応援コメント

第115話 怪書をめぐる冒険」への応援コメント


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    座敷牢に閉じ込められていた男たちが今日も、さほど面白くもない半端に長いだけの本に向き合っていった。

    尤も、熱心に読んでいる風に見えるのは二人だけで、あとの者は寝転がって読むふりをしていたり、堂々と寝入っているものさえ居た。


    そんな、数少ない熱心な読み手のうちの一人が、隣のもう一人の熱心な読者に声をかけた。

    「よぉ……スロ蔵、おめどごまぁで読んだぃ?」
    「あ、ようやぐ1話目の裏ど表……読み終わったどごだぁ……」

    そんな会話を耳にしていても尚、他の男は読もうともせずごろりと身体を横たえたままだった。
    彼らは既に、ここから出ることさえ諦めてしまっているのかもしれない。

    「ぬり兵衛……おめぇはよ?」
    聞き返された『ぬり兵衛』と呼ばれた男は、ろうそくの暗い明かりから顔を離し、スロ蔵に手元の紙を渡してきた。
    見るとそれは、読まされていた本ではなかった。
    感想を書くために渡されていた紙と筆とで、ぬり兵衛は自分の作品を書いていたのである。
    「……おぃ、そったらごどしてれば、まぁだはだがれる(叩かれる)ぞ……? おそでもほんでも(嘘でも本当でも)それらしぐ書いでおがねぇば、まんまも食(か)へで貰えねぇべ」

    スロ蔵に諭されると、ぬり兵衛はため息をつき、
    「……んだどもよ。面白ぐねぇごどよ。この本……」
    ぬり兵衛は顔をしかめて、それから「読め」と言われ渡されていた本を、手の甲でばしんと叩いた。
    「……まぁな」
    そして、スロ蔵もそれに同意していた。

    「……この家ぁ、何考えで、あっただ気狂いみでぇだ女子(おなご)、生ぎらがしておいだんだべな……?」
    そんな、吐き捨てるようなぬり兵衛の言葉に、スロ蔵も苦笑いしながら、
    「美(め)ごぐもねぇ、乳も大っきぐもねぇ、愛想もよぐねぇどきた……挙げ句の果てにゃ、書いだ物も面白ぐねぇだば、良いどご無ぇな、はははっ」

    座敷牢の中に、いっときの笑い声が響く。
    壁の向こうでも、なにやら賑やかな声がしていた。どうやらこの壁の向こうは女が入れられている座敷牢があるらしい。やはり、あちらでもこの面白くもない本を読まされているのだろうか。

    「なぁ……スロ蔵」
    「あん?」

    ぬり兵衛は、こんな状況でさえ……まだ生気を失っていない男に向かって、尋ねた。
    「お前、ここ出だら誰が待ってるおなごでも、居だのが?」

    この男の意思、いや矜持を支えているものは一体何なのか。あるのだとしたら、聞いてみたいと思ったのだ。
    すると、スロ蔵は少し自虐的な笑みを浮かべて答えた。

    「こったらもんでねぇ……」
    そう言ってスロ蔵は、また押し付けられた忌々しい本をばしんと叩いた。
    「読みてぇ本があんのよ……おら、それ読むまでは……死ねねぇ」

    絶望的な状況の中で、この男がそれでも想いを捨てきれないという本。
    そんなものがあるなら、自分も読んでみたいと思った。

    「んでもよ……」
    今度は、スロ蔵がぬり兵衛の方に向かって、少し優しげな表情を含ませながら言った。
    「お前の書いた話も、中々だぁ。こったら本よりはよっぽど面白れぇ」
    そう言って、押し付けられた例の本をまた、ばしんと手の甲で叩いてみせた。

    ぬり兵衛は、それで幾分か救われた気持ちになっていた。
    少なくとも、この男とならまだ生きていける。そう思うに充分な言葉であった。

    すると、座敷牢のある蔵の戸が少し開いて誰かが入ってきた。
    どうやら、飯の時間のようだ。……しかし、碌な感想文が書けていない。これでは、飯がもらえるのかどうか。

    この女は、どこまでも根性が捻曲がっているらしい。わざわざ飯を目の前に置いておいて、それから感想文に目を通しその出来に依って飯の量が決められる。感想文の内容が気に入らなければ、そのまま飯は下げられる。こっちは米の飯の匂いを嗅がされただけでも気が狂いそうになるというのに……! 

    忌々しい思いで、あの女が歩いてくるのをじっと見ていた。
    すると、いつもと様子が違う事に気づいた。
    飯の乗せられた盆に、見慣れない真新しい書物が一冊乗せられている。

    ぬり兵衛が訝しんでいると、スロ蔵は獣の様に格子戸にすがりついて手を伸ばした。
    「呪 術 廻 戦 !?」

    驚くぬり兵衛の前で、スロ蔵は涎を垂らす勢いでそれを求めていた。

    「……これ、読みてぇが?」
    おなごは、冷たい声でそう言い放った。
    スロ蔵は、ぶんぶんと風を切る勢いで頷いてみせた。

    「米の飯よりもが……?」
    再びスロ蔵が頷く。

    「……それ読んだら、ちゃんと感想書げよ?」
    そう言って、おなごは座敷牢にその書物を投げ入れてよこした。

    「呪 術 廻 戦 !! ……あぁ、読みてがったぁ!!」

    スロ蔵はろうそくをもう一本灯して、床に突っ伏して夢中で読み始めた。

    一方のぬり兵衛の方は、
    「……ひとっつも書いでねぇごど!!」
    女にそう叱責され、顔を打たれた。
    そして、そのまま飯は与えられないまま下げられ、おなごは蔵から出ていった。

    呆然とするぬり兵衛の前で、スロ蔵はポツリと言った。
    「おら、しばらぐこごさ居でもいいな……」

    男の矜持は、砂のように崩れ去っていた。

    作者からの返信

    自作の自虐ネタが極まっていく……www
    意外に座敷牢に人権があるwww


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    ちょっと待て! 外堀から埋めるな! しかも微妙に長い連載じゃないかよ! 俺は

    呪 術 廻 戦 を 読 む ん だ よ っ !

    追記:ところで「どんとはれ」というのは面白い。いわゆる「どっとはらい」と同じやつですな。物語から覚めるためのおまじない。カフェインに慣れてない人が玉露に酔うように、チョコが媚薬になるように、物語を彷徨う人が存在した時代のお話。

    作者からの返信

    1日1話でもいいのよ?(仲間を増やすムーブ)

    雨濡れに、どんとはれが来る日は遠い……!!w
    雨濡れこそ牢に閉じ込める呪術……!!


  • 編集済

    (´;ω;`)ますますコワイ

    [追記]
    あmkwさん、監禁しても呪術廻戦は読ませてくれるんですねぇ。

    コーギー部長
    「絶対に?」
    「絶対に」
    お気に入りなのねw

    [追記]
    いやぁ、方言関係は弱い……
    顧問ができてるのがムカつくので都会の女でも書こうかなと思いました。

    作者からの返信

    「須呂は雨濡れを読むかしら」
    「期待に応えたい山羊座だよ。読むさ」
    「絶対に?」
    「絶対に」

    追記
    自然に出てきましたw

    追記
    立花先生の作品内の石川訛り?も、急に出てくるといいなぁと思います!

    編集済