

罪悪感に苛まれようと、歌い、舞い……望まれるがまま。



「———喜べ。貴様らの運は今尽きた」

「ギッ!?」


そして仕舞わぬためにも、今日も失われて久しい曲目かつてを演じよう。

……だが。


「……引き籠りとまで行かずとも、自由自在。自堕落生活からの社会進出、理不尽すぎる停学処分、人が抱える限界ストレスの力を見せてあげる! 遠慮はいらん」


ここまで来て"やはり"と、気になるのは。


「まさか過ぎる、都にこんな穴場・・があったとは……お兄様もお父様もどうして、いけずなことを」


異国の種と腹で作られたカラダは、一体、何時、どうやって「異郷の魂」を受けいれたのだろうか?

蠍座の次に、水瓶座から止めどなく流れ出る疫病かの様な、ソレ。


『……幻覚魔法乱用の疑いで謹慎。暫時、停学処分となりました』


今にも爆発し、砕け散りそうな想いに、オフィーリアはそっ……と蓋をした。

でなければ、今頃———うふっ ('ω')!


「ここまで深く潜ってれば、こうも間近で【人族】を見るのは初めてかしら?」

「ピギィ!?」

「そら一気に来い……ふんっ!」

「あ。」

「ギィ————ッ!!!」


音もなく、細い背中が先陣を切る。

魔法の矢を避けた赤い爪が真っ先に飛んで来たが……他愛もない。


「どうした。外は黄昏れ、私の心も黄昏れ。お互いおねむするにはまだ早いでしょうし、食後の一睡にしては遅いけど??」


暗に舐めてんのか、と言って。瞳孔はレンズ越しで観る猫みたく窄まり、白銀の刃が振り払われる。


「ギッ、ゴ!?」

「合理的だね、でも効率が悪い」


先ほどから、こっちばっか狙いやがって……。


「女だから? 舐めないで」

「———————ッ」


キレイ真っ二つに分かれた黒、真っ赤な鮮血が吹き上がるのと同時に、「生」の途絶える音がした。

……声なき悲鳴に吊り上がりそうになる口角を抑えながら、然し夜空に掛かる月のは、既に別の個体つぎへ狙いを定めて……『脱落者』にまるで興味がない様子。


「!?」

「———遅い」


悍ましい見た目をした相手に憶することなく、地を踏みしめ、一歩先にと飛び出す。

捻られた華奢な体、少女の手からは迷いのない、蛇のように蛇行する白刃ひかりが繰り出された。


「!」


蝋燭程度の光あるも、陰惨極まりない闇から新たに湧き出た相手の腕を切り落とし、その勢いのまま肩から胸まで切り裂く。


「!? ギッ、ガ…」


飛び出る内臓を避けつつ、反動を感じれば、ふんと軸に体重を乗せ…。

全身のばねを利用して高く舞い上がった体は、反転しながら、落下。


「う、ワァ……」


一度拡大し、又もやきゅうう…と収縮した二つの瞳孔が、最後の首筋を二つ同時に捕らえた。

……その様を。


「おー、はしゃいでる、はしゃいでる。というか、荒れてる……?」

「…俺さぁ、これから真っ当に生きるよ。…『アレ』を怒らせるくらいなら、真っ先に自決する」

「ほんそれ。…え、なに、怖っ」


同年代、同学年であれ、これでも15年の内と考えれば中々の付き合い、間柄となるのに。そんな自分たちですら、未だこのお姫様の怒りを覚えるキレるポイントがイマイチ分からぬ。少年二人はあばばと頷きあった。

……普段なら、(地元の民から見ても)イカレた奴らをニコニコと宥め、あしらい、どちらかと言えばおっとり、ぽんやり、のんび―――り。


『お父様、そこの数字ズレてます。現在における市場相場と合いません。弱横領かと思われ』

『……後で褒美をやろうな、たんまり』

『わぁい』

『………………』


パパの膝上か、影で色々チマチマしている子なのに……。


「んふふふふ……そーれ!」

「!?」

「やぁ!」

「ひぎぃいいいいいいいいいいいい!!!!」

「あ、なんで逃げるの!」


美しき藍が、人欲の象徴とも呼べる黄金に呑まれる。


『弱横領は人だから多少目が眩んでも仕方ない。とは言え、やり過ぎはいけません』


なので、今頃パパにシバかれてるであろう悪いオジサンたちの前で、ちょっと林檎でも握りつぶしてきますね。


『勿論、他でもない幼女の素手でこう……ぐしゃっ、ぐじゃっと』

『追い打ちが過ぎる』


……ぶっちゃけ昨晩の出来事なんてまだ可愛い方。普段は大人しくとも、大人しい分だけ一度爆ぜて仕舞うと手の付けられない委員長タイプなのか。

"こうした時"の我らが姫は、例えマブダチ×2からしても実に気味わるく、摩訶不思議。二重人格にしか見えないのである。


———それこそ、


(殺戮の天使と化してる時に、その気の抜ける掛け声、マジやめてくんねぇかしら)


と思い馳せながら、(無論、例外はいるが)全員が全員ラブロマンス小説みたいな見てくれをしていると言うのに……毎度のこと。何故かそういったロマンスの中、今日も一人だけ戦ってる場所フィールドが違う気がしてならない。


「私の素材———ッ!!」


可愛い雌が、元気なのはいいことである。

……ただ『姫』としては一寸、元気が良すぎる。


それこそ、マジモンの姫でなくとも、貴族令嬢の口から到底思えぬ、似つかわしくないワードを叫びながら。姫だのに将来を見据え、私だけレベリングしまくってる件。


「おー、相変わらずはや……」


について。

現地民から見れば、言わば違法滞在してるヤツは、今日もこの世の摂理に逆らいし、ジャンルクラッシャーとなっていた。

その暴風の如く去りゆくちまい背中に……。


…………?


「って、え、ちょ。いや、待て! 待て待て待て待て、絶対迷子るクセに、独りで行くなぁあああああ!!」

「もう~~~」


こうして、少年と書いてオラのマブと化した二人の美男子。イツメンと書いて、こういった時ばかりは保護者となる(というかならざる負えない)お子様。旅は道連れのなんとやら、今日も二人は、自分も一応貴族の端くれであることを忘れ、全力疾走をキメる他ない。


でなければ———明日は暗い。どころか、普通になくなるだろうな…。


『もし、俺の娘に……』


その時は、 分 か っ て い る な (੭ ᐕ))??


『例え死んでも、公女だけは守りきれ。それが北の安寧、我が家門存続への第一歩だ』


じゃないと、 分 か っ て い る な (੭ ᐕ))??


……外の世界では、(無論、例外はいるが)男が猛威を振るう時代だというのに、オイラ達のお家だけ何故、こんなのあんまりだ!


『今日はピザ焼いたの。ナポリの窯風、『再現』頑張りました』

『わーい!』

『…イタダキマス』


でも、逆らえない……。


「ハァ……」

「良かった、追いついた、"今回は消えてない"」


俺らの首の皮も、まだ繋がっていられる。その安堵がよーく分かる、声だった。


(マ。もう慣れたけど……)


この場にいる相手陣営をまだ壊滅しきっていないのに、逃げ足が速ければ、必然的に追い脚も早いじゃじゃ馬。

少年たちが走り出した時には、彼女は既に見えるか見えない位の豆粒大だったし……追いかけても時すでに終盤、次の階層ステージにカチ込んでは、潰しにかかっていた。


そうやって、遠近法も相まっていつも以上に小さいちまいと感じる、容姿端麗な女の子が少し先で敵———巨大な蜘蛛の姿をした魔物の腹を貫き、ふうふう言いながら足を断っている。

その得も言われぬ情景を前に、フラグを立てつつも、少年たちの表情は未だ明るい安堵に満ちていた。


「えいっ」

「!?」


背に飛び乗り、頭を踏みつけ、そのまま……言わば跳び箱の前に置くあの補助台を蹴る仕草。

どこぞの誰かとは違い、混じりのない純粋培養である現地民二人には分からぬが、見る人が見れば「いくらファンタジーだとしても、見るからラブロマの世界でナニ再現してんだ。普通にせこいし、メタいぞ」と感じる。

高く舞い上がって蜘蛛の首を、某心臓を捧げよポーズで有名な漫画の要領で削ぎ、鬼の首を断つ如く切り落とす……美少女。


(昨日とは打って変わって、今日はあちらが真面目に? 働いているであろう)歳からして美青年枠である、旦那とは違った系統の美少年二人に見守られ、オフィーリアはふうふう言いながら、ぷりぷりとした怒りを隠そうともせずにいた。


「———首をねてしまえば、悲鳴すら上げられないのに、これだから人も獣も結局いっしょ……いくらお互い初見ハジメマシテとは言え、噛みつく相手を間違えましたね、ふん」


一寸拗ねた顔で、言い放つ。

今回のマブは添えるだけ、その心は数刻前告げられた停学処分で、いっぱいである。

自分は悪くない(はず)だのに、全責任を押し付けられ……わしゃあ、停学処分されたのだ、と。


『もういっそ、退学しちゃえば?』


そして何より、この周りの適当さときたら…。


(これでもわしゃあ、公女ぞ?)


と言いたくなる。

あの後すぐさま集団失神の第一容疑者として再度『談話室』へ連行され、周囲、そして旦那にすゝめられたが、現実はそう簡単な話ではない。


ので。その都度ニコ…と笑い。

これだから身長や性欲ばっか伸ばすも、学力も知能も伸びない、ちまいお子様は……と思った姫は、この鬱憤をいかにして晴らすべく。

(少なくとも今回は、新天地故に念のため)添えるだけの仲間を引き連れ、この様な形で発散の場へ赴いたわけですが……。


『S……は、ハヒッ。そそそそ、ソロのSランクですと!?』


と言うことは……!! 的な一幕も挟みつつも、思うのはただ一つ。

———いや、これ絶対、時期外れの転校生よりひどい展開になるやつじゃん!


ただの村八分じゃん……!!


(つまりそういうこと)


……あの学校、私に恨みがあるか、それともバチェラーのし過ぎで平安京と化し、呪われてるとしか思えねぇのである……。


「キ!!!!」


繰り返すが、入学早々、停学処分された。


昨晩のように"子供"が相手ならばいざ知らず、大人、しかも公的教育機関に神経を撫でられたことに、怒りを覚える。

傍から見れば大人に守ってもらえなかった、その類の子供染みた感情であろうと、チ―ンだけに。チン……理由が理不尽な分、流石の違法滞在ネキであろうと、マジでむっとしたのだ。


「! ………ギッ!?」


今にも親指の爪を噛みそうになるのを耐え、チカチカどころか完全に金色になった乙女の瞳。

いつもなら『専門家』、若しくは旦那あたりが身を挺して鎮めてくれる熱であるも。

当の前者勢は地元にいるし、後者は……。


『違うからな』


首を振り。

アイツは知らんが、少なくとも俺に"その手の趣味"はないし。と早めの口調で続け…。


『君がいるのに、なんでいつもそんな悍ましい発想に至るんだ』


俺はもう君にしか、君でしか興奮しないのに。


やはり、そこに落ち付く。

……ただ、そう言いながら、嫁の手を切なげに握り、「ほら、俺の心臓は君にしか反応しない」とおっぱいに持っていく。これは誘い受け! だと見た。

然し。


『……………』

『Cheer up ! 相手が、今回は対戦相手が悪かっただけです。だから、元気出して!!』


昨日の昨晩、うちのスライムとの対戦(?)の事もあり、思わず「どの口が」と言い返そうになった。


(ものの。今"夫婦の会話"なるものをするには何重も重ねて、不味い……)


と判断したオフィーリアは。呼ばれ、旦那が物凄く嫌そうな顔で離席した隙に置手紙を残し、鎮めの旅に出たワケ。

出(で)なければ———あはっ( ᐛ )!


(乳首に軟膏を塗り、絆創膏を張る。レオくんのお尻にバイブ入れて、遠隔操作してみたい……)


そして私は壁。若しくは、天井に張り付き、とうとう体の発情に耐え切れなくなったイケメンがいただけない場所で、オナり出す。

それか例の上司、場に居合わせたイケメンに縋る。

会議しながら、はぁ…はぁ……火照った顔で、もじもじしてるのがバレるや否や。「先生、クリシス君の体調が悪そうなので保健室」と言いつつも、使われていない空き教室へ……。


(ああ、これ以上はいけません)


前世でもそうだったが、言わばドスケベへ逃げる。この手の思考になるのは、証拠だ。

それに個人的に気にしなくとも、あれだけ日々 BIG LOVE を浴びせられれば、相手の気持ちは正しく受け止めているつもり。

……ナニより、いくら弟がいる身とは言え、長男が"使い物"にならなくなって仕舞うとか、とんだ笑いもの。


(……になり兼ねないお貴族様社会ですし、普通に考えても非常にお宜しくない。誰のせいであれ、これ以上レオくんが更なる高みヘンタイへレベルアップして仕舞うと、その都度ダレが相手をすると思っているの?)


全てのしわ寄せが、私に来るだろうな、とオフィーリアは真面目くさった顔で頷く。


その隙、意識散漫としてきた相手を横から狙う、二番手みたいな奴を思い任せの【無詠唱】、突如虚空から生えた氷の刃でザックリと刺した。


(ですが、ここでも。やはりこれはこれ、それはそれ。です)


ので。

……当初と比べ瞳の色は大分落ち着いて来ている。が、まるで鬼女、憎き相手の藁人形の首元に釘を打ち込むような撃ち込み方だった。


『キャーっ!』

『敵襲か!?』

『ッ、殿下をお守りしろ!!』


最後のあたりで思わず「流石ガチのお貴族様学校、日本のお嬢様学校とはレベルが違げぇや」と思ってしまったが。


(それでも、言わば熱中症みたいなもの)


たかが数人(しかも現地民が)失神した程度でてんやわんや、たかがその程度のことで何故このような隔離政策、仕打ちを……!!

それだけ姫(現地民のキラキラに耐えた違法滞在)はお怒りなのである。


(……だから、こいつ等も間の悪い)


折角"極上のご馳走"を前にしたって、敗者の辿る道は、いつの世であろうと同じであろうに。

怒りの矛先に喉をえぐられた目の前の蜘蛛は、言葉通り悲鳴すら上がらない最中で、あっさり絶命した。


「…………ふん」


その姿に「今日のメメントモリ」を感じる。

そして、虫であろうと、動物であろうと、それこそ【魔物】であろうと、基本大自然に生きる命というのは、人間!! 以上に空気が読める。


……なので。昨晩思わず プチッ としてしまったお嬢さん方、或いはその親族が「可愛い娘の仇をば」としでかしそうなことは、粗方想像できるから"大した問題は起きない"だろうけれど。


(退学かぁ……)


考え方次第ではそれもアリかなと、オフィーリアは軽く首を擦った。


「!!」

「うわ、何かこっちきた、キモ」


『集団リンチする』タイプへの対策は正直、どうしても過激になって仕舞うから、あんまりその路線で進みたくない。

———が。


(もし中央様あちらが"致し方なし"になる様な言い分、要求をこれ以上突き付けてくるなら…)


その時は……。


(どうしようかな)


狙う食事ニンゲンを『今更』間違えたと気づいたのか、蜘蛛だけにわーとりになる蜘蛛の子をイツメンの一人が軽く呪文を唱え、指パッチン。現れた『火』の玉にひるんだその時、もう一人が便乗して、『風』の刃でほふる。


お貴族様というのは普通、パンピーの乙女以上に虫を受け付けないので、嫌そうな顔をした少年たちの火力もひとしおだ。

そこに彼女が踊りかかるように距離を詰めて、何とも往生際が悪い、「それでも」逃げようとした奴を背後から仕留めれば。


「ふぅ……んふふっ」


その場にまたもや今の内心を代弁するかのような、夥しい血しぶきあかが舞う。


……そんな、煮え盛るはらわたが少しばかり静まる感じ。

確かな手ごたえ、気持ちの良いコンビネーションに、「ああ、いけません。いけません」と思いながらも、オフィーリアの頬は自ずと緩んでいた。


『い、いくらSランクのいらっしゃる、パーティー"様"とは言え。そこは……』


いくら【問題】になっていようと、都の郊外。元祖国的に言うなれば八王子あたりに位置する魔境なぞ、たかが知れてる……と思っていたが、思いのほかいい収穫を持ち帰れそうで、怒りより嬉しさたのしさが勝った。


「そっち! 入ってました?」

「な~い」

「あ、こっちに一つ……あと、こっちも幾つか!」


概ねこういった世界観では、よくある話。

新聞等を見て、知っていようと実戦ではほとんど相対したことのない魔物に対し、都の人間はめっぽう弱い。噛まれずとも触れただけで肉体が爛れ、腐敗するとさえ思っているのがほとんど(らしい)ので。


(その代わり強靭となっていくのが、辺境や自分たちの様な"お土地柄"のやつら。なのだけれども……)


コレも言うなれば、県民性ってやつかしら……(੭ ᐕ))??


「今回は大漁だね」

「なー。ここまで潜った甲斐があったわ」

「持ち帰ったら、何に加工しようかな」

「出来たら、見せろよ」

「俺にも!」

「ウン」


少年少女はキラキラな顔をして、まるで旅行先の素潜りで捕らえた魚をどう食すか、海岸で拾った綺麗な貝殻をブレスレットにでもしようかしら、みたいな会話、テンションである。

例え漁っているのは悍ましい魔物の死骸でも、潮干狩りをする子供たちの様な光景だった。


冒険の始めこそ一緒くたにうげっと顔を顰めていた眼先、お貴族様のお子様達であろうと、流石に慣れが来る。

"私有財産"なるものの味を占めた男二人と、この手の世界に夢見て来たヤツは、今やこの通り。誰に何を言われようと、我が道を行こうぜ!

厭世まで行かずとも、生きた人間は腹立つし。虫はキモいが、「日常の一部」ともなれば、疑問すら抱かなくなるので…。


(本当に。良い趣味してるな……)


"カミサマ"というヤツは。

———仄暗い"地下室"かの様な洞窟に残された"食事の跡"に、恐らく数年、いや下手すれば数百年に渡る血痕の跡と悪臭、今しがた行われた惨殺の痕。


……然し、それでも今はと、頭を下げ。令嬢どころか騎士ですら見るに堪えない残骸、臓器そこから顔を覗かせる『石』に、オフィーリアはニコニコした。


「そう言えば、ここのボスって…」

「まだ未討伐。だから、"ナニであるか"すら分からないから、対策のしようもない。とりあえず夜には近づくな、Aランク以上でも深入りするな。それで守らなかった人が、今でも消えまくってる。って話じゃん」

「流石中央、ダンジョンまで陰湿かよ……」


あー、嫌だ嫌だ。これだから大した力もないのに偉ぶる、中央様は生理的に受け付けないんだ! 田舎感全開に駄弁る、オトモダチの声に混じって今も耳元でチャリンチャリン。

金が貯金箱に落ち、それが新たに作った口座へ振り込まれて行く音がする……。


「んふふ」


オフィーリアの顔に、自ずと笑みが浮かんだ。


ここ最近の令嬢と言えば農業を始め、昔その手のゲームを一等好んでやっていたせいなのかは知らぬが、新天地は0から始めるこそ楽しけれ。

いくら新規で作ったとは言え、流石に冒険ランクまで初期化できずとも。地元に戻る際、この地での貯金額を見てニヤニヤ出来たらいいな、と彼女は思った。


「♪」


あの頃好きだったビートルズの歌を食みながら、あの"お嬢さん"とその親御さんに比べ、自分はなんて健全な趣味をしているのだろうと、自画自賛。

マブと身分も性も超えた友情で、心底どうでもいいことを駄弁り、ごそごそ手を動かす。

今頃真面目に? オシゴトしてるだろう旦那には申し訳ないが、これが「楽しんだから~」しょうがないよね。


……今はたかが石っころでも、異世界、しかも魔物の中から落っこちた『石』なのだ。

限界値突破ゆえに、手加減を忘れ、勢いあまってひびが入ったのが幾つかあるが、問題ないだろう。


(獲物のサイズが中々どうして……)だった分、どうせいい感じに削り、研磨を施す予定だし……。


「(暗黒微笑)」


無ければ自分で作る、自己供給。ハンドメイドはオタクに欠かせないスキルの一つであり、嗜みなのである。

現代が資格社会だったのなら、異世界は夢と浪漫の旅路。嗜好が多ければ多いほど強くなれるオタクの性を上手く利用し、今生のスペックに思わず笑顔になって、はや15年ちょい。


例えこの様な時代であれど、知識が多くなるに越したことはないし、「色々デキる」ことに越したことはないのだ!


———でも、マ。


(私はそんな学びの場への立ち入りを、たった数刻前にて禁止された身だがな……)


ハハッ( ᐛ )!


「っと、伏せて!!」


その代わりと言っては何だが、今日ばかりは"もっといいもの"を得たので、その件はもうよろしおす。

でなければ……しようかな、まで一瞬思考が巡ったけれど。かの公爵家産の体に反し、中の人が「そうするには未だ時期尚早、もう少し様子を見てから決断を下しましょう!」と宣うので、オフィーリアはグッと堪えた口だった。


ストレス発散ついでに稼ぎ、思わぬ収穫に機嫌の直った姫は、んふっとなめこ笑いをし。

"自分の間合い"に入った気配に、声を上げ、技を出す。


後は旧知の仲だからこそ愛おしけれ、その声に返事をするより早く、今までの場数が数なので、反射的に身をかがめる美男子二人。

自分たちが顔を上げる間もないまま、そのうちの一人が自分の背中がたん、と軽々しく踏まれたのを感じた。


「ッ!?」

「ギ……ガッ」


途端。


———ごとり…。


ころころしては、ピタリと停止する。

ほぼ同時に二つの首と大量の血潮が、まるで通り雨みたく上からぼたぼた、地面をたたく音が鼓膜を揺らす。

……どうやら夢中で【副産物】を探してる間に忍び寄り、生き残った伏兵が上の方から……。


「ふぅ」


すぐ傍からカチャリと銃の撃鉄を起こすような音がしたのも、束の間のことだ。


まぁ、「この世界」…いやとりあえず魔法等といった力がある「こちらの大陸」にそんな近代的なモノが普及してる筈もないが。

現実世界ではただ単に、オフィーリアが敵を仕留め剣を鞘に納めたオシマイの合図、自分たちの完全勝利を意味する音だった。


純粋な力勝負ではどうしても男に劣って仕舞う女の身。


『ならば「速さ」でキメるしかない……それこそあの日の鬼……いえ、なんでもありません』


というのが姫、昔からの言い分。

それからいやはや数年、ここまで鍛えられた凄まじい速度は、まるで影が消えて、感触あれど音なく移動する、残像の如しである。


剣が抜かれるのも見えず、振られた音すらしないのに、一拍置いて命の絶える音だけ生々しくその場に木霊す———異次元。

そんな速さを一番に置いた神髄、美しい抜刀術に反応する隙なく凶刃が血肉を貫く剣戟は、何所から見ても「本業の方」でしかない。


……だからこそ。


「なぁ、俺らの公女様、だからなんで公女やってるの……?」

「さぁ……??」


朝方のアドリブに引き続き、ここでも男子がコソコソ何かを話している一方、彼らがそう思って仕舞うのも仕方のないことだった。


だって、どう考えても可笑しい。


子供の目ですら"公女の器"の範疇を優に越えてるこのアマだのに、毎度のことながら「何故大人たちは……」と思って仕舞うのだ。

そんな、元来の本業が副業と成りつつあるここ最近。


『女の子らしく、某桃姫の如し敵陣で待てと? "一昔前"の恋愛小説の読み過ぎですね、その考えは』


現実を舐めるな。お貴族様だから守られると思うな。

……今はちまいから分からずとも、あなた達も何れ分かるでしょう……。


『誰かに期待するより、自分で自分を守るの。それが最も確実で、早く、効率コスパがいい』


ことに。

本人はいたって「なにを当たり前のことを」みたいな顔をしていたが、その分周囲で見守っていた大人たちの微笑ましさを徹底破壊、従来の感覚を微塵に粉砕するくらいの威力は、持っていたとだけ言っておく。


『嗚呼、我が最愛なる娘よ……』


としょんぼり嘆く"公爵様"の哀愁は、あの時初めて見たと、パパとママが言っていた。

それを少年たちは、今でも覚えている。


「ふん、これはまた、無駄な足搔きを」


……同じ空間、プロの動きで体を後退させ、ざっと周囲から殺気が消えたのを見回す彼女は、まごうことなき『公爵令嬢』。

王子様やら騎士様やら男共に囲まれ、どこぞのデカリボン様よろしく、蝶よ花よと守られるのが当たり前なマジモンの姫、お嬢たまだのに。


———現実では……。


「怪我、ない?」


因みに。昔ながら、この違法滞在ネキが登録してる【ジョブ】は、剣士ではなく、魔剣士でもなく、武士でもない。


『市場需要以上の希少価値は大事よな。いくらマイナーとは言え、まさかの西洋文化圏に"武侠"を組みこんでくるなんて、カミサマもギルドも分かってる。商売上手なことだ』


最初はもふもふ使いあたりに狙い目を向けていたけど、あるからには使う。とりま"これ"に登録して、極めよう……むふふ('ω')


『現時点で一人しかいないなら、必然的にナンバーワンにしてオンリーワン。つまりこれで私が最強の……』


———××。

言わば×使い、であるが……。その辺りは追々、「とにかく、今は……」と。


「まだ、いける?」


呆気もなく事切れたいくつもの「悍ましきモノ」たちを見下ろす。

そして体勢的にこちらまでもついでに見下ろす、ただでさえ薄暗い場所であるのに。逆光でことさら分かりずらくなっているアストライヤ産の顔を、男二人が挙ってしげしげ見上げた。

そこで、


(……こればかりはいつになっても慣れないし、慣れそうにないな……)


と、女の美貌にヒヤリとする。

まるで心臓に冷たい唇を直接押し付けられるような、そんな感覚だった。

尋ね口調はあどけないのに、表情が、眼が「百戦錬磨」のそれ。


「…っ、たり前じゃん! 折角ここまで潜ったのに、引き返すなんて勿体ないことしねぇ―よ。まだまだいける、いける。なぁ?」

「うぇーい」


過ぎて。

三人寄れば文殊の知恵とは言え、どんな三人が寄るかで、未来も結論も知能すら変わって仕舞う……世の定め。

ツッコミもストッパーも不在な恐怖、これではまるで我欲に走る特攻隊だ。


……そんなちまくとも、頼もしい仲間イツメンに、いい加減ここ最近の疲労等が限界にキている違法滞在ネキ(オタク柱でもある)オフィーリアも、思わずにっこり!


「———上等」


藍い瞳の中に散らばる星屑が、珍しくも短期の間で、又と金色の光を帯び始める。

現時点、年齢故の幼さすら一瞬で消え失せ、顔立ちの陰りや雰囲気までもが一変した。


無害そうな表情をする癖に、妖艶にして狡猾。


花蝶生れのかんばせに到底似つかわしくない、凄絶すぎる笑みは。娘にしては鋭く、女にしては甘やか———まるで"異なる人間"が入り混じったような、アンバランスさを孕んでいた。


「『ついて来てCone』———このまま本陣ぬしまでぶっこんでくから」


獲物を前にした猫のように目を細め、口角を上げる形は、子猫の皮を被った獰猛、肉食獣のそれである。

然るべき血統を持ちながら、家にいる飼い猫ではなく、家の中の【鼠】を捕まえたり、抜け出す外でヤンチャしたり……。


『嗚呼、だから我が最愛なる娘よ……』

『お嬢様……』


仕留め、咥え、血まみれの獲物を大好きな飼い主にプレゼント!

そして、周囲にも見せびらかす。

怒ればいいのか褒めればいいのか、分からなくさせる。物凄く困らせるタイプのネコちゃん…。

教えずとも、本能から狩りの何たるかを知り、幼ながら屠るための牙と爪まで持ち合わせた———猛獣の子バケネコだ。


その姿、有り方に「何故カミは、こんなのを世に、この時代に爆誕させた?」と思う反面。


(そうだ)


とも思う。

———北部の頂点、アストライヤは「こう」でなければ、と。


「ッ、」


どちらかと分からずに、自ずと唇を噛み締めた。

酩酊にも似た陶酔感に脳髄まで犯され、ほとんど無意識で「応」と零していた少年二人の声は、タイミングを計ったように重なり合う。


昂揚、緊張、期待……そして死ぬかもしれない恐怖に勝る、好意。


背筋が痺れ、言葉にできない感情が、喉仏までぞくぞくと這いあがってくる。


「なら、行きましょう」と背中を向けたはずの化けの皮が、一段と美しく歪み、口角を吊り上げたのが見ずともわかった。


一本の琴線が強く引っ張られて、張り詰められて、首に掛かり———生きたまま引き絞られていく感覚すら、狂おしいいとおしい


『野蛮』であることを許された北の獣性、強者を好む性を持つ生き物オスとしての本能が意図せずも、歓喜の震えを上げる。


(戦いたい!)


星の導く先。誰より綺麗な存在と肩を並べ、歩みを共にし、この支配者Domと戦いたい!

もっと強く!

もっと激しく!


傷つく、息絶える恐怖より安堵を覚える、狂乱の情。

圧倒的なカリスマを持つ人間を前にした臨場感と高揚感が止まらない。


武者震いが起こる。


恐怖で無い震えで、己が武器を持つ手が震え、奥歯がギシギシ鳴って…。


「そんなに見詰められてしまうと、焼けちゃうわぁ」


そら、目潰しだ! と。

自分たちよりずっと華奢な背中が。

本来ならば弱くて当たり前の存在おんなのこが、もはや人とは思えない存在感を以て自分たちを惹きつけ、離そうとしない。


(……いや、アレの場合は、"色んな意味"で「離れられない」と言った方が正しいのだけれど)


熱で浮かれるも、優しい目で見守り。口では「仕方ないなぁ」と息つくも、その勇ましい足並みに追いつくべく、思わずと駆け足になる。

何時もの事ながら、高鳴る鼓動が心地よく。更なる高みに上がろうとする生命としての本能、今までにない欲求に頬が引くつく。


「!? ギッ!!」

「NPCでもないのに、攻撃パターンにバリエーションがない。ボツよ」

「ガッ———」


悲鳴が音楽のスタッカートで、血の雨がまるで赤い花吹雪の様だ。

彼女の刃が輝く度、艶やかなべにが宙を踊り、はらり、はらはら舞い落ちる。


「綺麗だね」

「ね」


身内から見ても恐ろしい光景であるハズなのに、美し過ぎて眼が離せない。『悪魔の劇中』に吸い込まれたかの様な心地だ。

少し離れた場所から見れば、そこだけがスポットライトに照らされているようで。


「【ドロップ】した時から、お前は本当に素晴らしいきれいね」


……と、白魚の手に握られ、振るわれ、きらめいている刃も、己が主人を誇っているかのように、赤い血花をしどど零す。

よく磨かれた玉鋼特有の波紋を揺らめかせては、淡く光るのを繰り返し。

この日も、彼女が歩いた道はまるでレッドカーペットの様な色彩、桜道のように続いていた。


それを昨晩とは異なる興奮、畏怖、お子様二人がどこか夢心地となって、見詰めていると。


「「………」」


…………(੭ ᐕ))?? あらっ(੭ ᐕ))!?


「オイ…マジかよ……」

「え、は? うそでしょ、えー??」


桃源の住人でありながら、地獄でもある。元より、妖精の観る悪夢のような女だ。


イツメン二匹が「あの背中に理想の君主象、漢を見た」「ぶっちゃけときめいた」「だからモテるのか、女に、このレベルになってようやく」「つら……」と思い。

今日も今日とて、


『この胸の高鳴りが恋なのか愛なのか、それとも恐怖なのかを判断するのに、俺らは幼すぎる』


一瞬目を離した、僅か三秒及ばずのコトである。

消えた人影。

思わず出てしまった空気の抜けた声が、全てを物語っていた。


こ れ だ か ら


「目が離せない! もう~~~」

「なんで女と遊ぶときは迷子にならないのに、俺らとくればいつも消えるのかなぁ。あの迷子アマは……!!」


(知らぬが、噂に聞く)某桃姫ですら攫い手がくることで攫われるのに、何故うちの姫は臣下を置いてセルフで消えるんだ。

例え好ましく思う雌であろうと、こればかりは関係ない。理解不能なのである。


———なので。


『もし、俺の娘に……』


その時は、 分 か っ て い る な (੭ ᐕ))??


『例え死んでも、公女だけは守りきれ。それが北の安寧、我が家門存続への第一歩だ』


じゃないと、 分 か っ て い る な (੭ ᐕ))??


……世にも恐ろしい最凶パパと自分の(であるはずの)パパに脅され、リンチされ、まるでこの世の常識みたく叩き込まれた。ほぼ状況反射と言っていい。

この歳で千の風になりなくない、保護者二人は兎に角走った。


己が明日のため、家門のため、そしてまだ見ぬ未来の嫁のためにも、走る他なかったのである。


『頭が追い付かないコトなら、とりま体を動かせ?』


話しはそれから、筋肉あってこそだ。

……あの日の夕日に向かう少年にしては、絶望過多な顔色だが、ダンジョン最深部に向かって、とりま足を動かす。


(だって経験上、)


消え先は武器や装備、素材が落ちる『ボス部屋』だと、相場が決まっているのだ。

少なくともあのアマは……と、少年二人は走った。

そして、


「私は閉じ込められています」


主戦力不在のまま、お凸り申し上げ…。

違法滞在ネキが村八分なら正直、これはこれで入学早々いるいる、新しい環境に調子に乗って凸る大学生Y0uTuber状態にしか見えない。


「ここです」

「いや、どこだよ」


ただ現実では、ボス戦前だのに、心の準備なぞしてる暇なんてないし、出来やしない。

……そもそも振り回すカメラもスマホもないのだから、迷子常習犯が迷子になりやがったな時点で、軽い気持ちで来たわりにマブ×2の顔はガチそのものだった。

———恋は知らぬが、少年たちはダンジョンボスより世にも恐ろしい存在を知っている。


「私は孤独です。ここはとても寒く、とても寂しい」


それも複数人……。


先ほどまでウロウロしていた洞窟まで行かずとも、記憶にない『洋館』を全力ダッシュし、扉という扉を「クソお邪魔しまぁす」と開け放ち。

然し終始、声は聞こえても姿を見せない野郎ボス?に、焦りと怒りが募る。

こうして彷徨いながら、少年二人は。


「私の仲間になれ」


と身勝手過ぎる相手に……とうとう。


「うっせえわ!」

「今はそれどころじゃないんだよ~、こっちはよぉ~」


……とうとう痺れを切らし はぁ~~~(੭ ᐕ))??


と。とりあえず逆ギレしておくのが北部流、こればかりは家門関係なく、様式美というヤツである。

一次感情の臨界点突破が激怒、怒りの念が富士山の頂上付近とされる二次感情なら、敵を前にビビるよりも怒って攻撃する方が、生き残れる。

約一名がそうかどうかは不明だが、厳しい自然環境下、それが自ずと親から次の世代へと北部のお子様たちに受け継がれているのかもしれない。


「ハァ…ハァ……」

「い、居ない……!!」

「…………」


一括りに【ダンジョン】と言っても内部仕様はそれぞれなので、そこを今更とやかく言うつもりはないし、言った所でどうしようもないから、別にいいが。それでも、いい加減にしろ。


あのお転婆は腕っぷしも帰巣本能も強いから、経験上いつかは・・・・戻ってくるだろうけど……少年二人は「それでも、それでも」と当人の御父兄、当人の前だけ可愛い子ぶってる旦那が、こんな我が世のナニより恐ろしかった。


あのイカレ野郎イケメン共、巨ぱおんを与えられし強者達に対し。決して俺らが弱いわけでも、ビビりな訳でもないのに……動物、生命としての本能が恐怖を訴えるのである……。


なので、(誰に似たのか、中々に)小賢しいマブ二人は、未だトラの威を借りなければ、幼心が働いて、真面に対話することさえできない。

———だのに。


(あのアマとくれば、いつも……)


一見甘い顔して、実は誰より北部の人間らしい違法滞在者オフィーリア

出会い当初から、ただではこけない分、良くも悪くも"ただでは"帰って来ないのだ。


『飼う。飼います。お持ち帰りしたからには、責任取る。お、お家の裏山で飼うもん……』

『やめなさい』

『お前はまた、ナニを引っ掛けてきたんだ……』


その事をとりわけよく魔境へランデブーしているイツメン二人は、他の北部勢以上によ~~~く知っている。


———その一方。



『 負ければベリードアライブ

  ××××が あらわれた! 』


……こちらはこちらで、思わずそんな在りし日のトラウマ、某タウンのBGMと共に、セルフテロップが脳裏に流れる。

石窟内に響き渡る獣の息吹以上に、自分の心拍が、まるでリズムの乱れた打楽器のようだった。


呪いおばけに保険も訴訟も効果なしだからな。

 そもそも実体のない相手に素人がどうやって勝てと? だから寺生まれでもない限り、危ないものには初めから手を出さないことをおすすめするのぜ!』


それこそ、暫く呆然と立ち尽くしたのち、何時しか聞いた某のんびり実況までが流れ始めるや、オフィーリアは独り。


(森?)


とりあえず山の麓みたいな場所で「あばば……」と途方に暮れた。

今は失いし、でも記憶としてまだ残っている、元日本人の血が「モリ…と言うか。山はいけません、山はダメです」と警鐘を鳴らす。

こちらは此方で自分以外誰もいなくなった空間、西洋ダンジョンにいきなりブチ込まれた和テイストに、絶望。


だから、今回も自ずとまろび出る。


「私が長女! いや、元ジャポネーゼじゃなければ死んでたぞ!!」


初見殺しなんて最低!!

何を隠そう、実はわたくし———昔、やってました。


主張の激しい西洋の「そういったやつら」に比べ、ある程度の免疫がなければ、ずっとまぁ嫌ァな感じ。

日本の方が自国民ですら怖く、救いのない最後エンドを迎えることを、貞子、リング、カヤコ……ウッ、名前を言ってはいけないあの人!

……等と、オフィーリアは よ~~~~~~~くっ! 知っていた……。


(だから。だってもナニもクソほども、はどうせ助かった所で、憑いてくるんでしょ?)


はぁ~~~(੭ ᐕ))??

である。


「はぁ……」


でも、まぁ、だからと言って、鳴いても致し方ありませんし。

とりあえずこの手の話は持ち物バッグ確認、モチつかないと、帰宅の道は完全に閉ざされる(に違いない)。


(———なので。こうなった以上、玄関で靴を揃えるどころか、脱ぐ意識すら芽生えない。援軍を呼んでは、返って邪魔だ。まずは『マップ』を手に入れなければ)


寝言も恨み事もお家に帰ってから、可愛いレオきゅんの上でごろごろしながら、好きなだけ宣おう……。

袖を捲って髪を結び直し、内心ビビりながらも、意外に落ち着いた様子で違法滞在(?)ネキは、目の前の砂利を踏みしめた。


肌に纏わり付く、"ここに迷い込んできて"からというものの、今や「懐かしい」とすら感じる湿気にうなじがべたつき、ゾワゾワそわそわ、そこから鳥肌が立つのを誤魔化して歩く。


(これでもワイ氏、オタクの国出身(この世界さくちゅうで多分一人しかいない)オタク柱なるものぞ!)


と逆ギレしながら。


(ゲーマー舐めるな!)


と啖呵まで切って。

そして最終的に———私は、美少女。


「ごめんくださぁい、ふぇええええん~~~><」


なのだと。

あちらの初手と思しき日本家屋、あの頃の引き戸を恐る恐る、ガラガラと開く。その音にすら肩を跳ね上げさせながらも、こうして(たぶん)二重違法滞在しているだけ……オフィーリアは勇敢だった。


この手の話、及びゲームは、とりま空気の読めない輩と美女が真っ先に儚くなる———然し、その代わり幼女が生き残る場合の多いこと……と。

故に。ある意味経験者である姫枠は、私の考える最も幼い><の目の作り、この如何にもな『廃村』! に足を踏みいれた。


……因みに昔からやってた割りに、彼女は探索のし過ぎで時間を忘れるタイプだし、どちらかといえば(すぐ死んで仕舞うので)自分でプレイするよりかは作業の傍ら、BGMとして実況を聞いて楽しむタイプである。

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