第80話 本屋にて

 街に着いたアマカワは、露店の本屋を見つけて近寄ろうとした。だが、アサシンクリードに出てきそうなフードを被った男が、店員の女の子に何か文句を言っていたので、その様子を見ることにした。


「いつになったら触手本と酒クズ記の続きが出るんだよ!」


「す、すみません! 触手の作者はハルキ文体研究をしていて忙しく、酒クズ記の作者は最近新しいのを書き始めて……」


 店員は申し訳なさそうに手を前に重ね、謝罪のお辞儀を繰り返す。腕で胸が寄せられ、胸元に深い谷が刻まれる。F70。お前もか。


「ほら、作家っていうのは、読者の応援があってのことだからさ、そういう初心を忘れてほしくないっていうか。お姉さんが悪いんじゃないのはわかってるよ……?」


 フードで目線はわからないが、まさかこいつ、お辞儀の度に揺れるおっぱいが見たくて絡んでんじゃないだろうな、とアマカワは思った。自分の胸元を見る。腕でよせようが、お辞儀をしようがしまいが、平然とそこにある。


「あちらの方は、この街では有名な読書家のスロさんです。あ、店主が来ましたよ」


 と、少年僧侶が言った。


 鬼滅の伊之助を三倍大きくしたような上半身裸の男がのしのしと歩いてくる。頭は目の焦点の定まらないコーギーだ。


「店長、スロさまがご予約されている本がなかなか出版されないと、お怒りに……」


 娘がもじもじしながら言うと、コーギーの血走った目玉がギロリとスロを見おろした。


「わ、わかってるよ! 作者の都合だって! ちゃんとこの娘さんには入荷したら連絡くれるよう言ったから! よろしく頼むよ!」


 そう言って、スロはそそくさとその場を去っていった。

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