第115話 怪書をめぐる冒険

 どうしてこんなことになってしまったのか……。俺はただカレーを食べていただけのはずなのに……。


 須呂は、まだぼんやりする頭を動かそうと煙草を探した。だが見つからず、チッと舌打ちをして、仕方なく自前の集中力で自分の身に起こったことを整理しようとした。


 カクヨム学園の創作活動部室。犬化する部長、火炎瓶作製が得意な会計、そして闇属性の書記。「問題児だらけだからお前が適任だ」と顧問を当てがわれた俺。確かにまともではない面々だか、それなりに楽しく平和に過ごしてきた。だがつい先程、その均衡が壊れてしまった……。いや、俺が崩してしまったのか。


 会計に個人指導をしていたことが書記にバレた。書記はこの世のものとは思えない形相と腕力で俺を拉致した。要求は「雨濡れの……」という書記の作品について指導しろという。


 いや、もうかなり書けている書記の作品に指導なんて……と思ったが、差し出された作品は☆が四つ。嫌な予感がした。そっと書記に目をやると、明らかにSAN値0の顔だ。


「わかった、ちょっと用があるから、そちらが済んだら取り掛かるよ……」


「ぜひよろしくお願いします! それはもうバシバシと! スパルタで! あたしが鳴くまで!✨✨」


 ✨✨が怖い。

 なんとか部室を出て、被害を分かち合おうとぬりやのところへ行く。だが、彼は冷蔵庫のトラブルでしばらくかかるという。


 仕方がない、一人でやるか……。そう思って廊下を歩いていると、コーギー部長が出てきた。


『ドントハレ』


 コーギー部長が人間語を話している時は、憑依が起こっているときだ。どんとはれ……は遠野物語の語り部の締め言葉。つまり今は佐々木喜善を呼んでいるのだ。コーギーの口元が、まるで人間の口元のように動き出す。


……

………


 恐ろしい話だった。書記はそのあまかわに乗っ取られているに違いない。あいつなら今まさに地下牢も作っていてもおかしくない。さっさと片付けないと、地下牢での折檻まっしぐらだ!


 須呂は雨濡れに向き合う覚悟をした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る