ep.10 持ち寄って血統書、アタイは知っている…。


『悪意を切り裂く宵の明星、空洞ブラックホールの様な猫又の瞳。

 数多の眼差しが藍に吸い込まれた時、真新しい概念の種が誕生した』


運と命をいばらい付け、「いい加減、現実マワリを見たら?」と言わんばかりの趣きツラに蜂。

口角を正し、思想を引き締め、皺を綺麗に整える。

彼女の歌声ウワサが風と雨を越え、大陸中で轟く都度ツド……もっと遠く、もっと高く、この使命感ある限り、「北の負け」は許されない———絶対に。



「まぁ、なんてお美しいんでしょう! 流石は王国一の淑女たるソフィアン様、とても…とっても! 素敵です!!」

「ええ、本当に…。何時もの事ながら、この度は殊更、お綺麗で。まるで天使が舞い降りたみたいですわ」


美しき新世界にて、今日も万雷の拍手が嫉妬ヘイトを煽り、時代劇はますます高揚した。


「有難う、みんな……」


でも大げさよ、と。

何時もの観客とりまきと本日の劇場を擁して、皮肉なほどに檻の中の白鳥である。女王はなお、"自身だけ"が無限に広がる宇宙の長だと信じている。


「はぁ~ん♡ いつ見ても、素敵。あんまりもの美しさに目が眩みそうですぅ! これで本日の女王、周りの視線だけでなく、きっと王子殿下の眼差しも……それはもう、す、べ、て、!」


———『ソフィアン様』の独り占めですわねっ!!


まだ昼前だのにほんのり暗い会場、しっとりとしたピアノが流れる広い場内。

法の元、この度"厳選なる審査"を経て、国中から集められた少年少女は皆、「学園の」と言うには豪奢で……マァ、とどのつまり。


「……ところで、ソフィアン様ぁ? 耳よりの噂で聞きましたが、"例の"…北部の公女も本当に今期、私たちと共に入学してくるのでしょうか……」


『式典服』と書いてドレスコードとなる、結局は各々が考える最強の勝負着を身に纏い、誰も彼ものキメ化粧SSRガオ。この素晴らしき時を楽しんでいた。

いくら多少の特待生が混じれど、ほとんどが然るべき親玉、七光を持つ子供たちである。


平民なら一生渡っても足を踏み込めぬような絢爛ホールに、健全とは程遠い思惑、悪意ばかり犇めく。

法的に成人していようが、幼い少年少女達のくすり、クスクスとした談笑の声があっちこっちでこぼれ落ちていた。


国中の王侯貴族の子女が集う場ともなれば、どの道『入学式』と言っても名ばかりなもので、よくあるパーティー会場にしか見えない。

特別に招かれた国内随一の楽団が音楽を奏で、給仕達がせっせとカクテルやらワインやらを水晶細工のようなきらめきを放つグラスに、ドキドキ練り歩いている時点で、この式がどういうモノかお察しであろう。


そんな中、一部上級生たちも未だ「学園の実態」「現実社会の何たるか」をまるで分かっていない新入生たちの会話に顔を青くしながら、ハラハラ耳を傾けていた。

……往年なら大して気にも留めない内容であろうと、"今年は不味い"のだ。


だのに。


「あっ、ご、ごめんなさい…! 私ってば、つい……いくら公爵家のご息女とは言え」


ただの引き籠り。


「高いのはそんな生まれながらの家柄ばかり……それも野蛮で有名な北部の中でも『特に』とされる令嬢のコト、こんな場、ソフィアン様の前で……っ」


本人が未だ来ていないからいいものの、お黙りやがれください。

"北の天災"が降りかかる、死人が出る前、誰かアイツらの口を今すぐ塞げ……!


……然し、その様な上層部の以心伝心、上級生たちのムンクの叫びは、今という日に浮かれている新入生たちに、届くことは終ぞなかった。

声がデカイ分注目を浴びてる、名もなきご令嬢、そのグループは「いや、でも」と談笑を続けている。

これまで国おろか、『中央』からすら出たことのないリボンちゃんたちに、『全国』というワードは未だ早かったのだ。


「いくら同じ貴族でも、で国中を騒がせてる公爵令嬢が、私たちのソフィアン様に敵うはずありませんもの」

「ほほほ、ほんと身の程も弁えれない方ですこと。まぁ…来たら来るで、私たちには"なんの関係もない"訳ですけど……少し、嫌だなぁー」


って。

思いますね!


「そうよ、そうですわ」

「「ね—」」


と頷きあう、そんな自分たちを周囲の大人たちがどんな眼で見ているか、蝶よ花よと守られてきた彼女達が気づけるはずもない。

例え前置きであろうと、アルコールはアルコール。女三人寄れば姦しい、それ以上なら猶の事だ。


それこそシラフの時ですらなのだから、空気に酔えば更に口が軽くなる。

生まれながらの優越感、王家の外戚狙いで育てられてきた「お嬢さん」たちができる事なんて、結局「この手の話」だけなので……。


「まぁ、皆さんってば」


国家的な思惑あれど、こういった時代のオンナが教育機関に入れる有難さを、彼女達は分からない。

男の生まれなら将来の就職先と人脈構築。だとすると、妙齢のご令嬢なら……。


「ああ、王子様……」


言わずもがな、優秀な婿を物色し、眼差しで強請り、色をかける。


一昔前であれば、産まれて来る前から家門同士で話しを通しておく婚姻が主流だったけれど、今はどちらかと言うと「恋愛結婚」を容認し始めた時代の最中。

なので、いくらその裏に大人たちの腹積もりがあったところで、政治等にまるで興味のない人間にとってはどうでもよかった。


……何時の時代であろうと『女の子』というのは元来お姫様になりたいものだし、王子様と結婚したい生き物なのである。


中学・高校というより、どちらかというと大学に近しい。そんな国を背負う( )次世代の最先端であり、派閥争いの絶えないあばば地帯シャコウカイの入門編がこの『学園』という訳だ。


———壇上から見れば、各々のがよく分かる。

そして何より他人の不幸は蜜の味、その味でしか悦びを分かち合えないリボンちゃんたちの口も止まらない。

学園とは言え、自己責任。態々お貴族様を叱る馬鹿も暇人もいないので……。


「ふふふ、ご令嬢。私のことはお気になさらないで? ただ、それこそこんな場で…例え真実・・であったとしても淑女たる者。そう言った噂や、コトを言うものではありませんわ」

「ホホ、た、確かに…ですわね。流石、他でもない我が王国一の花、そしてきっと未来の王妃ともなるソフィアン様がそうおっしゃるなら、ですわ」

「…フフッ、いやですわ。……わたくしはただ、」


どれだけ大事にされていようと、温室育ちの花ほど寿命の短いものもない。花だけに、これほど華やか( )なパーティー。

いくら王族や国中の貴族が集う勉学( )の場であれ、王家やその他上位貴族が催すレベルとまでいかずとも、少々やり過ぎ。

……見る人が見れば正直、生徒たちの学費の割り当てを完全に間違えているとしか思えない空間だった。


それも特に今年は我らが第三王子殿下を筆頭に……と。


つまり「王族が……」から始まり「後は、どこぞの……」でよく聞く話———「大人の事情^^」と言うやつである。


「でも、まぁ……」

「? でも……と、言いますと??」


官僚の子は官僚、医者の子は医者の道に行きやすいように、蛙の子はカエルだから突然変異でも起きない限り、『本当の白鳥』になれやしないのに……。

ソフィアン様と呼ばれる伯爵令嬢がわざとらしく言葉を区切ると、その周りが同調し始める、この世代の【中央社交界】ではよく見かける光景だった。


なので。

———でも、そうですねぇ。


「……もし貴女方の言うように、『件の公女様』が本当にいらしたら、きっと……慣れない中央での生活は、色々と大変でしょう。なので噂はあくまでウワサ、いくら野蛮な北部で生まれ育ったとは言え、公爵家の名を借りなければ……な様子が、余りにもお可哀想で……」


だから私達が理解し、中央での社交やその他の色々も教えて差し上げなければ。

と、そんなことを心配気に述べながら、微笑むソフィアンに。


「そ、ソフィアン様……」


「なので、せめて。いくら"貴族同士は不干渉"、そんな不文律があろうと、ここは学園ですもの……。公爵令嬢ですのに、これまでどんな茶会や舞踏会にも参加できずにいた『可哀想なかの方』のお気持ちを思うと、私心配で……」


なので、せめてわたくし達だけでも。


「同じこの国の淑女として……ねぇ??」


優しく・・・接して、あげませんと。

皆さんもそう思いませんこと……??


ストップをかける人がいないのを良いことに、彼女たちの談笑はヒートアップしていく。

温室で守られてきた蝶や花というのは、言うなれば平和ボケしやすい、野山をかける獣に比べ風が吹かずとも勝手に折れるし、


……はっ、さっすがですわ、ソフィアン様ぁ!! 容姿だけでなく、心までこんなにもお美しいだなんて……!!」

「ならば、私たちも見習いませんと。今後も是非、ご教授くださいませ!」

「……ふふ、可愛らしい方たちだこと」


フラグを立てる能力はいっちょ前でも、総じて危険察知能力が低かった。


……という事だ。

憂いを帯びた側面、心配げな仕草の下、「天使」と称された15真っ盛りな少女の眼には自身の繁栄と"自分のであるべき"未来しか見えていない。

だって『彼女たち』はそうやって育てられ、そうであるのが普通だと思っているのだから……。


建前上始めこそ少し離れた場所に居れど、ソフィアン達はお目あての「王子様グループ」にさり気なく、ジワジワ距離を詰めながら。


「……ただ、ね。今はそれより、北部でない我が伯爵家、わたくしが『かの方』に対しこうなるのも、実のところ、理由がございますの…」


一瞬頭に「??」と浮かべるも、すぐさま。


「あ、ああ…! もしかして『あの噂』、ソフィアン様もご存じですの?」


と聞いてくるオトモダチを見て、ソフィアンは困ったように笑う。

その姿や『噂』というみんな大好きワード、話内容に、王子様たちもこちらを見たのを感じて、彼女はドキドキ胸を高鳴らせる。


「……ほら、わたくし達や他の方々もそうですが……こうして集まる前、入学試験の成績とクラスは学園前の掲示板に公開されました」


ですのに、北部からの新入生に対する掲示、件の公女様の場所だけが、順位だけでなく、クラスを含めまさかのモザイク状態。

元から声が出てたから、別に音量を上げる必要もないのに……マジモンの王子様とその周りに聞こえるよう声を高くし、チラ見しつつ、彼女達は各々の思いを吐露し始めた。


———その都度。


「これだから、北部は」


という首都、中央マウントも忘れずに。


「もし、そのことが事実なら、なんてことでしょう……」

「本当にその通りですわ、きっと何か裏でヤマシイ事があるに違いありません!」


これは学園、強いては殿下方やソフィアン様、わたくし達新入生全体を侮辱してるのも同然ですわ!!


なので、そうやってまるで本日の悲劇のヒロインかのように盛り上がる彼女たちを見る周囲の眼は、正しく十人十色である。

それだけ親世代だけでなく、今この場に集う少年少女たちも、この国の『北部』や『かの方』についてなにかしら思うとこがあったので……。


「これは、いくら在学中の令嬢間、相互不干渉の不文律がある貴族同士だとしても、ここまでコケにされては黙ってやり過ごす訳にはいけません! ねぇそうでしょう? ソフィアン様!!」

「でも…まだ、本当の事実かどうか分かりませんし、証拠もないのに、わたくし……」

「ッ、でも!!」


この話を聞いて、一番お目当ての殿方の反応が思いのほか芳しくないのに疑問を持つも、ソフィアンは「……ですので」と続けた。


「ですので、一先ず公女ご本人がいらっしゃるのを待ちましょう」


、一体どんな顔をしてやってくるのか、ほんと見ものですわ。


そんな腹の内を隠しながら、ソフィアンは内心「やはり誰より美しい、自分がこの国のファースレディーに一番ふさわしい」と思う。

そもそも貴族令嬢でありながら『冒険者登録』している時点で、あの引き籠り女にその資格はないのだ……とも。


だから、


「もう…本当に…ソフィアン様は誰に対しても優し過ぎるんですよぉ……」


貴女方の言う"例の"公女様、実は全教科満点合格だったけど……。


『普通にめんど……いえ、王子様? が同じ新入生として、いらっしゃるのに、私には過ぎたるご栄光』


そして何より新入生代表挨拶なんて書く時間あったら、睡眠に回したいので辞退します(意訳)

……という。


(不正というかなんというか、丁寧すぎて逆に不敬? と感じる、そんな手紙を送ってきてるのと知ったら、この子たちは死にたくなるだろうな)


そう思いながら、今回の入学試験の内情や『かの方』について比較的正確な情報を握っている大人たちが「どうか、入学早々戦争になりませんように」と胃を抑える。

子供ながらの正義に燃え、そんな自分たちに自己陶酔している、言うなれば非常に、元気なご令嬢達であった。


音の絶えないフロアに交じって、まるで路地裏で盛った猫か、羽虫のよう———「ソフィアン様、ソフィアン様! 未来の王妃様!!」と慕う。

現時点で一番目に付く、その様な今期の女子グループに。


「……新学期早々、勘弁してくれ……」


知りすぎると消されるのが貴族社会という世界だが、世の中"知らない"って、幸せだよな。


「てか、新入生以外、生徒会は総出の義務があるのに、副会長は……?」


自ずとそう思ってしまう……北部の野蛮ヤバさを身をもって知ってる上級生数人が、頭の痛そうな顔をした。

壇上や会場の隅で「そう言った」令嬢達の間から零れる「くすくす、きゃっきゃ」した嗤いが耳に届くたび、彼らは主に東西南北、そして中央と分かれている新入生、特に北部の少年少女で固まっている場所に目をやる。


「……………………」

「……………………」

「……………………」


あんなあちらがなら、こっちもこっちで別の意味で心臓に宜しくない。

普段はあんなに好戦的だのに、先ほどから全員物静かなのが不気味すぎるし……(何より傍から見れば)ワイングラス片手に、挙って無駄にテンションの高い議員の選挙演説を聞く一般市民みたいな顔をしているのが、普通に怖すぎる。


そんな空気の中。

…………………………………………ン""ン"ッ!

こんな話どこかで見た……と。


「と言うか、聞いたことあるような。うちの公女様、とうとう未来予知までっ、ブッ」

「うわ、汚っ」


今回の中央ゆきが決まるや否や、どこぞの誰かがポツリと零した話が、今生きている。


どうせタダだし、俺らの入学金から出たモンだし……とりま、飲めるときに色々飲んでおこーとっ!!

出されるがまま、目に付くまま、そうやって極上のワインボトルを片っ端から空けながら…。

いくら体はぴちぴちでも心はとうに枯れ果ててる「(自称)中身ギリ三十代らしい、うちの公女様、どんだけ~」と我慢できなくなった男子が、とうとう噴き出した。


「あんなボロクソに言われてるのに怒りさえ湧かない、最早ジョーク。……というか、俺らの公女様まだかな、新天地だし、また迷子にでもなってるのかな……」

「ははっ、あり得る」


いくら頼りになるメイドやべぇセコムと土地勘あるセルフ婚約者がくっ付いても、くっついたトコロであの・・筋金入りの音痴加減は治らないし、救えない、と。


「新天地だし……」


目の前の茶番を肴に、長らくそう思ってきた北部の少年たちは、酒をちびちびチャンポンしていた。

箱入りお嬢さんたちが世界の広さを知らない様に、つまりは新歓みたいなノリ、成人(15)したての彼らも自身の酒量を過信していた。


なので、そんな男子たちを横目で眺めつつ……。


「えっ? 私が最後だと思ってたのに…私たちのお猫様ヒメサマ、何様お嬢様公女チャン様、まだ来てないの??」

「ええ、それが……ね」

「……こんな時までも、また迷子か……」


いくら同じ国内とは言え、産地で産地独自の特色が出るように。元より"危ない場所や土地"ほど内部結束が強い、「血は争えない」様子。


時に『憧れ』を憧れのままにする、しておくのも大事。


『どうしてもと言うなら止めないけど、宮廷系で天寿全うするのは大変だよ』


こちらを見ているようで見ていない、どこを見てるか分からぬ優しい眼差しで、自分が枯れてるのを良いことに、善意からのさり気なさで周りの夢も潰していくスタイル。

例え下半身にぱおんがぶら下っていようといまいと"治外法権"、"関税自主権"等を建国以来未だ維持し続けている、天上天下唯我独尊な『かの公爵家』の血をひく一員である時点で、一瞬の油断が命取りになり兼ねない。


……基本女子供、特に動物に甘いし……然しどれだけ真面マメに見えた所で、真面マトモではない『星の末裔アストライヤ』。


「……わたくしのお母様が、この後の夜会で久々に公女様に会えるからと、ずいぶん楽しみにしてたのに、きっと悲しむわ……」

「……なら今からでも、迎えに行く?」

「でも、行こうにも。誰が、どこによ」


あと偶に(※主にその他公爵家や王家主催、若しくは国外の要人か来るような)物凄い行事でもドタキャンするし、そもそも余程の場でない限りめんどくさがって「我はいかぬ」とガン無視することもある、奴らのこと。


これまでの経験上、そして何よりその都度、理由を聞けば。

『嫁が』

『娘が』

『妹が』

『(飼い犬?の)ケロちゃんが……』から始まり。


ひどい時には、

『(普通に)忘れてた』

『(シンプルに)寝坊した』とか言い初め。


そして最終的に、


『(一応)行こうとは思ってたけど、急な仕事が入った(これは誠)』


『(どうせ初めから行くつもりなかったし)やっぱ行っちゃいけませんって虫のお告げ、夢に出てきたご先祖様に言われた(これは嘘)』


『それで、頭の中にいる精霊ナマズに「今日大地震起こるから、屋敷から出るな」ってここ最近、毎日言われてる('ω') (病気)』


……思い出すだけで頭が痛くなる。そんな自分たち両親の背を見て、彼女らは育っている。


なので、これでも、マジの死人が出ないだけマシなのだから……。

いくら「いざ、いざ!」という時は頼りになっても、常日頃の生活態度に関して「かの公爵家アストライヤ産」は子供たちの間ですら信用皆無だった。


可愛い雌に甘いのがテンプレ、男共は馬鹿だから、余り気にしていないようだけれど……その分アタイたちがしっかりしないといけないな、となる世界。

だから今もこうして「どうするよ」と顔を見合わせ、この場に集まった北部の少女たちは(後で〆る予定なので)他所からの悪口どころではない、ざーっとした不安に襲われている。


か、若しくは『式』は式でも、金にならない系式なので、未だ普段着でごろごろしながら「ア。そう言えば……('ω')」ってなっていても何ら不思議じゃない……。

あの子は、昔からだから……。


「もう始まりますよ」


言葉をかけに来た上級生に、北部の少女たちがそう「どうしましょう」と思っていると。


だが、然し。


……と言わんばかりな、これもある種のお家芸なのか。

"噂の"公女様が未だ来ない事態に、心配皆無、その代わり「やはり」と100%の悪意で埋まる場内、どこか勝ち誇った顔をするご令嬢もいる最中。



「、あ、着地場所とうじょうシーンミスった…」

「えっ」


———「カモ……?」と。


言わばクール・ジャパンの言う所のアレ、ラノベでお馴染みな『アレ』が。

何もない空間に突如【上級移動魔法陣】の光輝く、複雑すぎて素人眼では何書いてるか普通に分からない文様が バーンッッ!! と頭上で浮かんだかと思いきや……。


「……これだから、うちのお猫様オジョウたまは……」


世界が静まり返り、白黒させた会場中の視線が一箇所に集まる。

自分たちがよく知るどえらい美青年の腕にぎゅっと絡みつく、「初めまして」の新入生ナニカに息を呑み、声にならない悲鳴すら何処かしこと上がった。


「Oh…My Goddess……」

「私も、知ってた……」


文武や芸術に力を尽くすも面倒なことは嫌いで、「目立ちがりバカ」ではないはずなのに、いざ・・と言う時に限って———どうして? と思わざるおえない。


「こうも…何も、こうも、何で、また……」


なぁぜなぁぜ、一体ナニがどうなって、こんなふざけたお凸り方を……??


何時もの事ながらではあれど、のんびりしてるのはヤラカシ真っ最中の本人だけ。

今のこの場は絶対「あれ、私……(੭ ᐕ))??」みたいな顔をしてる場合じゃないし、じゃなくなった現場に、「これだから……」という脱力と空気が北部の内で広がる。


そして。


「ヤヴァイ、これはヤバい。ただでさえ死亡率も競争率も鬼えぐちな職場なのにッ……!!」


母さんをガッカリさせてしまうし、父さんに怒られる……。


北部を代表し、一人がボソっと泣き言を零すと、全員がカラフルな溜息を零す。

共通の脅威があると人は団結する、普段は個性で殴り合う奴らでも、こういう時のシンクロ率だけは、超絶仲良しだった。


最高でありながら最悪、何時も諦めたころにやって来る。

何故。

この子供は、何故こんなコトばかり———!! 

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