第105話 布団 〜部室の中心で〜
作.スロ顧問
第二章 部室の中心で愛を叫んだ獣
ユーリはハンガリー出身の父親を持っていたので、女性名で問題ないのである。そんな欧米か、の一年生に甘川は最近ゾッコンLOVEである。おまえに乾杯♪
それというのも甘川はまだ思春期を迎えて間もない頃、幼馴染に「お嫁さんにしてあげるね」と言われたのを真に受けてずっと待っていたのに、乳房の大きい同級生にあっさり靡いて忘れられてしまった憎むべき過去があり、ちょっとしたフィロジニーだったからである。
どことなく女性性とは乖離したような、ユーリに惹かれていくのはごく自然な流れだった。
放課後。本日も部員のまったく現れないそけい部に、部員でもないユーリが現れた。
甘川は、ユーリのために用意した、アフタヌーンティーのジャムをいそいそと棚から取り出して、紅茶を淹れた。
「甘川先輩の入れるお茶が一番好きです」
「ふふ、上手なんだから」
余裕あるふりをしながら内心有頂天な甘川である。心の中のケラリーノ・サンドロビッチがマイムマイムだった。
「そういえば……」と甘川。
「なんですか?」
「あの日、なんであんな早い時間に学校に来ちゃったの?」
「あ、いや。べつに深い理由なんかなくて」照れるように笑うユーリに、ああっ、抱きしめたい。抱きしめて、つむじの匂いをくんかくんかしたい、と思う甘川だった。
「あの日、起きたらもう8時を回ってると思って慌てて学校きたんですけど、目覚ましの電池が切れてて、まだ6時前だったんですよね……なんか恥ずかしい」
「そうなんだ。でも、あたしはうれしいかな」
「へ……?」
「目覚まし時計に感謝ね。あたしは、あなたがこうして部室に来てくれるのがとても嬉しいの。ほら、あたし、人望ないから……注目の作品に取り上げられても万単位の人にはとてもおいつかないし……」
「そんな!」ユーリは頭を振る。「私こそ……リアル友達なんて、いないですから」
その時である。
部室に唐突に飛び込んできた影。
野良コーギーだった。
「え、なに⁉︎」
「あらあら、いらっしゃい」
甘川がコーギーを抱きかかえ、ユーリに微笑む。
「この子は『部長』よ」
「え、部長って……?」
「部長は部長よ。あなたも頭を撫でてあげて」
可愛らしいコーギーにユーリはそっと手を伸ばし、そして噛まれた。
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