ep.11 けれど緒を千切り、最後の箍を外したのは


『蜜垂らす花と言うか、生産性のないカネにならない温室ってやつ?

 乾いた眼差しで佇む白群びゃくぐんたちに、真ん中に「ドデカいリボン」を据えた黄色方』


可愛い? かっこいい? 不気味? それとも……ワタシ、綺麗??

ソレは北極と南極ぐらいの違い、何を感じたか是非教えてください。

———「1位はわたし!」と何時ものように。

そして「私が欲しいモノは、いつだってわたしのもの!」と何もかも許された・・・・・・・・あの頃のように……。



『……では、我らが明星。美しいレディー、どうぞお手を』

『あ""?』


「是非」もう一度。

それこそ、風前の灯火が燃え尽きる、その時まで……気が向いたら、遊んでウケてあげる。


「いい歳こいた、妻子持ちの親父がナニ色気振り撒いてんだ」


ふざけんなよ、と。


「レオくん、顔。言い草もそうだけど、綺麗なお顔がすごいことになってる」

「だって! それは……」


細やかな意地悪が、下手すれば戦事いくさごとになっちゃうかもだけど……良くも悪くもこんじきを産む分、日常生活において弊害も多い。

旦那様(暫定)⇒(未来)となるも、結局のとこ「くん」を付けるほど下に見てる美青年より、そのお父様に「あらヤダ、素敵……!」となって仕舞う……今この時。


正しく、


(癖というか、"合算年齢の業"がまさか、こんな時に出るなんて……)


今後気をつけなきゃな、である。


見てくれだけ幼い冒険者が、麗しき『銀狼』の紳士に手を取られ、ヒョイっと馬車に乗せられる。

まるでお伽噺、傍から見れば、きっと映画のワンシーンの様だったであろう。


いくら"少女心"を捨てていようと、女まで捨てていない。

なので不覚にも、それに浮かれ、内心「もう! もう! もう! これだから異世界! 顔の良い男は……!!」とはしゃいでいると……。


『……………………』

『ごめんね』

『……………………』

『違うの、ほんと違うの、でもごめんね』


俺というものがありながら……嫁が(しかも、寄りにもよって)自分の父親に顔をぽっと赤らめたのを、旦那は見逃さなかった。


彼女は猫かぶりがベラボーに上手いので、普通なら気づかないような誤差であろうと、下手すると本人以上に乙女の柔肌事情に詳しいレオくんは、見逃さなかったのである。

だから……、


「浮気……」

「してない」


のになぁ……('ω')


その可愛い面に流されて堪るか、先ほどから口先ではそう言えど、それでも0.1コンマくらい目を泳がせた嫁を、旦那様(未来)は見逃さなかった。

———これぞ眼力の無駄使い、BIG LOVEゆえの観察力である……。


なので。


「……こんど俺の前で浮気したら、閉じ込める」

「はいはい、分かった。分かった。その時は、ご随意にどうぞ?」

「……………………」


先ほどの発言、息子の不遜さに青筋を浮かべる間もなく。

いくら婚約したからとは言え、それでも『かの公爵家』のお姫様相手にさらっと犯罪告知する我が子が怖すぎて、レオパパは窓の外に目を向けた。


確かに幼い頃から「手段を選ぶな」と教えてきた子ではあるが……どちらかというと万策尽きた末、今や完全に開き直っている様な風体。

時折り同族嫌悪染みた感情を抱くも、可愛い我が子だ。

……でも、理解不能なのである。


なまじ似ている分、昔の自分を見ているようでほんと嫌。


(一番上がだから、北部の中枢貴族、その子供は常に理解不能なヤツが多いが、長年領地を離れていようと分かる)


そんな中でも、コイツは絶対群を抜いてやべぇに違いない。

いくら他と比べ、情緒不安定に陥り易いとされる第二性Subであれど、これは一寸……。


(何より、ことによりグレた時以上、更に"ヤバい"野郎になっていやがる……)


そんな気がしてならない、今日この頃。

かの家門を相手にしてまで、初めから明智るつもりは微塵もないが、これで我が家は未来永劫、もう二度とアストライヤ公爵様に逆らえないし。こんな激やば息子を引き取ってくれた、公女様のいる方向に足を向けて寝れなくなったや……と。


「責任取って、結婚して」

「もうしてる」

「好き」

「それも知ってる」

「……………………」


……あとは経験上、はプロに任せるのがベストな選択、可能なら初めから関わらないのが一番いい。

そう思いながらレオパパは、昼ドラ? というか時間的にまだギリ朝ドラ枠、男女の痴情のもつれに巻き込まれる前、戦略的撤退をすることにした。


———故に。これは決して逃げでも、見捨てでもない。


かの公爵家産に対する信頼ゆえの避難であり、素人がどう身を張れど結局、専門家の一言に敵わぬのだ。


『中央滞在するくらいなら革命、俺は謀反を起こす』


だから代わりに、中央方面は頼んだぞ。


……いくら君が臣下に死ねと言えば、下は死なねばならぬが。あの無駄にそびえ立つ鼻を思い出すだけで、今にも怒髪天しそうになる。

思うにいつの世であろうと、信頼や敬愛と怒りは別物なので。それでも、惰弱な頭よりずっと好ましいのだから……。


「もう浮気しない?」

「貴精不貴多、量より質を見る。レオくんがいるのに、誰にするってゆうの……」

「俺の父さん」

「あれは不可抗力、だって素敵だったのだもの……」

「……………………」


ご機嫌取りか本心からなのかは別として、上手い言い回しである。

常日頃の生活態度に関して信用皆無であろうと、こういう「いざ、いざ!」という時、相手に対し『アストライヤ』ほど頼りになるあるじは古今東西、どこを探してもいないだろう。


(……というか、がうようよ生まれる家門がこれ以上あってたまるか)


目の前の光景とこれまでの記憶で、自ずとそう思ってしまう。

———"専門性"の違いは人それぞれだけれど。


「よしよし、いい子だから、ちょっとは落ち着きました?」

「……………………ウン」


長らく北部を離れ、中央に構えていたせいなのか。

メンブレ最中の犯罪予備軍の膝上で、本当に困った人ねと何ともない顔。【異空間インベントリ】に片手を突っ込み何かを引っ張り出す。

そんな未来の義娘(確定)の度胸に、目を見張るレオパパ。この子を逃せば、我が家の長男は一生結婚できないだろうなと、思うほど……。


「……ああもう、分かった。分かりましたから。拗ねないで」


後でほっぺに チュッ♡ ってしてあげるから、この話はオシマイ。

もう怒るな、拗ねるな、盛るな、空気が悪くなる。


そして何より、馬車ノリモノの揺れを舐めるな。


「もうみたいにこんな場所で争いたくない、普通に危ないですし……せめて馬車の中では節度を守って、ね? お願い」

「んっ! ン♡」

「……………………」


同じ種と腹から産まれたハズなのに、なぜこんな危ないヤツに育ってしまったのか。

いくら第二性の性分があるとは言え、次男に比べそうだし。

……見てくれからしてこの子は自分似だけれど、若い頃の俺はこれほどまでひどくはなかった、とお父さんは思いたい。


そして何より、一歩離れた立場にいる、第三者だからこそよく見えることもある。


「いい子で『待てステイ』出来たら、後で構ってあげる」

「ウン。うん、なら、いい子にしてる♡♡」

「……………………」


確かにうちの息子はヤバイ。

だが、そんな親から見ても中々にアレである我が子を、こうも簡単にいなし、迷うことなく【コマンド】をブチかま、強制妥協させる嫁の方が、実はもっとやべぇヤツなのでは……(੭ ᐕ))??


と。

美女・美少女に「お願い♡」されると、余程なものでもかぐや姫ってしまう、男の性は一先ず棚に上げておくとして。

あと同じ第二性を持つオトコとして、気持ちは分からんでもないが。


「オフィーリアは子供、何人欲しい?」

兄様あにさまであろうと、ねぇ様であろうと、素敵な上を持つと下の子は幸せだから、兄妹か姉弟、二人がベストかな……」

「……分かった」


俺いい子にしてるし、頑張るから。


「……………………」


本能と性欲に生きる、親やお上の言う事はまるで聞かないのに、今やこの『お嬢様』のいう事だけは、耳を傾ける北部の野郎どもよ。

我が子ながら単細胞、性に素直すぎるし、それをけろっとあしらっているお上の娘……。


レオパパは考えるのを辞めた。


まだまだ現役だと思っていたのに、もう歳なのかしら。最近の若者ってマジ理解不能と思ったので、これ以上無駄な労力を使いたくなかったのである。

……なので、そんな「お前は、ソレでいいのか」みたいな顔をする父親をふと見た息子は。


あろうことか。


「……さっきのは不可抗力だとしても、これから。例え父さんでも、俺の許可なしに触っちゃダメだから」

「仮にも実親に向かって、お前は一体何様のつもりで、何を言い出すんだ……」


我らが絶対君主、北部のドンが中央アレルギーを患っているせいで、そのしわ寄せやらハチやらが全部下の者に回って来る。

(そして相手が相手なので文句の一つすら言えない、誰の為と思って今回の婚約で更にそうなった)親不孝蔓延る、悲し過ぎる世の中。


暫く会わぬうちに、まるで誰の子かすら忘れて仕舞ったかのよう。コイツ、こんなに馬鹿だったけ……??

嫁に相手にされないからと突如、育ての親を恨みがましそうに睨んだと思いきや、いわゆる『正室面』でふんぞり返っている息子に溜息が止まらないし、頭もズキズキ痛くなる。


「……北ではまだマシな方だと思っていたが、どうやら私には、子育ての加減センスがトコトンなかったらしい」

「ふん、何を今さら」

「誰のおかげで公女様と縁を結べたと思ってるんだ……ハァ、こんなん・・・・でも我が子に違いないからこそ」


非常に悔やまれる……。

もうこれ以上向かいに座るヤツの顔が見たくなくて、目頭を揉みながら、レオパパは内心一寸ちょちょ切れさせた。


『息子なんて育てるだけ無駄だよ。どうせ感謝すらしないんだから』


何時しか妻から送られた手紙に書いてあった誰かの言葉を思い出す。

正しくその通りだった。


……然し、そう呆れ果てた仕草をするパパに、レオくんは腕の中に駐在させた嫁をぎゅっと抱きしめた。

ママならともかく、パパの口から聞きたくない言葉の一つである「誰のおかげだ」に心あたりあるから、そのあたりを出されると弱みを握られた気分になる。

宝物をイジメっ子に取られまいとする子供のような顔をして、流石のレオくんでもこればかりには、何も言い返せなかった。


「っ、」


……ので、密閉空間に響く二つのイケボをBGMとして流していたら、背後がズモモモモ、突如腹部に圧迫を感じる。顔を上げると、こうして旦那とその父が家族コントをリアタイで繰り広げていた件について。

飯は糧でも食べれないメシ、でも腹は膨れる、正しくテロの一種ともとれるそれに……。


(え、会員登録のし忘れ、最初のとこ見逃した。でも、今からでも遅くないはず……!)


又もや散財するとこだった……!!

ついさっきまでラブロマ路線だったのに、なまじ同じ血を引いている分、同じ穴の貉劇場コントになっとるがな……。


顔面国宝SSR親子そろって可愛いかよ……)


ジワジワ消えゆくボキャブラリーはえ尽きるとの現れ。

そして、私はこれから戦場に赴くというのに、相も変わらず頼れぬ男子ェ……。

だが、


(顔が全てをカバーしてる、寧ろそこがイイ)


物理的でも精神的でも腹周りが痛くなる、これはこれでシンプルに苦行、ありがとうございます。

……と、オフィーリアが内心ニコニコ、によによ、手に汗を握っていると。


「……そのまま禿げ散かせばいいのに……」

「オイ」


世の中の汚い大人に対し、愛と正義だけでは勝てないと分かった、レオくんの暴言は留まることを知らない。

動詞の中でも、男に対し"もげる"に引き続き、禿げるだけでも最悪だのに、散らかせってお前……。


「どこでそんな……父親に向かって、なんだその言葉の使い方は」


ハゲとかクソとかシねやカスみたいに、あからさまに問題あり、汚い訳ではないのに、地味に心にクる。

ここ数年、特にここ最近北部の子供たちの言葉使いが"愉快なこと"になっていると耳にしていたが、まさかここまでとは。

お前こそ、その性悪さに幻滅されて、今すぐ私の(義)娘……公女にフラれろ。


「それ以上生意気な口をきいてみろ、縫い付けまではしないが、明日にでも公爵様に進言するぞ」

「は? 父さんこそ、人の事が言えない。仮にも実の息子に、しかも息子がようやくの思いで外ぼ……思ってやまない当人の前でそんな不吉なこと言うなんて……」


信じられない。

パパ、最っ低!


———である、と。


(もしかして、私は試されているのか……?)


オフィーリアは、先ほどインベントリから引っ張り出した紙束で、さり気なく口元を覆った。

あとついでに、「私との行為play以外でも、レオくんって家では甘えるタイプなんだな。このご時世、そういう場所があるのはいいことだ」とも思う。


彼女は周りのデカくともちまい子たちに対し、昔の常日頃から「アタイはお姉ちゃんだ」と思っているから、未だ気づいていない……姉ですらない、真っ先に思い浮かぶ着眼点が親世代のソレであることに。

日常に潜む"合算年齢の業"が、こんな所でも出ているのである。


だって今も実質、(未だ法律上)部外者な自分がこの場に水を差すワケにもいかないし……正直このデッ可愛い奴らをもっと摂取していたいので……。


クッ、


「~~~~~卑怯な! 父さんがその気なら、仕方ない……今日父さんがオフィーリアにヤマシイ心を向けたと、母さんに言いつけるから……!!」

「なっ」


ん、


だ、


とう……!?


(そう言われてみれば、思い出す。親が息子の嫁を横取りした話、どこかで聞いたことなるな……)


確か、史実の楊貴妃。

いや、もしかしたらあの頃嗜んでいた創作上のの後付け設定だったかもしれないけれど……(੭ ᐕ))??


今生の自分が授かった遺伝子ガチャ結果、皮を傾国の美女だと思っている(なので、美人薄命にならぬよう昔から色々ヤってる)オフィーリアが、傾国繋がりでそんなどうでもいいことを考えていると……。


「小癪な奴め…これだからお前はモテるようで、モテないんだ……」

「父さんほど浮気性じゃない。俺はこの子にさえ好かれ、モテれば、それで」


ぎゅっ♡


……図体も態度も、ついでに下のぱおんも馬鹿デカいヤツから出た、その効果音に、危うく変な声が出そうになった。

そして真正面、いい意味でも悪い意味でも吐血モノ、激やば息子の口から出た思わぬ純愛がお父さんの胸にもブッ刺さったようだ。


「……………………この、イカレたヤツめ」


心なし赤く染まり始めている(様に見える)胸を抑えながら「姿形はこんなにも若かりし日の私そっくりなのに、おめぇ本当に俺の子か……??」と言わんばかりの顔をする美丈夫に、「色んなベクトルで、私のお父様といい勝負だな」とオフィーリアは思う。


SSRから展開される一人乙ゲー、ラブの大量摂取に「フッ」とはにかみ、お嬢様は拳の代わりに手にある分厚い紙束を握りしめた。

……危うく神経の反射なかのひとが出てきて、仰げばなんとやらしそうになるも、公女という建前上、民衆の面前でそんな無様な真似はできぬのだ。


「……それで? 俺のお姫様は恋人ツガイをほったらかしにしてまで、さっきから何をそんな熱心に見てるの??」

「あの、とりあえず色んな意味で胸に刺さるクるので、その姫呼びはヤメテもろて———敢えて言うなら備えあれば患いなし、索敵? の報告書を見てます」


お父様の政敵を始めとする、現段階における国内の敵情事前調査というやつを。


「一寸……ね」

「一寸」


これが一寸……(੭ ᐕ))??

そんな声色を漏らす背もたれに、彼女はウンと続ける。


「……マ、できるもんなら、私もに時間を割いてまでしたくありませんが……ただ現実が、それだけ物騒な世の中ですから」


忘れたころに湧き出る【鼠】さんたち、思い出せ"実家の地下牢"の現状を。

いつの世も先手必勝、まず情報戦を制した者が戦場を制すのである。


、そう告げるオフィーリアにレオくんは目を細めた。


「ははっ、然し、だとしても。よくも、まぁ……」


誇らしく思う反面、虚しくもある、複雑すぎる男心。

ただそれでもよく———こんな短期間、短時間でこんなに・・・・集めたものだ。


危うさと獰猛さ、そして手中の存在が愛しくて仕方ない情熱をごちゃまぜにした我が子の眼は見なかったことにして、「子供だと思うこと勿れ。これだから、アストライアァ……」とレオパパは内心唸る。

それで、


「少し……な気もする。けど、俺の奥さんは血統書付きの飼い猫に見せかけた野生ノラ。警戒心強いとこも好き、可愛い」

、旅行もお外も好きだけど、我が身に降りかかるとなれば話は別。こればかりは好きくない……」

「好きくないかぁ……」


今の会話だけで分かる、絶対"ただの15歳"の枠として見てはイケナイ相手に、お兄さんぶる。

自分にそっくりな顔で甘ったるく笑う息子を見ると吐きそうになるので、これ以上のダメージを負いたくないお父さんはもう知らん、という気持ち。目を瞑った。


次世代の子供たちが怖すぎるのも無論そうだし……いくら愛妻持ちの既婚者とは言え密閉空間、真正面からの単方面新婚オーラは中々に耐えがたいのである。

嫁の方はさらっとしているのに、旦那の方のねっとり感が、実の親でも庇いきれないほど、見るからオカシイ、目に毒なのだ。


……然し、親の心なぞ知らぬ、気にせぬ。そんな大人の裏腹、当のお子様たちと言えば……。


「あ、待って。俺、この女知ってる……カモ? 確か…そこそこ整った容姿でトリマキや軽い男によく囲まれて、今は未だ若いから何かと売れてるけど、それでも頭がお花塗れおかしいで有名な中央の子」


だったような……(੭ ᐕ))??


「え。可愛いけどサイコパスというアレですか? ———『妄想性統合失調症』」


的な……(੭ ᐕ))??


「もう……?」

「『妄想性統合失調症』 先天的か後天的かはともかく、主に妄想と現実の区別ができない方をさす、精神病の一種です」

「へー」


(へー)


視覚が閉ざされた分、研ぎ澄まされる聴覚。

そんな中、この身分、この歳になれど、聞いたこともない『病名』に一瞬息子とシンクロするも、よくよく考えれば前途多難、成人して間もない(ハズ)の向こう席が怖すぎる。


(もしこれが学会にでも向かう馬車なら、もっとマシだろうが……)


学会どころか、学園の 入 学 式に向かう道中でをしてる子供たちが普通に怖い。

親として成長を喜ぶ半面、大人としてはゾッとした。


「へー、裏で随分と遊んでるから、もっと上だと聞き流していたのに。君と同じ新入生か……見るから『不味そう』」


どうせクラスが違うだろうけど、それでも同じ学年カイだから、気を付けてね。

……『狼』の家門を背負いながら仔犬ぶってすり寄るレオくんに、オフィーリアお嬢様は。


「はぁ…いくらそんな世界バチェラー仕様であろうと、なぜ学校メンスト( )に行くだけで、こんな面倒事にならないといけないのでしょうか……」


オトメゲームだと名前入力と(初めはみんな好感度0からだから)不屈の心さえあれば、後はヒロインシステムが勝手に流してくれるのに。

そんな内心は兎も角、柳眉を気だるげに顰める、その憂鬱さすら美しい。

……誰かに似て、昔から面食いな息子が一目ぼれする気持ちがよく分かる。


((この世は地獄です))


そうやって息子の次は義娘ともシンクロしていた事に、お父さんは気づけなかった。

だが、やはり。


一人いちまい…。


二人にまい……。


もしこれが札束だったならな……ふふっ。


「(暗黒微笑)」


思わず、ちまっと開いた目の隙間。

傍から見ればその道の専門家プロにしか見えない、昔ヤってた? と聞きたくなうような笑みを一瞬浮かべた美少女に、果てのない寒気を感じる。

例えそれが平常運転であろうと、まるで彼女の父親を前にした時の様な感覚だった。


(どちらかと言えば母親に似た子かと思いきや、やはり血は争えないのか……)


それでもこの異形の美貌と異様さを忌避したり、疑問や違和感を抱かないのは、彼女が『星の末裔アストライア』だから、であろう。


(絶対敵に回したくない)


———というかこの手のタイプは、"死んでも回してはイケナイ人種"である。こればかりは経験以上に分かる。

いくら終始、息子の膝上でのほんとしていようが、獣の子は獣にしか育たない。粗方間違いではないとはいえ、ちょこちょこまろび出る発言が危ない人過ぎる。


……こんな春爛漫とした日に限って、余りにも不穏だ。


「……でも、いくら自分の、強いては"北部の未来"の為とはいえ、こんなめんど……いえ、不毛なことをこれからも繰り返すことになるものなら、学歴が無くなろうと『もう退学でいいかな』って、なりますね」


それかいっそのこと、態々こちらまで赴く必要のないような総合教育機関を、北部に立てちまうか。


「そこが悩みどこです」

「………………」


だって明日の我が身より可愛い我が身、ただでさえ物騒な世の中での長距離移動は危険を伴うし、金もかかる。

労力の割に、


「……なのでこの事については、将来的な可能性はともかく、ひと段落付いたらお父様に相談くらいしてみましょう」

「"他でもない君"がそう思うなら、そうしなね」

「ウン、そうする」


オフィーリアは頷いだ。


我々の業界でよくある話。

創作は創作だからこそ心置きなくイロイロできるし、キャラを好き勝手出来るが、現実ともなれば、負けたらソコでオシマイ。


(突然の死……)


ウッ、頭が、なので。

問答無用で「ア""ァ———ッ! 解釈、解釈の違いです!!」となり兼ねないから、傍からどう見え思われようと、冗談込みの笑い無し。少なくとも彼女はだ。

そんな"他でもない君"、でもその事情が分からない周りの人からすると……だが、それでも。


「え…? なんでここで食べくっちゃうの…?」

「そんな気分だったから、じゃない?」


一(੭ ᐕ))??


「え…? 出会い二コマ目で、なんでもうベッドシーン…?」

「そこに好みのDomがいて、発情したSubもいたから」


二(੭ ᐕ))??


「え…? はぁ……でも、私はどちらかと言えばもっと、こう、在りし日の埴輪的な甘酸っぱい」

「後、その手の機能が『死んでる』としか思えない君には分からないかもしれないけど、案外よくある話だよ?」


ただの媚薬フェロモン漏れ……みたいなものだから、コトに及んでも、余程の沙汰にでもならない限り、大した問題にはならないよ。

……三(੭ ᐕ))??


「それ、人としてどうなの……」


やはりこの世は地獄、しかも衆合地獄でした。


「———っと、そんな爛れたアダルティなモノではない、(※健全的に)焦らした分だけ甘酸っぱい感じのヤツないかな…。展開がナニカと心臓じゅみょうに優しい、そんな(※合算年齢おばさん的に)きゅんってクるヤツ……」


可愛い顔しながら、手元の報告書らしき紙束にみっしり書かれた文字を追う速さは、凄まじく早いのが、向かいからも見て取れる。

話し途中から、飽きたのか、それとも諦めでもしたのか。完全に目的からずれ始めた会話に、「やはり女の子だな」と……目の前の存在に若干麻痺してきた頭が、思わずほっこりしてしまう。


例えその内心で。


『どうせお貴族様なんて生まれながらのサイコパスかソシオパスしかいねぇし、Domなんて結局モラハラ(※言動などで相手を精神的に追い詰める行為)の化身なんだよな……』


前者の二つはいざ知らず、後者については弁明のしようもない。

———お巡りさん、私です。


……と思っていようと、今生の勝ち組遺伝子が、そう言った彼女を須らくカバーしている。

一度シミの上に乗せれば、まるで初めからなかったような感じに仕上げる魔法のファンデ、正しく剥がれない詐欺メイクの如しである。

自分の息子の顔をジッ…と見ながら眉をむぎゅっとさせた義娘に、お父さんも「これは可愛い」と思った。


「ん? そんな可愛い顔で俺を見て、嬉しい。どうしたの??」


……そして、それは息子の方もどうやら同じのようで……。

その姿にレオパパは「ただでさえ顔が同族嫌悪レベルなのに、こんなところまで血のつながりを感じたくなかったな」と思う。


その一方オフィーリアの方では、上から降ってきた、今日も今日とて無駄な程イイASMRに。

「顔の良い変態はコイツで十分、ムッツリなのは認めるけど、私は変態ではない」と元変態大国で産まれ育っている、そんな自分の事を棚に上げて———。


「なるほど」

「?」


彼女は理解した。

目と目が合ってビビッときたが最後ベッド直通、つまりはワンナイト商業系、一通り愛し合ってから後日互いを忘れず、作者の気分と市場の流行り、運命の悪戯に翻弄されながらも———皆まで言うな。


変態オタク特有の早口のち、


「以下省略。『恋をしてからが最大の難所にして問題』……となる」


なるほど、王道でありながら、これは深い。人世の業である。

行為セッはできても『キス』は本命とじゃなきゃ嫌だし、できない! 的なアレだ、きっと。


「ふむ……」


彼女は男の輝かんばかりのご尊顔を眺めながら、思い馳せた。

……だってそもそもの話。


「可愛い、ちゅってしていい?」

「……どうぞ?」


こんな顔の良い(しかも大義名分が生れた)旦那に迫られて頷かない嫁はいないと思うんだよな。

然もここ最近なぜか隙あらば雄々しくなるけれど、少し前まで一度寝台に上がるとすぐさまアヘアへ、可愛い雌にも成れる言わばリバ……この顔、そして素質で断れたら、その人は人ではなく仙人かナニカなのだろう。


(それこそ、皆まで言うな。この見ているだけで育成したくなる……「※自主規制※モザイク」となる感じ……)


自分の口から思わずと出た三文字に、一瞬驚くも。

すぐさま花を飛ばさんばかりの笑みで迫りくる発光体に、オフィーリアはしみじみと言葉を紡いだ。


「———結局。いつの世も……」


性欲の緒をブッ千切り、最後の良識。タガを外したソレは、つまり。


「ハロー効果。顔か……」

「は。え、なっ何を、」


もし、今生の私がこの遺伝子仕様でなければ、視界に入る事すらおこがましい、壁か天井になるしかない……。

迸る情欲、いつ死ぬか分からぬ戦乱の世(?)だからこそ、一人でも多くの子孫を残そうとする、『いのち』としての———本能。


「いつ見ても……ほんと」


すき。


「ひっ、ぇあ……あ、ぃ、いきなりどうした、の…」


自分の趣味の良さに、オフィーリアは満足げに頷く。

然し行為中のリップサービス以外で、好意を告げられた、男側の美貌がみるみるうちに発情し始めるも。

周囲のオトモダチ曰く"その手の機能"が死んでいる(らしい)彼女は……。


この男こやつ然り、その相方のパパ上も、今生の私を含む公爵家のみんなもそう。異世界デザだから? この世界の住人ってほんと漏れなく綺麗な顔してるよな……)


見れば見るほど、カミサマの癖がよく分かるし、私も。


「すき。だなぁ、って」


改めて思いました。

以上。


「ッ!? う"っ………♡」


目を潤ませ、レオくん顔、真っ赤。


白日の下ではほんと稀、これまでにないほど素直な顔で、中の人を誤爆させる。

当のオフィーリアはこの後死にたくなるほどの羞恥に襲われ、目的地に着いても屋敷に引き返そうとする雄を宥めるのに、不平等条約を結ぶ羽目となったのは言うまでもない。


つまりは爆死……これだからいくら猫かぶりが上手くとも、"二枚舌外交"はダメなんだと、彼女はまた一つ賢くなった。


先んじてヤルか、それとも後手に振り回されたのち、ヤラレルか。

健全なものであれ、不健全なものであれ、駆け引きは大事———それが今後における眠活ベッドの主導権を決めるものなら猶の事だった。


それこそ、「こっちもこっちでいつでも本気になれるストライキできるんだぞ!」と先手必勝、脅しをかけにった方が平和に過ごせる。


どんな事態に陥ようと開き直り、どこぞの誰か如く堂々としていれば、寧ろ……健z。



「お、俺も君が、オフィーリアが、一番すき……」

「全! な私が泣い、や、ん""ん、だからソレは…知ってる」


から。

未来の義父が見守る最中では、流石にアレなので……唸れ拙僧の過去。そこから引用する、適当なこと言って自分が蒔いた種を、彼女は流そうとした。


……したのだけれども。


これぞオバサンが求めていた、埴輪系。物凄く顔のイイ男にかわゆく言われて即鳴き二コマ、(たぶん、言わば)異世界転生枠の人は惨敗した。


そして……くっ!


「緊張してる?」

「ぅん、そう…ね、少しは」


だっていくら五割くらい自分のせいとは言え、時刻を見れば、式に間に合うか分からないし。


「レオくんのお父様もいらしてる、見てる、やめなさい」

「父さん……」

「あー、分かった。分かった。私は何も見ていない、ナニも見えていない、構うな」


そして、巻き込むな。

頼むから。


理解不能な相手に思考放棄したのち、「これは早くにも孫の顔が見れそうだな、家内が喜ぶぞ!」ともはや幸せな未来計画をし始めている、レオパパ。

そんな向かい席に一回は助けの眼差しを送るも、「流石北部の人間、見捨てるのが早いの笑う」と思う……やはり自分の身を守れるのは自分だけ。


……なのでほぼ脊髄反射からの動き、オフィーリアがハリウッド映画でよく見かける窓割りで、馬車の外に飛び出そうとジタバタをした。


———が、圧倒的デジャヴ。

凡そ二日前よろしく秒で捕まり、ブチュッと"分からせられた"としか……これでもうお嫁に行けないから、婿に嫁いでもらうしかない。


「まっん! はぁ、は、話せば分かる! んっ……んん~~~~~ッ!!」


いとも簡単に外堀ヌマに落とされただけでなく、ぶっちゃけ既成事実より惨たらしい所業。親御さんの前でなんてことを……だ。

どうやら今生の私、オフィーリア・アストライアは、もう実家及びこの顔面SSRのために頑張る他ないらしい……。

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