ep.20 賞罰分明するも公私混同! 齢15で嵌められた!!


『———件について。

 想いの数だけ色があり、星座の数だけ夜は色々な模様を持っている。ならば無論、朝も…』


ここからのメインは花ではなく、根と葉。

香るのはあの日の思い出と。

下に「養分」が埋まっているからこそ艶やかに、桜はもっと美しく咲くのです。



『「噂」とは違い、大層お綺麗で正直驚きました!』


綺麗の裏は妖塗れ、これぞまるで京の都! あの頃通った、清水の舞台がある場所のよう。

———もぞり。

枕にしていた温もりが離れゆく感覚に、うっすら目を開けば……。


「質言は取ったからな。もう少し寝てろ」

「…?」


俺は先に行くが……とりあえず、手を。


……昨夜の"アレ"から、何もかも覚えていない訳ではないけれど……頭は痛いしで、記憶の方も余りない。

ただそれでも、分かるのは。こうして、まだ朦朧と微睡む中、指に触れた金属の冷たさと共に、私の新しい生活が始まった。


「はい皆さんおはようございます。全員います? 席に着いてね~」


マ、とは言っても、何だかな。


いくら今生の身ではお初であれど、こちとら人生二回目。

立場故の都合、あと安全面等から見て、電車やバスの代わりに馬車揺られ、寮ではなくこうして屋敷から通う時点で。


(ほんと何だかな。とりま思うのは、相変わらずカラフル過ぎる……)


周囲の環境があの時代、人から物まで異世界仕様となっている以外、特に変わり映えのない。

正直、学園バチェラー会場に来たからと言って、今までの生活とそれほど……って、感じだ。


「え~マイクテス、マイクテス。後ろまで聞こえる? 大丈夫そ?? よし……えー、」


そう思いながら、言わば空間の上座に立ったオフィーリアは【魔法具マイク】を片手にゆっくり、のんびりとした仕草で場を見回した。

……例え時空の壁をブチ破り、「違法滞在」している身であろうと、仮にもオタク柱として、人前で話すなんて未だ正気の沙汰とは思えないし…。


「本日も春爛漫、お日柄もよろしく、本来ならばとてもメデタイ? 発表と共に心地良い気候で学園生活のスタートを切るハズでしたが…ご存じの通り昨日が『昨日』だったので、私の慢性的な頭痛の調子も良く。つまりこんないい天気にも関わらず、そもそもアレからの今、大して休めぬまま出勤してる時点で、私の体調はすこぶる不良な状態であります」


心底嫌だが、親の太腿を抱いている(そしてこれからも抱く予定でいる)ので、我儘が言えない。

この度における新入生代表挨拶は自主辞退できても、この手のお誕生日席ばかりは幼い頃より慣れるあきらめるしかなかったのである。


……然し本題に入る、その前に言っておかなければならないことが。


「……ここから見るに、どうやら同じく体調不良の方が幾人かありますね。多動性の発作前に恐らく二日酔いの症状が出てる、自分の酒量を過信した新入生おばかさんが」


なので、とりま昨晩の酒乱後。朝から聞く迦陵頻伽の声を小鳥の囀りか何かだと錯覚しながら、机に突っ伏していた数人は周りに突かれてようやく、ゲッソリ顔のまま座り住いを正した。

……『ご新規』の方の居ない、いつもならば放っておくのだが。

それを見て彼女は軽く咳払いをし、改めて口開く。


「はい、ご協力ありがとうございます。では、ですね———」


無論、原稿を書く時間なんてなかったので、アドリブである。


「改めておはようございます。私も含め各々ここまで来た思い思惑、ご家族からのプレッシャーはともかく。北部を代表し、ご入学を始め進級、そしてめでたく留年した方々も、誠におめでとうございます」


一瞬「なんで留年…?」と思うも何食わぬ顔、オフィーリアは、このちまい奴らに申し上げたいことがあった。


「そして一体なぜ同じ新入生、まだ学園の何たるか、左も右も分からない私が挨拶しているのかすら正直、こう話してる今でも疑問を持っております……」


昨日ならばいざ知らず、生徒会の都合故に出っぱらったレオくん以外、上級生がそろっている場でほんとなんで……(੭ ᐕ))??


「敵はホンノウ寺にあり、これもアレも全部アイツのせい。旦那ナビに置いて行かれただけでなく、案の場来る途中で道に迷い、時間スレスレで入った途端マイクを渡されたのですが……」


外には外敵、中には明智。

あれだけ仲良くすると言っといて、もしや、もう謀反の予兆ですか……(੭ ᐕ))??


「ははっ」

「……っと、まぁ、今までご縁なく、私や『私たち』と接したことのない特待生、及びその他の方からすれば、『こんなのが公女トップ……??』と思っているであろう所で、中央や他領と違いコレがうちの……と言うか主に『私』のスタイルなので」


慣れるか、諦めるか、それか転寮するか。


「の中から決めてくださいね。それが北部に産まれてしまったあなた達の運命です」


フロアに良識ある大人がいないのを良いことに、彼女は「ですがね、」と、しれっと続ける。


「これはあくまで私の予想、範疇での話ですが」


こんなご時世、多分クソ時間を喰うめんどい段取りと手数料を取られる割に、どの領グループに行けど、ネジが緩い、頭のヤバい奴は大抵二~三人はいるかと思われます。


「なので、そう言った諸手続きを行う際は、よく調べてから行動に移すことをおすすめします」


……でなければ、ね? 


「昨日のアレコレも踏まえた上で、新入生の方々は是非とも心を強く、気を確かに、一時の感情に流されず、頑張って生きてください」


慣れぬ環境での人間関係やら単位やら、それはもう色々と。

……突如菩薩みたいな表情を浮かべ、彼女は「んで、」と一拍置いた。


「———と言う訳なので。昨日、昨晩は相手が余所だった為に、ああいえど、それだけ今まで築き上げた『野蛮』の印象は伊達じゃない」


それこそ、主に民からの試験選抜で集まる『学術院』の方とは違い。


「…どう足搔けど上流区域、学園は貴族社会の縮図。特に伯爵家以上のご令嬢はいくら建前上同じ入学試験を受けた所で強制招集だし、いいとこのお嬢様やボンボンなんて大抵当てになりませんから…」


特に特待新入生の方はよく考え、時世を読み、過ごすように。

そんで、もしまた喧嘩を売られたら……。


「万策尽き、万事休す、そもそも身分からしてどうにもできない……。となった場合、北部担当の寮監先生か歴史学のアデル先生へ、個人的に信頼してるお二方なので、何とかしてくれるでしょう…」


あ。

でも、


「何なら、個人で私に直訴なさっても構いませんが、『特待生』に選ばれ、があれば」


学生相手に下手に出ないのでは……(੭ ᐕ))??


「と思うも、何事も万が一がありますし、とにかく場面で……その辺りは各々の匙加減で決めてね。エ、次、二年生三年生の皆さん注目」


オフィーリアは新入生に向けていた視線を横ブロックに移し、二年三年の塊をジッと見詰め…すぐさま。

(いくら野蛮の地におけるお貴族様、高度教育を受けたのお嬢様とは言え)思わず「人生何度目……??」と聞きたくなるような、齢の割に達観した笑みを浮かべた。


これでも二度目の学園、経験者の語ることだから。

オメェら、よーく聞いとけよ……( ^ω^)


「新たな春の訪れによって新入生が入り、君たちはちょっとお兄さんお姉さんになりましたねえ。いくら昨年一昨年と同じ校舎とは言えど、自分たちよりちまい……特に領・寮問わず、"可愛い子"がはいると、立場や見える景色が大分変るかと思われます」


でもだからって。


「下手にちょっかいかけたり、浮かれて大人ぶってると、痛い目見ますからね。その辺り、三年のみんなの方がよく分かるかな?」


今の投げかけに「?」を浮かべる二年。

対し、「やはり」と言うべきか、三年のたまり場にゲッソリとした沈黙が漂った。

……そのあり様を見て、彼女は にこし! と明るく笑う。


「そうです。つまりそういうことですから、二年は今の三年が来年の自分たちと思って、今年の学園生活に対し取り掛かるように」


場慣れしていない一年生でもなく、卒業のためのアレコレで日に日に未来も希望も萎れていく四年でもなく…。

嘗ての生にて落単なるもの、及び正しくこの世の地獄、学期末諸提出〆時まで寝れまてん! したことのある、経験者(常習犯)は語った。


「一見一番気楽で、青春できそうな立場ではありますが、今までの自分たちがどんな存在だったかよーく思い出して、覚悟をお決めになってね。……もしこれが余所だったらまだ一風違うと思いますが、これも私たち『北部』の運命、醍醐味シュクメイですから」


と。


同年代とは到底思えないほど切実に宣う声、最後の一言で「?」の頭上が一瞬にして「!」となる二年に笑みが深まり、その中でも特に野郎共の顔に焦点を合わせ……彼女は歌うように告げる。


「特に男子。ただでさえ"治外法権"ある限り、やたら滅多ら他からの当たりが強い北部ですのに……」


つまりこの"進級"は貴方がたにとって、まるで言うことを聞かない一年と脳に大きな腫瘍……そう言った病気があるとしか思えない上級生、北部出身の先生方からの板挟みに合う貴族社会以上の縦社会。


「で、言わば最も弱いしんどい立場ですね」


なので。


「皆さんは、頑張って学生特有の理不尽と周囲の愚かさに耐えましょう」


私は見てますんで。

見てるだけで何もしないので、


「男の子なのだから自分たちで何とかして、戦いの中で成長してください。取っ組み合いでも、賭博でも、決闘でも、まず自分たちで何とかするよう、努力してください」


そんでね。


「それでも解決できず、刑法を犯しかねない問題レベルになってから、私の所に持ってくるように」


経緯や理由、内容次第、相手次第。


「何よりその時の"気分次第"でスケダチに入るかは別として…話くらいは聞いて差し上げます」


無論。


「女の子、お姉様方は、何かあればお気軽に、いつでもいらしてね。一緒に突破口こうりゃくほうを見つけていきましょう!」

「さ、こんなの差別だ……!!」

「そりゃあねぇよ、お姫様~」


これはこれでお馴染みの段取り。

所々上がるブーイング、そんな男子ィに「これは差別ではなく、区別です」びしゃりと取り付く島もない様子。

続け様に、嘗てなほど透き通る優しい声で「ならば可愛い『女の子』になってから、出直して」と慈悲なくそう言っては、星の王子様ならぬ星元アストライヤ生まれのお姫様は続けた。


研究科等に上がらなければ、この学園における最高学年である。


「留年した方々に、特に申し上げること、私から申し上げれるコトはないので———最後に、今この場にいないレオ・クリシス副会長を含め四年生の皆さん」


四年生の方に顔を向け、いきなり真面目になった声。

思わず「え、何言われんだろ…」と背筋を伸ばした集団に、オフィーリアは嘗て自分が大学生だったころ、そして当時の周囲環境を思い返しながら…。


「残り僅か……と言うか"四年"なんてほぼ学園に来ない立場でしょうが、それでもわたくしから、貴方たちに言いたいのは」

「ごくり」


……と誰ともなく、固唾を呑んだ場に向かい、ニコニコ笑いかけ。


「これまで長々、お聞きになったように、どの道どう足搔けど『北部わたしたち』の地は所詮こんなヤツばかりなので、一から三に期待するだけ無駄」


ですので、


「せめて貴方たちだけでもこれから、これまでの学園で耐え忍んだ誇りと自覚を胸に、各々の就職先で行動してくださいまし」


個々が問題を起こす分は「ご勝手にどうぞ、そこまで面倒をみれん」ですが…。


「ただでさえ底辺から浮上したことのない北部イメージを、これ以上落とすような真似を決してしないように」


……どうせいち早く彼女ピ、婚約者ピ、若しくは浮気相手と夜の街へくりだし、遊びたいがため。


「適当にも程がある、せめて参考文献くらい書きなさい。それっぽいことを書いて終えるつもりか、諦めるか、そもそも書く意思すらない」


の三択しかないのでしょうから。


「つまり暇でしょ? 貴方たち」


なので。


「———なので、三学年に渡る後輩達の監督等は貴方たちに任せます」


私は見てますんで、


「見てるだけでこんなバチェラー、悪意と欲望の巣窟、様々な民度犇めく学園に来てまで身を粉にし、大した報酬どころか"推しボイスログインボーナス"すら出ない。その様な職場でどうモチベーションを維持せよと?」


だから、私は見てますんで。


「見てるだけで、必要最低限以上に、働くつもりはありませんので…」


……相も変わらずこの世のモノとは思えない面、愛らしい鈴の音が……。


「全員そのおつもりで」

「…………………??」


今日も今日とて、実家の威光をバックに、好きなだけもの申し上げる。

一応言っておくが、これでも今生の彼女、オフィーリアは養子ですらない正真正銘の血統書を持つ『公爵令嬢』である。


なので。

いわゆる『ご新規』様、「特待生」を始めとするこれまで彼女と付き合いのない、若しくは薄い一部の少年少女は、この貴族あるまじき、一寸変わってる。


「????」


……どころか、もはや全力でふざけてるイカれてるとしか思えない挨拶アドリブに面食らい。まだ真面だった最初の時候の挨拶以降、処理落ちを起こしていたのは言うまでもない。

言うなれば初見殺し、顔の良さからして脳がバグり始めてる段階での、更なる追い打ちであった———理解不能なのである。

頭に何も入ってこないし、実際何も入ってこなかった様だ。


が。


然し、運命の俺嫁をロックオンするや否や、俺らに歳なんて関係ない、隙あらば怒涛のアプローチ。

本当に男としての色々も人としてのイロイロも同時期に捨て、堕ち、自ら進んでメスと化す。あの頃から逆に誰よりも漢らしい旦那、レオくんの。


「公女様、もう公女やめろよ」


レベルまでいかずとも。


過保護にも程がある実家、両親に厳選された北部家門の中、付き合いが割かし長め。

そんな彼女のオトモダチたちは慣れた感じ、「なんでこんなのが公爵家のお姫様が務まってるんだ。しかも俺らより仕事できて、女にモテるし」とヤジを飛ばし始めた。


「てか、今日も公女してるようで、していない。恐らく"今日は"そんな気分。公女様の今の冒険ランクって確か……」

「だいぶ前からSだよ、ソロのSだから王国どころか大陸で数人…いやほんと、なんで公女してるの??」


と首を傾げては、こちらもこちらで盛り上がり始める、諸々。

とうとう「なんで俺らはモテないのか」の議論を始めた顔が良くとも見苦しい、図体がデカくともちまい野郎どもに比べ、女性エリアから飛んだ「オフィーリア様ぁーっ」「公女チャンーっ」「今日も可愛いよーっ」と温かな声援、容姿や本日の髪型へのお褒めの言葉。


(流石異世界仕様の顔面偏差。……ここでもいい香りがする)


弾ける女の子kawaiiの笑顔に、彼女の方も彼女で同じくかわゆい顔を作って手を振り。更なる歓声を浴び、支持率を上げた所で…。


「えーこうして一部男性諸君の負け惜しみブーイングと、センス抜群、見る眼しかない女性陣の温かい声援を受け、たった今皆さんの学費……の内の上納金で女性陣に入学、進級祝いの送り物をすることにいたしました」

「えっ、」


無論あんた達の金で買い、私の名義で送る。


「つもり。言わばガールズ……いえ、言う所の記念、サプライズプレゼントというヤツですね」

「は? ハ~~~ッ??」

「え~ありがとうございます。ありがとうございます。可愛い女の子の小さな我儘にすら付きあえない甲斐性なし、喚くヤツから先に破産、淘汰されていく。こいつ等の財布、若しくは銀行口座から限界まで絞るから、みんな楽しみにしててね」

「さ、最低……!!」


桃源郷から落っこちてきたか、衆合地獄から湧いて出た様な美少女だが、男以上に女にモテるタイプの美少女(に憧れ、夢見て、目指し、はや何年)。

帝思考や浮気等の心理を理解するも、その代わりと言っては何だが、失ったモノも多い。野郎に厳しい、最低である。


あ。


「でも、私の趣味で選んでも良いけれど……これこそ折角の機会ですし。新学期だから何かと入用でしょう?」


なので。


「今何が欲しいかとりまリストアップしといてね。次の休暇にでも自由参加、時間ある子でめいいっぱいおしゃれしてショッピング、都ブディックスイーツ巡りデート行こ♡」


絶世と呼ぶにふさわしい、少女の凛とした眼尻が、柔らかく緩む。

涼やかでありながら、宝ノ塚の男役ばり、春爛漫とした声がフロアに響く。


……後、顔に似合うだけの地位も金もあるので……。


「…………………」


このクソアマ……。

でも、嫌いになれない……。

けど、やっぱほんとキライ……。


ニコニコかわゆく笑うも、胡散臭い政治家みたいに手を振る、我らが姫。女性陣から殊更熱の籠った黄色い声援が飛んだが、もう方や完全に国会議員、無言で訴えているのである。

その中でも、特にダンジョン入りへのイツメン×2と、時折々でちょこちょこ参入したりする男性一同、一部先輩の方からも、まるで恋敵か、子供が蟻地獄を見るような目でジッ……とり、見られる。


……こんな場面にて、失礼いたします。


「『北領』からいらした生徒の皆さま、長らくお待たせいたしました。本日の全学全校集会、講堂の準備が整いましたので、お向かいください」


集会後、新入生の方はそのまま各クラスにて、これからの学園生活における各種説明がございます。


「なので、マントとブローチをつけ忘れずに。……失礼いたしました」


と無論、一瞬狼狽するも。どこぞのリボンちゃんたちに比べ、やはり上級生プロというのは、随分と違う。

『生徒会』とおぼしき紋章を付けたお姉さんが呼びに来たため、こうしてオフィーリアのターンは本題(結婚報告)を語れぬまま、真冬のロシアと真夏の地中海くらいの温度差の中にて、終わりを迎えた。


ですわ。


ので、身だしなみを整え、言われた通りマントとブローチを確認し、北部に割り与えられた『寮の談話室』らしき場所から出ようとすると…。


「……あー、ウン、とりあえず。オフィーリア様?」


全学集会は人数が多くなるため、我々が護衛を……。


「と言うか迷子防止のため、我々から離れないでくださいね、絶対ですよ? こんな時に限って 絶 対 いつもみたく気づけば……みたいに消えないでくださいね??」

「む」

「我々では対処できませんし……ハハッ」


足を廊下につけた途端に即座、隙なく包囲された。


(件について……)


世の中優しい顔して、イケメンが優しく言えばいいってもんじゃないからな。

ただの学生集会とは言え、全校ともなれば、ボスの不在はちょっと……いや大分不味い。


(のは、分かる)


が、余りにもヒドイ扱い。いくら普段おててを繋いでくれるレオくんが不在な場とは言え、これではまるで極悪犯罪者、戦犯の輸送みたいじゃないか、とオフィーリアは思った。

昨日の式が歓迎的な分厳粛になる、絶対ばっくれれない理由があるも、これは酷い……!!


今生の体に巣食いし病より、自分を見るイケてる異世界メンズの乾いた目が、ナニよりオトメの心を抉った。

絆創膏程度では塞がらぬ、大出血である。


……が。


「…ですが。ただでさえ昨日、昨晩の今日ですのに。いくら公爵家とは言え、王族のいる場、学園でこうも仰々しいのは……となりませんか? "その辺りの感覚"が、私にはよく」

「そう…ですね。普通ならば・・・・・確かに、そうですが……」

「?」


自分の患ってる不治の病を、"身を以て"知ってるので、反射から少し不満げな声を漏らすも、オフィーリアはちまくとも、一応お兄さんであるイケメンに従うことにした。


……そんなお姫様の様子に、周りの兄さん姉さん方も思わず「これならば、流石に消えまい」と肩を撫でおろし、ほっこり。

確かに、先ほどのように、このお姫様は時折り敵味方問わず煽り、地獄みたいな存在と化すが……それでも"かの家門"にしては大人しい方だし、致し方ありません。余程の時でもない限り基本、聞き分けが非常に良いのだ。


「…ですが。オフィーリア様は他でもないかの公爵家の直系であり、例え時折りどんな、いえ……でも、だとしても貴女様が我らが姫であるのに変わりはございません。問題ないでしょう」


……だからなのか、"そういった眼"でさえ見なければ、近所のお兄さんみたいな気分となる。

なので北部、地元産にしては、珍しく綺麗な話言葉を使うお兄さんに「寧ろこんな場でお一人にした途端、我々の明日は消え失せます」と優しく断言され…周りの群衆にまでウンウンと力強く頷かれた……ハハッ。


「左様ですか……」


今度はオフィーリアが逆に我が身を恥じ、複雑な感情を抱き、砂漠のような声を出す羽目となった。

これでもアタイ…中身が……なのに、である。


この学園における北部のイメージカラーはトップ家門に因んで『黒』を基調とする。


「あの…」

「ヒッ」


なので、一塊となれば、全体的に黒々しいものものしい

……これではまるで軍隊の行進。若しくはやはり、治安の———


「いや、失礼。……より、オフィーリア・アストライヤ公爵令嬢がいらっしゃいました!」


アタイら。

そしてアタイもまだ、


(というかマジでログボもないのに、何もするつもりないんだけどな……)


だのに、目的地の扉前に立つ新米教師(みたいな文官)に一瞥されるや、悲鳴を上げられた、この様よ……。

言わばドーナツの空洞あたりから、いつの間にか先頭に立たされていた姫は、どう表現すればいいか分からない心のまま。昨日の華やかな会場とはまた違った風情な門構えに、これはこれで良き! ファンタジー感である……と思いながら。


この学園における『講堂』と呼ばれる場に通されては…。



「!」


だだだだだだだ、アタイの旦那様と思しきイケメンが、別のイケメンと……!!


(あ、あ、あ、いけません! 公衆の面前、そんなに顔を近づけあっては、まるでキッ……余りにも近しい距離。言わば公開プレイ、隣接イチャイチャしとる……)


見渡す限りのカラフルなんてもう心底どうでもいいし、この後予定している挨拶周り上級生編もほんと、どうでもよくなった。

体の力が一気に抜けていく……。


いくら国内随一に広い学園とは言え、全校生徒の大集合ともなれば、まるでゴールデンウイーク最中の某ランド如しの人口密度。


(……だというのに、なんてけしからん密の間取りを……)


今の問題はその様な中、レッドカーペットの先の光景だ。


(聞いてはいたが、一か所だけ"別格待遇"されているのがよーく分かる)


そこに王族、件の王子様や生徒会メンバー等と思しき面々が鎮座していた。

オフィーリアはその眩さに瞬きをして、なんて圧倒的美男子率なのかしら、と思う。

そして、何より。


(やはり私の目に狂いはない。女は添えるだけ感がこちらまで漂う)


この感じ、と。

B&L商業系疑惑があったイケメン二人がコソコソしてる(?)様をリアタイで観てしまった、嫁の顔が自ずと ぱぁあああああああ と光り輝きだす。


政治的腐敗だけでなく、ぱおんがなくて喰えずとも、見ているだけで胸も腹も膨れる腐の嗜みも深かった。昨夜に引き続き、本日のオフィーリア公爵令嬢。


「~~~~~~~っ!? ……!!」


壇上傍、言わば来賓席みたいな場所で上司と思しきイケメンを押しのけながら、こちらを見た旦那と間違いなく、目が合った。

無論、他のキラキラしい奴らとも。


(これでも皮だけは、星の美少女アストライヤ産なので)


その中で、自分の満面の笑みに顔を赤く染めたのち、果たしてナニに勘付いたのやら。

すぐさま青くなり、「見るな!」的な口パクを寄こしてくる。

……然し、そう寄こすも、こんな公衆の面前、厳粛であるべき場だのに、全力で首を横に振っているレオくん副会長が余りにもかわゆくて…。


(昨晩のアレから、ほんと大変だったな……)


回収しおむかえに行ったとき、既に墜ちきっていて、ワカラセ前の威勢もどこへやら。


『中をズボズボ嬲って、雄子宮に熱いの欲しい♡』


と泣きじゃくりながら、うちのスライムを困らせていた旦那のあられもない姿を思い出す。

その時は、何故か逆に「ワカラセ」られた敗北二文字、哀愁を背負うスライムが余りにも可哀想で巣に戻し…"後処理"を請け負ったが……。


———なるほど。


(そういうことなら、大丈夫。気にしないよ!)


余りにもキラキラしい現地民共に対し、違法滞在者の思考回路は破壊された後、迷走。嫁は今にもこちらに駆けてきそうな旦那(でも、周りにしがみ付かれている。その構図スチルがまた何とも…)に向かって、親指の代わりに、ばさり。バッグに花を背負い給うた。


「あ。」


夜と朝方とでは、また違った風情。

……むこうから見れば、その心根ともかく、そう見える。黒髪の天女が散花するかの様な後光C Mに。

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